ヒョウ(豹)とは、食肉目ネコ科ヒョウ属に分類される肉食動物である。
曖昧さ回避
概要
適応能力が非常に高い動物で、イエネコ(いわゆる普通の猫)を除くとネコ科の中で最も広く分布しており、その範囲はアフリカから東アジアにまで及ぶ。それに比例し亜種が10種以上おり、一口にヒョウといっても体毛、体格などある程度違いがある。
もっとも個体数の多いアフリカヒョウはアフリカの危険動物5選、通称ビッグ5(アフリカゾウ・サイ・バッファロー・ヒョウ・ライオン)の一角を担っている。
ヒョウ属(Panthera)には、ヒョウの他にライオン、ジャガー、トラ、ユキヒョウが属し、いずれも非常に強力な肉食獣である。ユキヒョウはヒョウではなく別の種とされ、遺伝的に最も近い現生の種はトラと考えられている。実はヒョウともそれほど近いというわけではなく、ヒョウと最も近縁なのはライオンという説が有力である。
毛色が黒い突然変異個体がいて、これはクロヒョウと呼ばれている。だがヒョウ柄はそのまま残っており、光の当たり方によっては赤く透けてはっきり見える。
よくチーターと間違われるが、体型が極端なスタイルなのがチーター、猫に似ているのがヒョウである。わからない場合は顔を見れば一目瞭然で、目の内側から黒いラインがあるのがチーター、少ないのがヒョウと覚えるとわかりやすい。この黒いラインで光を吸収し、余計な眩しさを抑える。
ヒョウとチーターを見分けるのはさほど難しくないが、同じヒョウ属の種であるジャガーはおそらく最も外見がヒョウに似た動物で、多くの人は違いがわからないと思われる。チーターと同じく柄などを頼りに見分けられるが(後述&関連動画参照)、ジャガーにも黒変個体のクロジャガーがおり、クロヒョウとの判別は体格や顔立ち、クマっぽさ体毛の短さなどが頼りで、これはもう見慣れる以外無いかもしれない。
ユキヒョウがヒョウの一種と思われることはあっても、ヒョウがユキヒョウと間違われることはそれほどないが、ヒョウの亜種のうちペルシャヒョウ(色が薄め)、アムールヒョウ(長毛)は、他の亜種よりも外見がユキヒョウに似ているところがあるかもしれない。
ちなみに画像検索などでヒョウやクロヒョウを調べる場合、似ているこれらの種と混在しているので注意。またヒョウと銘打っていても、実際は違うことはよくある。
生態
群れは基本的に作らず、単独行動をするが、ライオン以外のネコ科全般に言えることである。
人間にとっても非常に危険な動物であり、普通の人間は襲われたらほぼ勝ち目はない。自然界の中で生きているアフリカの人々にとっては、その生息地を横切ること自体が命懸けである。また、偏食して人食いヒョウと化すことがあり、犠牲者は数え切れない。近年生息地が伐採や開発によって狭められて個体密度が増し、餌の動物が減った事などにより被害が増えている。特にインドではスラム街とヒョウの生息域が密着しており、野良犬を狙ってヒョウが街中に入り込むようになった。下水が整備されておらず夜間に1人でトイレに行った住民が襲われるといったケースが多い。普通は大人の人間を襲わないが、用を足す時にしゃがむ事で狙われやすくなっている。自動車に轢かれるヒョウも毎年数十頭に及ぶ。
猛獣のイメージとは裏腹に、意外と小さいと思われやすいかもしれない。実はトラ・ライオンと比べると半分ほどの大きさである。ヒョウ全体の体長は130~190cm・肩高は50~70cm・体重は30~80kgで、基本的に大型犬ほどの大きさ、あるいはそれより小さいぐらい。まさしく大きい猫といった感じだが、猫でも非常に運動能力が高いことに注意してみよう。大きい猫というのは本当はとても恐ろしいことである。
主な狩りの方法は、ヒョウ柄の体毛を茂みや、木に溶け込ませて姿を隠し、獲物が近づいたら一気に襲いかかる。ヒョウ柄は強力な迷彩で、動物の目ではかなり見つけにくく(人間もだが)、加えて足音もあまりしないため、奇襲に秀でている。跳躍力に優れ、木登りに向いている体格であり、他の捕食者が来られないような高さまで登ることができる。
前述の通り「ビッグ5」の一つに数えられているが、アフリカでは天敵が多い。ビッグというものの、他のビッグ5と比較すると体は小さめである。特に危険な天敵であるライオンには、獲物の競合相手であるヒョウを排除するため、捕食せずに殺される事がある。それ以外にブチハイエナやヒヒなども天敵で、勝ちはあまり見込めず、対立するとヒョウの方から獲物を諦めて逃げなくてはならないこともしばしば。
そのため、ヒョウは出来る限り木の上に登って獲物を食べるようにしている。地上では落ち着いて食事もできない。獲物を木の上に運ぶために、顎の力が発達している。しかし、前述に上げたヒヒは、ヒョウのアドバンテージの一つである木登りが出来るため、木の上も完全に安全とは言えない。ヒヒにとってもヒョウは自分の子供を狙う危険な相手であり、昼間のうちに先手を取って親ヒョウを襲うこともある。またヒョウが登った木が低すぎると、ライオンなどが登り獲物を横取りしてしまうこともよくある。
夜行性であり、暗闇でも物がよく見えるため夜が狩りの本番である。前述のとおり亜種がかなり多いが、テレビなどで映像として出る野生のヒョウはもっぱらアフリカヒョウである。ヒョウはその生態のため撮影が困難で、他の亜種は生息地が撮影に向かない、個体数が少ない、人馴れしていないなどの関係でさらに厳しいためと思われる。
ヒョウ柄と見分け方
ヒョウ柄は知名度が高くデザインとして人気があるものの、チーターとヒョウが混同されることが多いのは、どのような柄かよく分からない人が多いということかもしれない。ヒョウ柄や他の動物との違いを見ていこう。
チーターとヒョウは直感的に似ていると感じやすいものの、見分けるのはそれほど難しくない。ヒョウ柄は点が数個輪状に集まり、輪の中の色が濃く、花のように一塊になったものが斑状に散らばっている。対しチーター柄は斑点模様で、点一つ一つが一定の間隔をもって離れていて、一塊に集まることはほとんど無い(キングチーターを除く)。またヒョウ柄よりも点の印象が強く、点が真円に近くて歪んだ点が少ない。
顔の模様もかなり違い、チーターは目の内側から濃く黒い線があるが、ヒョウにここまでくっきりとした線は無い。他にもチーターにはω(口元)の所に模様が無い、ヒョウは鼻筋以外のほぼすべての位置に点がある…など。ちなみにヒョウ柄と呼ばれるものは、一般的にヒョウの背面・側面の柄である。四肢の先や頭部、腹部などでは、斑点があまり輪状に集まっておらず、こちらが特にヒョウ柄とされることはほとんど無い。
ジャガーとの見分け方は、「輪の中に小さな黒い点があるのがジャガー」というものが有名(関連動画参照)。便利なのだが、胴体が見えない場合は使えない。またヒョウにも黒い点があったり、ジャガーでも黒い点が少ないことがあり、この方法だけでは間違える場合もあるので注意。ちなみにこちらはヘビ柄のような印象が強いかもしれない。
顔面での見分け方の一つは、口のωの色の違い。ヒョウの場合、真ん中が少し白い程度で色の境界線が曖昧なのに対し、ジャガーは鼻の両端から色の境界線が下へ伸び、中ほどで頬のほうへと向かっている(トラと同様)。こちらはほぼ例外が無く、最も確実な見分け方かもしれない(参考画像:ヒョウ1 2・ジャガー・トラ)。他に、ジャガーはいずれのヒョウよりも輪が大きく間隔が広い、輪を作る点の数が多い、体毛が非常に短く模様がかなり鮮明、両頬がはっきりと白い、前足の点がまばら、あるいは真円に近い傾向があることも手がかりにできる。
ここまですべて体毛の話だが、実は目の色にも少し違いがある。ヒョウとジャガーの目の色は、概ねオレンジ・黄色から青緑(単色あるいは複数色)で、濃褐色はあまり見られない。対しチーターの目の色は、黄色~濃褐色(単色に近い)が最も多く、緑~青系はほぼまったく見られない。
ヒョウ柄は亜種によって模様に若干差があり、特に真逆の地域に生息するアフリカヒョウとアムールヒョウ(シベリア)では違いが大きい。アフリカヒョウは規範的なヒョウ柄で点が小さく緻密だが、アムールヒョウの場合点と輪が大きく、輪同士の間隔も広め。また斑点同士が繋がって、文字通り輪になっていることも多いため、一般的なイメージと違うかもしれない。ただしいずれも個体差が大きい。
デザインとしてのヒョウ柄は、しばしば実際のヒョウ柄から乖離していることがある。実物では地割れのような規則性がある並びだが、あまり忠実でないデザインでは並びが全体的に乱雑であったり、各輪同士がくっついたり点が線状になっているものもある。
ヒョウの現状
現代ではありがたみが無く思えるかもしれないが、古くからその美しい毛皮が珍重され、狩猟の的であった。しかしそれらが目的の乱獲や、度が過ぎた森林伐採や開拓などで生息数が減少し(他の多くの動物も同様)、分布域こそ広いものの散り散りになってしまっている。現在では伐採や狩猟は規制されていることも多いが、違法行為は絶えず、密猟品の価値がさらに上がっている。
ユキヒョウやトラ、ライオンと違い、種全体の危機に瀕しているわけではないが、亜種に分けて見れば、その多くは絶滅の危険性が高く、いわば薄く広い状態である。50年前は70万頭が生息していたと推測されるが近年は5万頭にまで減少、2010年前後は特に減少しており僅か5年間で25万頭も減少したと言われている。
現在亜種の半数以上が絶滅危惧種に指定され、そのほかも脆弱である。そのうち少なくとも四種(アナトリアヒョウ・アムールヒョウ・アラビアヒョウ・ジャワヒョウ)は絶滅寸前とされ300頭以下になっており、アムールヒョウに至っては野生個体数が70頭以下と、三桁を切っている。これは哺乳類全体でもトップクラスの危険度である。この個体数は2015年現在の情報で、2000年頃は25頭前後にまで落ち込んでいた。
アムールヒョウは今でこそ国際的な保全活動が行われているが、当初は絶望的状況であり、ここまで増加するのは予想だにしない事であった。生息地が重なるアムールトラも同じく保全活動が進められているが、アムールヒョウの保全活動が本格化したのは比較的最近であり、トラと比べるとかなり遅れている。活動などによってアムールトラの個体数も回復傾向にあるが、今度はアムールヒョウとの競合が多くなり、アムールヒョウが殺されたり捕食されるという問題も出てきている。また個体数の減少と近親交配によって、遺伝的多様性が著しく低くなっており、より多様性の高い飼育個体の再導入が求められている。
極めて危機的状況だが、テレビなどで知る機会はほとんど無く、少なくとも国内ではあまり知られていない。日本側も、輸入された木材の中に生息地で違法伐採されたものが混ざっている可能性があり、間接的に悪影響を与えているものと思われる。日本でも決して無関係の話ではない。
世界の動物園にいるアムールヒョウの合計は170頭以上で、野生の個体数を上回っている状態。またその大部分は、ヨーロッパと北米の動物園で飼育されている。
アムールヒョウの飼育個体の多くは、別亜種であるキタシナヒョウの遺伝子が多少混じっているとされる。というのも、飼育個体の祖先である9頭の捕獲されたヒョウの内、数頭はアムールヒョウではなく、おそらくはキタシナヒョウであることが後の遺伝子調査で発覚したのである。またその内の一頭の遺伝子の影響が大きく、1999年頃からその遺伝子をある程度多く受け継いでいる個体を繁殖計画から除外する処置が取られている。
ちなみにアムールヒョウにもクロヒョウが存在する(生き残っている)ようで、ドイツのヴァルター動物園、チェコのプラハ動物園などで飼育されている。
2015年12月現在、国内でアムールヒョウを飼育している動物園は、旭山動物園・いしかわ動物園・ズーラシア・東武動物公園・王子動物園・安佐動物公園・福山市立動物園・徳山動物園の8園。合計で13頭が飼育されている。
また他の亜種のヒョウは、旭山動物園(クロヒョウ)・岩手サファリパーク(ペルシャヒョウ)・群馬サファリパーク(クロヒョウ)・東武動物公園・富士サファリパーク(クロヒョウも飼育)・浜松市動物園(クロヒョウ)・いしかわ動物園・とべ動物園・福岡市動物園で飼育されている。岩手サファリパークのペルシャヒョウ以外は、おそらく正確な亜種は不明である。
「レパード」と「パンサー」の違い
他の動物との違い以外に、これも疑問点としてよく出される。英語でLeopard(レパード)は生物種のヒョウを指し、Panther(パンサー)のほうも同じくヒョウの意だが、こちらはとりわけ黒い体毛の大型ネコ(つまりクロヒョウ、クロジャガー)をさす事が多く、北米ではそれに加えピューマやクーガーなどの意味でも用いる。
余談だが、「レオパード」は英語読みとしては不適切である(oは読まない)。ドイツ語読みも「レオパルド」ではなく、レオパート、レオパルトが近い。なお、イタリア語、スペイン語などではレオパルドが近い(Leopardo)。
かつての動物学者はライオンとパンサーの交配種がヒョウであると考え、ギリシャ・ラテン語のライオン「レオ/Leo」とパンサー「パルドス/Pardos」を組み合わせてLeopardと命名した。
関連動画
関連項目
外部リンク
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