マッコウクジラ(抹香鯨)とは、マッコウクジラ科に属するクジラの一種である。
概要
最大体長は18m。ただし雌雄間での違いが顕著に見られ、オスは平均15~18mの大きさなのに対して、メスは11~12mの大きさしかない。非常に大きく角ばった頭部が特徴的で、頭部だけで体長の3分の1をも占める。外洋に広く分布している。
深海に最も適応したクジラとして有名。生涯の3分の2を深海で過ごすと言われており、呼吸によって酸素を補給した後、尾びれとそれに続く体の一部を高くあげて垂直に潜水することで、最大で1時間近く、3000m程度まで潜れるという。また、深海に住むダイオウイカにとっての天敵でもあり、マッコウクジラの胃の中からダイオウイカの死骸がしばしば見つかっている。
龍涎香
海岸に打ち上げられていたり、あるいは海を漂う奇妙な色の石を発見したなら、それはもしかしたら海からの贈り物、龍涎香(りゅうぜんこう)かもしれない。
龍涎香はジャコウに似た芳しくも強烈な香りを放つ蝋状の塊で、その芳香からおもに香料として、また医薬品の原料として古代より珍重されており、すでに7世紀ごろにはアラビアの商人が商品として取り扱った旨が記録に残されているほか、マルコ・ポーロの東方見聞録にも龍涎香の記述がある。日本にはアラビアから中国大陸を経由して室町時代にもたらされたようだ。
かのマリリン・モンローも愛用していた香水「シャネルの5番」にも龍涎香が調合されている。
古代中国やインドでは、香水としてだけでなく、媚薬、性病の治療薬、男性機能の増進、はたまた虚弱体質や癲癇の改善などを目的として破格の高値で取引されていた。
アラビアをはじめとした中東はもともと香料への関心が非常に高いこともあり、香炉で乳香や没薬とともに焚いて衣服に香りを含ませたり、料理の香り付けにも用いられたという。
琉球王国は龍涎香の採集を奨励していたようで、見つけ次第蔵元(役所)に届け出るよう義務付けられていた。1704年に石垣島川平村の住民が162斤130匁(約100kg)の龍糞(りゅうふん。琉球では龍涎香を龍糞と称した)を発見し蔵元に届けた際には粟40石(約7200ℓ。参考だが、米の場合1人の成人男性が1年に消費する量がだいたい1石である)が褒賞として与えられた。龍涎香の色と重さに応じた買取価格表もあり、当時の王府が国を挙げて採集していたことが伺える。
龍涎香自身が極上の香料であるが、ほかの香料の香りを長期間持続させる保香材としても有用で、一説によれば、龍涎香を使って本に香りを染み込ませたところ、40年経ってもページにその芳香が残されていたというほどである。
色は黒、灰色、白、褐色、琥珀色などさまざまあるが、なかでも最高級品とされたのは琥珀色をしたもので、時代によっては、その価値は等量の黄金を超えることもしばしばだった。
他の自然物とは一線を画す奇天烈なマーブル模様の色彩とその特徴的な香りから、中国では海底で眠る龍の涎が固まってできたものではないかと解釈され、龍涎香と命名されるにいたった。
龍涎香がいかにして産み出されるか永年のあいだ不明であったが、時代が下って捕鯨が盛んに行われるようになり、とあるマッコウクジラを解体したところ、腸内から龍涎香が発見され、ようやく由来と正体が判明することとなる。
マッコウクジラの好物であるダイオウイカのくちばし、いわゆるカラストンビはキチン質であるため消化できず、腸内に刺さるなどして消化器官中に残ってしまう。すると、さながらアコヤ貝が真珠を作るように、腸から分泌された特殊な体液がカラストンビを包み込んで塊となり、数年を経て肛門から排泄される。これが龍涎香の作られるメカニズムであると考えられている。つまり龍涎香はマッコウクジラの結石であるといえよう。
排出されて日が浅い龍涎香は柔らかく、色が黒っぽく、また不快な臭気を持つとされる。主成分が脂肪であるために水に浮く龍涎香は海面を漂流し、長い時間をかけて波に揉まれ、日光に晒され酸化することで、徐々に変色し、悪臭が取り除かれ芳香を放つようになる。大海で十数年という星霜を経た龍涎香は琥珀色となり、前述のとおり高値がつくが、採取方法は海に漂っているものを見つけるか海辺に漂着したものを拾うという偶然に頼るほかなく、その入手は困難を極める。
マッコウクジラの体内から採れることが判明すると積極的に捕鯨が実施され、最盛期には日本とソ連が龍涎香の生産国として双璧をなした。しかしマッコウクジラの体内から直接採取した龍涎香は自然に手に入るものと違い、波や風雨、紫外線の薫陶を受けていないため、品質面で劣る場合が多かったようだ。
1986年には商業捕鯨が世界的に禁止されたため、龍涎香の入手は以前と同様に運よく発見できる奇跡を待つ以外に方法はない。
貴重であり香料として無二の価値があることから現在でも高価。グラムあたり2300円~2600円で取引されており、たまたま見つけて一攫千金の幸運に恵まれた事例がたびたび世界を騒がせている。2013年1月、イギリス北西部モアカムの海岸を愛犬と散歩していたケン・ウィルマン氏が見つけた変わった匂いの石が龍涎香である可能性が高いと英国放送協会(BBC)が報じた。詳しくはこちら(外部リンク)。AFP通信によるとフランスのディーラーから5万ユーロ(約620万円)の買取価格が提示されているという。
高額な龍涎香だが、商業捕鯨されていた時代でも捕獲したマッコウクジラのうち龍涎香を有していたのはわずか0・1%にも満たなかったとされる。龍涎香目的の密漁や乱獲は心配しなくてよいだろう。
ちなみに、マッコウクジラの和名は、マッコウクジラから採れる龍涎香の香りが抹香に似ていることが由来。
なお、なぜマッコウクジラが龍涎香を作るのか、なぜマッコウクジラだけが龍涎香を生成できるのか、それらはいまだ謎に包まれたままである。
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