フィリップ・アリエス(1914~1984)とは、フランスの歴史学者でアナール学派の第3世代に属する。
『子供の誕生』の人といえばピンと来る人もいるかもしれない。
概要
1914年に中部フランスのブロワで生まれた。ブルジョワ層の出身であり、そのためか歴史に幼いころから強く関心を抱いていたという。父親の希望を振り切りグルノーブル大学で歴史を学び、1年後ソルボンヌ大学に籍を移し、アクシオン・フランセーズに属するという右翼青年だった。しかし、彼は、同団体に属し『フランス史』を記したジャック・バンヴィルの歴史観からは逆に距離を置き、むしろジョルジュ・ルフェーヴルの講義で党派という人間結合の質問に答えてくれたことや、アンリ・オゼルに社会史の存在を知らしめられたことの方が印象に残っていたようである。
アリエスとアナール学派の出会いは第二次世界大戦中であるが、当初彼の関心を誘ったのは心性史ではなく人口統計についてである。その著作が『諸住民の歴史』であり、アリエスは二十世紀に入るとそれまで互いに関係しあっていた人口と経済はそれぞれ独立した領域に変化したことを主張するのである。しかしこのころからすでに心性への関心が見て取れ、この本の中にも様々な形で現れるのだ。
その後のアリエスはいわゆる「日曜歴史家」であった。アナール学派の第3世代といっても彼らの拠点である社会科学研究学院に教授として迎えられたのは1979年のことであったのだ。しかしアリエスが取り上げた『子供の誕生』、『死を前にした人間』といった題材は、ブローデルよりあとの統計を用いた研究方法から心性の歴史に向かったアナール派の流れと合致するのである。
さて『子供の誕生』であるが、フランス語の原題は『アンシャンレジーム期の子供と家族生活』という意味であり、「子供の誕生」は訳者がつけたものである。
そのため、一般的に流布している前近代には存在しなかった子供という概念が近代化の中で現れたというよりも、近代的な学校教育制度が現れていく中で、幼い人間はどのように扱われ方が変わっていったかというものを考察したものであるのだ。
加えてその後の家族史の研究で「子供の誕生」自体前近代から存在していたことが明らかになりつつあり、いささか人口に膾炙しすぎてアリエスにとっては不本意だが、「神話」となってしまった著作のひとつであるようだ。
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