モラルハラスメントとは、ハラスメント行為・暴力行為の1種である。心に対する暴力。
モラハラと略して呼ばれる事が多い。
概要
セクシャルハラスメント、パワーハラスメントに並ぶ、精神的ないじめ・嫌がらせ・暴力行為の1種。
職場での嫌がらせ行為や学校のいじめ以外にも、家庭内(夫婦間・親子間・嫁姑間)や恋人同士での間柄にも当てはまる事があり、その場合はドメスティックバイオレンス(=家庭内暴力)の事例としても成立する。
名前の通り、殴る蹴るなどの暴力を用いず言葉や態度などで精神的に相手を追い込み、不安に陥れたり相手の言う事を忠実に聞く奴隷にする。具体的には、無視する、周囲に悪い噂を流す、過去の失敗談を蒸し返し笑いものにする、孤立させる、長時間に渡って説教する、趣味や嗜好、態度や言葉遣いなど些細な事にも難癖をつけて怒鳴る、など。
こういった事を何か月~何年もの長期間に渡ってやり続けることで毒のように相手の精神を蝕んで、徐々にメンタルを破壊していく。被害を受けた側は「自分はダメな人間だ」と思いこまされ鬱病になったり、精神病、統合失調症、ほかストレス性の様々な病気を引き起こす。自信や自我を破壊され自殺に追い込まれたケースもあったとされる。
名前はフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって提唱された言葉が由来。
そのフランスでは、2002年にモラハラを禁止する法律が制定されており、2004年以降には犯罪行為として認定され、罰金と懲役刑が課せられる。
日本ではフランスなど諸外国とは違いセクハラやパワハラほど定着していないが、内容や目的はどうあれ、人間社会では立派にいじめや暴力事件として成り立つ事例なのである。
特徴・行動パターン
モラハラの特徴はパワハラやセクハラとは似ているようで大きく異なり、周囲はおろか被害を受ける当人も自分が置かれている状況をモラハラ(=いじめ、ハラスメント)と認識できていない事もある。以下に、簡単に記述。
- 最初は親切にあたり、過保護な態度で恩を売り、後の布石にする
- 無視する、嫌味や皮肉を言う、など一つ一つは取るに足らないような小さな事を長期に渡り繰り返す。
- 周囲の人には人当たりも面倒見も良く好印象だが、ターゲットと自分2人だけの密室になると途端に悪魔の顔へと変貌、睨みつけたり無視したり口実を見つけて説教を始める(家族間の場合は、家の中では暴君だが一歩外に出れば愛想の良い理想の父親・母親を演じる、等)。
- 些細な失敗も責めたりなどして、第三者が周囲にいる前で「ダメ人間」「かわいそうな人」のレッテルを貼り付けるような言動や態度を取り、周囲にもマイナスイメージを認識・定着させる。
- 何をやってもまず否定から入り、絶対にいい所を口にしないし褒めない。逆に重箱の隅をつつく程度の事も針小棒大に騒ぎ立て怒鳴る(一応、褒める場合もあるが、褒めることが少ない。)。
- 「みんなに迷惑だと思わないのか」「みんなお前の事をおかしいと言っている」と、まるで当人に言いづらい集団の総意を代弁してやっているかのような事を喋る(この内容が正論の場合もあるため質が悪い)。
- ターゲットがこれらの行いに何か言ってきても、「冗談のつもりだった」「ちょっと言い過ぎてしまった」「根に持つ奴」と被害者面をして、自分は被害者、ターゲットこそが真の加害者であるかのように振舞い宣伝する。
- 間違ったり不適切な点を責めても、正解やヒントは絶対に教えない。
- 完璧主義を装っている事例もある(=自分の思い通りに動かさせる為)。
- 真剣に話をしようとしても、問題解決のための話し合いを拒否する。
(はぐらかされる、相手にされない、「お前はおかしい」「自分の事ばかり考えるな」と逆切れする、etc...) - ダブルバインドの詭弁
「人と話をする時は相手の目を見るものだろう」→「何睨みつけてるんだよ、ああ?」
「仕事の時は報告しろと言っただろ!」→「そんな事はいちいち報告しなくていい!」
「その程度の事は自分で考えろ!」→「勝手な行動をするな!」
「え?この間と話が違うんですが・・・」→「後に言う方が正しいんだよ!おれがお前に言う時はな!」
といった風に言う事(説教の内容)が矛盾している。モラハラの典型例の1つ。
『ダブルバインド』の記事にもあるが、何をやっても何もしなくても徹底的に罰を与えられる、という事を学習させる事で、服従する以外の選択肢は無い状況を作っていく。言い換えれば、怒られる条件を曖昧にすることであらゆる行動を罰することができ、気に入らないと思ったらいつでもターゲットへ攻撃を始められる。全ての選択肢に地雷が設置済の質問、または後出しじゃんけんで相手を徹底的にやりこめて、気力も思考も、自立性も反抗心も奪っていくのが目的。
そしてターゲットはいつ攻撃が始まるかもわからず、自発的に発言も行動もできなくなっていく。その結果、「最も傷が小さく済むのは全く動かない事だ」と学習して、言葉や意思表示も少なくなり仕事の効率も落ちていく悪循環に嵌まる。更に、後述する通り外部には「ミスや失敗に対するしつけ・指導」と巧妙にカモフラージュする事でターゲットを理不尽な攻撃に晒しながらも外部へ真実を隠蔽できているのがモラハラの悪質な点である。 - 悪意丸出しの質問をして、相手の自尊心や人間性を否定する
「こんな忙しい時に有給なんて使って、みんなに迷惑だと思わない?それとも自分さえ良ければどうでもいい?」
「やる気あるの?ないの?」「あるんだったら何でこれくらいもできねえの?」
「ふうん、有給使いたかったら使えば?ただしもうお前には誰も何も仕事を頼まなくなるぞ、それでもいいのか」 - 私物を漁ったり、SNS(LINE、ブログ、twitter等)を監視してはプライベートまで縛り付けようとする
見られたくない、または覗かれていると感じたら早々にSNSのアカウントに鍵を掛けた方がいいだろう。 - 証拠を残さない
モラハラの一番の特徴。暴力を振るって傷跡を残すわけでもなく、ターゲットは誰にも被害を相談できない上、相談された相手も第三者に見えない藪の中で何があったのかがわかりにくいため状況が改善しにくい。 - 機嫌がいい日もあり、そのため攻撃してくる時と何もしてこない日とではムラがある
いわゆる『飴と鞭』。心が折れそうになったタイミングで優しさや寛容さを見せてくるので、被害者側は一層「やはり自分に原因があるのかもしれない」と思い込み、加害者への反抗心を抑えるようになる。 - 攻撃的な時はとにかくしつこく、どんな小さな事にも干渉してくる
一言二言注意して片付くような失敗話さえ、10分20分の長時間に渡る説教のネタにしたり、(職場の仲間など)みんながいる場所でターゲットを目の前に当人の失敗話を喜々として話したり、馬鹿にする。または、過去の失敗話を掘り返したりする事もある。 - 被害者が被害を訴えにくく、周囲もモラハラの事実に気づかない
上記のような被害を訴えても「考えすぎ」「気にしすぎ」「あの人がそんな事するわけがない」「言い返せばいいのに」と一蹴され、加害者に対してキレたり周囲へ真剣に訴えるほど自分が段々墓穴を掘っていくだけ、というケースが多い。加害者が周囲に人がいる際にターゲットを攻撃したところで、既にターゲットには上記の通り「ダメ人間」などのレッテルが貼られている事もあり「しつけ」「熱血指導」の一環としか受け取られず、都合の悪い妄想として片づけられる。加害者もそれらの言葉を免罪符にターゲットを心無い言葉や態度で責め立てる。
モラハラ加害者は大抵頭がいいので、ターゲットが助けを求める事も反抗する事も逃げる事もできないよう包囲網を着々と作り上げていくのである。そればかりか、モラハラ加害者がターゲットを責めている際に周囲が悪意なく加勢してくる事例もある(セカンド・ハラスメント)。
((怒鳴られるので目を逸らす)→「それが話を聞く態度か!XXさんが話してるんだからちゃんと聞けよ!」) - 加害者か被害者が障害者だった場合、障害扱いでスルーされてしまうことも。
- そのため、ターゲットにされた人は加害者の気が収まるまで一方的にサンドバッグにされ続けるしかないと学習させられ無気力に陥り、加害者の言う事を忠実に聞くロボットとなるか、学習性無気力となってさらに状態が悪化する。
これらのような事を、数ヵ月~数年に渡って継続しじわじわと行う事でターゲットは次第に自由も精神的余裕も奪われていく。これら一つ一つは気にする事もないような些細な事であるためターゲットが自分が被害者である事を認識しにくく、「言葉の暴力を振るう相手は確かに悪いけど、原因は自分にある」と葛藤し、見えない牢獄にでも幽閉されたかのように錯覚し余計に苦しみ続ける事になる。無論、これらのダメージは時間が積み重なれば重なる程大きくなり、深い傷跡となる。
そしてモラハラが会社内で行われていた場合、精神を蝕まれ仕事の効率が落ちたり失敗・ミスが多くなる悪循環に嵌まり、更にはその事自体を加害者が、ターゲットを攻撃する材料として利用するなどどこまでもキリがなくなる。
更には「ダメ人間」と言われ続けて本当にダメ人間になってしまえばいずれは仕事や生活にもモラハラの悪影響が形となって出てしまい、「ほらやっぱりあいつはおかしかった!」「このままじゃアイツは本当にダメになるから今日から俺が」と更なる攻撃の口実と正当性を与え、結果としてモラハラで精神を病めば病むほどモラハラは周囲からも正当化されていくことになる。
対処方法
- 距離を置く、可能なら逃げる
何をやっても攻撃されるので、モラハラ加害者と接触を最小限に抑えるしかない。
恋人やバイト先の人など、比較的簡単に縁を切れる相手ならば早々に逃げた方がいいだろう。 - 第三者に相談する
勿論、ここでいう第三者とはモラハラ加害者の息がかかった「第三者(加害者以外の家族、会社の上司・同僚など)」ではなく、本当の意味でこの件を相談できる相手の事である。カウンセラーや信頼できる相手(家族)など、腹を割って話せる相手に話す方が、自分ひとりで抱え込むよりも気分は幾らか楽になる筈。
会社ならば、信頼できる上司(加害者以上の高い地位を持つ相手)や匿名で受け付ける通報機関へ相談するのもいいと思われる。あからさまに当記事に該当する仕打ちを受けている場合は「モラハラをされている」とハッキリと言ってもいいかもしれない。 - 自分自身で最適な判断を下し行動する
何をやっても、または何もしなくても怒鳴られるのはたまらないが、モラハラ加害者の方も自分が以前に何を言ったか覚えてないか感情だけで行動しているか、或いは相手の事を認める気が無いだけなので、加害者の言う事にいちいち振り回されないように動くしかない。
どうせ難癖など、付ける気になれば何にでも、どんな事にでも付けられるのだから。 - わかり合おうとしない(どんな間柄であっても、加害者は自分に悪意を向けた危険人物であると認識する)
加害者がどんなにいい人だったとしても全く関係ない。モラハラやそれに類する行為を働く時点で、本質的にはいい人ではないし、そもそも相手を対等な存在だと認めていないので、当事者間での話し合いは無意味である。モラハラを指摘されたところで大抵は非を認めないし反省もしないケースが多いとされている。指摘する役は必ず第三者(さらに上の上司や司法機関など)でなくてはならない。 - 音声を録音する
上述の通り、モラハラは証拠が残らないので被害を訴えても相手が白を切ったり「冗談のつもりだった」「ただの被害妄想だ」と流されて終わるのみならず、周囲に自分が悪者であるかのように印象を操作されたり報復として更にモラハラが激化する事もある。そのため、会社など容易に逃げられない環境から状況を打開するなら、被害者と加害者の2人しかいない密室で言われた暴言などを録音するのもベストだろう。
無論、録音している事を気づかれないようにする以外にも、誰にそれを聞いてもらうかもよく考える必要があるが。 - やられた事を全く同じように返す、周囲を巻き込んで反撃に出る
絶対にやってはいけない間違った対処法。前述の通りモラハラの加害者は被害者よりも頭が良いことが多く、加害者側の行為が巧妙に隠される中で被害者側の反撃だけが表沙汰となり、「被害者側が悪い」というレッテルを自ら認めるハメになってしまいがち。最悪の場合は被害者側だけが法の裁きを受けることになる。また、上手く加害者側の非を証明できたとしても周囲の評価は「どっちもクズ」以上にはならない(周囲の人間がモラハラ加害者の敵にめでたくなってくれたとしても、同時に自身も周囲の人間の敵に間違いなくなってしまうのでモラハラ加害者がいたとき以上に辛い状況になる可能性が高まる)。
ついにはターゲットが精神の限界を迎え退職に追い込まれたり自殺したところで、加害者は「遊んでた玩具が壊れた(どこかへ行った)」程度にしか考えないし、周囲もいじめがあった事さえ認識しないまま終結する。
無論、取り返しのつかない事態に陥っても上述の通りモラハラの証拠は出ない為責任など誰一人取りはしないので、モラハラの支配から逃れるには精神を完全に病むより前に自力で気づき脱出するより他にないのである。
周囲の人間の対策
モラハラ加害者の本性を見抜けず、モラハラ被害者だけが一方的に悪いと扱う形になってしまうのは社会的にも倫理的にも非常によくないと思われる。
周囲の人間がとれる対策としては、モラハラの手口を把握すること、その上で被害者の相談を否定しない、加害者がモラハラをやっている可能性があると疑うことくらいか。特にその被害者からの相談内容にモラハラに該当するようなものが多いほどその可能性が高まる。また、モラハラ被害者がモラハラ加害者と思わしき人物をやたら周囲の人間に相談しても解決しないという悲しい理由で敵視し始めたり、モラハラ加害者と出会ってから、モラハラ被害者の勤務態度が悪化したりモラハラ被害者の性格がおかしくなったりした場合も、その疑いがあると考えてもよい。
また、被害者がモラハラの存在について知らない場合もあると思われるので、モラハラについて軽くでも説明し、パンフレットを渡したり、相談機関を紹介したり、被害者の相談に乗ってあげたりするだけでも気持ちが大分楽になると思われる。特に相談機関や加害者に気付かれにくい証拠グッズなどの話題はかなり助かると思われる。
関連動画
関連項目
- ダブルバインド(主たるモラハラの手口)
- ドメスティックバイオレンス
- モンスターペアレント
- いじめ
- PTSD(心的外傷後ストレス障害) / 鬱病 / 統合失調症
- 自己愛性人格障害
- 社会問題
- 罪悪感
参考リンク
モラハラに悩まされている人、「自分はモラハラを受けているかもしれない」と思った人はこちらも参照ください。
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