フォード・マスタングとは、フォード社の発売するスペシャリティカーである。
概要
数あるアメ車の中でも特に有名な車種であり、数々の映画やテレビドラマに「出演」したこともあってか、一度はその名前を聞いた事のある人が多いと思われる。かつては「ムスタング」と言われる事もあった。日本車が受けた影響も多く、特に初代セリカにはその影響が色濃く出ている。
発売以来、2ドアクーペを固持しており、そのスタイルなどで根強い人気を誇る。時代の流れで多くのライバルが生産中止となり、また近年はカマロが一時生産中止になった事で、アメ車の同クラスの車両が一時期マスタングだけと言う事もあった。そう言った中でも継続して生産されていた所に人気の高さがうかがえる。
近年は米国でもドリフト人気が高まっており、割合に扱いやすい車体サイズにアメ車らしいトルクの太さはまさにドリフトにおあつらえ向きであり、ベース車としての人気が高い。また、NASCARでもネイションワイドシリーズの規格の関係からスプリントカップと違う車種を投入する傾向が強まった為、その車種に選定されている(スプリントカップはセダンの「フュージョン」)
初代(1964年~1968年)
1964年に登場した初代は「ポニーカー」と言われる廉価で軽快な小型クーペのジャンルを作りだした先駆者である。
元々、この当時のアメ車のクーペの大きさは5m超で下手すれば6mに迫るような非常に大きなサイズであったが、マスタングは4.6m少々とその当時のアメ車として非常にコンパクトであり、アメ車らしい堂々たるスタイルでありながらもクリーンさがあり、巧みなマーケティング戦略や好みの装備を選べる「フルチョイスシステム」が効を奏して、人気を不動のものとした。姉妹車にはマーキュリー・クーガーがある。但し、姉妹車と言えどボディシェルは異なっているので同一とは思えないものとなっている。
また、映画にも出演しておりスティーブ・マックイーン主演の「ブリット」で緑のマスタングが登場。5代目でこの時のイメージをオマージュした限定仕様が出るなど、強い印象を植え付けた。また、「ワイルドスピードX3」にも出演している。
2代目(1969年~1973年)
1968年に2代目が登場、場合によってはいわゆる「ビッグマイナーチェンジ」と認識されている事があり、2代目は初代の範疇に入る事がある。
大型化された車体とそれに見合う大排気量エンジンでより一層の高い動力性能を得たが、それは同時に軽快さを引き換えにするものであった。4.8m近い車体はマッスルカーのクラスに至っており、そこに「ポニー」の面影はなかった。
有名なのはハイパフォーマンスモデルの「マッハ1(最近原語の発音に従い「マック1」と言われる事が多い)」には最大で429c.i.(約7000cc)と言う排気量を誇る高性能エンジンを搭載していた。しかし、時折りしもオイルショックが世界を襲い、巨大化の末に悪化していた燃費などがマイナスとなり、販売台数に影を落とした。
この車は特に多くの映画やテレビドラマに登場した。特に「バニシングin60」では「主役」のエレノアで登場した。また、日本でもパトカーとして使用され、現在も保存されている。
3代目(1974年~1978年)
1974年に登場した3代目は大きくなりすぎた反省から、ダウンサイジング化が行われた。本国では2代目として扱われる為か、マスタングⅡと言う名称に変更された。>車長は4.4mと初代よりもコンパクトとなり、その当時のフェアレディZ(2by2)とほぼ同じ大きさであった。デザインはイタリアにある系列のカロッツェリア・ギアが担当した。またクーペの他にもハッチバックも登場している。
また登場当初は4気筒エンジンの搭載とV8無しと言う具合にオイルショックと排ガス規制の影響をもろに受けた格好であった。4気筒は約85PSと惨憺たる性能となっている。但し、V8エンジンは後に復活している。無論、排ガス規制で往年のハイパフォーマンスは見る影もないが、搭載されているエンジンがチューニングベースとして非常にポピュラーであったウィンザーエンジン(5000cc)であり、ちょこっといじれば直ぐにでも往年のハイパフォーマンスを手に入れられるとか何とか。
モデル末期には外装を攻撃的にした「マスタング・コブラⅡ」、そしてさらに挑発的なスタイルになった「キングコブラ」が登場している。
あまりに有名な初代や2代目と比べても地味であり、そのサイズや若干ちんちくりんにも見えるスタイルなどからマスタングマニアからもなかなか顧みられることは少ない。しかし、2代目の拡大路線の反省やオイルショックという急激な変化に立った上でダウンサイジングを決行した点はポニーカーの原点回帰を実現できた面で大きな足跡を残している。なので間違えてもいらない子扱いしてはいけない(戒め)
4代目(1979年~1993年)
1979年に登場した4代目は引き続き4.5mと小型のボディを採用した。それまでのうねりを効かした車体から、ヨーロッパの潮流を取り入れた直線的なデザインで大きくイメージを変えた。姉妹車にはフォード・カプリがある。この車のコンポーネンツの名称が「FOX」であった為、「フォックスマスタング」のあだ名も存在する。
当初はV8が採用されておらず、ターボチャージャーの導入など、ダウンサイジングに基づいた低排気量に対応させる当時の最新デバイスの導入を行った。これは現行のマスタングにも通じるもので、約132PSと過給なしのモデルと比べれば大幅な出力増となっている。しかし、モアパワーを望む声は当然のごとく存在し、アメ車の象徴たるV8再登場の声は当然なった。時折りしもオイルショックからの立ち直りが顕著となり、また公害対策も一息ついて、公害対策をしながらもパワーを出せるぐらいの余裕が出てくると、待望のV8の登場と相成った。
その後、フェイスリフトが何度か行われたが、最終的にモデルチェンジが行われたのは1994年になってからである。これまで4年程度でモデルチェンジしていたマスタングとしては異例の長さである。これはモデルチェンジするはずのモデルが別モデル(「幻の5代目」で説明)で出た為と、走りを意識したSVOというモデルを投入した結果、人気が高くなったためである。
とは言え、日本国内では販売台数が少ない事もあり、3代目並みに地味なモデルである。
幻の5代目
1994年に登場した5代目とは別物であり、マツダ・カペラのコンポーネンツを使用したこの車両は近未来的かつ空力に有利な車体であった。
直列4気筒とV6エンジンにFFを採用しており、V8エンジンが搭載出来ない。その為、マスタングのコンセプトとは大きくかけ離れており、また4代目が人気モデルになったので別モデルとして登場することとなった。結果、4代目は1993年まで実に14年の長きにわたって生産されることとなった。
このモデルはフォード・プローブとして販売され、日本でも人気を博した。
5代目(1994年~2005年)
1994年に登場した5代目は80年代の直線基調の潮流そのままのデザインから一気に90年代の潮流を取り入れた曲線的なデザインが特徴となった。やや大型化されて、初代と同じ大きさとなった。この時期、円高が進んでいた為、日本導入に際しては廉価グレードでは200万程度と言うかなりお手頃な価格で割合に人気を博していた。
大きな出来事の一つに1996年からV8エンジンがアメ車の伝統であるOHVと決別をし、OHCを採用した事である。合わせて排気量も5000ccから4600ccへ変化した。
そして1999年にマイナーチェンジが行われた。このマイナーチェンジで顔つきを中心に全体的に直線基調が取り入れられて、初代を強くオマージュしたものとなっている。このモデルを境に前期・後期と区別されている事が多い。
2002年以降、シボレー・カマロやポンティアック・ファイヤーバードが生産中止となってしまった為に2008年のカマロの復活まではアメ車唯一のスペシャリティカーであった。
6代目(2005年~2014年)
2005年に登場した6代目は5代目後期から顕著になっていた初代リスペクトを全体的に推し進め、アメ車の近年の潮流であるレトロモダンをまさに具現化したモデルとなった。車内もスピードメーターのデザインにその特徴が大きく表れている。
全長は4・8m超と2代目に近づかんばかりに一層大きくなった車体ではあるが、現代のテクノロジーを駆使してクレバーな走りも可能であり、またトルクの太さから来るパワードリフトのしやすさなど、ドリフト走行との相性もいい点も注目される。
2010年度モデルにマイナーチェンジを敢行し、リアのテールランプの意匠が変化した。また、このモデルよりNASCAR・Xfinityシリーズ(旧ネイションワイドシリーズ)のベース車両に選定された。
日本ではあまり選択の幅が多くないが、アメリカ本国はMTの選択のみならず、塗装も多く存在しており、またシェルビーGT500やBOSS302と言ったプレミアムモデルもラインナップに存在する。お値段も225万ドルからとお手頃価格となっている。
7代目(2015年~)
2015年モデルより新型モデルが登場。全体的に6代目のイメージを踏襲したキープコンセプトであるが、よりモダナイズ化されている。全幅は1.9m超と相当幅が大きくなっているが、全長は4・79mと小さくなっている。
今回はこれまでのドメスティックカーの枠を超えて、グローバルカーとしてヨーロッパにも輸出され、エンジンもヨーロッパの潮流であるダウンサイジングさせたエンジンも存在する。中でもエコブーストと言われる2300ccのエンジン、アメ車のイメージからすれば非常に控えめな数字であるが、ターボ過給や直噴機構を駆使して、そのパワー310ps・トルクが実に44.5kgmと凄まじいモンスター性能を誇る。一般的にアメ車に4気筒モデルとなると、「?」となったり、「らしくない」と思われるが、実はマスタングでは過去においては3代目と4代目で採用されると言う具合に割合に珍しい事ではない。しかしこの当時は公害対策の関係もあり、特に3代目は同じ排気量でありながら約85馬力と惨憺たる性能となっている。
無論、従来からのV6とV8は存在しており、V8にいたっては5000ccに435ps・55kgmというアメリカンV8に恥じない素晴らしい性能を発揮する。そしてV8にはホイールスピンを起こす為のデバイスである「エレクトロニック・ラインロック」が装備されている。
足回りもこれまでのリアサスがリジットサスから独立懸架となり、また輸出に合わせて初となる右ハンドルの設定も行われる。なお、純正でなく改造扱いでの右ハンドルはかつてより存在しており、ダッシュボードもそれを見越してかどうかは定かではないが左右対称になっている物が多かった。
ハイパフォーマンスモデル
マスタングにはメーカー純正、チューナー共にハイパフォーマンスモデルが用意されているが、特に有名なのは故キャロル・シェルビーの手のかかったシェルビー・マスタングやフォードの手がかかったマスタング・コブラである。マスタングコブラに関しては名称自体はシェルビーの使用していた名称であるが、キャロル・シェルビーの手は入っていない。
彼の手がかかったモデルはコブラが描かれている事が多かったので、これが混同される原因でもある。
シェルビーマスタング
故キャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカン社が手掛けたモデルであり、初代と2代目の初期、そして6代目にラインナップに存在する。
初代は当時のレースシーンにそのまま参戦出来る様に徹底的な軽量化やチューニングがされていたが、流石に普通に使用するのには厳しいので、徐々にその部分は薄まっていったが、イメージリーダーとしての役割には大いに役立った。しかし、2代目にいたって、BOSSシリーズやマック1が登場するとキャラクターがかぶってきており、また当初のコンセプトとはかけ離れたものとなった為に一旦シェルビーマスタングはその名を消した。
時が経ち、6代目になるとデザインは初代の物に酷似したものとなり、これに合わせてシェルビーマスタングの名前が復活した。
最新の7代目は若干遅れての登場であるが、「シェルビーGT350」と言うグレード名で若干遅れて登場する模様である。5200ccのエンジンは500馬力以上を発揮し、それに合わせて専用の足回りや6速MT、ブレンボ製のブレーキ、バケットシートと言う具合に走りに主眼を置いたスパルタンなモデルとなっている。
マスタングコブラ
こちらは基本的にシェルビーの手がかかっておらず、コブラの名称の使用はシェルビー・アメリカンより「コブラ」の商標を買い取った為であり、シェルビー・コブラとは何らの関係もない。
コブラの名称をつけたマスタングの登場は3代目であり、この時は外装を初代のシェルビー・マスタングに合わせたものとなっており、その後はよりモダンなスタイルとボンネットにコブラのデカールが貼られたキングコブラが登場した。
その後、4代目の最終モデルで再びコブラの名称が復活、チューンされた足回りとV8エンジンを奢られた。5代目でも同じようにラインナップ。時代が下るに従って、排気量の増加や過給機の追加などどんどん過激になっていった。
6代目はシェルビー・マスタングの登場によって、コブラこそ登場していないが、エンブレムにその姿を見る事が出来る。
サリーン・マスタング
アメリカ・サリーン社の手掛けるコンプリートカーであり、その中でマスタングはS302を名乗っている。割合に新しいチューナーであり、自社開発も行う程のノウハウを持つ。数字の部分は排気量から取られ、これ以前に4.6リッターだった時はS281を名乗っていた。内容によってお値段も違うが、日本円で100万円から200万円増しでスーパーチャージャー付きの600馬力と言うお化けみたいなマシーンが出来上がる。この他、ビッグスリーのハイパフォーマンスモデルもある。かつて、日本にも輸入されていたが、輸入元が倒産してしまい、現在では日本には導入されていない。
マスタングと映画、ドラマなど
初代
- ブリッド(1968年)
スティーブ・マックイーン主演の映画で「太陽にほえろ!」が大きく影響を受けた事で知られる。主人公ブリット刑事の愛車として1968年式GT390が登場。ラストでダッジ・チャージャーとのカーチェイスは今も語り草である。つや消しグリーンと小傷が非常に男くさいイメージであるが、そのワイルドさがかえって好印象となった。印象が殊の外強かった模様で5代目マスタングには純正にはない濃い緑を「ブリット仕様」として販売した。 - ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT(2006年)
ワイルドスピードシリーズの三作目であり、主人公のショーンがDKとの対決に際して使用。元々、ショーンの父親が拾ったドンガラとハンの乗っていたS15シルビアに搭載されていたRB26DETTを組み合わせたもの。 - 60セカンズ(2000年)
後述する「バニシングin60」のリメイク版である。主人公が最後に盗んだ車がシェルビー・マスタングGT500である。あだ名として「エレノア」がある。これもまた、元ネタのオマージュである。そして、この映画に使用されたエレノア仕様が作られたらしい。その為、近年はマスタングのエレノアと言えば、この映画に出てきたモデルやそれをイメージしたモデルを差す事が多い。
2代目
- バニシングin60(1974年)
スタントマン出身のH・B・ハリッキーが監督・出演・演出・制作等したカーアクションの金字塔で、ラスト40分のカーアクションは今持って伝説となっている。 その40分を飾るのはエレノアとあだ名された黄色いマスタングマック1である。そしてこの車こそがこの映画の「主演」である。そして60セカンズはこの映画をオマージュして制作された。 - 007 ダイヤモンドは永遠に(1971年)
ショーン・コネリーのジェームス・ボンド復帰&卒業作品となった007シリーズの第7段。ボンドカーと言われる事が多いが、ボンドの持ち物ではないので正しくはない。 - 刑事貴族(1990年)
舘ひろし演ずる牧刑事の車として登場。元々は傷なしであったが、舘の提案でわざと傷だらけとした。演じる牧刑事のハードボイルドな雰囲気がそのまま車にも出ている。塗装は黒でホイールにエンケイのバハを履いている。回転灯も西部警察のマシンXのように車内置きとなっている。 - 栃木県警(1973年~1984年)
地元のJAからの寄贈であり、国産車がほぼ100%のパトカーにあっては非常に異色であり、有名な存在であった。廃車後はパトカーの慣例に従って、解体されるかと思いきや、免許センターに保存されることとなった。アメ車が日本のパトカーとなったケースはこれ以外では年頭視閲式に出てくるような儀礼用の車を除けばキャバリエ程度(正確にはトヨタ扱いではあるが)ぐらいしか存在しない。
6代目
- ナイトライダーNEXT(2008年)
今なお人気の高い「ナイトライダー」シリーズの続編である。これまで1990年代に「新ナイトライダー2000」やいくつかの続編が制作されているが、マイケル・ナイトの実子の登場や数々のキーワードより、もっとも正統な続編としての立ち位置がなされている。スポンサーの関係でフォード・マスタングが採用された。シェルビー・マスタングGT500KRというホットモデルが採用され、「ナイト3000」の名称となった。ナイト2000以上にハイテクの限りを尽くしており、まったく別の車種になれると言う機能も付いている。KITTとくれば、KARRもいるだろうと思いだろうが、もちろんいる。 - トランスフォーマー(実写映画)(2007年)
かつて大人気を博したトランスフォーマーシリーズの実写版。この映画ではバリケードの名前でデストロン軍団(ディセプティコン)側のキャラとして登場している。正確なベースはマスタングのコンプリートカーであるサリーンS281である。パトカーをモデルにしたトランスフォーマーのキャラと言えばサイバトロン戦士(オートボット)のプロールが真っ先に思い浮かぶが、まさかまさかの悪の軍団での登場である。ボディには「To punish and enslave(〈罪人を〉罰し、服従させよ)」と書いてあり、通常のパトカーに書いてある「To protect and serve(〈市民を〉護り、奉仕せよ)」をもじったものとなっている。 なお、バリケードはスーパーリンクにおけるコンバットロンの戦略家であるオンスロートの海外名であり、つまり乱暴に言えばコンバットロンの一員とも言える。
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