マッチムーブは、映像合成技術のひとつである。主に実写合成(VFX)に使われる。
概要
例えば、歩きながら手持ちで撮影した実写映像【A】があるとする。
その実写映像【A】を解析し、撮影時にカメラがどう動いていたかをデータ化する。
(この作業をカメラトラッキングと呼ぶ)
そのデータを3DCGソフトへ読み込ませれば、実写映像【A】と同じカメラの動きをしたCG映像【B】を作ることができる。
【A】と【B】を重ね合わせれば、実写の中にCGが存在しているかのような実写合成作品が作れる。
このように、【A】と【B】のカメラの「動きをマッチさせる」、というのがマッチムーブである。
使用用途
- MMDモデルを現実世界に召喚する(ミクさん召喚部、VOICEROID旅行など)
- アイマスやマイクラなど、ゲームの3D映像に装飾を加える(MAD映像、ニコマスなど)
- 実写の人物をBBやGBで撮影し、3D空間上に配置する
- 映ってほしくないものを隠す・差し替える
- 路上の大型ビジョンに映る映像を、自前の映像に差し替える
…など、用途は多岐にわたる。
なお、ニコニコ動画においては実写映像にCGキャラクターを合成するような映像に多く用いられており、そういう動画のことをマッチムーブと呼ぶことがある。
技術の変遷
マッチムーブは数十年前から、TV、映画など、あらゆる映像作品で使用されてきた。
有名どころだとハリーポッターの映画もマッチムーブを使っていた。ハリーポッターではboujouというソフトをカメラトラッキングに用いていたが、これは当時240万円もするソフトであった。
一方で、VoodooCameraTrackerなどの無料ソフトも存在しており、ニコニコ黎明期の2008~2009年においても個人レベルでマッチムーブを用いる動画投稿者が複数いた。
中でも有名なのは「厳島神社の人」こと、zozi氏の作品である。
氏は2009年にマッチムーブの紹介・解説動画を投稿し、視聴者に技術の概要をわかりやすく紹介した。
上記の投稿から10年以上が経ち、最近では趣味レベルでも簡単にマッチムーブができるようになった。
これは、カメラトラッキングに用いるソフトの機能が向上しただけでなく、カメラの画質や手ぶれ補正機能が大きく進化したことで、カメラトラッキングしやすい動画が撮りやすくなったためである。
カメラトラッキングに用いるソフト
自動で特徴点を抽出するオートトラッキング形式のソフトと、手動で特徴点を指定するマニュアルトラッキング形式のソフトがある。たいていの場合オートトラッキングのほうが楽だが、その分融通が利かなかったり、精度が少し悪くなりがちである。
そのほか、スマホのAR機能を利用して、動画撮影しながらカメラデータを生成するアプリも開発されている。
- AfterEffects CC
サブスクリプションで比較的低価格で導入できる映像編集ソフト。オートトラッキング形式。
シンプルな操作で初心者にもわかりやすい。直進するだけ等のシンプルな動きなら非常に解析しやすい。vmd Exporterスクリプト(あかつきみさき氏)を使用することで、MMDとの連携も容易に行える。
- Blender
無料ソフトであり、初心者でも比較的扱いやすい3DCGソフト。マニュアルトラッキング形式。
設定できる項目も多く、多様な映像に対応しやすく精度も高い。解析結果をそのままBlenderで使うことができるので、1ソフトで映像制作を完結できる。MMDとの連携も可能。
マニュアルトラッキングの方法をしっかり学びたい方は、K naoki氏のBlender Match move Tutorial Beginner series(YouTube)がわかりやすいのでおすすめしたい。
なお、Blenderは一応オートトラッキングっぽく使うこともできるが、その場合の解析精度はあまり高くない。 - SynthEyes
カメラトラッキング専用のソフト。オートトラッキングもマニュアルトラッキングもできる。
個人用途として考えるなら高価ではあるが、その分非常に機能が充実しており、360度映像にも対応している。前項で紹介したzozi氏もこのソフトを使っている。 - Cinema4D
3DCGソフト。オートトラッキングもマニュアルトラッキングもできる。
ボカロ系の作品にて使用実績がある。
- NukeX
ノード形式の映像編集ソフト。オートトラッキングもマニュアルトラッキングもできる。
コンポジットにもこのソフトを使う想定ならオススメできる。 - Voodoo Camera Tracker
無料のカメラトラッキング専用ソフト。オートトラッキング形式。
MMDへのデータ移行手段が開発された最初のソフトであるが、現在ではほとんど使われない。 - CamTrackAR
iOS向けのARアプリ。iPhoneで動画を撮影しながらBlenderやAE用のカメラデータを生成できる。 - blendartrack
iOS、Android向けのARアプリ。スマホで動画を撮影しながらBlender用のカメラデータを生成できる。 - ByPlay
iOS、Android向けのARアプリ。スマホで動画を撮影しながらBlenderやC4D用のカメラデータを生成できる。無料版の場合、撮影可能時間が5秒と短い。
初心者向けのヒント
まずは下記の5項目を意識して、カメラトラッキングに失敗しづらい映像を撮ってみよう。
- 4K画質で撮る(後でクロップしてもHD画質を維持できる。)
- 地面が映るように撮る(CGモデルを配置する立ち位置を指定しやすくなる)
- 広角で撮る(カメラを下向きにしなくても、地面が映りやすくなる。)
- ちゃんとカメラを移動させる(あまりにも移動が少ないと解析しづらい)
- 手ブレを抑える(ジンバルを使うか、手ブレに強いカメラを使う。そうした機材が用意できない場合は、丁寧にカメラを動かす。)
関連動画
関連項目・リンク
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