- アニメ『新機動戦記ガンダムW』及び、『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』に登場する、人型機動兵器(ロボット兵器)の分類の一つ、およびそのシステムのこと。本記事で解説。
- アニメ「ガンダムビルドダイバーズ」及び「ガンダムビルドダイバーズRe:RISE」に登場する、ある目的のための特殊なガンプラ。詳細は当該記事へ。
ガンダムシリーズ前史
そうだよ…お前が生身の人間を殺せない、かわいい坊やだって知っているのさ。
――『機動戦士ガンダムZZ』より、ハマーン・カーン
――『機動戦士ガンダムF91』より、ビルギット・ピリヨ
ガンダムシリーズにおけるロボット兵器は代々モビルスーツ(MS)と呼ばれ、その外形を人型を拡大したものにすることで、戦闘空域における多用途性や汎用性を高める手段として生まれた。
このモビルスーツは人間が操縦しており、本当の意味では純粋なロボット(リモートな兵器)ではなかった。機械同士が争ってもなお、戦場では美しい輝きがひとつ起こるたびに、何人か何百人かの人々が、確実に宇宙の塵となっていた(永井一郎調)。
しかし、モビルスーツといういわばスポーツカー然としたマシンがブランド化し普及していく中で、安全圏における人々においては、戦争という状況に対する可視化を妨げるものであった可能性は否定できなかった。現に、『機動戦士ガンダム』においてはサイド6のテレビ局が出港したばかりのホワイトベースの戦闘をプロレス中継のごとく放送していたり、『機動戦士ガンダムZZ』初期のジャンク屋としてのジュドーらのモビルスーツへの認識、そして『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争』劇中で見られた学校の少年達の会話や我々視聴者がそうであったように、機械しか目に見えない血の匂いの薄れかけた戦場は、人々から命の尊さを奪ってはいなかっただろうか…?
可視化されない人の死が悲劇を生む事は、必ずしもモビルスーツに限った話ではない。しかし、『機動戦士Zガンダム』の第7話では、毒ガスによって死滅したコロニー(30バンチ事件)の内部で、クワトロ・バジーナは可視化しない殺人について、以下のように語った。
カミーユ「(ミイラの首が転がるのを見て)うっ…なんで死体を放っておくんです」
クワトロ「数が多すぎる。」
カミーユ「何故…こんなふうに人を殺せるんですかっ!」
と、かなり突っ込んだやりとりを行っており、ここで明確に命をやり取りする戦いを顧みることができないリモートな殺人がエスカレートした末にもたらす悲劇と危険性を示唆する描写が存在していた。
更にその後、製作側自身がそれを懸念するかのように『機動戦士ガンダムF91』では、富野総監督が上記の例のような「毒ガスより直接的な痛みを感じさせるものが欲しい」という要望をしたことにより、バグという自律型の無差別殺戮兵器が登場し、ついには『機動戦士Vガンダム』にてギロチンによる処刑という、リモートというだけでなく視覚的に直接的な痛み(劇中では首が落とされるシーンは描写していないが首が落ちる音が不快感を増大させている)を与える、旧世代の殺人までが登場した。
本項目の"モビルドール"が登場した『新機動戦記ガンダムW』では、戦うことについての意味・大義について、主要人物の各個人が悩み抜き、その中で結果を残すというストーリーラインが物語の軸になっている。このモビルドールもまた、かつてのガンダムシリーズでも行われた、無機質な機械同士の戦争の中で、正義や大義を見出す上で世界観に問題提起を突き付ける為の要素としての側面を持っている。
概要
モビルドールとは"MOBILE Direct Operational Leaded Labor"の略称。更に略して、"MD"とも表記される。
その名の通り、無人による自律行動を行うモビルスーツの総称である。前述の観点から見れば、モビルスーツとは異なり本当の意味での"純粋なロボット"であるといえる。
秘密結社OZの技師長・ツバロフ特佐によってシステムが考案・開発され、ロームフェラ財団のデルマイユ派貴族が中心となり、OZのモビルスーツ部隊に導入され、後にホワイトファングも利用していた。
当初は純粋な有人モビルスーツにモビルドール・システムを搭載することで無人化していたが、やがてOZはモビルドール専用の量産機の開発に着手。戦線に投入されることとなった。
モビルドールはただの無人機というだけでなく、様々な面で人間操作によるMSの足枷が解消され、戦闘能力のあらゆる面が有人機を上回っていた。加えてモビルドール専用の機体の完成度の高さも相まって、参戦当初はガンダムタイプのMSをも追い詰めるほどの戦闘力を見せつけていた。この為一時はリーオーやエアリーズに代わりOZの主戦力として地球の各地で活躍し、ことツバロフに関しては「モビルドールが兵士に代わる主戦力となる」とまで豪語していた。
しかし次第に無人であるがゆえの欠点も露呈し、機体の改良や運用体型を変えながらも最終的には戦場の主戦力として繁栄することはなかった。こうした欠点に加えて、『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』の世界観においてはツバロフやガンダムを作った科学者達が死亡していることもあり、既に第一線から退いている。
モビルドールのメリット
- パイロットを必要とせず、機体を製造するだけで即座に戦線に必要な数を投入できる兵員補強能力
- 通常の人間では耐える事のできない高加速Gを活かした空間戦闘能力
- プログラミングによる、人為的・精神的な誤差の生じない規則的で実直な行動パターン、精密な射撃が可能
インプットされた戦闘アルゴリズムに則った完全な自律行動が可能である。
また有人機を中心とする編隊を組み遠隔操作することによって、より細かくかつ状況に応じた指示を出すことも可能で、重要任務にあたる際利用される。
更にゼロシステムを応用した管制ユニットを利用し、ドロシー・カタロニアが集団運用した例もある。
モビルドールのデメリット
- 規則的な行動を熟練パイロットに見切られた場合、対処することが難しいこと
- 戦場での状況判断能力に乏しく、攻撃目標に設定された標的であれば見境なく攻撃してしまう単調さ
- 管制施設を破壊・占拠された場合、無条件に全ての機体が無力化又は造反させられてしまうこと
- 有人による味方側の造反等を想定しておらず、味方機と識別している機体については一切無抵抗なこと
- 戦場における戦争責任が希薄になること
優れた戦闘システムこそインプットされているものの、融通や機転が利かず、まだまだ兵士と呼ぶには詰めの甘い欠点が数多く残されていたことも事実である。この点を多少改善する為、後にガンダムパイロットの戦闘データを組み込んだ改良型のモビルドールシステムも実戦に投入されたが、最終的には生身のガンダムパイロットに敗北している。
その上、そもそもモビルスーツという大量殺戮兵器を投入しながら戦場で兵士が血を流さずに済むモビルドールのプロセス自体が極端な実用主義(インストルメンタリズム或いはプラグマティズム)によるものであり、軍属に支配され増長した特権階級の思想の象徴という負の側面も持っていた。
そのような起こした結果に対して後から取り繕うように作り上げる真理、過程を省みない思想がエスカレートして行き着く先の未来は人類そのものの破滅を招きかねず、人道的な反省をなすこともできない倫理的に欠如したものであるとして、当のOZ内でさえそのような思想を良しとしないトレーズ・クシュリナーダ総帥をはじめ、反発する者も多かった。
トレーズ「モビルドールも兵士も扱うのは人間です。もう少し人間を評価し、人間を愛してもらいたいものです。」
――『新機動戦記ガンダムW 第18話 トールギス破壊』劇中より抜粋
トレーズ「かつて、ボタン一つで全ての戦いに決着がついてしまう時代があった。その忌わしい精神の根源が、このモビルドールというものだ。そして、延長にあるものが、あのリーブラだ。戦争から人間性が失われれば、勝利も敗北も悲惨なものとなり、神は、どちらにもその手を差し伸べてはくれない…。」
張五飛「綺麗ごとを抜かすなっ!貴様の為に戦火が広がり、多くの人が死んでいった!!お前が戦う相手は、俺だけで十分なはずだ!」
トレーズ「…その通りだな。」
トレーズ「私は死者に対し、哀悼の意を表することしかできない…。だが、君もこれだけは知っていて欲しい…。彼らは決して無駄死になどしていない…!そして…」
――『新機動戦記ガンダムW 第48話 混迷への出撃』劇中より抜粋
総帥トレーズは、多数のコロニー各国を武力によって制圧したOZによる罪を受け入れつつも、最期までモビルドールのような思想に対しては否定を貫いたのだった。
またガンダムを制作した5人の科学者も、OZに囚われている中でモビルドールに関する技術開発に協力を要請されるが、以下のように拒否している。
ドクターJ「自分の手を汚さず戦うなど最早これはゲームじゃ。戦争を起こす人間は愚かじゃが、そこで流される血は無駄ではない…。」
プロフェッサーG「愚かな人間はその血を見て僅かながら反省ができる。だがゲームに成り下がった戦争は、娯楽になるからな?」
ドクトルS「いっそゲームで勝負を決めてくれればいいな。そうすれば誰も死ななくて済む。」
レディ・アン「相手にその技術があればな。」
ドクターJ「技術が無いのではないっ!戦争をする責任を自分の体で感じる為、オート機能を与えないのじゃ!」
レディ・アン「与えられるのか。ならばお前達はもう少し長生きが出来ると言う事だ。」
H教授「作れませんね。そんなことするなら死んだほうがマシです。」
老師O「若い者は合理的に考えたがる。ならば戦争こそ、合理的でないわ。」
レディ・アン「お前達が造ったトールギス及び、ガンダムより性能の良いMSを造らせてやろうと思ったのだが。」
プロフェッサーG「殺せ!痛くも痒くも無いゲーム盤の戦争に、手を貸すつもりは無い!」――『新機動戦記ガンダムW 第18話 トールギス破壊』劇中より抜粋
機種
各機体に関しては、当該の個別記事を参照。
- OZ-06MS リーオー(実験機、実戦運用を想定していない)
- OZ-01MD トーラス(形式番号は本来OZ-12SMSであるが、モビルドールは専用の番号で識別される。)
- OZ-02MD ビルゴ(MD専用として開発された初の機体)
- OZ-03MD ビルゴⅡ
- OZ-13MSX1 ヴァイエイト
- OZ-13MSX2 メリクリウス
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関連項目
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