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モルヒネ(Morphine)とは、アヘンから抽出される麻薬性鎮痛薬である。
- モルヒネ - 日本のシンガーソングライター、椎名林檎の楽曲。
- モルヒネ - ゲーム『DRAMAtical Murder』に登場するストリートファイトのチーム。
- モルヒネ - ニコニコ生放送配信者。当該記事参照。
- もるひね - ゲーム実況プレイヤー。当該記事参照。
- モーフィン(Morphine) - アメリカのロックバンド。
- モーフィン(Morphine) - アメリカのエンターテイナー、マイケル・ジャクソンの楽曲。
- エンドルフィン - 名称の由来が脳内モルヒネ(Endogenous morphine)。
- 脳内モルヒネ - 日本のロックバンド、PIERROTの楽曲。
概要
モルヒネは、ケシの未熟果実から採取される乳液を凝固させて作られるアヘンに含まれるアルカロイドで、オピオイドおよびオピエートの一種である。モルフィン、モーフィーン、モヒとも呼ばれる。1804年、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーによって、天然有機化合物としては世界で初めて単離された。名称の由来は、ギリシア神話の夢の神モーフィアス(Morpheus)。
強い鎮痛作用があり多幸感をもたらすため、戦争で負傷した兵士の鎮痛や薬物中毒の治療を目的に多用された。しかし、耐性(反復投与による効力低下)を形成するため次第に用量が増えてしまう。また、薬物がないと不安になり薬物を強く求める精神的依存や、薬物の投与を中断すると退薬症候(禁断症状)を生じる身体的依存を形成するため、「麻薬に関する単一条約」「麻薬・向精神薬取締法」のもと、生産や流通が厳しく管理されている。
モルヒネの構造を右に示した。この絶対構造決定には単離から実に150年の歳月を必要としている。モルヒネの構造の決定には有機化学の発展が不可欠であり、逆に言えば、“有機化学の発展はモルヒネによって牽引された”[1]といえる。
今日、医薬品として用いられている。アヘン末、アヘンチンキ、モルヒネ塩酸塩およびモルヒネ硫酸塩の錠剤や注射剤などが日本薬局方に収載されており、劇薬・麻薬・処方箋医薬品に指定されている。モルヒネ塩酸塩とモルヒネ硫酸塩で効果や薬物動態に違いはないが、モルヒネ硫酸塩は徐放性製剤のみが上市されている。モルヒネの作用を下に示す。
- 中枢抑制作用 - 鎮痛作用、鎮咳作用、呼吸抑制作用、傾眠作用。
- 中枢興奮作用 - 陶酔作用、催吐作用、縮瞳作用、脊髄反射亢進作用。
- 末梢作用 - 止瀉作用、抗利尿作用、胆汁分泌抑制作用、ヒスタミン遊離作用。
臨床では、鎮痛作用や鎮咳作用を目的として投与する。鎮痛作用は、ほぼすべての型の疼痛に有効である。鎮痛・鎮咳作用以外はすべて副作用に関連する。臨床上、催吐作用(悪心・嘔吐)や止瀉作用(便秘)が問題となるため、制吐薬(吐き気止め)や瀉下薬(下剤)を併用する。もし、モルヒネの過量投与や濫用により急性中毒に陥った場合、呼吸抑制作用によって呼吸麻痺となり死に至る。
術後疼痛、末期がんの疼痛、心筋梗塞の疼痛に適応。疼痛下の投与では耐性や依存性は形成されにくい。また、心拍数や呼吸数を低下させ心負荷を軽減させる目的で、急性肺浮腫の患者に使用される。ただし、気管支ぜん息の患者や妊婦には禁忌。[2]
モルヒネは、ほかの薬では効果が不十分であるときに選択される。また、モルヒネの投与の決定は、患者の死期の近さではなく、痛みの強さによってなされる。基本的には4時間ごとに経口投与される。急に投与を中止すると退薬症候(禁断症状)が生じるおそれがあるので、中止する際は徐々に使用量を減らしていく。退薬症候は、不安感、不快感、発汗、流涙、鼻漏、嘔吐、下痢、睡眠障害などがある。
モルヒネに代表されるオピオイド(アヘンの成分やその類縁物質)は、神経系に存在するオピオイド受容体に作用する。このオピオイド受容体は、δ受容体、κ受容体、μ受容体の3つに大別される。モルヒネはいずれも刺激するが、とくにμ受容体への作用が強く、モルヒネの作用の多くがμ受容体刺激によるものである。ちなみに、“μ”はアルファベットの“m”に相当する文字で、モルヒネ(Morphine)が作用することからμ受容体と名付けられた。“δ”は“d”に相当する文字で、精管(Vas deferens)から発見されたことにちなむ。“κ”は“k”に相当する文字で、ケトシクラゾシン(Ketocyclazocine)が選択的作動薬であることにちなむ。
関連物質
- ヘロイン(ジアセチルモルヒネ)
- 「薬物の王者(The king of drug)」と呼ばれるヘロインは、モルヒネのプロドラッグ(体内でモルヒネに変換される薬物)である。ヘロインはモルヒネの2つの水酸基(-OH)がアセチル化(-OCOCH3に変換)された構造のため、脂溶性が高められており細胞膜を透過しやすく、脳にも移行しやすい。このためモルヒネよりも作用が強く現れる。かつて医薬品として流通していた時代もあったが、現在はヘロインの輸出入、製造、譲渡、施用、所持などすべて禁止されている。[3]
- コデイン(メチルモルヒネ)
- ジヒドロコデイン
- 鎮咳薬(咳を鎮める薬)として処方されたり、市販の風邪薬に配合されていたりするコデインやジヒドロコデインは、実はモルヒネと類似した構造をもち、一部は生体内で代謝されてモルヒネとなる。したがって、軽度ではあるものの依存性が認められ、長期連用には注意を要する。副作用は眠気、吐き気、便秘など。濫用のおそれがあるとして、コデインやジヒドロコデインを含む一般用医薬品の販売は一人1箱までと制限されている。また、小児への投与は禁忌である。
- デソモルヒネ(ジヒドロデオキシモルヒネ)
- デソモルヒネもモルヒネから誘導される麻薬性鎮痛薬で、鎮痛作用はモルヒネの8倍から10倍とされる。ロシアなどでは入手が容易なコデインを原料としてデソモルヒネが密造されている。その過程でガソリンやシンナーを使用するなどの粗悪な合成が行われるため、密造品には毒性や腐食性のある不純物が含まれている。これを常用すると壊疽(体の組織の腐敗)を引き起こし骨が露出する。そして常用者の多くが数年で死亡する。
関連動画
関連静画
関連項目
- 化学
- 医学 / 薬学
- 医薬品
- 麻薬及び向精神薬取締法
- 悪性腫瘍
- 心筋梗塞
- 手塚治虫 - 漫画家。晩年、モルヒネを投与してがんの痛みを抑えながら漫画を描き続けた。
- シャーロック・ホームズ - 小説『四つの署名』などにモルヒネやコカインを常用している描写がある。
- ケシ
- アヘン
- アルカロイド
- ヘロイン
- 化合物の一覧
- 医学記事一覧
脚注
- *アヘン(阿片)成分モルヒネの単離から構造決定まで - 生薬、薬用植物(薬草)と身近な野生植物(野草)
- *気管支ぜん息の患者は、ヒスタミン遊離作用によって痰の排出が困難となり呼吸抑制作用によって悪化するため。妊婦の場合、新生児に退薬症候が発現するため。
- *ただし、麻薬研究施設の設置者は、厚生労働大臣の許可を受ければ、ヘロインの譲渡、譲受、廃棄が可能になる。麻薬研究者は、厚生労働大臣の許可を受ければ、研究目的でヘロインの製造、施用、所持などが可能になる。
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