フクロオオカミとは、かつてオーストラリアなどに生息していた有袋類の一種である。
別名、タスマニアタイガー。
概要
かつてオーストラリア大陸などに広く生息していたと考えられている動物。
しかし、オーストラリアに人類とそれに付き従う犬、ディンゴが進出してくると、その生存競争に敗れてしまい、彼等はオーストラリア全土から消えていった。
そしてフクロオオカミはディンゴの力が及んでいないタスマニア島に生き残る個体群のみになってしまった。
生態
基本的には夜行性の肉食動物である。群れで行動するよりも単独かつがいでの行動が多かった。森林や岩場に生息し、日中は岩陰で過ごしていた。
有袋類だが、袋はあまり発達していなかったようで、袋を使うのは未熟児を生育する時が主だったようだ。
獲物は主にワラビーなど小型のカンガルー類だったと言われている。時には人間の家畜とされている羊も襲うことがあったそうだが、実際言われているほど機会は多くなかったという話もある。
性格は肉食動物のイメージとは違っておとなしめで、犬のようにクンクン鳴いたり、咳き込むように吠えていたという。
絶滅に導いた大量虐殺
さらに時間がたち、大航海時代が訪れるとタスマニア島にもヨーロッパ人たちが押し寄せてきた。
そこを植民地とした入植者達は、羊に襲いかかるフクロオオカミを害獣と考えた。彼等はフクロオオカミを「ハイエナ」と呼び、毛嫌いした。
フクロオオカミは口が耳まで大きく裂けたような形状をしていた。あくびをした時にこの特徴がよくわかるが、この顔立ちはますます入植者達の心象を悪くし、害獣として狩る口実になっていたともいう。
この辺りは今絶滅の危機に瀕しているタスマニアデビルの鳴き声が嫌われ、悪魔に例えられて憎まれた点と同じ傾向にある。
家畜の敵?フクロオオカミ
オーストラリアに入植してきた人々は、そもそも野生動物は全て人類に害をなす者達であると考え、根絶やしにすることに躍起になっていた。
それを奨励一人として、あろうことか著名な鳥類学者ジョン・グールドがいた。
グールドは、オーストラリアにいる野生動物は人間に害を及ぼすからして、滅ぼすべきだと述べた。そして特に嫌っていたのがこのフクロオオカミだった。推奨しているグールド自身も、何か大きな恨みがあったのか、他の民と変わらずフクロオオカミを虐殺したと言われている。
その後グールドは逝去するが、彼の遺したやや過激な思想は、入植者達の背中を少なからず後押しした。
(ちなみにグールドは鳥類学者としては大変優れた功績を遺した人物であることを併記しておく)
家畜の敵としておおいに嫌われていたフクロオオカミだったが、家畜を襲っていたのは実は入植者達が持ち込んだ犬が野犬と化した結果という説もある。
これが事実であれば、フクロオオカミは濡れ衣を着せられ、ただストレス解消のために殺されたという可能性も生まれてくることになる………。だとしたら報われないにも程があるのではないだろうか。
もっともフクロオオカミが家畜を襲い、その味を覚えてしまったことも事実として紹介されていることで、まったくの濡れ衣というわけでもない。ただ、野犬の罪まで被らされた点は哀れとしかいいようがないが…。
政府「おう、俺達も応援してやるからアイツラ根絶やしにしてやれ!」
政府もこの駆除活動を全面的に奨励し、やがては懸賞金をかけてまで、フクロオオカミの抹殺を実施した。
というよりこの頃のオーストラリアにやってきた移民達は野生動物を根絶やしにすることに躍起になっており、家畜など襲うはずもないカンガルーやコアラなどですら数十万単位で殺されていたという。
殺す時は、手っ取り早く動物の水飲み場に毒を投入したり、動物の群れに機関銃を撃ちこんだり、それはもうやりたい放題だったと言われている。
ただでさえ嫌われていたフクロオオカミはこのようにして次々と虐殺された。ただ撃ち殺すだけではなく、入植者達はこのうえ死体をメッタ打ちにして粉砕したり、死体を吊るして見世物のようにしたりしていた。
フクロオオカミを研究するうえで科学的に有効だとされる資料が少ないのは、このためと言われている。
オーストラリア国外からは、こういった異常な虐待思想に対する非難がどんどん強まっていった。
さらに入植者の中からすら、あまりに強烈過ぎる憎悪と、フクロオオカミの哀れな姿を見て気が引けてしまい、自重を促すものもいた。
だが、大衆はそんな声や警告には一切耳を貸さず、フクロオオカミを毎日のように惨殺し続けたという。
懸賞金をかけた1888年から1909年の間に、2184頭ものフクロオオカミが人間によってあの世へ送られた。
嫌われ続け……滅びの時
1930年頃、人に嫌われ続けた野生のフクロオオカミの最後の個体が撃ち殺された。
これでフクロオオカミは本当に根絶やしになったと思われていたが、3年後の1933年に野生の生き残りが発見され、手厚く動物園で保護されることとなった。
この最後の個体は飼育下で安全に3年間生き続けたうえ、幸いにも映像が残っている。下記にそれを記す。
しかし1936年、オーストラリア移民達に嫌われ続けたフクロオオカミの最後の1頭は人の飼育下の中、静かに息を引き取った。こうしてフクロオオカミは本当の絶滅を迎えた。
あれこれ
オオカミ、タイガーなどと言われているが、フクロオオカミはコアラやカンガルーなどと同じく有袋類の仲間である。
しかし、その外見は犬に非常に似ている。だがもちろん、犬とフクロオオカミの共通の先祖をたどっても相当時代を遡らないと見つからない。
これは収斂進化の一例とされることがある。収斂進化を大雑把に解説すると、生態系内で同じような位置になるとその生物の系統に関わらず、似たような形態に進化するというものである。同様の例としてイルカ・シャチとサメを考えてみればよい。これらは哺乳類と魚類という大きく違うカテゴリに分類されていながら、非常に似通った体形をとっている。
オーストラリアはもともと有袋類が隔離された土地だったため、有袋類の中でひとつの生態系が作られた。そのため、捕食者に当たる位置についたフクロオオカミは狼・犬に似た形に収斂進化したと思われる。
実はまだ生きている?再発見の可能性について
絶滅以降、フクロオオカミは人々からの目撃証言が相次いでいる。
大体、絶滅動物の再発見というと、そこから対象動物の生活感を見出だせず、「なんだただのガセネタか」と一笑に付されて終わるのが普通である。
しかしフクロオオカミの場合はそれに酷似した足跡が発見されている。
他にも目撃証言や証拠がぽろぽろ出てはいるのだが、残念なことに一度としてその存在を証明出来る形で発見された例は未だにない。
あれだけ人間に痛めつけられてきたフクロオオカミのことであるからして、人前に姿を晒すことを極端に恐れるようになったのかもしれない。
関連動画
関連項目
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