フランケル(Frankel)とは、イギリスの元競走馬で、現在は種牡馬である。
マイル・中距離で圧倒的すぎる強さを見せ、現役時代は世界最強、または近代欧州競馬史上最強とも呼ばれていた馬。
競走成績は14戦14勝、うちGI10勝。
主な勝ち鞍:デューハーストS、英2000ギニー、英インターナショナルS、英チャンピオンSなど
馬名は、馬主が懇意にしていたアメリカの調教師で、2009年に亡くなったロバート・フランケル調教師への献名。
概要
父:Galileo(ガリレオ)
母:Kind(カインド)
母父:Danehill(*デインヒル)
父ガリレオは、2001年の英ダービーを制したスターホースで、母は凱旋門賞馬*アーバンシー。種牡馬としてもフランケルが誕生した2008年に初の英愛リーディングサイアーとなり、奇しくもこの年種牡馬を引退した偉大な父サドラーズウェルズの後継たるトップサイアーの地位を築き始めていた。
母カインドは短距離のリステッド競走を2つ勝ち、半兄にジャパンカップにも出走したGⅠ2勝馬*パワーズコートがいる。フランケルの前に既にダービートライアル(GIII)を勝ったブレットトレインを産んでおり、フランケルの3歳秋から引退にかけてはこのブレットトレインがペースメーカーを務めている。
母父デインヒルは現役時代短距離GⅠを1勝。種牡馬としては英愛・仏・豪それぞれでリーディングを獲得するなど空前の大活躍を収めた。また、ガリレオとデインヒル産駒牝馬の間に生まれた子どもたちは、フランケルを筆頭に2010年代の欧州競馬シーンを完全に支配するほどの活躍を見せていく。
この配合の背景には、イギリス・アイルランドを代表する競走馬生産者であるジュドモントファームとクールモアグループの提携の一環で、ジュドモントファームの選りすぐり繁殖牝馬10頭にクールモアの種牡馬を種付けし、生まれた子どもを折半して保有し合うというプログラムがあった。
そして、ジュドモント側が選択した中にこの馬がいて、代表であるサウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子の所有馬となったという経緯がある。
デビュー、新馬戦~
4頭の英ダービー馬などを手掛けたイギリスの名門サー・ヘンリー・セシル厩舎に入厩し2010年に2歳でデビュー。そのデビュー戦では、後にキングジョージとエクリプスステークスを勝つナサニエルと対決した。レースではナサニエルが卓越した勝負根性でぎりぎりまで食い下がるも、最後はスピードの差で半馬身差でねじ伏せ(3着以下は5馬身以上後方)、初陣を飾る。
そして次走、条件戦に臨んだが周りとスピードが違いすぎ、持ったまま13馬身ぶっちぎり圧勝。続くロイヤルロッジS(GII)もやっぱりスピード任せに10馬身ぶっちぎり、レーシングポスト紙の短評ではGIでも中々お目にかかれない「very impressive」という表現が登場した。
続けてイギリスの2歳王者決定戦となるデューハーストS(GI)へ向かう。ここには3戦3勝でGIを取った後の出走取消大王ドリームアヘッドなどメンツが強化されておりどんな競馬を見せるか注目されたが、周りがモタモタする中を楽に抜け出し2馬身1/4差快勝。
これで4戦4勝とし、圧倒的すぎる強さからカルティエ賞最優秀2歳牡馬を受賞。タイムフォーム社のレーティングも2歳馬としては13年ぶりに130ポンドを超える133ポンドという破格の数字がついた。
3歳時
2000ギニーの前哨戦となるグリーナムS(GIII)から始動し。4馬身ちぎって圧勝。
ちなみにこのレースの2着は、後にフランケルにさんざん辛酸をなめさせられるエクセレブレーションであった。
そして英2000ギニー(1マイル≒1600m)。ここでももちろん1番人気であったが、前向きすぎる気性から距離への不安も抱かれており、陣営もペースメーカーを用意してフランケルのために備えた。
しかしフランケル鞍上のトム・クウィリー騎手、包まれる方が怖かったのか圧倒的すぎるスピードでペースメーカーを置いていく。異常なハイペースでの大逃げ。これは潰れるんじゃないかと思われたが、そのまま先頭で突っ切って6馬身差圧勝。
単勝1.5倍は20世紀以降では最低の配当であり、この勝利でダンシングブレーヴあたりと比べられる怪物という評価になった。
次走は英ダービー(12ハロン≒2400m)も検討され、実際に前売り1番人気にもなったが、スピードを武器にしている馬であることと、気性が激しいことから無理であると判断し回避。マイル戦線を選択し、セントジェームズパレスS(GI)に向かった。
ここでは3番手に控えると3コーナーからの超ロングスパートという謎めいた戦法を取り、ゴール前ではバテバテになったが3/4馬身差で辛くも勝利。
フランケルにとって初めての辛勝となったので、メッキが剥がれたという見方もあったが、騎手の騎乗ミスという評価が大勢であった。
ちなみに日本からNHKマイルC馬グランプリボスも遠征していたが、馬場適性や、タフさを要求されるコースとの相性の悪さもあり手も足も出ずに8着。仕方ないね。また、メールミュルヘンスレネン(ドイツ2000ギニー)を勝ってここに臨んだエクセレブレーションは3着になっている。
初の古馬戦となったサセックスS(GI)は回避が相次ぎわずか4頭立てとなったが、前走でGI最多勝の欧州記録を保持していた女王ゴルディコヴァを倒してGⅠ5連勝を達成していた最強マイラー・キャンフォードクリフスが出走してきた。
レースは「Duel on the Downs (芝生の決闘)」という前評判通り実質的なマッチレースになったが、ハナを切って二の脚で一気に加速し大差を付ける圧巻のレースで、キャンフォードクリフスに5馬身差圧勝。
レース後キャンフォードクリフスは脚を故障して引退となってしまった。
その後は充実の3歳シーズンの締めくくりとして、古馬相手のマイルGI・クイーンエリザベス2世Sに出走。フランスで古馬に混ざってGⅠを勝って来た同世代のエクセレブレーションやイモータルヴァースを負かして4馬身差で圧勝し、2011年を5戦5勝、通算成績を9戦9勝とし休養入り。
カルティエ賞では当然のように年度代表馬と最優秀3歳牡馬を獲得。公式レーティングもこの年の総合1位となる136ポンドを与えられ、タイムフォーム社のレーティングではシーバード、ブリガディアジェラード、テューダーミンストレルに次ぐ歴代4位となる143ポンドの数値を獲得した。
4歳時
欧州最強と評された馬にしては珍しく古馬になっても現役続行。4月には調教中に外傷を負い、それが原因で引退という誤報が出て馬主が撤回するなどドタバタしたが、結局予定通り5月のマイルGI・ロッキンジSに登場し、調教のように流して5馬身差圧勝。フランケルさえいなければ最強マイラー間違いなしだったエクセレブレーションはここでも2着に終わった。
そしてエリザベス女王即位60周年記念開催となったロイヤルアスコットのGI・クイーンアンSでも、先行して抜け出す競馬で残り1ハロン地点で落鉄しながら11馬身差をつけて圧勝。この時の圧勝は生涯最高のパフォーマンスと評され、もっとも古い民間のレーティング付けを行っているタイムフォーム社のレーティングでは過去最高だったシーバード(145)を上回る147と同社史上最高の評価となり、公式レーティングでも140を与えられて、凱旋門賞を伝説的な末脚で勝ったダンシングブレーヴの141に次ぐ歴代2位の評価となった。レーシングポスト紙の短評には「extremely impressive(究極的に印象的)」という凄まじい表現が踊っている。
なお、5回目の対戦となったエクセレブレーションはフランケルをがっちりマークし先に仕掛けて出し抜こうと必死に走ったが、フランケルもスパートを仕掛けると一瞬前に立つことすら許されず突き放され、対フランケル5連敗となった。
エクセレブレーションも一流馬ではある。フランケルさえいなければすでにGI3勝していたはずである……。
なおこの勝利により、牡馬が出走できるイギリスのマイルGⅠは2歳限定戦のレーシングポストトロフィー以外はすべて勝利。マイルの実績だけなら、かつてのイギリスの英雄・ブリガディアジェラード以上の存在となった。
この後はサセックスS(1マイル)→インターナショナルS(10f56y≒2063m)→チャンピオンS(9f211y≒2004m)というローテで決定し、マイルG1としては最後となる連覇を賭けたサセックスSに出走。
レースはわずか4頭立てで、ライバルらしい馬はソーユーシンクやナサニエル相手に連続して3着、2着と好走を続けたゴドルフィンの秘蔵っ子ファールだけ。当然のように軽く仕掛けただけで6馬身差圧勝、連覇達成。さらにGI7連勝。もうマイルではやることがほぼなくなってしまった。あるとすればブリーダーズカップとか日本とか香港に遠征するくらいである。
ちなみにサセックスSがわずか4頭立てになったぶん、11日後のジャック・ル・マロワ賞(仏G1)は豪華メンバーとなりました。その結果は……。
着順 | 馬名 | 着差 | 当年の主な勝ち鞍 |
---|---|---|---|
1着 | Excelebration エクセレブレーション |
||
2着 | Cityscape シティスケープ |
1馬身1/4 | ドバイデューティーフリー(GI) |
3着 | Elusive Kate イルーシヴケイト |
クビ | ロートシルト賞(仏GI) |
4着 | Moonlight Cloud ムーンライトクラウド |
アタマ | モーリス・ド・ゲスト賞(仏GI) ※前年からの連覇 |
5着 | Caspar Netscher カスパルネッチェル |
短首 | メールミュルヘンスレネン(GII) ※ドイツの2000ギニーに当たる |
その他、7着ゴールデンリラ(仏・イスパーン賞)、10着フォールンフォーユー(コロネーションS)、11着モストインプルーヴド(セントジェームズパレスS)と、上半期の欧州の主要なマイル近辺のGIを勝った馬はほとんど出たと言っていいレースで、エクセレブレーションが完勝した。
もしフランケルさえいなければ、エクセレブレーションは歴代屈指のマイル王になっていたかもしれない。
そして8月、英インターナショナルSでついに距離延長に挑戦。クールモアが12ハロン路線のエース古馬セントニコラスアビーを投入し、ゴドルフィンが前走はフランケルに完敗したとはいえマイルより中距離が向いてるはずのファールを再び送り込むなど有力馬は揃ったレースとなった。それでも距離延長がどう出るかわからないとはいえ一応1.1倍の一本かぶりとなった。
レースではスタート後、それまで逃げ・先行が主だったが出負け気味となって後退。しかし、ペースメーカーの兄ブレットトレインがバテると馬なりで後ろから上がって先頭に立ち、未知の距離となる最後の2ハロンも全く問題なく突き放す。結局最後はセントニコラスアビーとのハナ差の2着争いを制したファーに7馬身差の圧勝を飾り、GI8連勝。ロックオブジブラルタルが持っていたGI7連勝の欧州記録を更新した。
そして引退レースとして、イギリス平地の締めくくり・英チャンピオンSに臨むこととなった。
かつて新馬戦で肉薄したナサニエルがキングジョージ・エクリプスSを勝った一流馬となって参戦し、他にもセン馬ゆえに凱旋門賞ではなくここを年内の大目標とする前年の最優秀古馬シリュスデゼーグルら、なかなか骨のあるメンバーとなった。
レース開催前にはほぼ1週間にわたって雨が降り続き、当日は極悪の不良馬場となったこともあり、出走取消すら検討されたが結局出走。レースではいきなり出遅れてしまいファンや関係者をヒヤヒヤさせたが、ペースメーカーがレースをコントロールする中で持ったまま上がっていくとラスト1ハロンでも少し仕掛けられただけで重馬場の鬼シリュスデゼーグルを交わし、1馬身3/4差で勝利。2012年を5戦全勝で終えた。
圧勝ではなかったものの、2着にシリュスデゼーグル、3着にナサニエルと下馬評通りレベルの高いレースであった。
ちなみに、同じ日にマイルのGⅠクイーンエリザベスⅡ世ステークスに挑んだ「エクセレブレーション」も勝利。
しかも内に閉じ込められて行き場を無くしながらワープしたとも形容できる末脚で抜け出しての快勝。フランケルさえいなければ、マイルでは超一流クラスの実力を持つことを証明した。
全戦績14戦14勝、うちGI10勝。パーフェクトな戦績のまま引退、種牡馬入りとなった。
勿論この年もカルティエ賞年度代表馬を受賞。2年連続の年度代表馬受賞は史上初の快挙となった(年度代表馬2回受賞自体は2004・06年の*ウィジャボードが初)。
また最優秀古馬も当然受賞し、更にはアブドゥッラー王子、クウィリー騎手、セシル師、ブレットトレインの鞍上を務めたイアン・モンガン騎手をはじめとする関係者全てに「チーム・フランケル」としてカルティエ賞功労賞が贈られた。
総評
結局、2400m挑戦や、英国外に出ることはなかった。
しかし、一線級で無敗のままG1を2桁勝ち、さらにそのほとんどのレースを圧勝なんていう芸当は、歴代の名馬でもほとんどの馬が成しえなかった大偉業である。長い競馬史の中でも最強候補の資格をもった名馬である。
2013年3月にワールド・サラブレッド・ランキングのレーティングが見直され、 歴代最強だったダンシングブレーヴのレーティングが引き下げられたことで、レーティング上では史上最強馬となった。とはいえクラシック・ディスタンスや国外での出走がないということで賛否両論はあるのだが、同期にフランケルのいない4ヵ国のマイル重賞をことごとく勝ちまくったエクセレブレーションを筆頭に戦った相手はほとんどが強豪な上にどのレースもほぼ圧勝なこともあり、賛否両論はともかく史上最強候補の一頭であることだけは疑いようがない。
余談
フランケルを管理していたヘンリー・セシル調教師は晩年に闘病生活を送っていたことで知られており、フランケル引退の翌年に亡くなっている。海外遠征がなかったのはセシル氏の体調に不安があったからではないかとも言われることもある。
また同期にも一流馬が多数いたことで知られているが、特に海を隔てたアメリカに一つ上の世代に当たるがワイズダン(セン馬・31戦23勝・GⅠ10勝)がおり、この馬も芝のみに限れば16戦15勝、かつブリーダーズカップマイル連覇の戦績を残し、ダートやオールウェザーが主戦のアメリカでは芝の戦績があまり評価されないにもかかわらず、(ダートにこれといって目立った活躍馬がいなかったこともあって)2年連続で年度代表馬になっている。特に2013年のブリーダースカップマイルではエクセレブレーションも参戦し不利があって4着に敗れたが、不利がなくてもこのレースは勝てなかったと言われている。得意とした条件もフランケルとワイズダンは似通っており、その直接対決を見たかったと思う人もいるかもしれない。
産駒について
2016年より初年度産駒がデビュー。
日本でも僅かながら産駒がデビューしており、初年度産駒から無敗のまま阪神ジュベナイルフィリーズを勝って最優秀2歳牝馬に選ばれたソウルスターリング、ファンタジーSを勝ったミスエルテらを輩出。日本ではサドラーズウェルズ系は時に大物を出すものの、競走馬・種牡馬の双方でもあまり成功していないことを考えると、脅威の勝ち上がり率といえよう。
産駒の傾向としては、完成が早くデビュー直後から連勝を続けるなど好調期には強い競馬を見せるが、一度落ち込むと回復しない。実際に初年度産駒のソウルスターリングやミスエルテは成長力を欠き、また海外でもセントジェームズパレスSを勝ったウィズアウトパロールも同じ傾向をたどった。一方で安田記念・フェブラリーSを勝ってJRA5頭目の芝・ダートGIを制したモズアスコットや英愛両ダービー惜敗後に本格化して欧州の3歳チャンピオンに選出されたクラックスマンのように3歳以降に本格化した産駒の方が信頼性や底力は高い。
また、自身はマイルから中距離で実績を残したが、産駒には英オークスを勝ったアンナプルナ、セントレジャーを勝ったロジシャンのように、3歳時からクラシックディスタンスや長距離路線で重賞を勝つ馬も多い。中には4000mのGⅠカドラン賞を制したコールザウインドのような産駒も出てきている。
血統表
Galileo 1998 鹿毛 |
Sadler's Wells 1981 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Fairy Bridge | Bold Reason | ||
Special | |||
Urban Sea 1989 栗毛 |
Miswaki | Mr. Prospector | |
Hopespringseternal | |||
Allegretta | Lombard | ||
Anatevka | |||
Kind 2001 鹿毛 FNo.1-k |
*デインヒル 1986 鹿毛 |
Danzig | Northern Dancer |
Pas de Nom | |||
Razyana | His Majesty | ||
Spring Adieu | |||
Rainbow Lake 1990 鹿毛 |
Rainbow Quest | Blushing Groom | |
I Will Follow | |||
Rockfest | Stage Door Johnny | ||
Rock Garden |
クロス:Northern Dancer 3×4、Natalma 4×5×5、Buckpasser 5×5
主な産駒
- ソウルスターリング (2014年産 牝 '16阪神ジュベナイルフィリーズ、'17優駿牝馬)
- モズアスコット (2014年産 牡 '18安田記念、'20フェブラリーステークス)
- Cracksman (2014年産 牡 '17・'18チャンピオンステークス、'18ガネー賞、'18コロネーションカップ)
- Without Parole (2015年産 牡 '18セントジェームズパレスステークス)
- Veracious (2015年産 牝 '19ファルマスステークス)
- Anapurna (2016年産 牝 '19オークスステークス、'19ロワイヤリュー賞)
- Logician (2016年産 牡 '19セントレジャーステークス)
- グレナディアガーズ (2018年産 牡 '20朝日杯フューチュリティステークス)
関連動画
関連項目
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