『モロイ』を読む前と読んだあとでは、事情はすっかり変わってしまう。文学をとおして描かれる人生というものが、あっさりぶち壊される。それと同時に、とんでもない何かが立ち上がってくる。――野崎歓(投込栞より)
ベケットの言語に固有の毒性、腐食の作用といったものに私は気付きはじめた。その作用は決して急性の暴力的なものではない。しかし言語の意味や感触、そしてその有機的な構造や流れに、その浸食作用はじわじわ深く及ぶ――宇野邦一(訳者あとがき)
モロイとは、
である。ここでは1について紹介する。
概要
後に『マロウンは死ぬ』、『名づけえぬもの』と連なっていく、ヌーヴォー・ロマンの先駆となった小説三部作の第一部でベケットの代表作の一つ。
色々わかっていない「私」による自問自答や直前の記述に対する否定、「便秘のポメラニアンは健康状態がいい」など書いている最中に思いついたかのような適当に見える理論が繰り返され、まともに読んだら正直支離滅裂という感想を抱くだろう。なかでも
この機会を利用して、おしゃぶり用の石を貯えた。それは砂利だったが、私はそれを石と呼ぶことにしている。このたびは相当な貯えがあった。四つのポケットの間に均等にそれを分けて、順番にしゃぶることにしていた。それは厄介な問題で、最初は次のような解決策をとった。石が十六あるとしよう。四つのポケットに四つずつで、ポケットはズボンに二つ、オーバーに二つあった。オーバーの右側のポケットの石を一つとって口に入れ、その代わりにズボンの右側のポケットにあった石の一つをオーバーの右側のポケットに入れる。ズボンの右ポケットにはその代わりにズボンの左ポケットにあった石を入れ、その代わりオーバーの左ポケットにあった石を入れ、その代わりには私がしゃぶり終わった石をそこに入れる。こうすれば、四つのポケットにそれぞれいつも四つの石が入っていて、しかもいつも同じ石ではない。そしてしゃぶりたくなったら、前と同じ石ではないことを確信して、新たにオーバーの石をポケットから取り出すのだ。そしてしゃぶりながら、今説明したように別の石を移し替え、これを繰り返す。しかしこの方法には半分しか満足していない。なぜなら全くの偶然の結果、循環している四つの石が同じままであるかもしれないということが、私の頭から離れないのだ。その場合には、十六の石を順番にしゃぶるどころではなく……
と「私」が「16個の石を平等にしゃぶる方法」をこれ以降もページを使って真剣に考え続けるシーンは狂気と言って差支えないだろう。
Amazonレビュワー曰く「モロイを読むことは読むことを超えているか覆っている」らしい。
関連リンク
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