86年、桜花賞。
その美しき黒い流線形。
嫉妬すら追いつかない。
憧れすら届かない。その馬が史上初の三冠牝馬になることを、まだ誰も知らなかった。
“魔性の青鹿毛”。その馬の名は…
メジロラモーヌとは、1983年生まれの元競走馬・繁殖牝馬である。
史上初の牝馬三冠(当時桜花賞・優駿牝馬・エリザベス女王杯)を、トライアル三冠と共に決めた名牝。
主な勝ち鞍
1985年:テレビ東京賞3歳牝馬ステークス(GIII)
1986年:中央競馬牝馬三冠[桜花賞(GI)、優駿牝馬(GI)、エリザベス女王杯(GI)]
報知杯4歳牝馬特別(GII)、サンケイスポーツ賞4歳牝馬特別(GII)、ローズステークス(GII)
1985年優駿賞最優秀3歳牝馬
1986年優駿賞最優秀4歳牝馬
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「メジロラモーヌ(ウマ娘)」を参照してください。 |
概要
父はメジロの総帥とシンボリの総帥が共同で購入し、種牡馬入りさせたリファール産駒モガミ、母メジロヒリュウ、母の父はネヴァービートという血統で、半弟にはオグリらと同世代でしのぎを削った詰め甘おぼっちゃまメジロアルダンがいる。
幼名は俊飛。幼い頃は血統評論家に血を汚すとまで言われたくらい気性難が多いモガミ産駒らしからぬおとなしい馬で、脚にも欠陥があるなど期待を持たれておらず、受け入れ厩舎がなかなか決まらなかったが、後にメジロライアンらを預かる奥平真治厩舎に、メジロの馬として始めて入厩することになった。
デビューに向けてメジロ牧場で調教を積み始めると、脚の欠陥も治り、馬体のバランスも素晴らしいものへ変わっていった。
1985年
デビューしたのは秋の府中開催。ダート変更となったレースだったがすでに調教でもスゴい動きを見せており、その動きの評判に違わぬ圧勝を見せる。
なんせ3.1秒差である。約20馬身ちぎったと書くと凄さが分かるであろう。
そのせいか次走の京成杯三歳ステークスでは牡馬を差し置いて一番人気に推されるがスタート直後に接触してかかりっぱなしになってしまい5頭中4着に敗れてしまう。
次の条件戦を快勝し、当時牝馬の三歳GIがなかったため関東の牝馬の最大目標であったGIIIテレビ東京杯三歳牝馬ステークスへ。
ここを当時の牝馬としては破格の1:34:9で駆け抜け重賞初制覇を飾る。前走から乗り変わっていた柏崎騎手も重賞初勝利となった。
この勝利が決め手となり、最優秀三歳牝馬を獲得した。
1986年
年明け初戦はクイーンカップから始動するが、激しくイレ込むモガミ産駒らしい部分を発揮し失速。4着に敗れる。
騎手は「イレ込みなんて関係無い、スゴい手応えだったのに…」と言っていたが、馬主の北野ミヤ氏は当日の様子を見て「こりゃ負けるわねぇ」と思っていたとか。
次走は西下し四歳牝馬特別(西)へ。ここで騎手が牝馬巧者の河内にスイッチ。レースは垂れた先行馬のせいで一時最後方に下がってしまうが、目の覚める末脚で差し切り勝利。
迎えた本番桜花賞では無難に前につけ、4角前で一気に進出し押し切り勝ち。見事なGI初制覇となった。
この勝利のあたりから、かつての最強牝馬テスコガビーとの比較すらされるようになっていたという。強さ的にどうなのかはともかく、見た目は黒光りする青毛(テスコガビー)と青鹿毛(メジロラモーヌ)で眉目秀麗、レースでは卓越した先行力で押し切るという共通点はあった。
次走はオークス直行かと思われたが、東京で二敗していることを懸念され、オークストライアルの四歳牝馬特別(東)へ向かう。
ここには3歳の頃から対決が期待されていたノーザンテースト産駒の快速・ダイナアクトレスとの初対決になったが、これを軽く退け勝利。
オークスでも出遅れながら後方から早めに先頭に立つとそのまま押し切る強い競馬を見せ圧巻の二冠達成。
鞍上の河内は「ガビーより強いんじゃないかな」と言い、シンボリルドルフの調教師である野平祐二は「オークス史上稀に見る強い勝ち方」と絶賛した。
ビクトリアカップ創設以来、あやふやにだが存在していた牝馬路線の三冠、その最初の達成が見えてきていた。
秋は地元中山のクイーンステークスからの予定だったが挫石で上手く調整が出来ず、西下しローズステークスから。
ここでもなんとか勝利するが、辛勝だったため三冠へ黄信号!?とも言われた。
そして迎えた最終戦エリザベス女王杯。調教師が後の回想で「いいとこ70%の仕上げ」という、GIに向かうには心もとない体調であった。
しかしながらレースでは残り800mで仕掛け先頭に立つ。が、最後は脚が止まり万事休すかと思われたが、なんとか後続を振り切り三冠達成。偉大な記録を史上初めて達成した。
三冠戦のトライアルレースも全て制覇し、一部では完全三冠とも言われた。一流馬ほどレース数を絞るようになった昨今、特に桜花賞とオークスの間にトライアルレースを使うなどまず考えられないことから、唯一無二の記録になる可能性も高い。
この勝利で重賞6連勝でハイセイコーの記録を抜き、更に当時の牝馬の獲得賞金記録も更新。記録づくめの勝利になった。
続く有馬記念でも当年のダービー馬や天皇賞馬を差し置いて2番人気に推され、体調も絶好調であったが、勝負どころで一頭行けるかどうかのスペースに彼女を含めた三頭が突っ込み失速してしまい、立て直しに手間取り9着に敗れる。まだやれるという声もあったが、「華のある内に引退させます」という馬主の意向もあり引退、繁殖入りとなった。
しかし獲得したJRA賞は最優秀四歳牝馬のみにとどまり、年度代表馬の受賞には至らなかった。
通算成績12戦9勝。
Queens of 1986
1986年を思い返す時、僕らはきっとキミを思い出す。
史上初の三冠牝馬。その偉大な記録は勿論だけれど
まぶたに焼きついた、あの華麗な走りが、鮮やかに
浮かび上ってくるだろう。1986年、キミはここにいた。
引退後
繁殖牝馬としては、デビュー前の欠陥や体質的にあまり強くないところがよく遺伝してしまったことや
母父モガミが悪いところが似やすいところがあったか失敗だったこともあり、競走成績に優れた子は残せなかった。
2005年、永眠。シンボリルドルフとの間に生まれた十冠ベイビー・メジロリベーラの孫、ひ孫にあたるフィールドルージュのGI獲得を見ることは出来なかった。
その後時は流れて2019年、2003年生まれの後輩メジロライアンとの間の子であるメジロルバート-メジロツボネ(父スウェプトオーヴァーボード←!?)のラインから生まれたこれまたひ孫のグローリーヴェイズ(父ディープインパクト)が香港ヴァーズを勝利し海外芝GIを獲得。
同じモガミ産駒・同郷のメジロモントレーの孫であるモーリス同様、メジロの血が香港で光り輝いたのであった。
その思い出
時間も場所も
相手が誰であろうと
そんなことは関係ない。与えられた仕事を
完璧にやり遂げて
そのひとつひとつを
つよく印象に残す。
黒光りする美しい青鹿毛の馬体、祖父のリファールに似た愛らしい顔立ちと強さを両立させた、史上稀に見る牝馬であった。
モガミ産駒はお腹ボッテリのブサイクな馬体に出ることも多かったが彼女はスタイル抜群であり、競馬の神様こと大川慶次郎も「モガミからこの馬が生まれたのは信じがたい」とコメントしている。
強さの面では、有馬記念の惨敗故か、クラシックにろくすっぽ出られず、ラモーヌには全敗であったが
後に牡馬一線級と激戦を繰り広げたダイナアクトレスより低く見る向きすらある。が、有馬記念では致命的不利を受けており、評価対象外という意見も根強い。
騎手の河内も後のNumberの1999年の企画では騎乗した最強馬にサッカーボーイやニホンピロウイナーを差し置きこの馬を挙げており
「4歳で引退したからわからないところもあるけど、続けていれば牡馬とやって強さを証明したかった」と述懐している。
調教師の奥平もメジロライアンよりこの馬を評価していたり、ポテンシャルは相当あったと感じさせる馬だったのだろう。もっとも実際に牡馬と走ったのがたった一回の不完全燃焼だけでは、推し量りようもないのだが… …。
とにかく、彼女のをことを知らなかったなら一回動画を見て欲しい。こんなに綺麗で強い馬、滅多にいないから。そりゃ桜花賞のCMに採用されるなと納得していただけるはずである。
血統表
*モガミ 1976 青鹿毛 |
Lyphard 1969 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Goofed | Court Martial | ||
Barra | |||
*ノーラック 1968 黒鹿毛 |
Lucky Debonair | Vertex | |
Fresh as Fresh | |||
No Teasing | Palestinian | ||
No Fidding | |||
メジロヒリュウ 1972 鹿毛 FNo.9-f |
*ネヴァービート 1960 栃栗毛 |
Never Say Die | Nasrullah |
Singing Grass | |||
Bride Elect | Big Game | ||
Netherton Maid | |||
*アマゾンウォリアー 1960 鹿毛 |
Khaled | Hyperion | |
Eclair | |||
War Besty | War Relic | ||
Besty Ross | |||
競走馬の4代血統表 |
産駒成績
- メジロリュウモン (1989年産 牡 父メジロティターン) 9戦0勝
- メジロリベーラ (1990年産 牝 父シンボリルドルフ) 1戦0勝
- メジロテンオー (1992年産 牡 父リアルシャダイ) 中央平場18戦2勝 障害2戦1勝 地方9戦0勝
- メジロディザイヤー (1994年産 牡 父サンデーサイレンス) 中央15戦2勝 地方1戦0勝
- メジロモンジュ (1996年産 牡 父リンドシェーバー) 中央8戦0勝 地方2戦0勝
- メジロブレット (1997年産 牡 父ティンバーカントリー) 中央平場15戦1勝 障害6戦1勝
- メジロフラックス (1998年産 牝 父ラムタラ) 中央16戦1勝 地方1戦0勝
- メジログリーン (1999年産 牡 父メジロライアン) 中央平場57戦4勝 障害6戦0勝 地方3戦0勝
- メジロベッカム (2000年産 牡 父ブライアンズタイム) 中央19戦0勝 地方8戦1勝
- メジロスノーシュー (2002年産 牝 父エルコンドルパサー) 不出走
- メジロルバート (2003年産 牝 父メジロライアン) 中央11戦0勝 地方1戦0勝
- メジロラスタバン (2004年産 牡 父タニノギムレット) 中央平場12戦0勝 障害22戦2勝 地方3戦0勝
直仔は特筆すべき成績を残せていないが、ラモーヌの能力は隔世遺伝するらしく、曾孫の世代から活躍馬を出している。
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 1986年クラシック世代
- メジロ牧場
- クリフジ(オークス・ダービー・菊花賞の変則三冠を達成、ある意味最初の”牝馬の”三冠馬)
- 牝馬三冠
- キングヘイロー(2012年高松宮記念CM採用馬)
- アグネスタキオン(2012年皐月賞CM採用馬)
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牝馬三冠 | 達成馬無し | |
変則三冠 | クリフジ(1943年) | |
中央競馬牝馬三冠 | メジロラモーヌ(1986年) | スティルインラブ(2003年) | アパパネ(2010年) | ジェンティルドンナ(2012年) | アーモンドアイ(2018年) | デアリングタクト(2020年) |
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