フサイチコンコルド(Fusaichi Concorde)とは、1993年生まれの競走馬。デビュー3戦目でダービーに勝ち「和製ラムタラ」と呼ばれた名馬である。
馬名の「フサイチ」は言うまでもなく冠名、「コンコルド」の方は超音速旅客機……ではなく、フランス・パリにあるコンコルド広場に由来する(語源はどちらも「調和、協調」を意味するフランス語)。この広場からシャンゼリゼ大通りを歩くと凱旋門に行き当たることから、将来の凱旋門賞制覇を夢見て命名されたと言われる。
概要
父Caerleon(カーリアン)、母*バレークイーン、母父Sadler's Wells(サドラーズウェルズ)という、え? ヨーロッパの馬? というような血統。それもそのはず、この馬は社台が輸入した母*バレークイーンが受胎していた持ち込み馬である。
カーリアンはニジンスキー産駒、サドラーズウェルズはノーザンダンサー産駒なので、本馬はノーザンダンサーの3×3というかなり強い近親配合である。ノーザンダンサーの強いクロスがあるところまで*ラムタラに似ている。
近親配合馬は身体が弱い馬に出ることがままあるのだが、その例に漏れずフサイチコンコルドも身体が弱かった。輸送をすれば肺炎を起こし、発熱する。なんという虚弱体質。肺炎を起こしたことまでラムタラに似ている……。
デビューは遅れに遅れて3歳の1月。これをあっさり勝利して素質の高さを見せ付けるのだが、2勝目は2ヶ月後のすみれステークス。皐月賞はもうすぐといったタイミングであった。こんな体質の弱い馬に無理はさせられないということで小林稔調教師は皐月賞を回避し、ダービートライアルのプリンシパルステークス→東京優駿の青写真を描いた。
ところが虚弱なコンコルドは熱発してしまいプリンシパルステークスに出られなくなった。これではダービーは抽選待ちになってしまうということで、同陣営でコンコルドより賞金が多かったフサイチシンイチの回避まで検討される有様であった。しかしなんとか抽選を通過。輸送後に発熱したりとドタバタしたが、なんとか本番のゲートに入ることが出来た。やれやれである。
ダービーの1番人気はダンスインザダークであった。回避したプリンシパルステークスの勝ち馬であり、*サンデーサイレンス産駒2年目の総大将である。同馬の鞍上は初のダービー制覇がかかる武豊騎手で、ダンスインザダークにもタヤスツヨシに次ぐ*サンデーサイレンス産駒のダービー連覇という記録がかかっていた。実力的には頭一つ抜けているという評価であり、既に人気実力共にNo.1であった武騎手にダービージョッキーの栄冠が齎される事はほぼ間違い無いと見られていた。
対するフサイチコンコルドは7番人気。なにしろ無敗と言えば聞こえだけは良いがキャリアはたった2戦である。これでは実力云々以前に「なんだこいつ?」と言われちゃう位知名度が無かったのも無理は無い。関西の秘密兵器などと言われたのもそこまで広まっちゃいなかった。
そして発走。サクラスピードオーが逃げ、ダンスインザダークは絶好の位置を占める。フサイチコンコルドは後ろ目だったが、馬群は詰まっていてどこからも来れる展開。
直線入り口で、ダンスインザダークがあっさりと抜け出す。正直、ダンスインザダークのレースぶりは如何にも1番人気という堂々としたもので、武騎手がこのレースにどれほどの自信を持っていたかが伺える。
しかし、その背後にぴったりと付いて来る薄い鹿毛。あれ? なんだあの馬?
直線力強く脚を伸ばすダンスインザダーク。武騎手はもう「勝った!」と思っただろう。しかし、1頭なんか計算外の奴がいる。全然脚色が違う。「いやいや、こいつ誰よ!」ファンがそう思ったその時、フジテレビの実況・三宅正治アナウンサーが絶叫。
そう。フサイチコンコルドはダンスインザダークを並ぶ間も無く交わすと、そのままゴールに飛び込んだのだった。きっと武騎手も愕然としたと思うが、ダンス軸でコンコルドの絡まない馬券を握り締めていたファンも「え~? なんですか? 誰なんですか?」といった感じで唖然呆然。あわてて競馬新聞を見返して、どえらく短い馬柱を確認して更に驚いたりした。
デビュー3戦でのダービー制覇は1943年のクリフジ以来ということで戦後では初。その戦績から、英ダービーをデビュー2戦目で制覇した*ラムタラになぞらえ、コンコルドは「和製ラムタラ」と呼ばれたのだった。
鞍上の藤田伸二騎手は武豊騎手に先んじて、史上3番目の若さでダービージョッキーの仲間入り。ちなみに武豊騎手がダービーを制覇するまでには更に2年を待たなければならなかった。
フサイチコンコルドはその後、菊花賞を目指すのだが、なにしろ体質が弱いのが直らず、秋初戦はカシオペアステークスになってしまう。しかも単勝1.3倍の支持を受け、藤田騎手も「回ってくれば勝てる」と思って臨んだこのレースで、当時はバリバリの新鋭であった福永祐一騎手が駆る*ムーンマッドネス産駒(!)メジロスズマルに5馬身差で逃げ切られて2着に敗れ、デビューからの連勝はストップ。
それでもなんとか菊花賞には出走。直線で最内から抜け出し、おお、流石は! と思った瞬間、ダービーとは逆の展開でダンスインザダークの鬼脚に差し切られ、ついでにロイヤルタッチにも抜かれて3着。
結局、脚部不安に悩まされてこれが最後のレースとなり、翌年秋に正式に引退。通算5戦3勝2着1回という戦績に終わった。ファンからすればなんだか、あっという間にやってきてダービーを獲り、良く分からないまま引退してしまったような感じがしたものである。
前髪がいわゆる姫カットになっており(牡だが)見た目からしても如何にも「お坊ちゃま」な馬であった。ダービーの時の末脚は凄まじい切れ味を見せており、菊花賞でも好走したようにスタミナもある。まだまだ奥がありそうな馬だったので、もっともっとレースを見たかった。ほぼ同時にダンスインザダークも引退してしまったせいで、どうもこの世代の印象は薄い。
種牡馬入りしてからはダートで活躍したブルーコンコルドやバランスオブゲーム、オースミハルカといった中堅級の実力馬を出しており、そこそこ成功していたが、やはり芝GI戦線で活躍馬が出なかったのが響いたか、2011年を最後にシンジケート解散となった。だから和製ラムタラは不吉な名前だとあれほど。ブルードメアサイアーとしてNHKマイルカップに勝ったジョーカプチーノを出しているので、これからはそっちに期待である。
漫画家のゆうきまさみ氏が社台ファームに取材に行った時「来年のダービー候補でカーリアンの良い奴がいる。多分、フサイチなんとかという名前で出てくると思う」と聞いていて、それをダービーのゴール前で思い出した、というエピソードがあるそうだ(もちろん買っていなかった)。当初からそれくらい期待されていたのだろう。返す返すも体質の弱さが残念だ。
馬主の関口房朗氏はこの馬のダービー制覇で味を占めたのか、とんでもなく高い馬を買いまくり、ケンタッキーダービーをフサイチペガサスで勝つなど、バブリーな名物馬主として長きにわたり話題をさらったが、最近は生きているかも定かではない。結構、競馬界のことを考えてくれる馬主だったのだが。
種牡馬シンジケート解散後は青森県の牧場で少数の牝馬に種付けを行いながら功労馬としてのんびりと過ごしていたが、2014年9月8日に亡くなった。2日前の放牧中に左後脚を骨折、自力で起き上がれなくなったという。
血統表
Caerleon 1980 鹿毛 |
Nijinsky II 1967 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Flaming Page | Bull Page | ||
Flaring Top | |||
Foreseer 1969 黒鹿毛 |
Round Table | Princequillo | |
Knights Daughter | |||
Regal Gleam | Hail to Reason | ||
Miz Carol | |||
*バレークイーン Ballet Queen 1988 鹿毛 FNo.1-l |
Sadler's Wells 1981 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Fairy Bridge | Bold Reason | ||
Special | |||
Sun Princess 1980 鹿毛 |
*イングリッシュプリンス English Prince |
Petingo | |
English Miss | |||
Sunny Valley | Val de Loir | ||
Sunland | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 3×3(25.00%)、Hail to Reason 4×5(9.38%)
- 半妹グレースアドマイヤの産駒にリンカーン(GII3勝)やヴィクトリー(皐月賞)、孫にアドミラブル(青葉賞)やアリストテレス(AJCC)。
- 半弟に種牡馬としてカンパニーを出したミラクルアドマイヤ、京成杯を勝ったボーンキング、皐月賞馬アンライバルド。
- 祖母Sun Princess(サンプリンセス)は英オークスとセントレジャーの勝ち馬。
主な産駒
- バランスオブゲーム (1999年産 牡 母 ホールオブフェーム 母父 *アレミロード)
- オースミハルカ (2000年産 牝 母 ホッコーオウカ 母父 *リンドシェーバー)
- ブルーコンコルド (2000年産 牡 母 エビスファミリー 母父 *ブライアンズタイム)
- モエレジーニアス (2003年産 牡 母 *シャルナ 母父 Darshaan)
- ディラクエ (2005年産 牡 母 エミスフェール 母父 *ホワイトマズル)
- カネマサコンコルド (2008年産 牡 母 ブルーフレア 母父 フジキセキ)
関連動画
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
- 2
- 0pt