ヘラクレイトス(紀元前540年頃~紀元前480年頃)とは、古代ギリシアの自然哲学者である。難解な思想から、「暗い人」「泣く哲学者」などと呼ばれる。
生涯
エペソスに生まれた。貴族階級の生まれであったとされるが、詳しいことは分かっていない。
『自然について』という著作を書いたことで知られるが、この本は現存しない。ただ、別の哲学者がこの本から引用した文章が残っており、そこから彼の思想を窺うことができる。
ヘラクレイトスの思想
ヘラクレイトスの思想は、彼の著書が完全な形で現存しないこと、他の学者によって様々な形で要約されていることから、正確な理解は困難である。
火
アリストテレスによれば、ヘラクレイトスは「万物の根源(アルケー)」を火と考えたという。これは、「アルケーとは何か」を考えるミレトス学派の一人として彼を捉える考え方である。
確かに、彼は「ロゴスは火である」と書いている。しかし、注意しなくてはならないのは、彼はミレトス学派と違って火が「万物の根源(アルケー)」と主張したわけではないということである。あくまでも「ロゴス」であり、火から万物が生成される(アルケー)、と主張したわけではない(これについては後述)。
万物流転
ヘラクレイトスの思想はプラトンの対話篇に何度か登場するが、その中で「万物は流転する(パンタ・レイ)」という言葉を残したとされる。世界は絶えず変化し続けているという思想で、彼はこれを「同じ川に二度入ることはできない」といった言葉で表現している。
ロゴス
ヘラクレイトスは、万物は変化すると同時に、対立や矛盾を含んでもいると述べている。彼はそれを「上り坂も下り坂も同じ一つの坂である」「水は魚にとっては生だが、人間にとっては死である」といった言葉で表現する。
しかし、こうした対立や矛盾こそが調和であり、その調和を司る万物の理法こそがロゴスである、と述べている。
先ほど「ロゴスは火である」と述べたが、ヘラクレイトスは、火こそがロゴスの象徴と考えた。火は、絶え間なく揺らぎ、燃え続ける点で「変化」であるが、一定の明るさを保ち続ける点で「不変」である。このような矛盾を孕む火は、ヘラクレイトスにとってロゴスの象徴と考えられたのであろう。
神について
ヘラクレイトスは、ギリシアで当時民衆が信じていた、オルフェウスやディオニュソスの神秘から得られると考えていた真理については、否定的だった。
一方で、「神」というワードはしばしば出てきており、「夜にして昼」、「冬にして夏」、「戦争にして平和」、「空腹にして飽満」と言及している。また「神にとっては、全てが美しく善良で正しい」とも述べている。
パルメニデスとの関係
同時代を生き、一見正反対の主張をした哲学者にパルメニデスがいる。こちらは、「存在は不変」という風に、運動や緊張関係で世界把握をするヘラクレイトスとは対照的である。詳しくは、「パルメニデス」の記事を参照。
後世への影響
世界の秩序を総べる理法として「ロゴス」を見るという思想は、プラトンやアリストテレス、ひいては西洋哲学に大きな影響を及ぼした。
また、対立や矛盾こそが調和をなすという思想は、ヘーゲルの弁証法哲学に先立つものとして、エレアのゼノンとともに評価されている。
語録
- 「同じ川に二度入ることはできない」
- 「上り坂も下り坂も同じ一つの坂である」
- 「万物は流転する(パンタ・レイ)」
- 「水は魚にとっては生だが、人間にとっては死である」
- 「闘争は万物の父であり、万物の王である」
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関連項目
外部リンク
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