フリーゲージトレインとは、車輪の幅を変える事で異なる軌間に対応させる車両である。略称はFGT。
概要
別名「軌間可変電車」、英語では「Free Gauge Train」の他「Gauge Change Train」とも呼ばれる。
日本では新幹線で使用されている標準軌(1435mm)と在来線の狭軌(1067mm)を一つの車両で直通させる事を目的として研究・開発が進められている。この技術が実用化されれば新規に新幹線を建設したりミニ新幹線化するよりもコストを抑える事が出来る他、既存の在来線から新幹線に直通させる事が可能である為、開発に期待が寄せられている。また、フリーゲージトレインの技術の量産化を確立した場合、日本国内に限らず世界的なインフラ輸出に発展する可能性もある技術である。
2014年現在、世界的にはスペインで1968年から運用されている他、ポーランドなどでも既に運用されいる。また、スイスや欧米などでも導入を検討し、開発が進められている。ただしこれらはいずれも動力集中方式であり、また標準軌⇔広軌へ変換するフリーゲージトレインであることに留意する必要がある。
試作された車両
GCT01形
初めて国産化されたフリーゲージトレイン用車両で、1998年10月にロールアウト。
鉄道総研で11月から12月にかけて走行試験を行った後に、翌年山陰本線での高速試験を行った後にアメリカ合衆国コロラド州で標準軌における走行試験を実施し、最高速度246km/hを達成している。
2001年~2003年にかけては導入予定のあった九州の日豊本線や予讃線での走行試験が行われたほか、山陽新幹線区間での走行試験も行われた。
2006年までに全ての試験が終了し、2007年4月以降はJR四国多度津工場内に留置されていたが、2013年7月23日に解体され現存しない。
新幹線区間での定格速度は200km/hが限界で、車輪が揺れるなど初号機らしく問題は多かった。また、車籍のない保線用車両と同じ扱いだったので、試験時には線路を閉鎖する必要があるなど、試験実施自体もかなり面倒な車両だった。なお、この頃は新下関駅構内に軌間可変設備と交直切り替えのデッドセクションを設けていた。
外観はこの時期としても比較的鈍角な前傾部で、乗客を乗せるような構造にはなっておらず、試験車両として生涯を全うしている。
GCT01形200番台
2003年より開発に着手し、2006年に多度津工場にて台車の走行試験が行われる。
2007年3月に全体が完成し、12月にかけて小倉で在来線の走行試験を開始した。
この時期に新八代駅構内に軌間変換のための可変設備とデッドセクションが設けられている。
2009年より九州島内にて在来線、新幹線双方の走行試験が行われ、2011年には四国に渡り、同年11月より予算線内で試験を行い、2013年まで行われた。2009年には新八代での新在直通試験も複数回行われたが、後述の問題もあり継続はできなかった。
交直両用車両かつ空気バネによる車体傾斜装置も搭載した高性能な車両で、先頭車両の外観も高速性能に振るためE3系に似た流線型のものに改められている。車体はアルミニウム合金製で、ブレーキシステムは有用性の比較のためディスクブレーキとばね間ブレーキの2種類を搭載している。1,2号車のパンタグラフは新在共用の低騒音パンタグラフ。
新幹線区間での性能は素晴らしく、先代車両が210キロが関の山だったのを当時の300系に匹敵する270km/hにまで引き上げた。一方、在来線区間では車体重量が仇となり、線路負荷の増大でカーブ区間で80km/hほどしか出せなかったとされる。
また、台車の問題はこの車両でも完全解決はできず、幾度と改良が重ねられたが車輪のブレは完全解消に至らなかった。台車だけでの車輪のブレを防ぐことは困難とみたことから方針転換し、ロングレール化や軌道修正を行った上で試験を継続。結果、予讃線急カーブ区間で85~130km/hの実績を上げることができ、「実用化に向けた基本的な走行技術は確立している」とされていた。
2013年9月21日に全ての試験が終了し、2014年には国交省が「基本的な耐久性能の確保に目処が付いた」として、実用化に向けた最終段階に入る第3の試験車両の開発に着手することとなった。
2014年7月20日より四国鉄道文化館南館にて静態保存、展示されている。車内も不定期に公開されており、試験機器が当時のまま載せられているほか、僅かながら座席も設置されている。
第三次車両が解体されてしまったため、国内のフリーゲージトレイン車両では唯一の保存車となり、技術を伝える貴重な生き証人となっている。また、交直流車両で車体傾斜装置を搭載した車両の保存例もこれが唯一である。車体傾斜を積んだ交直車両は他にJR東日本のE991系TRY-Zという奇天烈な見た目に定評のある試験車両があったが、こちらは全車両解体されてしまい現存しない。
また、模型工房たぶれっとから、3Dプリンタ製のNゲージ未塗装キットも販売されており、少々値は張るものの、模型でその雄姿を残すこともできるようになっている。(この会社は悲運の高性能気動車キハ275系の3Dプリンタモデルも販売しているのでお財布に余裕があればどうぞ)
FGT-9000形
第三次試験車両。第二次車両より1両増えて4両編成となり、長編成化と軽量化の双方を指向した車両となっている。一方で、直流区間対応についてはオミットされ、この頃実用化の第一弾候補とされていたJR九州の西九州新幹線(長崎ルート)への導入を念頭に置いた設計となっている。このため、フリーゲージトレイン用国産鉄道車両としては唯一四国への渡航実績を持っていない。
2014年4月19日に熊本総合車両所において報道陣公開され、カラーリングはディープレッドとシャンパンゴールドを基調としたものとなり、一部ではその色合いからアイアンマン車両なんて呼ばれ方もしていた。流線型はさらに空力特性を考慮したものとなり、新幹線500系電車やFASTECH360のストリームラインに近い外観となっている。車体の横にはFGTのロゴが大きく印刷されており、車内は旅客営業に向けて客席も2列×2列で設置され、300系の廃車部品を流用し、赤系のモケットに統一している。新幹線には珍しい車体間ダンパーもついているが、全周幌は採用されず、側面のみの幌が採用された。2号車のみ日立製作所が製造し、他は川崎重工製。
素材技術の向上に伴って、軽量化技術も高まっており、炭素繊維強化プラスチックなどが用いられてこれまでの車両から約4%の軽量化を実現し、一般的な新幹線車両程度の重量に抑えることができた。
2014年4月20日より熊本県内の路線を中心に試験を開始。在来線区間130km/h、新幹線区間270km/h、モードチェンジ時10km/hの速度で走破する性能を誇り、それぞれのモードで走行耐久試験を行う3モード耐久試験が主な試験内容であった。この2014年時点では比較的良好な試験結果が得られていたので、耐雪耐寒仕様の開発もアナウンスされるなど、フリーゲージトレイン界隈にとって最も予算が贅沢に投入され、明るい話題の多い次期だったと言えよう。だが、これがピークで以降は数奇な運命に翻弄される。
しかし、同年末に台車の欠損や摩耗が確認されたため試験を中止、やはり台車問題は完全解決には至らなかった。この後、問題解決には2年を要し、2016年まで走行試験は中断されていた。それでも2017年にはやはり車軸の摩耗の問題は従来の100分の1に低減させるに留まり良好な結果とは言い難かった。
2017年、JR九州は西九州新幹線でのフリーゲージトレイン実用化は困難として断念する旨を公表、翌年国交省はJR西日本の北陸新幹線区間に於いても断念する旨を決定した。
そのまま試験が断念されて以降は熊本総合車両所で留置され、2023年頃に川内駅に移動されたが、2024年7月末から解体が始まり、悲運の車両は殆ど試験に使われることも無くその生涯を終えてしまった。
歴代フリーゲージトレイン車両の中で最もスタイリッシュな見た目でありながら最も不幸な命運を辿ってしまった車両かも知れない。
コロナ時期の2020年~2023年頃には熊本駅からも外観を見ることができたようだが、時期が時期だけに外出が憚られる頃だったためあまり写真や映像も多くは残っていない模様。走行中に至ってはさらに少ない。ただし、同時期の熊本総合車両所の一般公開時には連結器カバーが外された状態で無料で外観を見学することができたという。
こちらも部屋の中工房というところから3Dプリンタ製の未塗装キットが受注生産で発売されている。ただし、組み立て難度は高めの上級者向けキット。
技術的な問題
- 在来線と新幹線では電圧が違う事からそれぞれに対応したパンタグラフが必要となる(北陸新幹線では直流にも対応する必要がある)。
- 最高速度が現在の新幹線における主力車両の300km/hと比べると遅い(2次試作車で最高速度は270km)。
- 車体重量の問題。重過ぎて線路を傷める(1両46tほど。ただし三次車は一両43tまで軽量化)。
- 急カーブ(概ね半径400m未満)を走行できない。乗り入れ先がカーブの多い線路である場合、路線改良が必要であり、そのための費用が無視できない。また、新型車両は非振り子式でもカーブの通過速度を従来より+10~15km/hほど向上しているが、それより劣る可能性がある。
- 軌間変換装置を10km/hほどで通過する為、変換中時間が掛かる。(大体3分程)
- そもそも世界的に見ても標準軌⇔狭軌(1067mm)のフリーゲージトレインは存在しない未知数な技術。
とりあえずJR総研としてはこれらの問題はすべて解決したとしており、2014年ついに実用車両のプロトタイプである3次試作車がロールアウトした。これより九州新幹線において3年かけて耐久試験を行うとのこと。
ただ、技術的な問題は解決しても受け入れ側が現在絶賛炎上中だったりする。
受け入れ側の問題~九州編~
九州新幹線長崎ルートでは武雄温泉~新鳥栖間が狭軌のスーパー特急規格で線路を引く方針であり、フリーゲージトレインを投入することが見込まれていた。しかし博多駅の線路容量(もういっぱいいっぱい)や運行システム(山陽新幹線の車両は最低でも285km/hに対し、フリーゲージトレインは270km/hな為、フリゲージトレイン後方列車が追い付く)上の問題もあって、JR西日本はフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れには消極的である。
また、長崎新幹線は2022年の営業開業を目指しているが(2022年9月23日に開業)、長崎新幹線は狭軌フリーゲージトレインが実用化されていることを前提としている。2014年時点では、フリーゲージトレインの実用化は最終試験段階ではあったが、2014年10月の試験開始1ヶ月後に不具合が発生。2016年12月より試験を再開したものの、翌2017年7月にまたしても不具合が発生した。
結果、JR九州はフリーゲージトレインの導入をコスト面の理由から断念。当面の間は武雄温泉駅でのリレー方式となる事が確定した。
その後、長崎新幹線(西九州新幹線)の新鳥栖駅~武雄温泉駅間の整備方針の新合意に向けての議論の中で佐賀県がフリーゲージトレインについての再考を要請しているなか、新八代駅の設備が撤去され2024年7月より川内で第3次試験車両の解体が開始された。
受け入れ側の問題~新幹線その他編~
四国は後述するとして、他には伯備線(岡山~米子・松江間)及び北陸新幹線(大阪・名古屋~富山直通列車)などへの投入が計画されていた。しかし伯備線は前述のJR西日本が速度的な問題を理由に難色を示し、北陸新幹線は雪対策どうすんだという話がある。伯備線に至ってはフリーゲージトレイン導入問題と振り子式車両・381系後継車両問題がリンクしてしまっている。鳥取県は伯備線の他にも因美線・智頭線への導入も含め岡山県・島根県と連携して調査するとしていた(因美線・智頭線ルートの場合は米子延長も視野に入れられている)。調査の結果、伯備線に導入しても現状より所要時間が増えるという結果になり、フリーゲージトレインの導入は白紙化。これにより273系による381系置き換えが実施され、中国横断新幹線の誘致計画が発動されることとなった。
なお、北陸新幹線への投入はJR西日本及び関係する6府県は暫定措置として導入を容認している。[1]。
なお、JR西日本はいつまでたっても実用化のめどが立たないJR総研に見切りをつけたのかフリーゲージで実績のあるスペインと技術提携[2]をし、フリーゲージ車の開発を行う事となった。
JR西日本は2014年10月から北陸本線敦賀駅構内に新設する実験線を使用して軌間変換試験を実施する他、2016年度に試験車両(6両編成)による走行試験を北陸新幹線・北陸本線・湖西線で開始する予定。
※仮に順調に開発が進んでも実用化は2025年頃になる予定で、北陸新幹線敦賀開業が3年前倒しされた為、繋ぎ措置として新在乗り換えとなる。但し、九州での開発が遅延する場合は導入費用と運用期間の関係から北陸への導入は見送られる。
九州での開発が事実上断念されたことを受け、2018年5月には北陸新幹線も導入を断念した。
受け入れ側の問題~四国編~
四国の中央志向が尋常ではないのは東海道線に生き残った数少ない寝台列車のひとつがサンライズ瀬戸という時点でお察しください。
2008年に新幹線基本計画である四国新幹線の調査が打ち切られ四国に新幹線が通る可能性が存在しない今、フリーゲージトレインだけが希望という状況であった。JR四国のページを見ればわかるがJR四国は各県庁所在地~岡山間の特急が生命線であり、フリーゲージトレインで新大阪直通が実現すればその恩恵は計り知れない。
現在JR四国は線路をスーパー特急規格にした上で伊予西条~松山間に直線的な短絡線を引くことを長期計画としてあげている。これにより松山~新大阪間は20分、松山~高松間は50分もの時間短縮になるとのこと。しかし。
という疑問が提示されており、本当にやれるのか疑問が出されている。大体今治と松山は福山行バスが出ておりそこから新幹線に乗った方が早いという話もあってな。
一方、長らく関西直通志向であった徳島県が知事交代に伴いフル規格が想定されている瀬戸大橋経由で3県と歩調をあわせたため、今後は四国横断新幹線誘致計画が主となってくる模様である。その後四国新幹線は松山~徳島・高知~岡山のルートで検討を進める事になり、フリーゲージトレインについては一旦保留になった。
だったら在来線で使えばいいじゃない! JRは使い物にならん!!
道交省:というわけで技術やるわ
近 鉄:ふぁっ?!
2018年、突如近鉄が京都線・橿原線と吉野線(京都~吉野)への導入の検討を発表した。
確かに京都線・橿原線は標準軌なのに対し吉野線は狭軌のため、一度橿原神宮前駅で乗り換える必要があり不便であったこと、また新幹線ほど高速走行が求められていないことから導入が可能と判断したと思われる。その後は長い間続報がなく、2021年5月に公表された「近鉄グループ中期経営計画2024」にもフリーゲージトレインについての記述がなかったことから一時は開発中止も疑われていたが、2022年5月25日に開催された「鉄道技術展・大阪」で、フリーゲージトレインの展示がされており、開発が継続していることが判明した。近鉄としては2025年の大阪万博に間に合わせたいところだろうが、果たして・・・。(京都~吉野直通特急は大阪万博輸送と直接関連しない為か大阪万博まで半年を切っても具体的な計画も上がってきていない。近鉄は今のところ老朽化した通勤車両置き換えの為の新型通勤車の8A系の製造の方に力を注いでいるようだ・・・。)
おまけとしてフリーゲージトレイン導入検討先に蒲蒲線を上げておく。京急と東急をつなぐ800mほどの路線で導入されればメリットは計り知れないがリンク先を読んでいただければわかるがこちらも問題ありまくりだったりする。
関連動画
関連項目
脚注
- *但しJR東海は態度が未定の為、仮に「サンダーバード」に導入されても「しらさぎ」への導入は不明
- *まぁJR総研のFGTもスペインの技術を使っているのだが。
- *そもそも予讃線特急の速度が上がらないのは今治~波止浜~波方間にある急カーブのせいである。先がとんがっている高縄半島の特性のせいで改良が不可能な上波止浜&波方駅自体が結構乗客が多い(地元大企業である今治造船と関連企業の最寄り駅)のも問題。あと波方の隣、大西駅も地元大手企業・来島ドックとその関連企業の最寄り駅。
親記事
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- なし
兄弟記事
- 10000系
- 気動車
- 9000系
- 900系
- 系(鉄道車両用語)
- 5000系
- 500系
- 3000系
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- 30000系
- 1000系
- 鉄道車両の形式表記の読み方
- 7000系
- 700系
- 南海2000系
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