フォーミュラEとは、電気自動車のフォーミュラカーのレースである。2012年に国際自動車連盟(FIA)が電気自動車の普及促進を目的にシリーズ設立を発表。2014年9月に初戦が開催された。2021年1月開幕予定の第7シーズン(2020年~2021年)からは世界選手権に格上げされる。
概要
通常のモータースポーツとは異なり、秋または初冬に開幕し翌年の夏に閉幕する。そのためシーズンは「第X期」「第Xシーズン」または「X年-Y年」と表記される。
排気ガスと轟音の出ないことをアピールし、EVを身近に感じてもらうために、ほぼ全戦を公道レース、つまり市街地や公園などの施設を利用した仮設サーキットで開催している。例外的にメキシコでは常設サーキットを使用しているが、これは同サーキットが市街地に極めて近いという条件があったためである。走行音は相当静かであるため、タイヤのスキール音やクラッシュ時の衝撃音が生々しく聞こえる。またレース中もDJが音楽を流していることもある。
シャーシ・バッテリー・タイヤなどは全車同一のものを使用しているが、パワートレインは独自開発が認められている。このためチームによりギアやMGUの数が異なっているが、モーターの特性ゆえに多段ギアのメリットはかなり少ないため、現在は大半のチームが1モーター×1段変速であり、最大でも3段である。将来的にさらに開発の自由度とレベルは高くなっていく予定である。なおパワートレインは他コンストラクターからの購入が認められており、購入の希望があったコンストラクターは2チームまでは無条件に販売しなければならない。ただし、シーズン中の供給元の変更は認められない。
シャーシは一応フォーミュラカーの体裁を整えてはいるものの、F1のような強大なダウンフォースに頼るようになっていない。ウィングは空力部品である以前に、フォーミュラカー故の車輪同士の接触による車体が浮き上がるような大事故を防ぐためのバンパー的役割が大きい。そして、路面状況が劣悪なコースを走るために、サスペンションなどの部品はかなり丈夫に作られている。なので、ちょっとやそっとの接触では壊れないし、ウィングなどが多少破損しても、致命的なラップタイムのダウンに繋がりにくい。
こういったこともあって、レース中は激しい抜き合いによる接触が日常茶飯事となっている。ただし、外れかけた部品をブラブラさせたまま走るのは危険なため、オレンジディスクという標識によって、ピットインしてその部品を除去することを要求される場合がある。
ラジエターなどの補器が要らないぶん、パワーユニットに重量が偏りがちで、ミッドシップとは言ってもかなりリヤ寄りの配分となってしまい、他のエンジン式フォーミュラカーに比べて独特のテクニックを要求される。また、他のフォーミュラカーにない要素として、極めて狭いヘアピンやシケインを通るコースレイアウトが多い関係で、ステアリングの切れ角が市販車並みに大きい。
タイヤはミシュランが供給する全コンディション対応の1スペックのみ。普通のフォーミュラカーと異なり、市販車に近い大径ホイールである。またF1のようにタイヤを温めてべたべたにする必要が無く、市販車とほぼ同じ構造の溝付タイヤである。レース中の摩耗もそれほどではないため、コスト低減とクリーンなイメージに貢献している。
フリー走行・予選・決勝は全て1日で行われる、コンパクトなフォーマットになっている。近年は1イベント2日開催も増加している。
レース中は燃料ではなく電気の消費具合(電費)を見ることになる。闇雲にスロットルを全開で走ればすぐに電気が尽きてしまうため、ブレーキング時の回生などを活かして電費を稼ぐようなドライブをする必要がある。
それでも現在の消費量では1レースもたないため、途中でピットインし、マシンから降りてもう1台のマシンに乗り換える。ピットイン時はシートベルトを装着するための時間が確保されており、この時間より速くピットを出るとドライブスルーペナルティが科せられる。クラッシュなどでSCが入ると電力を節約して走れるため、電費戦略は大きく変わってくる。
第5シーズン(2018年-2019年)以降は、シャシーとともにバッテリーユニットが一新されてGen2(Generation2)となり、これにより1レースを1台で走りきれるようになった。そして、モーター出力も200kwに拡大されている。
また、Gen2シャシーはこれまでの一般的フォーミュラカー然としたスタイルから大きく変わり、スポーツカー(ルマンプロトタイプ)などに近いフェンダーでフロントタイヤが覆われるようになったほか、リアウィングも左右に分割されて、より未来的なフォルムに進化した。また、F1でも取り入れられているコクピットの安全機構であるHALOシステムが装備された。
ファンブースト
フォーミュラEでは、ファンブーストというシステムを採用している。これは、ドライバーに元気玉を送りの人気投票を行い、最も多くの票を獲得した3名が決勝レース中に規定値以上のパワーを一時的に使用することができるものである。ドライバーがファンブーストを使用すると、テレビ画面に表示される仕組みになっている。第5シーズンからは5名に枠が拡大している。
投票は、フォーミュラE公式サイト(外部リンク)からアカウントを取得、FacebookなどSNSのアカウントでログイン、またはTwitterやInstagramでハッシュタグをつけて行うことができる。投票の締め切りはレース開始から約6分後で、ピットで乗り換えた後のマシンで使用が可能になる。
アタックモード
第5シーズンから導入された新要素。コース中に予め指定されたアクティベーションゾーン(多くの場合、コーナーの外側やストレートのレコードライン外に設けられる)を通過しつつ、ドライバーが一定のスイッチ操作を行うことで発動する。2分間に渡って25kwの出力が上乗せされることになり、大幅なタイムアップが可能になる。
レース中に定められた使用回数があり、ドライバーは必ずその回数アタックモードを発動させなければならない。発動中はHALOシステムの青いLEDが光って識別が可能である。
エントラント
第4シーズン(2017年-2018年)現在、ルノー、アウディ(+VW)、DS(シトロエン)、ジャガー、マヒンドラ、ヴェンチュリーと大衆車・スポーツカー問わず多くのメーカーが参戦している。また第5シーズン(2018年-2019年)からはBMWが参戦を開始しており、ポルシェもWECからの撤退を発表すると同時に参戦を表明した。このポルシェとメルセデスが第6シーズンから参戦する。また、日本国内からは日産がルノーと入れ替わりに第5シーズンから参戦している。マクラーレン、ホンダも興味を示しているという。そして、電気自動車という新カテゴリー故に、ベンチャー企業も参戦しており、中国のネクストEV、アメリカのファラデー・フューチャーがそれである。
ドライバーもF1経験者や、明らかにF1に行ける実力を持ちながらF1に参戦できずチャンスを模索中、または参戦できなかったドライバー、他の世界選手権(WEC、WTCC)のチャンピオンばかりで非常に豪華である。また開催時期の関係上、他レースと掛け持ち参戦しているドライバーが多いのも特徴。
第1期は話題性重視で多くの元F1ドライバー・女性ドライバーが入れ替わり立ち替わり参戦したが、これがフォーミュラEのレベルが低いと印象づけてしまうとして、後にF1同様ライセンスポイント(過去3年間で20pts)を満たさなければならないと変更された。フォーミュラEはそのマシン速度の遅さから最初、初代王者にのみスーパーライセンスが発行され、2位以下はライセンスポイントは1ptももらえない仕組みになっていたが、後にレベルの高まりとともにインディカーと同じポイントシステムを与えられた。
日本勢では、かつて鈴木亜久里がチーム代表を務めるアムリン・アグリが第1期から参戦した。第4戦で優勝を挙げるが、このとき鈴木は地球の裏側日本のソファで途中で寝むりこけてしまっており、優勝の瞬間を見ることはできなかったという。また表彰台の国歌も君が代ではなくイギリス国歌であり、日本チームとは到底言えないものであった。日本人ドライバーは同チームから第1期に佐藤琢磨、山本左近がスポット参戦。佐藤が初のファステストラップとポイントを獲得している。ちなみにこのファステストは、フォーミュラE史上最初のファステストラップでもある。
第4シーズンの開幕戦、香港E-Prixでは小林可夢偉がアンドレッティ・フォーミュラEからスポット参戦した。
第8シーズン(2021年~2022年)エントリーリスト
世界選手権2年目となる第8シーズンは、11チームから22名のドライバーが参戦する。
マシン | チーム名 | No | ドライバー | |
---|---|---|---|---|
Audi | エンビジョン・レーシング | 4 | FRI | ロビン・フラインス |
37 | CAS | ニック・キャシディ | ||
BMW | アバランチ・アンドレッティ | 27 | DEN | ジェイク・デニス |
28 | ASK | オリバー・アスキュー | ||
DS | DS・テチーター | 13 | DAC | アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ |
25 | JEV | ジャン=エリック・ベルニュ | ||
Jaguar | ジャガー・TCS・レーシング | 10 | BIR | サム・バード |
9 | EVA | ミッチ・エバンス | ||
Mahindra | マヒンドラ・レーシング | 29 | SIM | アレクサンダー・シムズ |
30 | ROW | オリバー・ローランド | ||
Mercedes | メルセデス・ベンツEQ | 5 | VAN | ストフェル・バンドーン |
17 | DEV | ニック・デ・フリース | ||
ロキット ヴェンチュリー・レーシング |
48 | MOR | エドアルド・モルタラ | |
11 | DIG | ルーカス・ディ・グラッシ | ||
NIO | NIO 333 | 8 | TUR | オリバー・ターベイ |
33 | TIC | ダニエル・ティクトゥム | ||
Nissan | 日産・e.dams | 22 | GUE | マクシミリアン・ギュンター |
23 | BUE | セバスチャン・ブエミ | ||
Penske | ドラゴン・ペンスキー・オートスポーツ | 7 | SET | セルジオ・セッテ・カマラ |
99 | GIO | アントニオ・ジョビナッツィ | ||
Porsche | タグ・ホイヤー・ポルシェ | 36 | LOT | アンドレ・ロッテラー |
99 | WEH | パスカル・ウェーレイン |
その他
- サポートイベントとして、ジャガーのEV、i-PACEによるワンメイクレースが第4シーズンより併催される。そして、派生カテゴリとして、ドライバーの代わりにAIを搭載した全自動EVで争われるロボレースや、テスラ製電気自動車を用いたE-GT選手権の開催が決定している。またフォーミュラEドライバーとゲーマーが、ゲームでレースして賞金を争うイベントが定期的に開催されている。
- 記念すべき第1シーズン王者はネルソン・ピケJr.で、わずか1pt差で王者となった。このとき最終ラップに鬼のようなブロックでブエミを阻止し、意図せずピケJr.の王者獲得をお膳立てしたのは、奇しくも父の亡きライバルの甥であるブルーノ・セナだった。
- 第2シーズンの最終戦、オープニングの第1コーナーでタイトルを争うブエミとディグラッシがクラッシュ。この後ブエミとディグラッシはファステストラップの2ptを取り合い、決勝レース中に2台が予選のごときタイムアタックを行う珍事が発生した。最終的にはブエミがファステストを獲得、王者に輝いた。この反省から、ファステストラップのポイントは翌シーズンから1ptに減らされた。そして、第4シーズンからは決勝レースで10位内に入らなければファステストラップを取ってもポイントが与えられない。
- 第3シーズンは前半はブエミが圧倒的強さを見せたが、ディグラッシも確実にポイントを拾い続けて食い下がった。そして、シーズン終盤、ブエミがWECへの参戦を優先して2レースを欠場。それでも最終二連戦のモントリオール戦開始時にはブエミがリードしていた。しかし、彼が様々なトラブルでノーポイントに終わる一方、ディグラッシは1レース目を優勝し、2レース目も確実に走りきってついに3シーズン目にして初のチャンピオンを手にした。
- 第4シーズンは中国系チームのテチーターが力を付け、シリーズ開始当初から参戦を続けるフランス人ドライバーのジャン・エリック・ベルニュがシーズンをリードした。昨シーズンまでトップを争っていたブエミは低迷し、ディグラッシも不運も重なって勝利をなかなかつかめなかった。結局ベルニュが最終戦を待たずにチャンピオンを決定。これまでの4シーズンすべてチャンピオンの顔が異なるという結果になった。
- 平均速度は遅い上エキゾ―ストノートが無いので嫌う人は多いが、欧米での人気は高い。特にF1を開催できない国や電気自動車に関心のある国での人気はF1並にあるとされる。中でも、1955年のル・マン24時間レースの大事故以来、半世紀以上も国内でのレース開催を禁じてきたスイスのチューリッヒでレースが行われることになったのは特筆すべき出来事である。
そして、上記のようにいまや名だたる自動車メーカーが参戦に名乗りを上げており、にわかにモータースポーツ界のみならず、自動車産業・経済界までも巻き込んだ国際的な注目を集めつつある。 - 2017年現在、日本で地上波でのレース中継は無く、視聴するには、CS放送のJ SPORTSを契約するか、BS日テレで日遅れのダイジェスト放送を視るしか無い。
関連動画
関連項目
外部リンク
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