ビデオテープレコーダ(videotape recorder、VTR)とは、映像信号(ビデオ信号)を記録するテープレコーダーである。
収録映像を意味する『VTR』の語源でもあり、ビデオテープの時代が終わった現在でもこの言葉は使用されている。ちなみに現在の放送業界では記録媒体の影響を受けない『V』が使われている。
実用的なビデオテープレコーダは1956年にアメリカのアンペックス(AMPEX)が2インチVTRを開発したのが最初であり、そのアンペックスがアメリカで商標として用いたことや家庭にはカセット式の方が普及したことからアメリカではVCR(video cassette recorder)と呼ばれることが多い。
概要
ビデオテープレコーダはビデオテープに回転ヘッドを用いて映像信号を記録する。同時に固定ヘッドまたは回転ヘッドを用いて音声信号(オーディオ信号)も記録する。この装置は元々、アメリカの東海岸と西海岸の時差によるテレビ番組の放送時間の違いを解消するために放送用機器として開発された。
その後、家庭で使える家庭用VTRが開発され、家庭におけるテレビ放送の録画やホームビデオの撮影に使われた。
現在は放送業界ではディスクタイプのXDCAMなどに徐々に置き換えられており、家庭においてもDVDレコーダーやHDDレコーダー、BDレコーダーなどの登場、その後のテレビ放送のデジタル化によりこれらが急速に普及したことから家庭用VTRの生産も終了した。現在、家庭用VTRはほぼ古いビデオテープの再生用途でのみ使用されている。
歴史
テレビ放送が始まった当初、実用的な録画方法は存在しなかった。当時映像を記録できる唯一のフォーマットはフィルムであった。そのためあらかじめフィルム撮影された番組や映画など一部を除いてほぼ生放送しかなかった。
1947年にRCAがイーストマンコダックとキネスコープ・レコーダ(Kinescope Recorder)(キネコ/キネレコ)を開発した。これはブラウン管に映る映像をフィルム記録する装置であったが、フィルムという特性上現像を必要とし、また一度しか使うことができないという問題もあった。当時アメリカでは時差のある東海岸と西海岸でテレビ番組をネットする際、生放送をキネコにより録画し、すぐに現像、テレシネ(フィルムをスキャンしてビデオ信号に変換すること)を行っていたが、時差が3時間しかないことから放送が間に合わないことが多々あり、またフィルムは繰り返し使うことができないためコストも高かった。そこで当時すでに開発されていたテープレコーダーによるラジオ放送の遅延放送を参考に、同じことをテレビでもできないかと考案され、各社が開発を行った結果、1956年にアンペックスが世界で初めて実用的なVTRを開発した。モノクロ式であった。後に2インチVTRと呼ばれる規格で、これが放送用VTRの最初である。
1957年、RCAの手により独自方式のカラー方式が開発された。1959年にアンペックスはRCAの方式と互換性のないカラー方式を開発し、同年中にアンペックス側の方式に統一された。
2インチVTRは1958年に大阪テレビ放送(後に朝日放送に吸収合併され、朝日放送テレビ部門。現在は朝日放送テレビとして再分離)が日本で初めて導入した。これが日本におけるVTR初導入でアメリカに次いで二番目である。これ以降、国産VTRの開発が加速した。
家庭用VTRは1964年にソニーが世界で初めてCV-2000という機種を開発したのが最初で、1965年に19万8000円で発売された。モノクロ式で最長63分連続録画が可能であった。他社も1966年頃から同様な形態の家庭用VTRを発売するが、当時の高級車と同じくらいの値段で非常に高価でありいずれも普及しなかった。既にカラー放送は始まっていたが当時は小型VTRのカラー化は発達途上であり、カラーテレビも普及していなかったためモノクロだったのである。
1969年、主に教育現場からの要望に応える形でモノクロ方式を規格統一した統一Ⅰ型が発売された。1971年にはカラー方式も統一したニューカラー方式が発売されるがやはり高価であり普及はしなかった。
当時のVTRは放送用、家庭用ともにオープンリール式であり、取り扱いは既に存在したカセットテープより難しく、特に一般消費者向けの家庭用VTRではカセット式の導入が望まれた。1969年にソニーが試作機を完成させ、これを元に1970年にソニー・松下電器・日本ビクターと海外メーカー5社によりU規格として規格化。1971年、ソニーが『Uマチック』として発売し、世界初のカセット式VTRとなった。当時のUマチックは家庭用として開発されたが、アメリカにおいて放送業界にもニュース取材用にUマチックを導入する動きがあり、後にソニーは正式に業務用モデルを発売してUマチックは業務用となり、カセット式VTRが放送業界にも普及していくきっかけとなった。
Uマチックは従来ニュース取材に使われていたフィルムと違い現像の必要が無く、速報性に優れていたのである。後にこの形態のニュース取材はENG(Electronic News Gathering)と呼ばれた。
一方でU規格は当時の目的だった家庭用としては普及しなかった。
そこで家庭に普及するVTRを作るべくソニーが1975年にベータマックスを開発、それに対抗し日本ビクターが1976年にVHSを開発した。これらは後にベータ方式とVHS方式となり、各社が参入して市場を二分するほどの規格競争が繰り広げられた。この規格競争は10年以上続き、『ビデオ戦争』と呼ばれた。最終的に1988年にソニーがVHSに参入し、事実上VHS陣営の勝利に終わった。
家庭用VTRにおいてビデオ戦争が繰り広げられる中、放送用VTRは1950年代以降一貫して2インチVTRが収録・送出用として使われていた。規格としては他の方式も存在していたが、世界的に見ても2インチVTRが主流であったため、取って代わる方式はなかった。一方でENGにはUマチックが使われていた。
1976年、アンペックスとソニーがそれぞれ自社で開発、販売していた1インチ方式のVTRの規格を統合し、1インチCフォーマットVTRとして発売、音声多重放送に標準対応し、画質も従来の2インチVTRより良く、維持費やテープコストも安価だったことから急速に普及した。
その後、放送業界におけるUマチックはベータカムに置き換えられ、更にデジタルベータカムがそれに取って代わった。1インチVTRもD2-VTRによって置き換えられた。放送業界では取材用がカセット式、送出用がオープンリール式といったように使い分けられていたが、デジタル記録になったことで画質の違いがなくなり、この頃には送出用もカセット式となった。
デジタルベータカムは更にDVCAMなどに置き換えられ、D2-VTRと共にアナログ放送終了まで用いられた。
1991年、MUSE方式のアナログハイビジョン試験放送が始まり、この時には1インチVTRのハイビジョンモデルとカセット式のUNIHIが用いられた。
2000年にBSデジタル放送が始まった頃はHDCAMが使用され、2003年に地上デジタル放送が始まった頃は事実上最後の放送用VTR規格となるHDCAM-SRが使用されていたが、同時期に光ディスク方式のXDCAMのSDモデルが登場、2006年にHD方式対応のXDCAM HDが、2008年にはフルHD対応のXDCAM HD422が発売され、テープ方式と違いノンリニア編集が可能というメリットもあり置き換えが進みHDCAMおよびHDCAM-SRのカメラおよび録画・再生機器の製造は2016年に終了し、放送用VTRの時代が終わった。
家庭用VTRはVHS陣営勝利後、水平解像度400本を実現したS-VHSが登場するが高価であったためすぐには普及しなかった。一方で同時期にベータ陣営のソニーが発売したEDベータはそれを上回る水平解像度500本を実現したがS-VHS以上に普及しなかった。その後、1998年頃に価格低下により再びS-VHSが注目され、かなり普及した。
小型テープの8ミリビデオ、高画質モデルのHi8はビデオカメラとVTR一体化したカムコーダー用として普及した。一方でカセットが小さいというメリットはあったが据え置き型デッキ用には普及しなかった。
デジタル記録が可能なminiDVもやはりカムコーダー用には普及したものの据え置き型用には普及せず、据え置きデッキ用の標準DVもほとんど普及しておらず、後にソニーから発売されたDigital8に至っては数機種しか発売されなかった。この時代はBSデジタル放送が始まる直前であり、アナログ放送をデジタル記録する需要は多くなかったとみられる。なお東京メトロポリタンテレビジョンなど送出部を除き全てデジタル設備になっていた放送局もあり、視聴者側もデジタル方式のVTRを使用することで事実上電波以外すべてをデジタル方式で録画することができた。また当時既に存在していたCSデジタル放送(SD画質)を録画すれば完全にデジタル録画することができた。
1994年には家庭用で初めてMUSEアナログハイビジョン放送をそのまま録画できるW-VHSが発売されているが、この方式自体が普及しないままデジタル時代を迎えたためほぼ普及していない。
その後、BSデジタル放送をそのまま録画できるD-VHSが発売された。この方式は地上デジタル放送にも対応しておりBlu-rayが登場するまでは家庭用で唯一そのままの画質で録画可能であり、家庭用据え置きVTRの事実上最後の規格であるが、普及する前にBlu-rayレコーダー、HDDレコーダーの時代を迎えることになり、アナログ放送終了を待たずして2007年までに生産終了した。
2001年には家庭用カムコーダー用最後の規格であるMICROMVが登場したが、あまり普及しなかった。
その後も標準方式のVHSは継続販売されていたが、アナログ放送終了後になると録画需要はほぼなくなり再生機能のみを持つモデルが多くなった。
2016年、最後までVHSを製造していた船井電機が生産を終了し、家庭用VTRの時代が終わった。
主なVTRの規格
放送用・産業用VTR
アナログ記録
デジタル記録
- D1
- D2
- D3
- D5
- D6
- D7(DVCPRO)
- D9(Digital-S)
- D10(MPEG IMX)
- Digital BETACAM
- HDCAM、HDCAM SR
- BETACAM-SX
- DVCAM
家庭用VTR
アナログ記録
- 1/2インチ
- 1/4インチ
- Uマチック
- VHS、VHS-C、S-VHS、S-VHS-C
- W-VHS
- 8ミリビデオ、Hi8
- ベータマックス(ハイバンドベータ、ED-Beta)
- Vコード、VコードII(東芝、三洋電機)
- VX(松下寿)
- CVC(船井電機、キヤノン)
- カートリビジョン(Avco)
- ビデオカートリッジ(EIAJa型)
- VK方式
- VCR方式
- VCC
- セレクタビジョン
- インスタントビジョン
アナログ記録(音声はデジタル記録)
デジタル記録
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関連リンク
関連項目
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