ミス・サイゴン(Miss Saigon)は、1989年初演のミュージカルである。
概要
1985年に『レ・ミゼラブル』を世に送り出した、クロード=ミシェル・シェーンベルクとアラン・ブーブリルの代表作の一つ。
プッチーニのオペラ『蝶々夫人』を基としており、舞台を日本からベトナム戦争末期のサイゴンに変更している。
1989年9月20日、ロンドンのウェストエンド、ドルリー・レーン劇場にて初演。公演回数は4,264回に及び、1999年に惜しまれつつも閉幕した。
また1991年からはブロードウェイでも上演、ツアー公演など世界各地で上演が続けられる人気演目である。しかし題材が題材なだけに、この作品を人種差別・女性差別的であるという非難・批判の声は絶えない。
日本での初演は1992年。本田美奈子と入絵加奈子がキムを演じた。本田美奈子が舞台上で怪我をして入院した際には、アンダー(代役)として伊東絵里も舞台に立った。
エンジニアは市村正親が演じ、「世界一のエンジニア」と絶賛されている。2014年版では胃がん手術の為途中降板となった。2016年版で引退を発表したが後に撤回、2020年版に出演予定である。
公演は全745ステージ、観客動員数111万人という、空前の大ヒットを記録している。
なお演出の関係上、本物と同じ大きさのヘリコプターを始めとした大掛かりな舞台装置が必要である為、かつての上演は帝国劇場と博多座に限られていた。舞台装置のトラブルもしばしばで、一時中断したり開演が遅れるなどのアクシデントも起きている。
あらすじ
第一幕
田舎暮らしをしていた少女・キムは戦争で家族を失い、家も焼かれ、首都サイゴンに逃げてきた。そこで、エンジニアと名乗る男が経営する売春宿「ドリームランド」で働く事となる。
純朴な少女を同輩たちがからかう中、帰国を間近に控えたアメリカ海兵隊の隊員が店を訪問。盛大なパーティーが催される。
その中でただ一人、浮かない顔をしている男がいた。彼の名はクリス、無理矢理同僚のジョンに連れてこられただけで、どうにも馬鹿騒ぎにはなじめない。
そんな時、客の投票によりナンバーワンを決める「ミス・サイゴン・コンテスト」が開催。栄冠に輝いたジジは「自分もアメリカに連れて帰って欲しい」と言って兵士らを困惑させる。戦火迫るこの地で働く女たちは、今よりも良い生活を送れるように願っていた。
ジョンから勧められ、クリスはキムの初めての客となる。一夜を共にした二人は、たちまち惹かれ合った。
キムを保護する為に連れて行こうとするクリスだが、エンジニアはアメリカ滞在許可証と引き換えだと言って譲らない。そんな中、女達はクリスとキムの「結婚」を祝福し、ジジは「本当のミス・サイゴン」はキムだと宣言する。
そこへかつてのキムの婚約者、トゥイが登場。白人と一緒にいるキムを見て激昂し、クリスとトゥイは銃を手ににらみ合う。キムはトゥイに、婚約を決めた両親はベトコンに殺された事、ベトコンに味方したトゥイには何の感情も持ち合わせていない事を告げ、トゥイは二人に罵声を浴びせて退場する。
クリスは帰国する時には必ずキムを連れていくと約束するが、1975年4月30日、遂に首都サイゴンは陥落。困難な状況下でキムを連れていこうとしたクリスだったが、逼迫した状況下で周囲の反対によって連れていく事は叶わず、ただ一人で帰国する。
それから3年後。
サイゴンは「ホーチミン」と名を変え、解放と米軍撤退を祝う記念パレードが行われていた。
新政府の高官となったトゥイはエンジニアを探し、キムを連れて来るように命令する。その頃キムはクリスが自分を迎えに来てくれると信じ、ひっそりと貧民街で暮らしていた。
一方のクリスは、帰国後にアメリカ人妻のエレンと結婚していた。クリスとキム、夢の中で二人はそれぞれに不安を覚え、あの日誓い合った仲が引き裂かれる事を恐れる。
1週間後、トゥイの部下がエンジニアを発見。トゥイは彼を脅してキムの隠れ家に向かうが、キムはトゥイを拒絶する。更にはクリスとの間に生まれた息子・タムが傍らにいた。激怒してタムを殺そうとするトゥイを、キムはクリスが置いていった拳銃で射殺してしまう。
母子はエンジニアと共に逃げるが、事情を知ったエンジニアは、うまくやれば自分もアメリカに移住できるかも知れないと考えてキムに協力。表向きはタムの叔父という事にして、三人はタイのバンコクへ向かう移民船に乗るのだった。
第二幕
1978年、ジョージア州アトランタ。キムとクリスの仲を取り持ったジョンは、ベトナムでアメリカ兵と現地女性の間に生まれた子供(プイ・ドイ)への支援活動を行っていた。
そこでクリスと再会したジョンは、キムがバンコクで生きていること、クリスとの子供がいる事を告げる。苦悩するクリスに対し、エレンと共にバンコクへ行くよう薦めるジョン。
悩んだ末、クリスは長年秘密にしていたキムの存在を、遂にエレンに告白。全てを理解したエレンは、夫と共にバンコクへ向かう事を決意した。
バンコクのナイトクラブで、キムはダンサーとして働き、エンジニアは客引きとなっていた。そこへジョンが現れ、クリスがバンコクに来ている事を告げる。しかし純粋にそれを喜ぶキムに、既に彼はアメリカで結婚している事はどうしても言えなかった。
これを聞いたエンジニアは、キムが騙されているかも知れないと忠告。またトゥイの亡霊が現れ、サイゴン陥落の日と同様、クリスがキムを裏切るだろうと脅す。思い悩むキム。
クリスが投宿しているホテルを単身訪れたキムは、そこでエレンと出会う。最初はエレンをジョンの妻だと勘違いするが、真実を知って愕然となる。せめてタムはクリスの子供としてアメリカに連れて行って欲しいと願うキムだが、エレンは子供には母親が必要である事、自分もまたクリスとの子供が欲しい事を告げ、二人は対立してしまう。
そこへキムを探していたジョンとクリスが戻り、遂にクリスはキムとの対面を果たした。そこでクリスは初めて、キムが我が子を「アメリカ人」として育って欲しい事を知った。しかし最終的にクリスはエレンを選び、キムとタムには資金援助をする事で責任を取る道を選ぶ。
キムは「自分が生きている限りタムはアメリカには行けない」と理解すると、我が子の幸福の為に自分の部屋で命を絶つ事を選ぶ。
銃声が鳴り響き、驚いた一同がキムの部屋に入ると、そこにはキムが倒れていた。クリスの腕に抱かれたキムは、最初の夜を懐かしく想いながら、静かに息を引き取るのであった。
登場人物
- キム
ベトナム人の少女。良くも悪くも純真な性格。
田舎で暮らしていたがベトコンに家族を殺され、17歳でサイゴンまで逃げてきた。売春宿「ドリームランド」で客を取る事となり、最初の客となったクリスに心惹かれ、愛し合うようになる。
サイゴン陥落後にクリスとの息子・タムを出産。一人でタムを育てながら、クリスが迎えに来てくれる日を信じている。 - クリス
アメリカ兵。同僚に連れられて訪れた売春宿でキムと出会い、愛し合う。
サイゴン陥落により強制帰国となり、国の為に戦った自分達が国民から冷たい目で見られる事に苦しむ中、再出発の為にエレンと結婚。しかし…… - ジジ
「ドリームランド」で働く売春婦。
店で開かれた「ミス・サイゴン・コンテスト」で選ばれるが、クリスと結婚するキムを仲間と一緒に「本当のミス・サイゴン」と呼んで祝福してくれる。 - エンジニア
「ドリームランド」の経営者。フランス・ベトナムの混血児。
通称の「エンジニア」は技術者ではなく「世渡り上手」を意味する。アメリカに行く事を夢見ている。 - トゥイ
キムの従兄弟。
13歳の時に親の取り決めでキムの許嫁となったが、ベトコンに寝返った事でキムからは嫌われている。キムがクリスと恋に落ちた事を知って怒り、執拗に彼女をつけ回す。 - エレン
帰国したクリスと結婚した女性。
夫の心の闇に立ち入る事が出来ないまま、3年を過ごす。後にクリスがベトナムに子供を残している事を知り、彼と共に旅立つ。 - ジョン
クリスの同僚。クリスとキムが出会うきっかけを作った。
戦後は帰国し、アメリカ兵が現地に残した子供を助ける活動に身を投じる。
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