マイクロマウスとは、ロボット競技用の自立走行型ロボットである。マイクロコンピュータを搭載し、自立制御で迷路を走破する競技に用いられる。
概要
マイクロマウスは、1980年代に最盛期を迎えたロボット競技に用いられた。この競技は、ロボットが18 cm(センチメートル:長さの単位)四方の1区画を単位として16×16区画で構成された迷路を走破するものである。迷路内には始点と終点が設けられており、始点を出発し、規定時間内に終点へ到達する必要がある。最初に経路探索を行い、その後に始点から終点への走破タイムを記録する。
- ロボットは無線操縦(いわゆるラジコン)や事前の迷路情報の入力なしに、迷路を走破する必要がある。
- 迷路内の壁は飛び越えることも破壊することもできない。
- 内燃機関(ガソリンエンジン等)、外燃機関(蒸気機関等)の使用禁止。モーターとバッテリー、ゼンマイなどは使用可能。
かつては、より大きなロボットを用いる「マイクロキャット大会」もあった。
他のロボット競技と比べると、比較的小規模のハードウェアで参加できるため、優秀なマルチエンジニアであればメカ・回路・ソフトを一人で一貫して開発することができる。
実際、上位常連クラスの選手ともなれば、某一流企業の最前線で開発に携わるエンジニアが多い。
特徴
- 最初期の時代(Z80を搭載し、大きさは25cm四方、完走するのがやっと)の時代から、吸引を用いて数Gでの旋回を行う現在まで、ほとんどルールが変わらず、年単位の開発が可能(上位選手の場合2~3年以上かけて、ソフト・ハードを『育て上げる』人も多い)。
- レギュレーションが必要最低限であり、2足歩行で出場したり、はしご車のようなブーム先端のカメラで迷路情報を取得したりと、技術的なチャレンジが行いやすい。また優勝を逃した場合でも、技術的チャレンジをたたえる賞が設けられている。
- メカ・回路・ソフトの規模が比較的小さく、全体を俯瞰して開発を行える。これはプロのエンジニアだけではなく、学生の場合でも同様である。
- 全国の地区に同好会が支部が設けられ、技術交流が盛んにおこなわれている。
用語解説
用語 | 概説 |
迷路 | |
その名の通りマイクロマウス競技のタイム計測のスタートとゴール。スタート位置は固定であるが、ゴール位置は変わる場合がある。迷路の経路は本番までわからないが、スタートとゴールの位置は発表されるので、競技参加時はやりすぎなぐらいチェックすること。 |
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壁 |
ここでは迷路の壁を指さす。白色の塗料で塗装or白色の素材でできており、光をよく反射する(床は黒く光を吸収する)。 センサで距離を測ったり、マイクロマウス自身をゆっくり押し当てることで位置の補正に使えるので、マイクロマウス自身が迷路通りに進むためにも必要である。 いじわるな若者に試練を与えたい心優しい迷路設計者ほど、壁が少ない区間を設けがち(その形状から串やウロコなどと呼ばれる)で、機械的な精度やフィードバック制御の性能、様々な調整の差が出やすくなる。 |
差動2輪(ロボット) |
戦車やブルドーザーのように左右のタイヤの回転速度を変えることで向きを変える方式。機構が単純(左右に独立したモータとタイヤを取り付けるだけ)で実現でき、その場から移動せずに旋回(超信地旋回)できるので、マイクロマウスではほぼ全員が用いている。 なお、近年では運動性能向上を狙い、車輪の数を2対以上設ける方式(変則4輪と界隈では呼ばれているらしい)が広く用いられるが、タイヤのグリップ具合により旋回中心がブレるため、難易度が高くなる(ジャイロ等による補正が必要)。 |
センサー |
マイクロマウスで単にセンサと言う場合は、壁の有無や距離を測るものを指す。 現在のマイクロマウスでは赤外線LEDとフォトトランジスタを横向きに取り付けたものが主流。 赤外線LEDをパルス状に光らせ、その反射光の大きさをフォトトランジスタで電圧に変換する。 迷路は太陽光や室内灯で不均一に照らされており、それらには赤外線も含まれる。 したがって安定した動作のためには、ソフト・ハード双方の対策が必要。 (ハードの対策例:一定の波長の赤外線のみ受信するセンサの使用。LEDを明るくし、フォトトランジスタの感度を弱くする。フードや覆い。フィルタ回路。など) |
ステッピングモータ |
ローター(磁石)の周囲に配置したコイルへ順番に電流を流すことで回転するモータ。 (カチカチ音のするアナログクォーツ時計やプリンタによく使われている) マイコンが出力したパルス数と実際の回転角度が一致するため、一定距離を進む制御が簡単に行える。 (マイクロマウスでは、GPSのように外部から位置を伝える装置は禁止されているので、どの角度にどのぐらいの距離進んだかが大変重要である) 入門用としてよく用いられる。 |
DCモータ |
ミニ四駆と同じタイプのモータ。エネルギー効率が高く、重量や大きさも小さいモータ。 ただ電流を流すだけでは際限なく回り続けるため、 |
スラローム走行 | 曲がり角で一旦停止をせず、なめらかに曲がる走行方法。高速に旋回できる反面、制御・調整が難しくなる。 |
斜め走行 | 階段状になっている箇所をいちいち曲がらず、ショートカットする走行方法。正確な旋回角度の制御と高い直進安定性が必要である。 |
吸引(機構) |
ファンなどで床面に張り付くことで、自重以上の加重をタイヤに与えること。 レーシングカーのダウンフォースと同じように、タイヤのグリップ力をより強くすることが出来る。 当然、重量や大きさは増加するし、電力消費が多くて競技終盤で吸引力低下(=グリップ低下)に繋がるケースがある。 (※マイクロマウスでは出走中のバッテリー交換は不可である) |
探索走行 | |
ジャイロ(センサー) |
マウスロボットが回転する速度を検出するセンサー。近年のマウスロボットでは、高速な旋回時に発生するタイヤの滑りが無視できないため、タイヤの回転角だけでは正確な位置が分からない。 そのため、上位陣を中心に採用する選手が増えている。 |
エンコーダー |
タイヤの回転角を検出するセンサー。単体では回転角が分からないDCモータを採用した場合は必ず必要になる。光をつかったものと、磁気を使ったものがある。 クラシックサイズの場合はモータとエンコーダをセットにしたユニットをメーカに発注することもあるが、ハーフサイズとなるとモータの全長が長くなることを嫌い、モータとは別の軸(タイヤやアイドラギヤなど)に磁石を取り付け、その磁石の向きを計測するICを垂直に立てた小さな基板に実装する場合が多い。 |
ベーシックマウス |
大ベテランの選手である森永氏が、大会参加の敷居を下げるべく作製方法を公開しているマウスロボット。初心者の多くがお世話になっている→た。 現在は、用いられている回路部品(センサやマイコン)が廃盤となり入手性が悪くなっている点や、マイコンの性能向上に伴いよりシンプルな回路構成が可能であることから、必ずしも初心者におすすめできる物ではなくなっている。 (とは言っても、設計思想の勉強用として参考にする部分は多文にあるはずである) |
ハーフサイズ |
高い技術力が必要とされるが、迷路も小さいので、テスト用の迷路を置く場所が小さくできる。 2018年より、こちらのサイズがスタンダードとなり、旧来の18cm四方の迷路を使う競技はクラシックマウス競技と呼ばれる様になった。 全国大会では、区画のサイズこそクラシックの半分ではあるものの、迷路全体のサイズはクラシックと同じであることから、マス目が32x32(=1024区画。クラシックは16x16で256区画)であり、最短経路の探索・計算のために走行時間や計算リソーセス(メモリや計算時間)が取られるのでアルゴリズムの工夫や戦略上の工夫(律儀に全区画を探さないなど)が必要となる。 |
宴会芸 |
マイクロマウス界隈において宴会芸といえば、マイクロマウスを載せた台を回転させてもジャイロやGセンサで検出した位置ずれをモータで補正する制御により、位置や向きが変わらないことを披露することである。披露する場は飲み会の場に限らないし、飲み会だから必ず見せるとは限らない。 |
関連動画
第33回マイクロマウス大会(2012)
関連商品
関連項目
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