曖昧さ回避
- 主にユダヤ教、キリスト教で忌避される大悪魔。本項にて解説。
- 久保保久が雑誌イブニング誌上に連載中の漫画「よんでますよ、アザゼルさん。」に登場する人物(悪魔)、ベルゼブブ優一。
- 田村隆平が週刊少年ジャンプ誌上にて連載中の漫画のタイトル。こちらは正しくは「べるぜバブ」。
- ゲーム実況配信者「変態スネーク」の異名。
- 鳥山明が描いた漫画『SAND LAND』の主人公の悪魔。
- スカイフィッシュ捕獲用器具「フクダのもごし」のモデル名、「ベルゼバブ」。
- 中村うさぎが書いた小説『ゴクドーくん漫遊記』本編のラスボス候補。アニメ未登場。
概要
ベルゼブブとは、ユダヤ系列の一神教と敵対する悪魔の代表格として、サタンと同等に扱われている存在である。サタンの地位が時代によって上下するのに対し、ベルゼブブは一貫して悪魔たちの首領格とされるのが特徴。
イエス=キリストは新約聖書において「悪魔の帝王(かしら)」と呼び、オカルト学者コラン・ド・プランシーも地獄の辞典において「地獄帝国の最高君主、蠅騎士団の創設者」としている。一方サタンは野党の首領だったり、三級悪魔だったり(レジナルド・スコット評)と、意外に軽く扱われる場合もあることから、ベルゼブブの方がいかにユダヤ、キリスト教において重要な敵であったかがうかがえる。
ユダヤ教のラビは「悪魔を放逐するためにベルゼブブの名前を用いたのはよろしくない」とイエスを痛烈に批判した。
歴史
ベルゼブブは英語で「beelzebub」(または「belzebub」)とつづる。これにはいくつかの読み方があるものの、「ベルゼブブ」と呼ぶのが一般的である。もちろん「ベルゼバブ」「ベールゼブブ」でも間違いではない。フランスにおいては「belzebuth」とつづって「ベルゼビュート」と読む。詩人ウィリアム・ブレイクは「ベルゼブウル(「beelzeboul」)と呼んだ。
ベルゼブブの語源となったのはセム人の豊穣神「バール」であるといわれる。古代におけるバール神の存在は非常に大きく、「王」を意味するものとしてハスルバル、ハンニバルら歴史上の人物が名前に取り込んでいる。ラムセス二世時代のエジプトにおいてすら崇拝された。他教の神を悪魔とさげすんで排斥することで知られるユダヤ、キリスト教においては最も大きな敵であったらしく、バールを語源とする無数の悪魔が見られる。ベルゼブブほか、バール=ペオル、ベルフェゴール、ベリアル、べリス、ビレト、バエルなどもバールの変化(転訛)である。
このため「バールゼブブ」と記すべきと主張するオカルト学者もいるが、これは「高い館の王」を意味し、偉大なイスラエル王ソロモンと同一視されかねないので、ユダヤ人が「バアル・ゼブブ(baal-zebub、蠅の王)」に変えたという。これがさらになまって、新約聖書では「ベルゼブブ(糞山の神)」となった。他の説として、ギリシャの悪魔学者プセルスが「ヘブライのベルゼブル(天の神)が歪められてベルゼブブとなった」と主張している。
「蠅の王」という概念には、来歴らしきものがいくつかある。一部学者はシリアの神アコールを「蠅の神」と呼ぶ文書があり、パレスチナ近辺におけるバールの同義語ではないかと主張している。歴史学者プリニウスは「ローマやシリアの神殿で蠅に対して生贄を捧げた」と記録しており、また古代アクチウムの神殿ではゼウスを「アポミュイオス(蠅を忌避する者)」と呼んで、毎年生贄が捧げられた。
死者にたかる蠅は「魂の運び手」、あるいは「悪霊の使者」であるとして、西アジアから南ヨーロッパにかけて古くから畏敬的、畏怖的な信仰があり、これと「バアル・ゼブブ」という名前が重なって不浄な悪魔イメージになった可能性が高い。
ただし、よく知られているベルゼブブの肖像「羽にドクロマークのある巨大蠅」は、コラン・ド・プランシーの地獄の辞典(1818年初版)が出典で、第6版からの挿絵を担当したM・L・ブルトンが勝手に考えて描いたものである。地獄の辞典はこのほかにもプランシーの創作が多く含まれており、重要なオカルト学書でありながら、出典元とするには若干の問題を含んでいる※。
※ヨーロッパに散漫していた実際の伝説も多く収録されており、ネタ帳としては有用である。テレビゲーム「女神転生」シリーズや「タクティクスオウガ」なども、この本を元ネタにしている部分がある。また、水木しげるの漫画やイラスト集に登場する悪魔や堕天使の姿も、この本の挿絵を流用したものが多い。
色々なベルゼブブ
ユダヤ、キリスト教が勢力を強めるにつれ悪魔扱いされたベルゼブブだが、ヤハウェが唯一神として立脚が弱い時代の文書では、まだ地方神として扱われていた。
悪病に冒されたイスラエル8代王アハジヤ(オコジアスとも、在位BC850~849)は、カナン人の都市エクロンにまつられる神バアル・ゼブルへ使者を送り、この病気が治るかどうかうかがいをたてた。それを知ったヤハウェは、エリヤを遣わして王の使者に「イスラエルには神がいないというのか。あなたは必ず死ぬ」という伝言を伝えた。この言葉通りにアハジヤは二年後に死亡している(列王記)。本当にヤハウェが殺したかどうかの真偽はともかく、わざわざ他国の神にすがるところから、当時のバール信仰の影響力がわかる。
新約聖書において、ベルゼブブは「悪魔のかしら」という異名から、サタンの別名として扱われる場合がある。彼はユダヤ人をそそのかしてイエスの処刑に成功し、そのまま冥府に閉じ込めようと画策する。しかし天使につかまって両手足、首、口を青銅で縛られたあげく、第二の来臨(最後の審判)まで冥府に封印されることになった(ニコデモ福音書)。
このように聖書において封じられたはずのベルゼブブだが、その知名度の高さから中世のオカルト研究や、民話、文学などで頻繁に取り上げられるようになった。それらや上述のプランシーの著作が、現代につながるベルゼブブのイメージを形成したと思われる。冥府にとらわれている設定など完全に無視である。以下はその例。
- キリスト教神学では「七つの大罪」と、大悪魔を組み合わせて表現しており、ベルゼブブは「暴食」をつかさどって人の自尊心をくすぐり、罪に誘うとされた。
- 魔女狩りの先駆者のひとりとであるジャン・ボダンは「ベルゼビュートの宮殿には蠅など一匹もいない」と語った。
- 詩人のミルトンは「失楽園」で「サタンを除いてベルゼブブに並ぶものはない」とし、荘厳で思慮深く、憂国の情に満ち溢れる賢者で、アトラスのごとき立派な体格の持ち主と描写した。彼がひとたび演説すると、悪魔たちは目を凝らして静まり返るほどである。ここに「糞山の王」という汚らしいイメージはあまりない。
- 17世紀のエクソシスト、セバスチャン・ミカエリスが定めた階級(ミカエリスの階級)によれば、ベルゼブブは上級3隊の熾天使や聖フランチェスコに対抗し、16デーモン軍を指揮する強力な悪魔となっている。
- オカルト学者のグルジェフは「ベルゼブブの孫への話」という著作を残した。この作品のベルゼブブは外宇宙の知的生命体で、宇宙船カーナック号で旅をしながら孫のハセインに教え諭すことを楽しんでいる。
- P・B・シェリーの詩「デヴィルの散歩」では、悪魔ベルゼブブが蹄を靴で、鉤爪を手袋で、角を金ぴか帽子で隠しながら19世紀の街中を歩くさまが描写されている。
- パランジェーヌの「ゾディアコ・ヴィテ」におけるベルゼブブは、まさに悪魔らしい醜悪さを備える。途方もなく巨大で、腰かける玉座も巨大、額には火の帯を巻き、胸は厚くふくれ、顔はむくみ、目はぎらつき、眉はつりあがっている。さらに鼻孔は極度に広く、頭には2本の角があり、肌はマウル人のように真っ黒、両肩にはコウモリのような翼があり、両足はアヒル、尾はライオン、全身を長い毛が覆うという。
- ファウスト伝説に登場するベルゼブブは、牛の姿で両耳はおどろおどろしく、髪は色とりどりで竜の尾を持っている。
- ジル・ド・レエは「豹に化けたベルゼブブを目撃した」と語った。その悪魔は怒ると炎を吐き、狼のように吠えた。そばにはアスタロトがロバの姿で現れることもあったという。
日本におけるベルゼブブ
神道、仏教国である日本では、近年までキリスト教由来の悪魔はサタンを除き、さほど有名ではなかった。ベルゼブブを筆頭とする多種多様な悪魔の知名度が上がったのは、70~80年代のオカルトブームや、漫画、アニメ、ゲームといったサブカルチャーに拠るところが大きい。
「ゴッドサイダー」
80年代の少年ジャンプ誌上において巻来功士氏が連載した漫画。大悪魔ベルゼバブがシリーズ前半のボスとして登場し、主人公の鬼哭霊気らをおぞましく残忍な手段で苦しめた。両性具有と思しき外見もインパクトが強く、これを超えるインパクトの敵を生み出せなかったことが、本作が未消化のまま終了してしまった原因のひとつと考えられる。巻来氏はのちに何本か、パラレル設定の同系作品を描いている。
「真・女神転生」「ペルソナ」シリーズ
西谷史氏の小説を原点とする一連のテレビゲーム。ほぼシリーズ全体を通して、ベルゼブブを悪魔合体により仲魔(あるいはペルソナ)とすることが可能となっている。基本的に高レベルにならないと作り出せず、それに見合う有用な能力を備えているのが魅力。ストーリーによっては敵として立ちはだかることもあり、その場合はもちろん存分にプレイヤーを苦しめてくれる。
「ウィザードリィ外伝II」
「フライプリミアー」という敵が登場する。和訳すると「蝿の貴人」、すなわちベルゼブブの事を指しており、シナリオ原作者が執筆した攻略本でも「フライプリミアー=ベルゼブブ」と思わせるような描写がある。
最下層の中ボスだけあって強さは折り紙つき。しかしユニークな点として「容姿・特徴とも大悪魔のそれなのに、なぜか種族が悪魔ではなく昆虫」であることが挙げられる。そして外伝IIでは昆虫系特攻の小手「マンティスグローブ」が久々に復活、前衛クラスはこれよりも高い防御力の小手を装備できるにもかかわらず、フライプリミアー戦を有利に運ぶため「だけに」あえてマンティスグローブを用いる者が多い。
ありふれた「ベルゼブブ」表記ではなく「フライプリミアー」としたネーミング、過去作では謎能力だったマンティスグローブの昆虫系特攻に最高の見せ場を用意するなど、フライプリミアーに関する事項は外伝IIのセンスの良さをうかがわせるエピソードであると言える。
関連動画
関連静画
関連項目
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