ホームドアとは、鉄道の駅のプラットホームなどにおいて、列車を待つ乗客が線路上に転落しないようにするための設備である。
概要
一般的な鉄道の駅のプラットホームは、右の画像のように列車と乗客が待つプラットホームとの間に仕切りがない。
したがって、例えば人がホームから線路上に降りることも可能であり、その結果人身事故が発生する可能性がある。
万が一発生した場合、運転の復旧にはかなりの時間がかかる。
また、仮に当人はその気がなくても、列車風や突き落とし、混雑などによって、線路上に落とされてしまう、走行中の列車に接触するということも考えられる。酔っ払い客の転落事故に関しては、JR西日本が独自に調査した結果、ベンチに座って眠っていた酔客が突然起き上がり、線路めがけて一直線に歩き出し転落するパターンが全体の6割を占めるという、これまでの想像(千鳥足でふらついて落ちる等が主流と思われていたが、実際は約1割。残り3割は直立状態から突然よろけて転落する事故であった)とは全く異なる実態が明るみに出た。これでは、駅員らが注意を払っていても転落事故を未然に防ぐことは極めて困難である。
それを防ぐためには、列車が停車していない間は、プラットホームと線路との間を遮断しておく設備が必要である。
そこで、ホーム上にも扉を設け二重扉とするホームドアが開発された。
モノレールの駅に関しては、特に乗客の安全性を考慮しているため、全駅に最初からホームドアが設置されている場合が多い。
近年は、京王線新宿駅、東急大井町線大井町駅など、特に利用者の多いターミナル駅にのみ、あるいは先行して設置される事例も見られる。
ホームドアの種類
ここでは、ホームドアの形状による分類を紹介する。
- スクリーン式ホームドア
- フルスクリーン式やフルハイト式とも呼ばれ、東京メトロ南北線、京都市営地下鉄東西線などに設置されているもの。狭義にはこのタイプのみをホームドアと言う。
列車風などを抑えることもできるが、設置コストが莫大な上、工事期間も長くなるため一部の新規路線などにしか設置されないが、京王線布田駅が2012年8月19日に地下駅化により、フルスクリーン式ホームドアを設置された例もある。
特にゆりかもめのような無人運転による路線では、線路内への立ち入りを防止することや雨風を確実に凌ぎ駅を無人化しても安全が確保出来るよう、フルスクリーン式は必須である。一方で同じ案内軌条式鉄道(新交通システム)でも、有人運転である西武山口線やニューシャトル等ではホームドアが設置されていない。 - JR西日本では車両のドア位置に合わせて自在に開口ができるフルスクリーンホームドアを独自に開発しており、2023年春開業予定のうめきた(大阪)地下駅(大阪駅地下ホーム)に導入することになっている。
- 海外にはこのホームドアよりも低いがゲート式ほど低くもない、おおむね身長と同じくらいのホームドアが設置されているところもある。
- ゲート式ホームドア
- 腰高式やハーフハイト式とも呼ばれ、現在最も多く普及しているもの。つくばエクスプレス、多摩都市モノレール(開業当初からゲート式ホームドア設置)、東京メトロ副都心線、東京モノレール、都営三田線、都営大江戸線の全駅や、新幹線、JR山手線などに設置されている。
列車風などを抑えるという効果は減少するも、とりあえず人が線路上へ立ち入るのを困難にさせることで、人身事故・転落事故の件数低減につなげることができ、また設置コストもスクリーン式と比べれば安く工事期間も短いので、既存の路線や工事費を削減したい路線が設置している。
柵部分にもたれたり物を立てかけたりすると進入列車と接触するおそれがあるので、注意喚起の掲示がなされることが多い。
一般的にはこちらもホームドアと呼ばれている。 - 昇降式ホーム柵
- 2021年11月現在、国内ではJR東日本成田空港駅・空港第2ビル駅、JR西日本のJR神戸線・JR京都線を中心とする駅、近鉄大阪阿部野橋駅、西鉄福岡(天神)駅、箱根登山鉄道早雲山駅で稼働または試験運用されているもの。
過去には東急田園都市線つきみ野駅、相鉄いずみ野線弥生台駅、JR西日本桜島駅、小田急電鉄愛甲石田駅、JR東日本拝島駅、でも試験運用されていた。ロープや棒を上下させるタイプのホーム柵で、ドア数の異なる車両に対応できる、ホームの補強工事費が削減できる、定位置停止装置が不要、斜め向き(水平でない傾斜したホーム)にも比較的簡単に導入できるなどのメリットがある。
しかし、それをステップにして乗り越えたり、プロレスや格闘技のリングの要領でロープをくぐり抜けてしまうDQNや、最下段のロープとホームの間をくぐり抜ける子供がいる可能性があり、事故防止としての効果は最悪である。 - 特殊な例
- ほくほく線美佐島駅は通過列車が起こす風が危険なためホーム自体を封鎖するための扉が設置されており、これもある種のスクリーン式ホームドアととらえる向きもある。また立山黒部アルペンルートの黒部平駅では観光客による身を乗り出して撮影するなどの危険行為に対処するため折戸式のホームドアが設置されている。
この他、近鉄ではホームに沈み込む形の柵が検討されている。
より詳細な分類
ドアの形状による分類
- スクリーン式
- 可変式フルスクリーンホームドア
- JR西日本がナブテスコと共同で開発したホームドア。
- ドアや戸袋をすべて動かせるようにしたもので、列車のドア位置に合わせて開け方を変化させることができる。昇降式ホーム柵でも対応できないほど停車位置が複雑な場合でも、この方式なら対応できるのがメリット。
- ゲート式
- スマートホームドア
- JR東日本が開発したホームドア。ゲート式の一種。
- 横浜線町田駅で試行導入され、2020年の京浜東北線蕨駅を皮切りに本格導入が始まった。
- 一般的なゲート式ホームドアと違う点として、ドア部分を板ではなくフレーム構造にするなど軽量化が図られている。費用は半額程度、工期が4割ほど(約10ヶ月)短縮できるなどのメリットがある。
- 軽量型ホームドア
- 音楽館が開発したホームドア。ゲート式の一種。
- ドア部分をフレーム構造にしているのはスマートホームドアに似ているが、スマートホームドアはドア部分を最小限のゲート状にしているのに対し、軽量型は骨組みのような状態とはいえドアの形が残っている。
- 5本のバーで構成された扉と、4本のバーで構成された扉がある。これらを互い違いに配置することで、バーが干渉せず戸袋に収納することができる。
- JR九州の九大学研都市駅を皮切りに、筑肥線の姪浜駅以外の全駅のほか、京急線汐入駅、西武多摩湖線国分寺駅などで導入されている。
- どこでもドア(マルチドア対応ホームドア)
- ひみつ道具ではなく、三菱重工が開発したホームドア。ゲート式の一種。
- 戸袋の配置やドアの開け方を工夫することによって、2ドア・3ドア・4ドアのどれにでも対応できるようにしたホームドア。
- ただし可変式フルスクリーンホームドアやどこでも柵と異なり、戸袋そのものは動かない。
- 京急三浦海岸駅で試験設置されていた。
- どこでも柵(戸袋移動型ホーム柵)
- 東大生産技術研究所と神戸製鋼所が共同で開発したホームドア。ゲート式の一種。
- 電車に合わせて戸袋が移動し、ドア位置に合わせる仕組み。3ドア・4ドアの違いにも対応している。
- 仕組みとしては可変式フルスクリーンホームドアに似ている。
- 西武線新所沢駅で試験設置されていた。
- 大開口ホーム柵
- ナブテスコが開発したホームドア。ゲート式の一種。
- ホームドアの扉を2段の入れ子構造にしており、伸縮するようにして開閉する。これにより1枚の扉だけでは強度が不足するほどの開口幅を実現し、扉位置の柔軟性が向上した。
- 妙典駅・九段下駅で試験設置された後、東京メトロ東西線のホームドアなどに採用されている。
- 昇降式
- 昇降スクリーン式ロープ柵
- 日本信号が開発したロープ柵。
- 現在主流のロープ柵に比べてロープの数がかなり多いのが特徴的で、柵が上昇するときはロープの間隔は変わらないまま上昇する(ロープの壁がそのまま上がるイメージ)。
- 東急田園都市線つきみ野駅で試験設置されていた。
ドアの開閉方式による分類
ホームドアの開閉と車両ドアの開閉を連動させるための方式もいくつか存在する。
- 車両連携型
- 駅と車両が通信してホームドアを開閉する。車両改造の必要がある。
- ラグが少なく、また通信内容に応じて開けるホームドアを制限することも容易にできるのがメリット。
- トランスポンダ方式
- 最も一般的な連動方式。車両のドア開閉情報を地上子と通信し、ホームドアの開閉を操作する。
- ラグが少なく他の方式よりも圧倒的に同期性に優れる(列車のダイヤに及ぼす影響が少ない)ものの、他の方式にくらべてコストが大幅に高いのがデメリット。また、車両改造に要する期間も比較的長い。
- 無線連携方式
- 日本信号が開発したもの。地上子を設けるのではなく、電波とアンテナを用いて簡易的な通信を行う。もちろん単に通信するだけだと混信してしまうため、UHF帯とLF帯を使い分けて通信を行っている。
- しかしLF帯用アンテナは車両によっては運転台の位置の関係で設置しづらいというデメリットがある[1]。最近はRFIDタグを用いて、LF帯を省略した方式が普及している。
- トランスポンダ方式よりも車両側の工事は少なくて済むため、JR東日本ではこちらが主流になりつつある。
- 地上完結型
- 駅の設備のみを用いてホームドアを開閉する。車両改造は必要ないが、車両連携型に比べてどうしてもラグがある(それでもシステムの進歩で最低限に抑えられている)。
- 列車の情報と紐づける場合は別途行わなければいけない。東急田園都市線では運行システムとの連携、都営浅草線ではQRコードの読み取りで紐づけている。
- センサー方式(定位置・ドア検知)
- 定位置検知センサーを用いて列車の存在を判断し、車両ドアの動きに応じてホームドアを制御する。
- 電車が正しい位置に停車すれば、車両ドアの動きにかかわらずホームドアが開扉するものが多い。しかし、運行システムと紐づいていない場合は回送電車でも開いてしまうのがデメリット[2]。
- 閉扉時はドア検知センサーで車両側の閉扉を確認したときにホームドアを閉める(中には側灯[3]の消灯を確認してホームドアを閉めるものもある)。
- 上記の速度検知方式に比べ、閉扉を自動化できたのがメリット。中には京阪京橋駅のように、ドア数を検知して必要な扉のみを開閉できるよう工夫したものもある。
- こちらも広く導入されている。
- センサー方式(速度検知)
- 2つの在線センサーで入線する列車の速度を測り、停車列車であると判断したら一定時間後にホームドアを開扉する。
- 入線速度が早すぎる場合は通過列車と判定してしまうため手動開扉する必要がある。また、こちらも閉扉は車掌が手動で行う。
- 東急田園都市線で導入されている。
- QRコード方式
- (この方式を地上完結型と呼称することはあまりないが、動作の特徴は地上完結型に近いためこちらの分類とする)
- 東京都交通局がデンソーウェーブと共同で開発した方式。tQRという専用のQRコードを車両に貼り付け、QRコードの動きからドア開閉を検知するほか、QRコードに両数・ドア数の情報を格納して必要な扉のみを開閉する。もちろん定位置検知センサー等を用いて誤作動のないよう対策が施されている。
- また、このQRコードは最大で50%が欠損しても読み込むことができるよう誤り訂正が強化されている。しかし暗かったらそもそも読み込めないので、上大岡駅ではQRコードのある扉を照らすためだけに照明が設置されていたりする。
- センサー方式と異なり、「ドアが開き始めた」「ドアが閉まり始めた」ことをQRコードの動きによって検知できるため、比較的ラグが少なくて済む。開扉時の制御は会社により異なり、浅草線は定位置停車で開くが、京急では車両ドアを開けたときに開く(この場合は定位置検知よりラグが大きくなるが、回送でも開かないのがメリット)。
- 都営浅草線、京急電鉄、小田急電鉄、JR東海金山駅で導入されている。かつては神戸市営地下鉄三宮駅でも導入していたが、センサー方式に移行した。
これらの連動装置を使用していない線区や、連動に対応していない車両を乗り入れる場合は、乗務員がホームドアを直接手動で操作して開閉する。中には本厚木駅に停車する小田急ロマンスカーのように、リモコンを使ってホームドアを開閉している場合もある。
ちなみに、相鉄新横浜線は全駅で連動方式が異なるという稀有な路線だったりする(西谷駅はセンサーのみ、羽沢横浜国大駅はセンサーと無線連携、新横浜駅はトランスポンダ)。もっとも無線連携を行うのはJR直通車のみのため、3つの連動方式を連続で使うような列車はない。
利点と欠点
利点
- 人身事故を防ぐのに一定の効果がある(100%無くなるかはまた別・・・)。
- プラットホームに吹く列車風などを抑えることができるので、駅への進入速度を速くできる。
- 発車時に列車後方の安全確認を省略できるので、ワンマン運転に向いている。
- 同様の理由で、ホーム監視員を廃することができる。
- 黄色い線を数十センチ外側に移せるので、ホームが少し広く使える。
欠点
- 列車のドアの場所が限られるため、入線する車両のドア位置やドア数を揃えなくてはいけない。
また、ドア同士の位置がずれると開扉できないため、TASCやATOといった定位置に停めるための装置が必要である。 - 2回ずつの開閉が必要になるため、停車時間が長くなる傾向がある。これに伴い、列車の所要時間増や必要編成数の増加といった利便性・費用面双方のデメリットが発生する。(ハイテクなホームドアだとあまりその心配はしなくて良いらしく、おめがシスターズというVtuberが山手線の所要時間を内回り外回りで測ったところどちらもホームドア設置前と変わらない59分ちょいくらいだった。)
- ホームドア自体がある程度の幅を必要とするため、極端に狭い駅には設置できない。
- ホームが狭くなるため、動線の余裕などを考慮しないと、エスカレーター付近などホーム上に危険箇所が発生するおそれがある。
- ホームドアそのものに重量があるため、ホームの強度を確保した上で設置する必要がある。同様にトラックに積み下ろすのは大変困難であるため、ホームドア運搬用として回送列車を手配する必要がある。
- 設置に莫大な費用がかかる。最もポピュラーなゲート式ホームドアの場合、10両編成長(200m強)のホーム1本(1番線)分につき、設置費用が約10億円かかると言われている。ただ、最初から新しく建設された駅の場合は当たり前のようにホームドアが設置されていることから、この費用はホームドア本体だけではなく老朽化したホームの補強工事や拡張工事もコミコミで計算した上の数字であると考えられる。
ただし費用面のデメリットは昇降式を導入することである程度抑えることが出来る(ゲート式の2~3割程度の費用で済むとも言われている)。安全面や視覚障がい者に対する安心面といった点ではゲート式に劣るが、国土交通省がホームドアの設置を特に推進している乗降人員10万人以上に該当しない駅においては昇降式ホームドアが妥協設置促進の切り札となる可能性も秘めている。この問題については国土交通省が運賃制度を見直し、バリアフリー料金制度という形で各鉄道会社が2023年度に運賃を10円~10%強程度値上げしその増収分をホームドアを含むバリアフリー・安全対策に回すことで解決している。(なお値上げした運賃をどのバリアフリー・安全対策に回しているかはバリアフリー料金制度に基づき鉄道会社が公表する必要があり、その内容でどの駅にホームドアが付くか、またどれだけの車輌を新製・リニューアル工事を行うかが記載されている。) - 緊急停車時の脱出が困難となる場合がある。車内で何らかのトラブルが発生し、駅に緊急停車せざるを得なくなった場合、ホームドアの位置と電車のドアの位置がずれると車内からの脱出が難しくなる。2021年10月31日に京王線で発生した刺傷事件では、ホームドアがある国領駅に緊急停車した際に停車中にドアコックが扱われたことで、ドアがずれた状態で停車することになった上に停車位置調整ができなくなった。さらに転落防止のためにドアを開扉しなかったため、結果として乗客は窓から脱出せざるを得なくなった。
なお、今回の事件では設置されていたホームドアがゲート式ホームドアだったため、窓から脱出することで避難できたが、スクリーン式ホームドアではこのような避難はできず、乗務員用ドアからしか脱出できないと言う問題が露呈している。一方で、山手線のホームドアのように扉部以外も観音開きにすることで脱出することができるタイプもあるため、一概に危険であると言えるわけではないが、乗客への周知は不十分なのが現状である。
国土交通省は11月2日付で緊急停車時はドアの位置がずれていてても、ドアとホームドアを開けるように指示を出した。 - 電車の撮影がしにくくなる(こんなん困るの撮り鉄だけだがw)執筆者はホームドア込みで一つの鉄道写真とすることで折り合いをつけている。なお間違っても以下のようなホームドアを乗り越えた撮影はやめていただきたい。
関連動画
関連項目
脚注
- *この問題について、成田空港駅・空港第2ビル駅は単線であることから同時に2本の列車が進入することがありえない(混信の可能性がない)ため、成田エクスプレスではLF帯を省略することで無線連携方式を採用することができた(しかし成田空港に関しては連携は開扉のみで、閉扉は手動で行われている)。
- *ホームドア設置駅で回送電車がわざと変な位置に止まっている場合は、たいていこれを避けるためである。
- *車両ドアが開扉したときに点灯し、閉扉したときに消灯する赤いランプ。車両側面に設置されている。
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