モンティ・ホール問題とは、確率論の有名な問題の一つ。
問題の内容自体は単純明快であるものの、「直感的な答えと、きちんと確率論に則って導き出された答えが異なる」という人が後を絶たない。
発表された当時、多くの数学者の黒歴史を産み出した。
問題
元ネタはアメリカの長寿番組『Let's Make a Deal』中に登場したゲームで、それを元にスティーブ・セルビンがルールを明確に定めた確率の問題を作成した。
(元ネタになった実際の番組での司会者の行動は、セルビンの問題の厳密なルールとは異なった)→Wikipedia
- プレイヤーの前にはA,B,Cの3つのドアがあり、その奥には当たり(景品の車)が1つ、ハズレ(ヤギ)が2つ用意されている。
- プレイヤーがドアを1つ選択する(この時点では開かない)。
- モンティは正解のドアを把握しており、残された2つのうちから必ずハズレの方のドアを開ける(残された2つが両方ともハズレの場合はどちらかをランダムに開ける)。
これはプレイヤーの回答に関わらず必ず行われ、これらのルールはプレイヤーも認識している。 - モンティは「今なら選択を変更して構いませんよ?」とプレイヤーに問いかける。
さて、このときプレイヤーは最初の選択を変更するべきか、否か?
よくある間違い
- モンティは必ずハズレのドアを開けるので、残されたドアは当たりハズレ1つずつ。
つまり五分五分なので、選択を変更してもしなくてもいい。 - モンティがドアを開けたところで確率1/3は変わらない。
結局プレイヤーの裁量次第なので、選択を変更してもしなくてもいい。
これらは間違いである。
※ゲームルールが異なっていたり、ゲームの一場面を抜き出して解釈した場合、間違いではなかったりする。
解答
選んだ1枚のドアが当たりである確率 …… 1/3(33%)
選ばなかった2枚のドアのうちどちらかが当たりである確率 …… 2/3(66%)
- もし選んだ1枚が当たりなら
残された2つのドアはどちらもハズレのため、司会者がどちらを開けようとも選択を変えないのが正解。 - もし選ばなかった2枚のどちらかが当たりなら
残された2つのドアのうち片方はハズレであり、司会者は必ずこのハズレドアを開ける。
となれば最終的に残ったドアは必ず当たりであるから選択を変えるのが正解。
さて先ほど述べたように、最初に当たりを引く確率は1/3、ハズレの確率は2/3である。
これはつまり、最初の選択のままで当たる確率が1/3、選択を変えると当たる確率が2/3であると言い換えることができる。
33%で当たる方(66%でハズレ)を選ぶのか、66%で当たる方(33%でハズレ)を選ぶのか。したがって、変更した方が2倍の確率で当たるので変更すべきである。
バリエーション
「初めから正解の位置が決まっている(選択前後に車やヤギが移動しない)」「モンティが外れのドアを開けるという行動を必ず行う」ということを「プレイヤーが知っている」問題文となっているが、それぞれを変えることで期待値の計算も変わる。
プレイヤーが選択→モンティがヤギの扉を開く、の間にのみ車が動く場合は期待値は変わらないが、モンティがヤギの扉を開いたあと車が残った扉をランダムに移動すれば「選択肢を変更することで車を選ぶ確率」は1/2に、「最終的に車を得る確率」は1/2となる。移動するか否かをランダムではなくプレイヤーの選択に合わせて変える場合も確率が変わる。プレイヤーが選択した扉に車が移動してからモンティがヤギの扉を開く条件ならば当然選択肢を変えない方がよい。そのように移動することをプレイヤーが事前に知らなければ計算と結果が合わずイカサマ番組と批判されることとなる。
モンティが扉を開くルールを「残った扉からランダムに開き、車なら終了、ヤギならプレイヤーに選択肢を変える権利を与える」という条件に変更すれば「選択肢を変更することで車を選ぶ確率」は1/2になり、「最終的に車を得る確率」は1/3となる。
プレイヤーが「モンティが扉を開くルールを認識しているか否か」に関係なく、モンティが扉をどのようなルール(余った扉のうち必ずヤギの扉を開く、といったルール)に基づいて開くかで実際の確率が決まってくるが、扉を開くルールを知らなければプレイヤーがモンティの行動を確率として計算に盛り込むことができない。
プレイヤーが要件を正確に把握していない場合、プレイヤーの知り得る情報から得た期待値とモンティ側が設定した期待値が異なり得るため、正確に計算をすることが出来ない。モンティはヤギも車も部屋から移動させないのにプレイヤーが勝手に移動し得る前提で計算しては推定と実際の統計に齟齬が出るだろう。
認識のずれであったり「常識的に考えてこうなる」の常識のずれであったりして問題文に盛り込み忘れることもあるので事前にすり合わせが必要になることもある。
得られた確率も、「選択肢を変更した後に車を選ぶ条件付き確率」なのか「プレイヤーが最終的に車を得られる確率」なのかを明示しないといけない。
感覚的に納得できないのは、このあたりも要因もあるものと思われる。
まだ納得できないなら
話の流れを別の言葉に置き換える
ゲームの流れとしては2で「ドアを一つ選択する」、4で「選択を変える」と言う表現がされている。
しかし、よくよく考えてみると最終決定がされるのは4の時点なのであるから、プレイヤーが本当に「当たりのドアを選択する」必要があるのは4の時点であり、2の時点で当たりのドアを選ぶ必要は一切ない。
言い換えれば、2の時点でのプレイヤーは「ドアを『選んだ1つ』と『選ばれなかった2つ』」に組みわけしているだけである。
だとすれば、ゲームの流れは以下のように表記される。
- プレイヤーの前に3枚のドアがあり、当たりが1枚、ハズレが2枚ある。
- プレイヤーがドアを1枚選択し、ドアを1枚と2枚の2組に分ける。
- プレイヤーは以下のA/Bの行動からどちらかを選ぶ。
A「プレイヤーは1枚のドアの組を選ぶ。それを開ける。」
B「プレイヤーは2枚のドアの組を選ぶ。そこから自動的にハズレが1つ除外されるので、残りを開ける。」
このように表記されれば、感覚的にもどちらが当たる確率が高いかは一目瞭然であろう。
ドアの数を増やす
ドアの数を100枚に増やしてみよう。当たりのドアは1つで、残り99枚はハズレ。
この状況でドアを1つ選んだ場合、プレイヤーが当たりを引く確率は1%しかない。
つまり、逆に言えば99%の確率で選ばなかった99枚のドアのうちのどこかにアタリがあるわけである。
さて、プレイヤーがドアを1つ選ぶと、モンティは次々とハズレのドアを開けてゆく。
最終的に98枚のドアを開けた。
そして今、自分が選んでいるのは「1%の確率で当たりを含んでいるドア1枚」であり、目の前には「99%の確率でどこかに当たりを含む99枚のドアから、98枚のハズレを除去した残り1枚」が存在している。
となれば、いつ選択を変更するか?今でしょ!
この問題が有名になった経緯
元々この問題(とその解)はスティーブ・セルビンが『The American Statistician(アメリカの統計学者)』誌に「確率の問題」として1975年に発表していたが、1990年にマリリン・ボス・サヴァントが連載する雑誌『Parade(パレード)』のコラム欄に、読者からこの問題が投稿されたことで大々的に再注目された(マリリンは1986年に最高IQ保持者としてギネス登録されていた)。
この時マリリンは「変更すべきである。当る確率が2倍になるからだ。」と解答した。
しかしこれには数多くの反論が殺到。その中には博士号所持者からの物もかなりあった。
対するマリリンは表や解説を掲載する等、理解を得るために手を尽くした。それでも反論・批判の雨は止まず。
(前述の通りこの問は解法と同時に15年前に公開されていたが、その当時も多くの反響が寄せられておりその中には反論もあったのでセルビンは半年後にルールを明確にする追加の解説も公開していた)
話を聞いたアンドリュー・ヴァージョニが、自前のパソコンを用いてゲームのシミュレーションを数百回ほど行った。
その結果は……なんとマリリンの回答と一致した。
「ありえん(笑)」と反論していた多くの数学者も、これには思わず冷や汗。すぐさま手のひらを返した。
かくしてマリリンは、数万通にも及ぶ激しい反論に耐え、自らの理論が正しいという事を証明したのであった。
ちなみに博士号所有者の反論のうち、いくつかは雑誌に名前付きで晒されてしまい、逆に嘲笑を浴びることとなった。
問題文の曖昧さについて
『Parade』に投稿された質問の手紙では、この問題は以下のように書かれていた。(一部分)
(原文)Suppose you're on a game show, and you're given the choice of three doors: Behind one door is a car; behind the others, goats. You pick a door, say No. 1, and the host, who knows what's behind the doors, opens another door, say No. 3, which has a goat. He then says to you, "Do you want to pick door No. 2?" Is it to your advantage to switch your choice?
(翻訳)あなたがゲーム番組に参加していて、3つのドアの選択肢が与えられているとします。1つのドアの後ろには車があり、 他の後ろにはヤギがいます。
あなたは1つのドア(例:1番)を選び、ドアの後ろに何があるかを知っている司会者が、ヤギがいる別のドア(例:3番)を開きます。 それから彼はあなたに「2番のドアを選びたいですか?」と言います。
選択肢を切り替えることは、あなたに有利なのでしょうか?(以下Wikipedia日本語版からの引用) プレーヤーの前に閉じた3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろには、はずれを意味するヤギがいる。プレーヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレーヤーが1つのドアを選択した後、司会のモンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。
ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更してもよいと言われる。
ここでプレーヤーはドアを変更すべきだろうか?
この部分だけを読んでは、司会者の行動=ルールの定義(司会者は必ずハズレのドアを開く、それはプレイヤーの最初の選択が車かヤギかに関わらない、司会者が開くドアは3番ではなく2番もありえる、など)が曖昧であり、ルールについて誤解をする可能性があった。
しかし、このParade誌の質問文には一緒にマリリンの解も印刷されているし、さらに最初のコラムへ反論が来た後にマリリンがもっと詳しく解説した後でさえも数学者たちから更に大量の反論が来ているので、問題文の曖昧さが多くの数学者たちを間違えさせた原因とは言い切れないと思われる。
(参考:Wikipedia、下記参考資料)
参考資料
- スティーブ・セルビンの最初の投稿: The American Statistician Vol. 29, No. 1 (Feb., 1975)
- スティーブ・セルビンの二度目の投稿: The American Statistician Vol. 29, No. 3 (Aug., 1975), Excerpted from The American Statistician, August 1975, Vol. 29, No. 3
- マリリンのコラム: Game Show Problem, PARADE magazine in 1990 and 1991
類題
ゲーム「ポケットモンスター赤・緑」では物語の始めに、冒険の仲間となるポケモンを3匹のうちから1匹選んでオーキド博士から貰うイベントがある。ポケモンはモンスターボールに入っており、ボールの外見は3つとも同じである。その後、博士の孫であるライバルが残りの2匹から1匹を選ぶ。そのポケモンは属性が三竦みになっており、属性の相性によりポケモンバトルで有利・不利が決まる。
Q.さて、主人公、ライバルの選択のあと、オーキド博士が主人公に対して「今なら余っているポケモンに変えてもいいがどうするか」と聞いてきたとする。次の設定の時に、主人公は選択を変更してライバルに有利なポケモンを選ぶことができる確率はいくらか。
ライバルはオーキドが再選択の機会を与える前の段階で得られた情報から有利になる確率の高い選択をし、同確率ならばランダムに選ぶものとする。
1.主人公が選択する際、ボールの中身を確認できない。ライバルが選択する際、ライバルは主人公の選んだポケモンを確認せず、残ったボールの中身を確認しない。
2.主人公が選択する際、ボールの中身を確認できる。ライバルが選択する際、ライバルは主人公の選んだポケモンを確認せず、残ったボールの中身を確認する。
3.主人公が選択する際、ボールの中身を確認できない。ライバルが選択する際、ライバルは主人公の選んだポケモンを確認するが、残ったボールの中身を確認しない。
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関連項目
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