ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(Josef Anton Bruckner 1824-1896)とは、オーストリアの作曲家である。
概要
父はオルガン奏者であり、10歳頃からブルックナー自身もオルガンを弾くようになる。
その後、オルガンを弾く傍ら、教師の仕事をしつつ、ヴァイオリン演奏等を行っていた。
30歳頃から本格的に音楽理論を学ぶようになる。ワーグナーに傾倒し、熱心に研究を行った。
1868年、ウィーン国立音楽院の教授に就任。ほぼ同時期から交響曲を作曲し始める(これ以前は主に声楽曲やオルガン曲等を作曲していた)。交響曲作曲家としては中々受け入れられなかったものの、1884年の交響曲第7番の初演成功を機に、ブルックナーの交響曲は、広く認められるようになった(それ以前は、一部のミサ曲などで成功を収めている)。
1896年10月11日、交響曲第九番を作曲中にウィーンにて死去。72歳。
主な作品
第七番と並んで、ブルックナーの交響曲の中では初心者向けとされる。「2+3連符」の通称「ブルックナー・リズム」が顕著。
交響曲第五番
中期の傑作として知られる。対位法による構築性が見事で、この曲をブルックナーの最高傑作に推すブルックナーファンも少なくない。
交響曲作曲家としてのブルックナーの名を確固たるものにした曲。第二楽章が非常に美しく、第四番と並んで人気が高い。
交響曲第八番
「すべての交響曲の中で最も優れた交響曲は何か?」という話題になると、よく名前が挙がる程の傑作。
未完成。第四楽章の作曲中にブルックナーが亡くなった為、この曲が演奏される場合は、完成している第三楽章までで演奏される事が多い。後年の研究者によって、第四楽章を補筆完成させようとする試みも盛んで、第四楽章まで演奏された録音もいくつか市販されている。
エピソード
非常に敬虔なキリスト教徒であった。交響曲第九番の譜面には、「愛する神に捧ぐ」と書かれている。
交響曲第三番は、心酔していたワーグナーに献呈された。その為、交響曲第三番は「ワーグナー交響曲」の愛称が付いている。尚、この曲の献呈の為にブルックナーがワーグナー宅を訪れた際、みすぼらしいブルックナーの姿を見たワーグナー夫人は、ブルックナーを物乞いと勘違いした。
ブラームスとは当初折り合いが悪く、ブラームスはブルックナーの交響曲を「ただ蛇のように長いだけの交響的大蛇」と批判していた。ある日、二人の仲を心配する者の計らいで、ブラームス行きつけのレストランで会食をする事になった。すると、二人とも肉団子が好物と分かり、一気に打ち解けた雰囲気になったという(もっとも、その後もブラームスがブルックナーの交響曲を批判する事が止んだ訳ではない)。
大食漢であり、また、ビールが大好きであった。行きつけのビア・ホールでは、ジョッキで10杯以上飲んでいた。
ワーグナーへの交響曲第三番献呈の際、食事に誘われたブルックナーは、そこでもしたたか飲んで酔いつぶれてしまい、翌朝、ワーグナーへ献呈した交響曲が第何番だったか思い出せなくなっていた。
多くの女性に求婚したが、ことごとく断られ、生涯独身であった。最後の求婚はブルックナー69歳の時で、相手はまだ10代の少女だったという。
ブルックナーの版問題
ブルックナーはとにかく優柔不断な、ないし自分の作品に満足のできない性格だった。そのため、特に交響曲を作り始めてから世に発表するまでに、そして一度完成してからも加筆訂正を繰り返した。また、その一時間を優に超える長大な曲をなんとか世間に出しやすくするために、弟子たちが曲をカットして短くしたり、オーケストレーションを合わせて変えてしまったりして、もともとの曲の姿がわからなくなってしまっていた。
そのような状況から、作曲者本人の作ろうとした音楽を復元するために、ブルックナーの交響曲全集(楽譜)出版の際に、『原典版』と呼ばれる、より元の形に近い楽譜を作ろうという試みがなされた。
初めにこの校訂編集作業を任されたのが、オーストリアの音楽学者、ロベルト・ハース(1886-1990)である。彼の手掛けた楽譜は現在特に『ハース版』と呼ばれる。『ハース版』は1930年から1944年にかけて『原典版』として出版された。(厳密にはハース以外にアルフレート・オーレル(1889-1967)が校訂を手掛けた楽曲もあり、こちらは『オーレル版』と呼ばれることがある。)
『ハース版』は一定の完成を見たが、ハースはナチスの党員であったために、戦後になってこの編集作業から外された。そしてその後を継いだのが、こちらもオーストリアの音楽学者レオポルト・ノヴァーク(1904-1991)であった。ノヴァ―クはハースの編集方針に不満を抱き、一度『原典版』として出版された曲さえも再度改訂し、再び『原典版』として世に出した。こちらのノヴァークが編集を手掛けたものを、特に『ノヴァーク版』という。
少々ややこしい話になるが、つまりブルックナーの楽曲においては、同一楽曲において、何種類もの楽譜が存在する曲がいくつもあるということなのだ。
ハースの手が入る以前の楽譜(『初版』または『改竄版』)、ハースによって校訂された『原典版』(『ハース版』)、ノヴァークによって校訂された『原典版』(『ノヴァーク版』)、加えてハースとノヴァーク以外の人間によって校訂された版もある。これ以上は本当にややこしい上に、編集者自身がそのすべては目でも耳でも把握できていないため、一旦切り上げる。詳しくはWikipediaを見た方が早いかもしれないが、正直そっちを読んでみてもやっぱりややこしい。
さらにややこしいのが、上述のとおり、『原典版』と言っても、これが二種類あるのだ。つまりは、『ハース版』だと思っていたら『ノヴァーク版』を聴いていたり、逆に『ノヴァーク版』だと思っていたら『ハース版』を聴いていたということがザラにあるのである。現在は主に『原典版』が演奏されるが、親切でないCD及び演奏団体は、ハースとノヴァークどちらかまでは教えてくれない。
「そんなもん気にしねーよ!」という人は勿論いらっしゃるだろう。だが、『初版』と『原典版』とではまるっきり別の楽曲になっているもの(特に交響曲4番)もあるし、現在では『初版』の再評価も進んでいる。それぞれの版による演奏を聴き比べてみて、細かいオーケストレーションや、ブルックナーの書いたニュアンスの違いを味わってみるのも一興かもしれない。
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