ファクタリング(factoring)とは、以下のことを指す。
- 企業の売掛金を買い取り、即座に使える銀行預金を提供するサービスで、正確には買取ファクタリングという。本記事では、この買取ファクタリングについて解説する。
- 企業に対して信用調査をして、その企業が倒産した場合でも、その企業に対する売掛金の一部を銀行預金にすることを保証するサービスで、正確には保証ファクタリングという。詳しくは、当該記事を参照のこと。
- 外国の輸入企業に対して信用調査をして、その企業が支払い不能になった場合でも、その企業に対する売掛金の一部を銀行預金にすることを保証するサービスで、正確には国際ファクタリングという。詳しくは、当該記事を参照のこと。
- 企業の従業員の「給料を受け取る債権」を買い取り、即座に使える銀行預金を提供するサービスで、正確には給料ファクタリングという。
1.の概要
定義
企業は、資産として売掛債権を持っていて、その一部が売掛金と呼ばれるものである。支払いを待っている段階の請求書が、売掛金の証拠書類となる。この、支払い待ちの請求書を買い取ってもらうことを買取ファクタリングという。
法律的にいうと債権譲渡の契約ということになる。民法第466条
に定められるとおり、債権(支払いを受ける権利)というものは自由に譲り渡すことができる。
売買であって、融資ではない
ファクタリングにおいて、債権を財産権の1つととらえ、債権に対して代金を支払う。このため、買取ファクタリングは、民法第555条が想定するような売買契約
といえる。
買取ファクタリングによく似たサービスというと、売掛債権担保融資(ABL)が挙げられる。
これは、売掛金や手形を担保として、金融機関が融資をするものである。金融機関と売掛債権所有者との間で結ばれる金銭消費貸借契約である。このため、売掛債権を持っている者が金融機関から審査を受ける。また、利息制限法
や出資法
で、金利の最大限は年利15~20%と決められており、金融機関はそれを超えた利子を付けられないため、かなりしっかり審査をする必要があり、融資に至るまで時間がかかる傾向がある。また融資なので、連帯保証人の署名も要求される。貸借対照表(バランスシート)の上では、資産(銀行預金)と負債(借入金)が同じぐらい増える。融資を受けて負債が増えるので、誰もが閲覧できる信用情報にそのことが登録され、金融機関からの評価が少し悪くなってしまう。
買取ファクタリングは売買契約なので、売掛債権の債務者(売掛債権の所持者が商品を納入した企業)がファクタリング業者から審査を受ける。また、売買契約なので利息制限法や出資法に定めるような金利制限が存在しない。売掛債権を非常に安い値段で買い取って大きな利益を追求することが可能である。「審査をあまり行わず危険だが、その分、安く買い叩く」といったことが可能なので、買取に至るまで時間がかからないことが多い。また、連帯保証人の署名も要求されない。貸借対照表(バランスシート)の上では、資産の一部が売掛金から銀行預金に形を変えるだけであり、負債が増えるわけではない。誰もが閲覧できる信用情報に傷が付かず、金融機関からの評価を維持できる。
買取ファクタリングと売掛債権担保融資(ABL)の違いを表にまとめると、次のようになる。
買取ファクタリング | 売掛債権担保融資(ABL) | |
---|---|---|
サービス提供者 | ファクタリング業者が行う。貸金業法に基づく登録が不要。 | 銀行(預貯金取扱金融機関![]() ![]() |
契約の種類 | 売買契約![]() |
金銭消費貸借契約![]() |
法規制 | 法規制が存在せず、巨額の利益を得ることが可能 | 利息制限法や出資法の規制を受ける。それらを超えた高金利が禁止されている。 |
審査対象 | 売掛債権を発生させた債務者 | 売掛債権の所持者 |
審査の時間 | 短い傾向がある | 長い傾向がある |
連帯保証人 | 不要 | 必要 |
貸借対照表 | 資産の一部が形を変えるだけ。売掛金が銀行預金になる | 資産(銀行預金)と負債(借入金)が同じぐらい増える |
信用情報 | 一切、傷が付かない | 融資なので、信用情報に登録され、金融機関からの評価が少し悪くなる |
官公庁の関わり | ない | 金融庁![]() ![]() |
手形割引は融資、買取ファクタリングは売買
買取ファクタリングによく似たサービスというと、手形割引が挙げられる。
商品を販売したときに、手形で支払いを受けることがある。手形の期日が来るよりも前に、手形を銀行預金に変換したいときは、手形割引をしてもらう。手形割引は、手形に裏書きをしてから、銀行や貸金業者に手形を譲渡し、その引き換えに、手形の満額よりも安い金額の銀行預金を受け取るものである。
手形割引は債権譲渡契約や売買契約のように見えるが、そうではない。金銭消費貸借契約の1つであり、融資である(少なくとも銀行や貸金業者はそのように意識する慣行がある)。そのため、銀行か、貸金業法に基づく登録をした貸金業者のみが行う。
手形を裏書して銀行や貸金業者に譲渡してから、手形の振出人が破産するなどして債務不履行に陥ると、手形を裏書きした人にも支払い責任が生ずる。銀行や手形割引業者は、手形割引を利用した人に償還請求をしてくる。
売掛金をファクタリング企業に譲渡してから、売掛金の債務企業が破産するなどして債務不履行に陥っても、ファクタリング利用者は支払い責任を負わずにすみ、請求されることがない。
買取ファクタリングと手形割引の違いを表にまとめると、次のようになる。
買取ファクタリング | 手形割引 | |
---|---|---|
サービス提供者 | ファクタリング業者が行う。貸金業法に基づく登録が不要。 | 銀行や、貸金業法に基づく登録をした貸金業者が行う |
契約の種類 | 売買契約![]() |
金銭消費貸借契約![]() |
法規制 | 法規制が存在せず、巨額の利益を得ることが可能 | 利息制限法や出資法の規制を受ける。それらを超えた高金利が禁止されている。 |
審査対象 | 売掛債権を発生させた債務者 | 手形の所持者、手形の裏書人、手形の振出人 |
審査の時間 | 短い傾向がある | 長い傾向がある |
債務者が債務不履行になった場合の、利用者の責任 | 支払い責任がなく、ファクタリング企業に何も弁償しなくてよい | 支払い責任があり、銀行・貸金業者に弁償する |
信用情報 | 一切、傷が付かない | 融資なので、信用情報に登録され、金融機関からの評価が少し悪くなる |
通知の有無で形態が変わる
ファクタリングの形態は、3社間ファクタリングと2社間ファクタリングに分けられる。前者は債務を負っている企業に債権譲渡を通知するもので、後者は債務を負っている企業に債権譲渡を通知しないものである。
民法第467条で、債務者に対して対抗したい(債権譲渡を主張したい)ときは債務者に通知を出すこと、と定められている。
様々なファクタリング
医療ファクタリングという言葉がある。医療業界向けの買取ファクタリングのことをいう。
かつて、一括ファクタリングというサービスが、さまざまな銀行によって提供されていた。しかし、電子記録債権というシステムが政府主導で整備されて2008年12月1日にサービス開始できるようになってから、一括ファクタリングは衰退していった。
3社間ファクタリング
流れ
3社間ファクタリングの流れは、以下の通りとなっている。
ファクタリング企業 | ||
2.↑ 4.↓ | 5.↑ | |
利用企業 | 1.⇔ 3.→ |
債務企業 |
- 売買契約が結ばれ、利用企業が債務企業に商品を納入し、利用企業は売掛金を得る
- 利用企業はファクタリング企業とファクタリング契約を結ぶ。債権譲渡契約書を作成し、債権譲渡登記所に登記する(債権の譲渡)
- 2.と同時に、利用企業は債務企業ともファクタリング契約を結ぶ(債権譲渡の通知)
- ファクタリング企業から利用企業へ銀行振り込みが行われる
- 売掛金の期日が来たら、債務企業からファクタリング企業へ銀行振り込みが行われ、債務が消滅する
債務企業へ通知されるので、ファクタリング企業にとってリスクが低い
「3.で債権譲渡の通知が行われる」というのが3社間ファクタリングの特色である。2社間ファクタリングでは、債務企業への通知が行われない。
「5.で債務企業からファクタリング企業へ銀行振り込みが行われ、債権・債務が消滅する」というのも3社間ファクタリングの特色である。
債務企業が、ファクタリング企業への債務返済を滞らせたらどうなるかというと、当然、民事訴訟となる。その際、3.において通知を済ませてあるので、「債務企業へ対抗できる(債権を主張できる)」という状態になり、裁判で勝訴する可能性が高い。
ファクタリング企業にとっては、民事裁判で勝つ可能性が高く、債権を回収できる可能性が高いので、リスクが低い。このため、3社間ファクタリングは手数料が低くなる傾向があり、4.でファクタリング企業から利用企業へ支払われる金額も高めになる。
利用企業にとって、進行が遅い
3.において債務企業とファクタリング契約を結ばなければならず、それを済ませてからやっとファクタリング企業からの銀行振り込みが行われる。
利用企業にとっては、売掛金を銀行預金にするまで時間がかかることになる。
2社間ファクタリング
流れ
2社間ファクタリングの流れは、以下の通りとなっている。
ファクタリング企業 | ||
2.↑ 3.↓ 5.↑ | ||
利用企業 | 1.⇔ 4.← |
債務企業 |
- 売買契約が結ばれ、利用企業が債務企業に商品を納入し、利用企業は売掛金を得る
- 利用企業はファクタリング企業とファクタリング契約を結ぶ。債権譲渡契約書を作成し、債権譲渡登記所に登記する(債権の譲渡)
- ファクタリング企業から利用企業へ銀行振り込みが行われる
- 売掛金の期日が来たら、債務企業から利用企業へ銀行振り込みが行われ、債務が消滅する
- 利用企業からファクタリング企業へ銀行振り込みが行われる
債務企業に通知しないサイレント式
2.で債権譲渡契約が結ばれて、確かに債権が移動する。ただし、そのことを債務企業に通知しない。
民法第467条により、債権が移動したことを債務者に主張するには、利用企業から通知をすることが定められているのだが、それを故意に怠る。これを法律業界ではサイレント式の債権譲渡
という。
買取ファクタリングを利用する企業の中には、ファクタリングを利用しているという事実を知られたくない企業が多い。「あの企業はファクタリングに手を出している。手持ちの銀行預金が乏しいのだろう。危なっかしい経営をしているようだ。いつ倒産してもおかしくない」という噂が広がるのは、大変に嫌なことである。このため、サイレント式債権譲渡がしばしば行われる。
利用企業からファクタリング企業へ債権が移動しているが、実際にお金を債務企業から受け取るのは、あいかわらず利用企業のままである。「利用企業には債権が存在しないが、債権を持つファクタリング企業の代理として、お金を受け取る作業をしている」と法律的に解釈される。
債務企業へ通知しないので、ファクタリング企業にとってリスクが高い
債務企業が、利用企業への入金を滞らせたらどうなるかというと、利用企業が必死に債務企業へ督促する。ファクタリング企業は、じっとその督促を見ているだけになることが多い。
利用企業とファクタリング企業が2.で作った債権譲渡契約書をとりあえず伏せて、利用企業に債権があるという体裁にして、利用企業が民事訴訟裁判を起こして債務企業からお金を回収する・・・というのは、全く期待できない。ファクタリングを利用するような企業には、民事訴訟を起こすような資金的余裕など無いことが多い。
利用企業から債務企業に債権譲渡の通知をして、それからファクタリング企業が民事訴訟裁判を起こす、ということもあり得るが、これも現実的ではない。先述の通り、利用企業は、ファクタリング利用の事実が周囲にバレるのを非常に恐れる傾向がある。このため利用企業からの通知を嫌がる。
利用企業が債務企業に債権譲渡の通知をしない限り、ファクタリング企業は債務企業に対して対抗要件を具備できないので(債務企業への債権譲渡の主張ができないので)、ファクタリング企業が単独で民事訴訟裁判を起こしても、確実に負ける。
ファクタリング企業にとっては、債権を回収できる可能性が低いので、リスクがとても高い。このため、2社間ファクタリングは手数料が高くなる傾向があり、4.でファクタリング企業から利用企業へ支払われる金額も低めになる。
利用企業にとって、進行が早い
ファクタリング企業にとって、2社間ファクタリングはとてもリスクが高い。
しかしその一方で、リスクの高さを理由に、かなり高い手数料を要求できる。逆に言うと、「利用企業はこれだけ高い手数料を承認してくれるんだから、審査を緩めにして、より早いタイミングで利用企業に銀行振り込みしてやるべきだ」というサービス精神も発生する。
このため、2社間ファクタリングでは、緩めの審査になりがちで、申請したその日に銀行振り込みが行われることも珍しくない。
医療ファクタリング
医療ファクタリングは、医療関係者が利用する買取ファクタリングのことをいう。
医療関係者は、医療行為を行い、そのことを国民健康保険団体連合会(国保)や社会保険診療報酬支払基金(社保)
にレセプト
を送って申請し、申請が通ったら報酬をもらうことになっている。医療行為を行ってから報酬がもらえるまで2~3ヶ月かかることが普通である。このため、手持ちの銀行預金が不足した医療関係者は、国保や社保に対して持っている債権をファクタリング企業に売却することが多い。
国保や社保は、政府が絡んでいるので、債務不履行することは絶対と言っていいほど考えられない。医療機関が国保や社保に提出するレセプトに不備があるなどして申請が通らないことがたまにあるが、不安要素というのはその程度である。このため、医療ファクタリングは、ファクタリング企業にとって非常にリスクが低く、そのため手数料が低い。
医療ファクタリングは、3社間ファクタリングの形態で行われることが多い。
医療ファクタリングは、3つの種類に分けられている。
名称 | 利用者 |
---|---|
診療報酬ファクタリング | 医療機関(病院) |
介護報酬ファクタリング | 介護事業者 |
調剤報酬ファクタリング | 薬局 |
一括ファクタリング
一括ファクタリングというものがあり、主に銀行によって提供されていた。
一般に、ファクタリングは、売掛金の所有者が売掛金を早期に銀行預金へ変換しようと考えて、売掛金の所有者がファクタリング企業に依頼するものである。
ところが、一括ファクタリングは、売掛金の債務企業が支払い手段を手形から売掛金に変更しようと考えて、売掛金の債務企業がファクタリング企業に依頼するものである。債務企業が主導する、というのが特色といえる。
流れ
一括ファクタリングの流れは、次のようになっている。
銀行 | ||
4.↑ 5.↓ | 3.↑ 6.↑ | |
企業A | 2.⇔ |
債務企業 |
- 債務企業は、取引が多い企業Aを誘って、銀行と一括ファクタリング契約を結んでおく
- 売買契約が結ばれ、企業Aが債務企業に商品を納入し、企業Aは売掛金を得る
- 債務企業は、銀行に、企業Aから送付された請求書の写しを送る
- 企業Aは銀行に債権を譲渡する
- 企業Aは銀行から銀行預金を受け取る(企業Aが好きなタイミングで受け取ることができる)
- 債務企業は銀行に売掛金を支払う
手形を発行せずに済む
債務企業にとっては、手形で支払うという選択肢がある。しかし、これは債務企業にとって不便なところが多い。収入印紙を手形に貼らねばならないし、巨額の手形を運搬する際に、紛失する危険性もある。
販売企業にとっても、手形で支払いを受けるのは不便である。手形を紛失したら一大事なので、金庫の管理を厳重にせねばならず、警備コストがかかる。
一括ファクタリングなら、手形の不便なところを一気に解消できる。手形の紛失におびえる必要が無いし、収入印紙も必要ない。
銀行からの審査を受けるので、一括ファクタリングを契約することが会社の信用を高める
一括ファクタリングを提供するのは銀行であり、一括ファクタリングの申込者をしっかり審査してから契約する。
銀行というのは金融庁の厳しい監督を受けていて、社会からの信用が高い。一括ファクタリングの契約を結ぶことで、銀行からのお墨付きを受けることになり、会社の信用を高めることができる。
電子記録債権に取って代わられた
2008年12月1日から、電子記録債権のサービス提供ができるようになった。
これは一括ファクタリングとほぼ同じサービスを提供するものである。電子記録債権を所有する企業は、「電子記録債権を分割して、その一部を銀行預金に変換する」ということが可能であり、一括ファクタリングのサービスよりもさらに便利である。
このため、一括ファクタリングのサービスを提供する銀行はどんどん減っていった。2020年現在はどの銀行も一括ファクタリングのサービスを提供していないとされている。
関連項目
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- 0pt