フトアゴヒゲトカゲとは、トカゲの一種である。
概要
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学名 Pogona vitticeps
分布 オーストラリア
全長 約40~50cm
食性 雑食(昆虫、小動物、果実、野菜、花など)
アガマ科アゴヒゲトカゲ属に分類されるトカゲで、昼行性。太く扁平な体型をしており、下顎にはその名の通りアゴヒゲ状の鱗房を持つ。また、後頭部や体側部に棘状鱗が一列に並ぶ。
オーストラリアの内陸部に分布し、乾燥した平地から森林地帯まで幅広い環境に生息している。社会性のあるトカゲであり、成熟したオスは縄張りを持ち、複数のメスを従えハーレムを形成する。ただし、社会性のある一方で個体間への干渉は強く、オス同士は激しく縄張り争いを行う。
飼育や繁殖が容易で、大きさも手頃であり、性質も物怖じしないので、極めてペットに向いたトカゲと言われる。事実、オーストラリア原産でありながら繁殖個体が大量に流通しており、日本国内においても安価で入手が可能である。また、ペットシーンにおいては、多彩なカラーバリエーションが品種として固定されている。
モルフ(カラーバリエーション)
レッド
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フトアゴヒゲトカゲ(以下フトアゴ)では最も人気の高いモルフのひとつである。赤というよりはオレンジの個体も多い。赤みが強いものほど高価。
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↑メラニン色素が減少する「ハイポメラニスティック」と交配させた「ハイポレッド」。ハイポが入ることで、レッド特有の血が滲んだようなどす黒い赤がライトになっている。
通常のレッドは体調がよい時やバスキング(日光浴)している時に美しく発色するが、逆にいえば色味が個体の気分に左右されるということでもある。しかしハイポだといつも明るめの発色を見せてくれる。これはレッド以外のモルフでも同様である。「最強に美しい発色が見られることもあるnotハイポ」か、「常に平均をマークできるハイポ」、あなたの好みはどっち?
イエロー
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↑イエローハイポ。モルフを問わずフトアゴは興奮すると顎の下が黒く染まる。アゴヒゲトカゲの名の由来である。
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ちなみに、イエローに限らずフトアゴはヘテロの形質を割と発現させることが多い。ハイポではないのに体色が明るい個体はヘテロハイポの可能性がある。
ノーマル
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フトアゴ本来の体色。野生のフトアゴがこの色である。クラシックとも。
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ハイカラ―
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ブリーダーたちは、たとえばレッドなら赤みの強い個体同士を交配させ、より赤い個体を作ろうとする。だが生まれてくるベビーたちのほとんどはせいぜい「ノーマルに多少カラーが入った程度」でしかない。それらはひとまとめに「ハイカラー」として販売される。そういう生い立ちの個体の総称なので、親のモルフによってレッド系だったりイエロー系だったり、ハイポが入っていたりトランスヘテロだったりと入荷ごとに表現がまちまち。
語弊を恐れずにいえば、ブリーダーからすればハズレの個体たちなので、かなりお値打ち価格で手に入る。それでいてけっこう綺麗な個体もいたりするのであなどれない。
ハイポメラニスティック
通称ハイポ。メラニン色素が減退する突然変異。ハイポの血が入ると体色が明るくなるほか、本来は黒い爪が透明、または黒い筋だけが残る。そのためクリアネイルとも呼ぶ。
明度が上がることから「パステル」と呼ばれることも。モルフ名に「パステル〇〇」とあったらハイポが入っていることが多い。
ベースのカラーを明るくするという性質上、ハイポレッドやハイポイエローなど、ほかのモルフとの組み合わせでしか発現しない。だからレッドやイエローと違ってハイポだけの個体は存在しない。では色がノーマルの個体でハイポが入っていたら、そのフトアゴのモルフ名は? そう、答えは「ノーマルハイポ」である。
トランスルーセント
「半透明」の名の通り、鱗と皮膚がやや透けているモルフ。とくにベビーは内臓が透けて見える。
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↑ハイポゼロトランスのベビー。背中にうっすら浮かぶ黒い影が内臓である。
爪が透明になるほか、黒目になるのも特徴。ハイポと同様、ほかのモルフとの組み合わせでのみ発現する。
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↑イエロー×トランスのイエロートランス。透明感のあるすっきりした色合いが美しい。
レザーバック
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フトアゴの特徴でもある棘が少ない突然変異。背中がきめの細かい砂のようになめらか。
賢明な読者諸兄におかれてはすでにお察しのことと思うが、レザーバックもまたハイポ、トランスと同じく、ほかのモルフとの組み合わせで発現する形質である。
シルクバック
レザーバック同士の交配で生まれるモルフ。鱗がないので触り心地がモチモチ、たぷたぷ。まさにシルクのような肌触り。トカゲというよりヤモリに近い印象になる。
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応用
フトアゴのモルフは各種の突然変異の組み合わせである。基本は「色+(ハイポ?)+(トランス?)+(レザーバックorシルクバック?)」。一例をあげると……
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「イエロー+ハイポ+レザーバック」だとイエローハイポレザーバック↓
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こんなモルフも
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かわいい仕草あれこれ
ボビング
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頭を激しく上下に振る行動。アダルトのオスに多く見られる。メスへの求愛や縄張りの主張と考えられている。
アームウェービング
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前肢をゆっくり回す。同種の他個体に対して自分が仲間であることをアピールしたり、オスのボビングに対してメスがアームウェービングでOKサインを出しているといわれている。
口を開けてボーッ
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バスキング中のフトアゴが口を開けてボーッとしていることがよくある。暖かい空気を肺に取り込んで効率よく体温を上げようとしているのである。バスキングスポットで口を開けているのは温度設定が正しいことを示す一つの目安となる。
逆に、クールスポットでも口を開けている場合、過剰な体温を口から排熱しようとしているので、ケージ内が暑すぎる可能性がある。
あざとい
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飼う前に
インターネットで「フトアゴ 飼育」と検索してヒットするサイトでは、判で捺したように「フトアゴは飼育が簡単」と書かれてある。しかし、本来その文言には「爬虫類としては」の前置きが必要である。
フトアゴは丈夫で、大きくなりすぎず、性格も温和で、餌も入手性の高いものでまかなえるため、たしかにワニやコモドオオトカゲよりは飼育が容易である。とはいえもともとはオーストラリアの砂漠地帯という特殊な環境で適応進化してきた異国の動物であり、それを気候風土のまったく異なる日本で飼育するとなると、飼育者には相応の準備と投資と覚悟が要求される。思うように餌付いてくれない場合もあるだろう。たとえ適切に飼育していても病気にかかることはある。爬虫類を診察できる病院はまだまだ少ないため通院させるとなると交通費はかさむであろうし、診察代自体も高額になりがちである。ペット飼育とは金と時間をいくらでもつぎこめる好奇者に許された道楽であることをまず心得て、それでもフトアゴを飼育したいなら、できるかぎり良質な環境を用意して、天寿を全うさせてあげよう。
フトアゴの寿命はおよそ10年程度といわれている。ただし死ぬ直前まで元気というわけではない。晩年は自力で餌も食べられず、だんだん弱って骨が浮き出るほどやせ細り、手足が壊死し、苦しみながら死に近づいていく姿を見せつけられることになるだろう。それでも最期まで愛情をもって飼育できるかどうか、フトアゴを家に迎える前にもう一度問い直していただきたい。買えば後戻りはできないのだ。
飼いかた
フトアゴは最大50㎝ほどになり、活動的な上、暖かい場所と涼しい場所を用意してやらねばならないので、そこそこ大きいケージが必要になる。終生飼育には幅90㎝クラスのケージが望ましい。飼うのであればあらかじめ90㎝ケージの置き場所のメドはつけておこう。
飼育に必要なものは、①ケージ、②保温球、③バスキングライト、④バスキングストーン、⑤パネルヒーター、⑥紫外線ライト、⑦タイマーサーモ、⑧温湿度計、⑨床材、⑩水容器、⑪餌。ひとつずつ見ていこう。
ケージ
爬虫類用のケージはもちろんのこと、熱帯魚用の水槽、衣装ケースなども利用できる。とはいえ爬虫類用ケージがやはり無難。
というのは、フトアゴのような地べたを這う爬虫類は、上から覗かれることを非常に嫌うからである。野生下での彼らの天敵である鳥類や肉食獣は上方から襲ってくる。そのためフトアゴは頭上で動くものに対する恐怖心が強いのだ。水槽にせよ衣装ケースにせよ、世話をするときはケージの上から手を突っこむことになるわけで、これが個体を脅えさせてしまう可能性がある。
爬虫類用ケージは、前面にスライドドア(観音開きタイプもある)があるので、個体の目線で世話をすることができる。脱走を防ぐ金網つきの蓋、保温器具などのコードを外に出すための穴も完備されており、あえて爬虫類用ケージを選択肢から外す必要性は感じられない。
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↑前面ガラスが観音開きになっており、メンテナンス時はこれを開けて作業する。
また、ケージを床、または床に近い低所に置くと、やはりフトアゴが人影でストレスを感じることがある。できるならケージは人間が立ったときの目線くらいの高さに設置したい。
保温球
ケージ全体を保温する器具。全体保温球とも。「球」とあるが電球タイプだけでなく暖突(みどり商会から販売されている薄型ヒーター。わかりやすくいうとケージ全体をコタツにする)もこれに含む。ケージ内のいちばん涼しい部分(クールスポット)が日中で27℃を割らないようにセットしよう。
全体保温球として使えるのは、暖突のほか、ナイトグロームーンライトランプ、カーボンヒーターなど。夜間も稼働させるため、フトアゴの睡眠を妨げないよう、加温時に光を発しないものが適している。なお夜間は26℃程度まで設定温度を下げる。さすがのフトアゴも暑いと熟睡できないためである。
バスキングライト
局所保温球ともいう。まぶしい光と高熱をピンポイントに照射する。バスキングは日光浴の意。
変温動物であるフトアゴは、体温を上げるために日光浴をする必要がある。ケージ内で日光を再現するのがバスキングライトである。これで局所的に温める場所をバスキングスポットという。フトアゴの1日はバスキングスポットで体を温めることから始まる。
バスキングライトは各社から販売されている。環境によって適したW数は異なるが、60㎝ケージなら50W、90㎝ケージなら80~100Wが標準となる。バスキングスポットが日中35℃~40℃になるよう設置する。
イメージ的には、全体保温球でケージ内全体の温度を底上げして、バスキングライトでバスキングスポットを加温する感じである。
勘違いされやすいが、爬虫類は暖かければ暖かいほどいいというわけではない。フトアゴは致死温度ぎりぎりまで日光浴で体温を上げては涼しい場所に移動して冷却するのを繰り返して好適な体温を維持している。だから涼しい場所(クールスポット)は暖かい場所(バスキングスポット)とおなじくらい大切である。
そのため、バスキングスポットはケージの端っこに設定し、そこから離れれば離れるほど温度が下がる、温度勾配のある環境を作る。おさらいすると、日中のバスキングスポットは35℃~40℃、反対側のクールスポットは27℃程度になるようケージとヒーター類をセットする、ということである。
ところが、ケージが小さいとバスキングライトの熱量がクールスポットにも及んでしまい、ケージ全体が暑くなりすぎてしまうことがある。ケージの項目で90㎝クラスがいいと書いた理由のひとつがこれである。
バスキングライトはクリップソケットに装着して使用するものがほとんど。クリップソケットは爬虫類用の商品を選ぶ。ライトはソケットの消費電力(W数)以下のものにすること。
なおバスキングライトはある日突然切れるので、常に予備を用意しておいたほうが安心。
バスキングストーン
フトアゴは背中からバスキングライトを浴びるだけでなく、腹からも温めないと消化器官が活発に動かず、消化不良や食欲不振を引き起こす。そこで保温性に優れたバスキングストーンを置いてやると、背中はバスキングライトで、お腹はバスキングストーンで、それぞれ効率よく温めることができるようになる。
バスキングストーンといってもそんな大仰なものではなく、レンガや溶岩石プレートなど、保温力があって生体に悪影響がない素材ならなんでもよい。爬虫類用のシェルターはたいていバスキングストーンに使える。
パネルヒーター
ケージの下に敷くヒーター。バスキングライトを消す夜間にフトアゴのお腹が冷えすぎないためにも必要。バスキングストーンを下から温めるように設置する。
紫外線ライト
フトアゴにとって紫外線は必要不可欠な要素である。紫外線なくしてフトアゴを飼育することはできない。
紫外線は便宜上、波長ごとにUVA、UVB、UVCに分けられている。
効能 | |
UVA | 食欲増進、新陳代謝および脱皮の促進、繁殖の誘発 |
UVB | ビタミンD3の生成に必要 |
UVC | 生物に有害。殺菌灯に使われることも。 |
UVAはフトアゴを元気にする波長で、これを照射できると謳うバスキングライトも多い。
もっとも重要な波長がUVBである。フトアゴはUVBを浴びることでビタミンD3を生成する。ビタミンD3はカルシウムを吸収するために必要な誘導体である。UVBが不足しているとビタミンD3が生成できず、いくらカルシウムの豊富な食物を摂取していても吸収できないため、血中のカルシウムが足りなくなり、それを補うために骨からカルシウムが溶けだしてしまう。この代謝性骨疾患(クル病)こそ、飼育下のフトアゴにもっとも多く見受けられる疾病である。クル病は重症になると歩こうとしただけで手足が骨折してしまう恐ろしい病気である。
よってフトアゴ飼育に紫外線ライトは必須である。とくにUVBの照射量に注目して選ぼう。生存に必要な栄養素を獲得する手段であることを踏まえれば、フトアゴにとってUVBは欠くべからざる餌のひとつであるともいえる。「紫外線ライトなし、日光浴もなしでフトアゴが飼えますか?」という質問は、「餌なしでフトアゴが飼えますか?」と訊いているのと同じである。
市販の爬虫類用サプリメントにはビタミンD3が配合されている商品もあるが、ある論文によると、ビタミンD3を含むサプリメントを経口摂取したフトアゴは、紫外線ライトを20分間浴びたフトアゴに比べ、ビタミンD3の血中濃度が1/18程度しかなかったという。あまりサプリメントを過信するのは危険であろう。
UVBは透過力が低く、紫外線ライト程度の照射量ではガラス一枚で遮断される上、空気中でも減衰が激しい。商品によっては「ライトから20㎝の距離で晴れの日向にちょっと負けるくらい、30㎝で曇りの日以下、40㎝になるとほぼ届かない」ものもある。というかUVBは目の細かい金網でも50%ほどカットされてしまう。灯具をケージ上部に置く場合は間にガラス蓋などは挟まないようにしよう。
紫外線ライトは大半の商品が蛍光灯だが、そのなかでも直管型とコンパクト型に大別される。直管型は、いわゆる普通の蛍光灯と同じ棒状で、照射距離はやや短い一方、照射範囲が広いので、ケージ全体に満遍なく紫外線を行き渡らせることができる。コンパクト型は、バスキングライトと同様にクリップソケットに装着して使うもので、ケージ内部に設置できるので金網や距離による減衰が少なくてすむ。ただし照射範囲は直管型より狭いことと、生体に近すぎてフトアゴが雪目になってしまうことがある点に注意。
UVCは細胞内のDNAを破壊するほどエネルギーが強く、透過力も高い。生物にとっては百害あって一利なしである。爬虫類用の紫外線ライトはUVCをカットしているので心配しなくてよい。
紫外線ライトと兼用のバスキングライトもある。これひとつでバスキングも紫外線照射もできるのでケージ周りがすっきりする。ただし純粋なバスキングライトに比べると熱量が不足しがち。かといって生体に近付けすぎると紫外線が強力すぎて悪影響を及ぼしてしまう。兼用タイプを使用する場合は、生体と適切な距離をあけ、バスキングスポットの温度が上がりきらないなら別途ヒーターで補助する。全体保温球を兼用ライト付近に設置すればうまくいくはずである。
なお、紫外線ライトは劣化が早い。蛍光灯タイプは半年、兼用タイプは1年を目安に交換したい。ライトが点灯しているように見えても、そもそも紫外線は人間の目には見えないので、目視確認で判断はできない。実際にはもう紫外線がほとんど照射できていないのに、まだ点いているからとライトを使い続け、それが原因で生体がクル病になったという話は少なくない。ライトの基部にでも使用を始めた日付を書いておくか、スマホやPCにメモしておく、あるいは紙切れにメモしてケージに貼っておくなどしておこう。
タイマーサーモ
タイマーとサーモスタットが一体になったアイテムである。フトアゴの健康は規則正しい生活と適切な温度管理が支柱となる。バスキングライトと紫外線ライト、全体保温球はタイマーサーモに接続して使用する。任意の時間にライトを点灯・消灯してくれるほか、設定した温度を割りそうになると自動でヒーターに通電する。
また、消灯時間帯(夜)は、点灯時間帯(昼)とは別個に温度を設定できる。夜は温度を下げて生体をしっかり休ませることも可能。
やや高価だがもっていると飼育が格段に楽になる。接続するライトとヒーターの合計電力が、タイマーサーモの消費電力をオーバーしないよう注意。
ちなみにパネルヒーターはそれ自体にサーモが備わっているのでタイマーサーモには接続しない。
温度計・湿度計
「爬虫類を飼うことは、温度を飼うこと」とよくいわれる。フトアゴも例外ではない。温度管理が不適切だとフトアゴはたちまち元気を失い、餌も食べず、衰弱して最悪の場合は死亡する。
初めてフトアゴを飼うなら、温度計はバスキングスポット、クールスポット、その中間、計3個あると安心である。
また湿度も重要で、砂漠の生き物といえど乾燥しすぎると脱皮不全や脱水症状を誘発する。湿度は40~60%程度を保ちたい。現状の湿度を知るためにも湿度計は必要である。湿度計はバスキングスポットとクールスポットの2つでよいだろう。
アナログ、デジタルともに温度と湿度の両方を計測できる商品もある。デジタル式のほうが正確である。
床材
ケージの底面はガラスでつるつるしているので、フトアゴが踏ん張れず、肢が変形するなど弊害をもたらす。なにかしら床材を敷いて爪をしっかり立てられるようにしてあげよう。
床材にはいくつか選択肢がある。それぞれにメリット・デメリットが存在する。
メリット | デメリット | |
ペットシーツ | とにかく安価。交換が容易で衛生的。誤飲の心配もない | 雰囲気がゼロ |
砂漠の砂 | 現地を切り取ったような雰囲気が演出できる | 埃が立つ。スライドガラスのレールに詰まる。誤飲の恐れ |
クルミ殻 | 雰囲気はある。誤飲しても消化されるか、排泄しやすい | 埃が立つ。スライドガラスのレールに詰まる |
ヤシガラ | 雰囲気はある。大きいので誤飲もしにくい | 排泄物が見つけにくい。ダニなど虫がわくことも |
ベビー期はペットシーツ一択である。体が小さいため砂系はクルミ殻であっても誤飲して消化管を詰まらせるおそれがある。もちろんアダルトにもペットシーツは有用。
水容器
フトアゴは脱水に弱い。ベビーだとたった1日水分が摂取できないだけで死ぬことすらある。
砂漠は一滴の水もなくカラカラに乾燥しているというイメージがあるかもしれないが、地方によっては朝霧がたちこめることもあるし、にわか雨でオアシスができたり、サボテンの果肉を食べて水分が摂れたり、意外にも水源に恵まれていたりする。
慢性的な脱水は腎機能の低下を招き、早死にの原因となる。またケージ内の空気にある程度の湿度も必要なので、加湿器も兼ねて、100円ショップのタッパーでいいので水を入れてクールスポットに置いておこう。ただしフトアゴは止水を認識できない個体がほとんどである。水容器から水を飲んでくれない場合は、スポイトや洗浄瓶などでフトアゴの口先に水を垂らしてやる。すぐにペロペロと舐め始めるはず。1日1回は給水してあげよう。給水してやる場合も、もしかしたら飼育者が見ていないところで飲んでいるかもしれないので、水容器は設置を続け、水は毎日替えてあげたい。
餌
フトアゴ飼育最大の楽しみといっても過言ではない餌やり。与えた餌をバクバク食べてくれるとこちらも嬉しくなるものである。一方で、フトアゴは与えられる食物しか口にできないため、メニューと量には気を配る。
フトアゴは雑食性だが、ベビー~サブアダルトは昆虫食が強く、アダルトからは植物質が主食となる。成長ステージに合わせた餌が必要となる。
昆虫
フトアゴの主食のひとつが昆虫である。コオロギ、ゴキブリ(デュビアやレッドローチ)、ミルワーム、ハニーワーム、シルクワーム、アメリカミズアブの幼虫あたりが餌用として多く流通しており、栄養面・コスト面で使いやすい。
コオロギ
ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ(クロコオロギ)がポピュラー。フタホシはイエコオロギより全滅しやすいが、成虫のサイズが大きいのでアダルトには食べ甲斐があるかも。
両者とも栄養のバランスがよく、とくにタンパク質が豊富でアミノ酸のバランスも相当優秀なので、成長を促したいベビー期の主食にも申し分ない。雑食で貪欲なためキープとガットローディングもしやすい。繁殖も比較的容易なので種親を買ったあとは自給自足も可能。ただし世話をさぼると数日で全滅する。またニオイもきつい。飼育はフトアゴよりも手がかかるだろう。
生きたもののほか、乾燥させたものや冷凍、粉末状などが販売されている。乾燥および冷凍タイプは生きたコオロギを切らしたときの非常食としても使える。パウダーは野菜にふりかけて餌付けに。
野外で捕まえたコオロギは農薬や寄生虫に汚染されているかもしれないので、フトアゴには与えないほうが吉。
コオロギに限ったことではないが、昆虫は基本的にカルシウムよりリンのほうが多い。リンは、爬虫類の体内ではカルシウムと結びついてリン酸カルシウムになり、腸内を素通りしてしまう。つまりいくらカルシウムを摂取しても、リンが同量以上含まれていると爬虫類はカルシウムをまったく吸収できないのだ。よってフトアゴに与える餌は常にカルシウムがリンを上回るよう意識する。具体的には、コオロギにカルシウム分の豊富な餌を与える(ガットローディング)、フトアゴに与える際はコオロギにカルシウムのサプリメントをふりかける(ダスティング)。とくにダスティングは昆虫類には必須。
リンも爬虫類の骨格を形成する重要な栄養素ではあるのだが、いかんせん飼育下では容易に過剰になりやすい。とにかくケージ内ではカルシウムが不足しがちなので、いかにカルシウムを補給させるかを考えたほうがよい。
ゴキブリ
デュビア、レッドローチが餌用ゴキブリとして流通している。どちらもコオロギ同様に栄養のバランスが高水準にまとまっており、タンパク質が豊富で主タンパク源としてじゅうぶん使える。デュビアは低脂質で各種ミネラルやアミノ酸に秀で、レッドローチはやや脂肪分が多め。
とにかく飼育が容易で、ウサギ用のペレットフード、野菜クズ、昆虫用ゼリーで自家繁殖させられる。ニオイもコオロギに比べると少なく、ジャンプもしない。壁も登らず、共食いもほぼしない点も嬉しい。ゴキブリであるという厳然たる事実を除けば餌用昆虫としてはコオロギの上位互換といってさしつかえない。
もちろんカルシウムよりリン分のほうが圧倒的に多いので、ダスティングは不可欠。
なお、家内に出没するゴキブリは、なにを食べているかわかったものではないので、フトアゴには与えないほうがよい。
ミルワーム
チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫が「ミルワーム」、ツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫が「ジャイアントミルワーム」として販売されている。
どちらもタンパク質と脂肪分が豊富で、消化率はコオロギやゴキブリより高い。単価の安さ、キープのしやすさもあいまってメインのタンパク源として有用である。ただし外気温が低いときは体内の脂肪分も冷えて固まっているので消化が悪くなる。触って冷たかったら温めてから与えよう。
カルシウムよりリンが多い点はほかの昆虫と変わらないので、必ずダスティングすること。
餌兼用のふすまで飼育し、野菜クズ(とくに葉物)でキープする。ジャイアントミルワームは単独飼育しないかぎりは蛹化しない。近くに仲間がいる状態で蛹になると食われるからだろう。ゆえに複数飼育しているうちは幼虫のまま使える。蛹や成虫は消化率が低いので餌には使わないほうがよい。
ジャイアントミルワームは凶暴で顎の力も強い。逃げ隠れした個体が夜間にフトアゴを攻撃する可能性もあるので、与える際はケージ内にばらまくのではなく、ピンセットで1匹1匹与える。
ハニーワーム
ハチノスツヅリガの幼虫。ミツバチの巣に寄生する蛾の幼虫で、巣を食害して成長する。蜜蝋を食べていることから英名はワックスワーム。
蜂蜜の染みついた巣を食べている甘党だけあって、脂肪分のかたまり。超ハイカロリーのエネルギー食であり、拒食や病み上がり、および産後で痩せている個体の立ち上げに特別に使うものであって、常食させてよい代物ではない。いわばラーメン次郎である。
シルクワーム
いわゆるカイコガの幼虫。桑の葉を原料にした人工飼料で飼育できるためキープは容易。ただし餌を切らせると簡単に死ぬ。
ほかの昆虫が体重比で水分が70%ほどであるのに対し、シルクワームは80%ほどが水分である。つまりイモムシの形をした水と考えたほうがよい。反面、タンパク質と脂質は非常に少ないので、主食に使った場合、とてつもない数を食べさせない限り、成長不良ならびに栄養失調を引き起こす。あくまで水を飲まないフトアゴの脱水防止に使うにとどめよう。腸内の食餌由来でカルシウムなどのミネラルは多いが、どのみちダスティングは必要である。
なお、フトアゴに与えるときは頭からでなく、尻から与える。頭から与えると、フトアゴがガブッと咥えた圧力でシルクワームの尻から内臓が噴射されることがある。あまり気持ちのいいものではない。
アメリカミズアブの幼虫
フェニックスワーム、ブラックソルジャーフライラーヴァの名でも流通する。グラブパイなど爬虫類の人工飼料の主原料として有名。
昆虫としては例外的に外殻にカルシウムを沈着させるので、リンよりカルシウムのほうが圧倒的に多い。ただしそのぶん外殻が固く消化が悪いので与えすぎには注意。
番外編・セミ
夏になると野外で採集したセミもいいおやつになる。ただし寄生虫が心配なので、一晩冷凍させるとよい。口吻が鋭いので切除してやる。
セミに限らず、自家採集した餌をペットに与える際は、農薬や排気ガスなど有毒物質による汚染は否定できないので、自己責任でお願いしたい。
植物質
市販の野菜が餌として使える。ただし、与えてはいけない野菜もある。
メインとして与えてよいもの
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↑小松菜を食べるフトアゴ。小さいうちから野菜に慣らしておくとアダルト期に植物質中心の食生活へスムースに移行できる。
少量にとどめておいたほうがよいもの
与えてはいけないもの
ほか、刺激の強いものや、シュウ酸が多く含まれているものは与えないほうがよい。
果物
市販の果物は、人間が食べて「甘い! おいしい!」と感じるほど糖度が高く品種改良されているので、栄養の吸収に特化した爬虫類には糖分が高すぎる。与えるにしても月に1~2度、それも少量にとどめておいたほうがいいだろう。
野草
タンポポ、エノコログサ、オオバコ、ハルジオン、ホトケノザ、カラスノエンドウなど。
自家採集するなら、私有地に勝手に侵入しないことと、農薬や犬猫の糞尿で汚染されている可能性を踏まえること。爬虫類の餌用に乾燥した野草が販売されているので、そちらを利用したほうがいいかも。
人工飼料
爬虫類用の人工飼料は、安上がり、高栄養価、保存も簡単と三拍子そろっていて使い勝手がよい。しかも糞のニオイも抑えられるものが多い。ただし消化が非常に良いので腹持ちが悪く、昆虫や野菜を与えたときに比べると次の餌を要求するスパンが短い傾向にある。食べるだけ与えると肥満になってしまうので飼育者側が注意する。ペレットフード、ゲルタイプ、粉末タイプ(適量の湯で溶いてゲル状にする)などがある。
原料に昆虫が含まれている人工飼料は、高タンパク、高カロリーなので、アダルト以降の個体に与える場合は全体の給餌量の3割以内に抑えるようにしたい。
与えかた
フトアゴは成長に伴って与えるべき餌と量が変化していく。ベビー期は昆虫メイン、サブアダルトは昆虫と植物質を半々、アダルト以降は植物質メインにする。
メニュー | 給餌の頻度 | |
ベビー |
食べてくれる餌を食べるだけ与える。 |
毎日。 できれば朝夕の2回 |
サブアダルト | ||
アダルト |
2~3日に1度 |
フトアゴは若いうちのほうが学習能力が高く、サブアダルトあたりまでに野菜を「食べられるものだ」と刷り込んでおかないと、アダルトになって野菜を食べ物だと認識しない頑固な偏食家に育ってしまう可能性がある。
とはいえ、ベビー期はとにかくタンパク質を摂取して体をしっかり作っていかなければならない時期。野菜を食べないベビーに餌抜きまでして野菜に餌付けさせる必要はない。
もちろん、ベビーが野菜を食べてくれるならそれに越したことはない。野菜を最初に与え、食べなくなったら動物質メインの人工飼料、それから昆虫を与えるとバランスよく栄養を摂れる。
餌を食べない?
フトアゴが餌を食べない理由は大きくわけて4つ。
1の「餌が好みでない」場合は、食べてくれる餌を模索する。野菜は食べないが昆虫は食べてくれるかもしれない。イエコオロギは食べないがミルワームは食べてくれるかもしれない。いま与えている人工飼料は食べないが別のメーカーの人工飼料なら食べるかもしれない。
2の脱水症状もありがち。脱水気味だとフトアゴは食欲が落ちる。温浴や給水で水を飲ませてみよう。ごくごく飲んでいるようなら脱水していた証である。
3の「お腹が空いていない」場合、さらに理由が二通り考えられる。満腹か、環境が不適切で食欲がわかない、である。
前者なら問題ないが、後者は改善してやる必要がある。ケージ内の温度が上がりきっていない、バスキングスポットでも寒い、光や音などのストレス要因の多い場所にケージを置いている、UVAが足りていない、などなど……。飼育環境を今一度見つめ直してみよう。
最悪なのが4である。環境に問題がないのに何日も餌を食べないなら、フトアゴを診察できる獣医に診てもらったほうがよい。腸閉塞や感染症など、外科的・内科的な原因による食欲不振は素人では回復できず、しかも急速に症状が悪化することがあるからだ。
野菜を食べてくれない……
小さかったうちのフトアゴもいつのまにかサブアダルト、そろそろ野菜を食べさせないといけないな、ほーら小松菜だぞー、あれ、全然興味もってくれない……。フトアゴ飼育ではこんな悩みがしばしば見られる。
動くものに反応するフトアゴの習性を利用して、フトアゴの目の前で野菜を動かしてみよう。このとき、野菜を細長くカットしておくと、イモムシに見えるのか食いつく確率が上がる。
それでも食べないなら、いろいろな野菜を試してみる。レタスは嗜好性が高い。ほぼ水分の塊で栄養はなきにひとしいので常食は避けたいが、「緑の葉っぱは食べられる」ことを教える教材としては役に立つ。オクラ、豆苗、ミックスベジタブルも試そう。
レパシー社のベジバーガーは植物質の人工飼料で、野菜は食べないフトアゴもこれは食べるかもしれない。
コオロギの粉末を野菜にふりかけると、匂いにつられて食べることがある。
裏技として、デュビアのやや大きめの個体を与え、むしゃむしゃと咀嚼しているところへ、口内に野菜をそっと差し込む方法もある(チェーンフィーディング)。フトアゴは口に入ってきたものはとりあえず食べる習性があるので、この方法で食べさせて、野菜を「食べ物である」と覚えさせるのである。口を開けさせる餌はデュビアでなくともよいが、デュビアは外殻がやや固めで何度も咀嚼するのでチェーンフィーディングがやりやすい。
どうしても食べないなら、餌を数日抜いて空腹にさせる。フトアゴは食いしん坊なのでお腹が空けば意外とすんなり食べてくれることも多い。しっかり育ったサブアダルトなら2週間くらいは食べなくてもびくともしないので大丈夫。ただし脱水は危険なので、絶食中も適宜給水は行なうこと。
排泄
食べれば出す。フトアゴの排泄物は健康状態のバロメーターでもある。
健康なフトアゴの排泄物は、白い尿酸を先頭として、黒~黒褐色または暗緑色の糞が続いている。ニオイはかなりきつい。人間の手の小指ほどしかないのに、人間の大便と同じくらい強烈に臭う。ひとたびフトアゴが排泄すればアクリル絵の具のような刺激臭がたちまち部屋中にたちこめるだろう。というわけでケージを寝室やリビングに置くのは避けたほうがいいかも。
割と糞の上を平気で歩いたりするので、排泄物を見つけたらすぐに取り除く。床材に砂を用いている場合、100円ショップの天ぷら用すくい網が便利である。
通常、フトアゴの糞は煙草型の固形もしくは粘着質な軟便である。飛沫が飛び散るような下痢は要注意。
温浴
糞で体が汚れたら、36℃程度のぬるま湯で入浴させて糞をふやかし、歯ブラシでやさしく洗ってやる。
便秘や脱水を心配して定期的に温浴をさせ、排便させたり給水させる飼育者も多いが、実際には必要ないことも多い。フトアゴは植物質の食物を腸内で発酵させ、セルロースを分解し、ついでにビタミンB群やビタミンKなどの栄養素を合成している。高頻度の温浴はこうした腸内細菌による発酵が中途半端なまま排便させてしまい、本当は得られていたはずの栄養素が糞とともに流れ出ていく結果になりかねない。
日光浴
どんなに高性能な紫外線ライトも敵わない究極の紫外線源が、太陽光である。フトアゴに日光を浴びさせるとケージ内では考えられないほどに発色し、本能が覚醒するのか恐ろしく活動的になる。活発になりすぎておとなしかった個体が飼い主に威嚇しはじめたりすることもあれば、逆に日光浴が気持ち良すぎて昼寝したりして、いずれにせよふだんでは見られないフトアゴの顔を見せてくれるだろう。
ただしいくつか注意点がある。まず、屋外で日光浴させるのはサブアダルト以降の個体にすること。ベビーはあっけなく脱水症状や熱中症に陥るおそれがある。
日光浴は必ず気温25℃以上の日に行なうこと。とくに春先は暖かく感じられるかもしれないが、気温だけみるとフトアゴにとってはまだまだ寒い日が多い。ケージ内ではフトアゴに35℃程度でバスキングさせていることを思い出されたい。
ベビーや、外気温が20℃程度しかない日に日光浴させたいときは、暖房を効かせた室内の窓際がベター。太陽光といえどもガラス窓でUVBが95%カットされてしまうが、それでも紫外線ライトよりはるかに効果的である。
アダルトといえども熱中症には注意が必要になる。砂漠というと、厳しい日射がじりじりと照りつける灼熱地獄と思われがちだが、実際には岩や地形の起伏、灌木など、体の小さな爬虫類にとっては避難場所となる日陰が散在しているし、砂を20㎝も掘ればひんやりとしている。だが脱走防止のためにケースに収容した状態で日向に置いておくと、体温が上がりすぎたときに逃げ場がなく、深刻な事態になりやすい。日陰はちゃんと作ってやる。
そして、日光浴中に絶対にやってはいけないことがある。それは目を離すこと。
体温の上がったフトアゴはワープする。それくらいの瞬発力を見せる。ちょっと目を離した隙に消えてしまうのだ。
また、なにか用事ができて「すぐ戻ってくるから」とその場を離れるのもご法度。人間は忘れる生き物なので、フトアゴを日光浴させていることをすっかり忘れて何時間もほったらかしにしてしまうおそれがある。離席するならフトアゴをいったんケージに戻しておく。フトアゴを日光浴させているときはコンロの火を使っているときと同じと考えよう。
さらに、たとえ市街地であっても、屋外にはフトアゴの天敵となりうるカラスやネコが跋扈している。外に出しているフトアゴから絶対に目を離してはいけない。
こんなときは……(下痢・血便・腫瘍)
フトアゴを飼育していると、さまざまなトラブルに見舞われることがある。ここでは代表的なケースを紹介する。
下痢
前出のとおりフトアゴは健康体であっても軟便を出すことがある。ここで下痢と呼ぶのは飛沫が飛び散るような水様便である。
まず、突発的、一過性の下痢なら問題ない。フトアゴは興奮したり、驚いたり、恐怖を感じたり、温浴で強制的に排便を促されたときなどに、まだ腸管内にとどまるべき水分の多い糞便を排泄して下痢になることがある。翌日以降に便が戻っていたら心配せずともよい。
だが慢性的な下痢、すなわち排泄物が常に下痢便だった場合は注意が必要。寄生虫疾患のほか、消化器官内部の異常、消化管に隣接する臓器の異常が疑われる。いずれも獣医でなければ原因を特定できないため、すみやかに診察を受けさせる。
血便?
フトアゴの糞便は通常、黒や黒褐色、暗緑色である。その糞に赤やオレンジが混じっていると血便のように見える。その場合は、直近に食べさせた餌の内容を思い出してみよう。フトアゴはナメクジやカタツムリほどではないにしろ、餌の色素が排泄物に沈着することがままある。ニンジンやトマトといった赤い餌を食べさせなかっただろうか? もしそうなら数日ほど様子を見よう。赤い餌をあげなくなったのと同時に赤っぽい糞をしなくなったら問題はない。
しかし、メニューから赤系統の餌を除いても赤色の混じった糞便を排泄するようなら、血便の可能性がある。早急に動物病院の診察を。
腫瘍
フトアゴは爬虫類のなかでも腫瘍の発生率が高いようだ。皮膚腫瘍、内分泌腫瘍、造血器腫瘍、神経腫瘍などさまざまな症例が報告されている。
原因のひとつが痛風である。人間は新陳代謝の際に発生したアンモニアを尿素に変えて排泄しているが、爬虫類は尿酸の形で排出している。排泄物の白い部分が尿酸である。尿酸は水に微量にしか溶けないため、体内の水分が不足ぎみだと排泄できず、関節や内臓で結晶化し、沈着してしまう。沈着した部位では二次的に炎症が起きて腫れたり、感染症にかかったりする。腎臓に沈着すると、腎臓が膨張して腎不全になる。肥大した腎臓が直腸を圧迫して便秘を誘発することもある。
痛風は一度かかると根治はむずかしく、日々の予防がなによりも大切である。痛風の原因は、人間と同じく「水分不足」と「タンパク質の摂りすぎ」なので、日ごろから葉野菜や給水でじゅうぶんに水分を摂らせ、成長が鈍くなるアダルト以降の個体には昆虫系の餌を与えすぎないよう心がけよう。皮肉にもフトアゴを可愛がって毎日餌をたっぷり与える飼育者ほど個体を痛風および肥満にしてしまいやすい。相手は食糧資源の乏しい砂漠で進化を遂げてきた省エネ動物であることを肝に銘じたい。
定期健診
フトアゴは自身の体調不良を隠すのが非常に上手い生き物である。自然下では弱みを見せるとたちまち襲われて食べられてしまう。そのため体が病魔に侵されていても虚勢を張らなければならない。飼育下のフトアゴもその本能に従い、本当は病気にかかっていて苦しかったとしても普段と変わらないように平静を装おうとする。
人間の場合、腎臓は病理に対して自覚症状がほとんどないことから沈黙の臓器とも呼ばれている。その腎臓が自覚症状の出るほどに機能低下していたらもう取り返しがつかないことがほとんどである。フトアゴはいわば全身が沈黙の臓器である。フトアゴは死ぬ寸前ぎりぎりまでさも元気であるかのようにふるまう。そのフトアゴがついに耐えきれなくなってもがき苦しむまで悪化していたら、もう末期症状であり、手遅れである場合が多い。
不調を隠すプロであるフトアゴ相手に、行動や餌食いなどの観察だけで異常を発見するのは困難である。真の健康状態は、血液検査、検便、レントゲン検査など、獣医による専門的な検査でしか判断できず、症状が出てから治療を始めても遅いのであるから、定期的な検診がなによりも大事である。病気は治療よりも予防が肝心である。
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