末日聖徒イエス・キリスト教会(The Church of Jesus Christ of Latter Day Saints)とは、1830年にジョセフ・スミス・ジュニアによって設立された、キリスト教系新興宗教である。宗派としてはプロテスタント系にあたる。
一般的には「モルモン教」という呼称のほうが有名だが、軽蔑的なニュアンスがあるとされるので、(気にしないことが分かっている場合を除き)会員の前では使用しないほうが望ましい。公式に略称が必要なときにはLDS Churchと表記する。
ただし、この記事には、一般的な呼称であることと、文字数の問題から、「モルモン教」という表記を主に使用することとする。会員の方にはこの記事における呼称には侮蔑的なニュアンスが一切ないことをお断りしておく。
「モルモン教」の由来
なぜ正式名称と一切関係のない名称で呼ばれるか、というと、聖典として、通常の新約聖書や旧約聖書の他に、「モルモン書」というジョセフ・スミス・ジュニアの執筆した本が含まれているからである。
教会によると、1820年の啓示をうけた際に天使から託された石板に刻まれていた、古代アメリカの預言者(その名前がモルモン)の啓示を英訳したもの、らしい。
歴史
ジョセフ・スミス・ジュニアが14歳だった1820年、彼は様々なキリスト教の教派が対立して、勢力争いを繰り広げる現状に悩み、聖書の教えに従い、正しい信仰を示してくれるように神に祈った。
そのとき、ジョセフに啓示が与えられ、現在のキリスト教の教義は解釈が誤っていること、そのため神の権能が損なわれていること、そしてジョセフがそれを取り戻すよう選ばれたことを知った、としている。
モルモン教の設立後、布教活動を行って順調に勢力を伸ばしていったジョセフたちだったが、一夫多妻制など、他のキリスト教派とは相いれない教義を含んでいたため、強い反発を受けた。そのため、彼らは教会員によるコミュニティを形成し、反発を避けて次々と拠点を移しながら活動していた。
対立が徐々に深まっていった1844年、イリノイ州カーセイジでジョセフら中核メンバーが拘束され、刑務所に収監されるが、反モルモン教を掲げる武装した暴徒はその刑務所を襲撃。ジョセフたちが殺されるという事件が起こった。教会はさらなる安住の地を求め、当時未開拓だった西部にまでその拠点を移していく。
1847年、ブリガム・ヤング率いるモルモン教会の会員たちはソルトレイク盆地にたどり着き、そこを新たな拠点として入植を始める。しかし、入植後ソルトレイクにやってきた開拓者たちが、1844年にジョセフたちを殺した人間だという噂が広まり、一部の会員が武装して開拓者たちを襲撃し、そのほとんどを殺害した。(マウンテンメドウの大虐殺)
これに対してアメリカ陸軍が出動。ソルトレイクに籠るモルモン教会員たちと戦いになるが、当時のソルトレイクは辺境の奥地であり補給が困難だったこと、またモルモン教会側が激しく抵抗したことから戦いは長引き、アメリカ陸軍は膠着状態で冬を迎えることを恐れ、一時撤退する。 翌年の1848年、アメリカ連邦政府から派遣された準州知事を受け入れることと、武装して戦った会員を処罰しないこと、そしてマウンテンメドウの大虐殺事件の首謀者を差し出すことを交換条件とした和平が結ばれ、戦いは終結した。(ユタ戦争)
その後、モルモン教は融和的な姿勢を見せるようになり、勢力を増していった。しかし、そのため教義の解釈についてや、一夫多妻制の存続についてなど、内部対立が顕在化したため、いくつかの分派に分かれることとなった。 現在末日聖徒イエス・キリスト教会の名前を引き継いでいる教派は主流派で、一夫多妻制は神の啓示により破棄されたという立場を取っているため、複数の妻を持った者は破門されることになっている。
複数の妻を持ちたい人は、一夫多妻制を維持しているモルモン原理派やイスラム教に入信したほうがよい。
現在は、公称1400万人近い会員がいるということになっている。が、公称の人数であり、また未洗礼の幼児なども含んでいるため、実際にどれだけの人数がモルモン教会員としてのアイデンティティを持っているのかは定かではない。ともあれ、新興宗教としては世界有数の規模であるのは間違いないだろう。
教義
まずモルモン教と言えばアルコール、コーヒーなどを飲めないという厳しい戒律が有名。だが、実際には特定の物質を摂ってはならないというわけではなく、依存、中毒を引き起こすものは避けねばならない、という教えで、どの程度避けるかは人によって基準が違う。
性欲を抱くことは罪とはしないが、夫婦間以外のセックスは罪であり、性欲はコントロールしなければならない。そのため、ポルノも避けねばならず、自慰は罪となる。
安息日についても厳格で、医師や軍人、警官など、休むと社会的影響のある仕事についているのでない限りは、緊急の理由がある場合を除いて働いてはならず、3時間程度の教会活動を行わねばならない。また、買い物やレジャー、スポーツも特に必要がなければしてはならない。教会活動以外には、社会的な奉仕活動、聖書の勉強会、教会員の家庭訪問などが認められる。
- 三位一体を否定し、キリストは滅びておらず神に人を救うようとりなしているとする
- 8歳まで洗礼を行わず、また全身を水に浸す全浸礼を行う
- 死後に悟りの期間が定められ、最後の審判までに回心すれば神の国に入れる
などがある。
カトリック、プロテスタント諸派ともに、三位一体を教義の中心の一つに据えていることから、三位一体を否定するモルモン教は異端であるとされる。(余談だが、モルモン教とは正反対に近い、聖書原理主義であるエホバの証人も、聖書にはっきりとした根拠がないという理由で、三位一体を否定している。……まあ、三位一体は結構無理矢理な部分もあるので仕方なくはあるが)
布教活動
基本的に2名一組となって宣教を行うが、専門の聖職者を持たないため、宣教もきちんと組織化されて行われているわけではなく、強引な勧誘などの問題があとをたたない。
教会としても、会員数を増やしたい関係から積極的な指導を行っておらず、カルトとしての悪名を高める結果となっている。
有名な会員
関連項目
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