パナマ文書(Panama Papers)とは、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書、及び文書の流出事件を指す。
概要
南ドイツ新聞が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)とともに分析、2016年4月に検証結果を公表した。パナマ文書は過去40年に渡る1100万件以上の金融取引記録で、データ量は2.6テラバイトに上る。文書には各界の著名人がパナマを初めとしたタックスヘイブンを利用した金融取引で資産隠しを行っている可能性が示されていた。[1]
グローバル企業や世界的富裕層のなかには、タックスヘイブンに拠点を移すことで自国への納税を免れるというケースがある。利用者が合法であると主張していても実際にはグレーゾーンであることが多く、また、匿名性が強いために取り締まりが難しかった。しかし、パナマ文書によってその実態が公になったことで、そのまま放置されることは許されない状況になり、こうした「租税回避システム」に対する世界的な監視・批判の目も強くなっている。[2]
問題になっている理由
完全に違法とはいえないし、方法だけ見れば合法なものである。
では何故こんなに今世界で騒ぎになっているのかというと、それは倫理的な問題と額の多さである。タックスヘイブンを租税回避を目的として使用していた場合は「脱税」ではないが、結果論からしてみれば脱税と同じく本来国に入るべきだった税金が入ってこないということになる。
額の話をすると、日本ではその額はパナマだけでも約55兆円、タックスヘイブン全体では2百数十兆円規模だと推測されている…が、これはあくまで資産総額のことである。即ち「タックスヘイブン内で資産を運用するための元金がこれだけありますよ」という意味であり、「納税されるべきお金が納税されていなかった、その総額がこれだけありますよ」という話ではないことに留意する必要がある。
これを別の角度から、例えば外国子会社配当金益金不算入制度による非課税枠を見てみると、これだけでも年間1兆円を超えているのでその額は決して小さくないが、これについては国際間の二重課税を防止する目的のものも相当含まれていると考えられるため、この額の全てを課税逃れしていると考えるのも不適切である。また、タックスヘイブンを含め優遇税制自体が国際間競争や経済成長戦略とは切っても切れない関係にあるため、単純に「不公平だから課税しろ」だけで済ませられる話でもないのである。
だがしかし、一般市民にはこのようなややこしい仕組みは理解しづらいし関係がないのだ。
2016年現在の日本のように税収が落ち込み、国民に負担(増税・社会保障の削減)が課せられている国の富裕層・政治家・企業が、多額の租税回避をしているとその国民に向けて報じられれば、今までタックスヘイブンのことをあまり知らなかったその国民達は「そんなに多額の租税回避分が正当に入っていれば、本当は今よりも税収は潤って負担などが今よりも少なかったのでは?」という考えに当然至り、「普通の国民は苦しみ、金を持つ者だけ税金逃れだと!? ふざけるな!!」という世論が世界規模で広まる。
さらにパナマ文書の流出により、租税回避を行っていた特定の政治家個人や企業の名前が出てしまえば、当然のようにそれらに対する不信感や不満がつのり、結果として政治家の支持率の低下や、為替レート・株価の変動などが発生し、内政への影響・世界経済への影響が顕著に出始め、世界全体で大騒ぎになっているのだ。
しかしながら、前述の誤解にあるように一部の富裕層を除いて「タックスヘイブンとは何か」ということをあまり知らないまま、情報が一人歩きして大騒ぎになっていることも否定出来ない。言い換えれば、富裕層とそれ以外の者との間に存在する情報格差も問題となっている理由の一つと言えるかもしれない。
反応
海外における反応
アイスランドのグンロイグソン首相は、バージン諸島の会社を妻と共に保有していたことが報じられ、自身の直接関与を否定していたものの国民からの批判は大きく、この出来事の影響で辞任を表明した。
イギリスでは、キャメロン首相が、父親がタックスヘイブンに設立・運営していたファンドを引き継いでいたこと、首相への就任前に株式を売却し利益を得ていた事が報じられている。なお政府は「個人的な問題」として当初は言及を避けていたが、最終的にキャメロン首相本人が認めた。[3]
中国では、習近平国家主席の家族がこれらの文書にある会社に資産を持っていることが報じられたが、打黒(ターヘイ、汚職撲滅)を掲げていただけにトップの身内によるスキャンダルは政権へのダメージにつながると判断されたためか、中国インターネット上ではパナマ文書関連のことは規制されており、「パナマ」という単語ですら検索が不可能な状態に制限されている。また、環球時報は「パナマ文書を出した背後に大きな力が働いており、このようなものを暴露して一番得をするのはアメリカだ」と報じている。[4]
ロシアでは、プーチン大統領の友人として有名な音楽家がオフショア取引関連事業で利益を得ていたと報じられている。プーチン大統領もこれに関与しているという疑惑が出ているが、本人は「汚職をでっち上げることでロシアを弱体化させようとする組織的な試みだ」と海外の国々による陰謀論を主張し否定している。[5]
日本における反応
ICIJと提携してパナマ文書の調査・解析を進めている共同通信と朝日新聞によると、現段階(2016年4月現在)で判明している日本人は400人、企業はセコムなどである。また、政治家などの公職に就いている人物の名前はない。
ネット上において、「パナマ文書に載っているとされる日本企業」のリストが公開されているが、このリスト自体は2013年に発覚したオフショアリークスのデータベースの情報と一致している[6]。これらの企業がオフショア金融センター利用していたのは事実ではあるが、オフショアリークスのデータベースとパナマ文書は別物であり、パナマ文書に載っていた企業リストとされているものは、現段階ではデマである可能性が濃厚である。 [7]
また、オフショアリークスデータベースの利用時に一読を求められる声明にもあるように、「このデータベースに名前が載っているからと言って、法を犯したり、不正な行為を行ったということを意味するわけではない」ことには注意を要する。
"We do not intend to suggest or imply that any persons, companies or other entities included in the ICIJ Offshore Leaks Database have broken the law or otherwise acted improperly.
(私たちは、ICIJオフショアデータベースに該当する任意の人物、企業または他のエンティティなどが、法律違反またはその他の不適切な行動をしたことを示唆または暗示するつもりはありません。)
関連項目
関連リンク
脚注
- *「パナマ文書」が3分で分かる。ジャッキー・チェンやメッシの名前も 2016.4.6
- *「テロとヤクザとビットコイン」 渡邉哲也 青林堂 2018 pp.18-19
- *パナマ文書で英首相「亡父の会社で利益得ていた」 (テレ朝news 2016/04/08 14:54)
- *メッシは習近平の義兄? 「パナマ文書」規制も中国ネット上に集まる皮肉 (サーチナ 2016-04-06 14:11)
- *プーチン氏、パナマ文書疑惑に反論 「ロシア弱体化狙う試み」 (ロイター 2016年04月8日 12:20JST)
- *ICIJ OFFSHORE LEAKS DATABASE - BROWSE BY COUNTRY: JAPAN
- *出所不明・疑わしい「パナマ文書に載っている日本企業リスト」にご注意 (Yahoo!ニュース, BuzzFeed Japan 4月11日(月)17時59分配信)
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