ヨッフェン・フォン・レムシャイド(Jochen von Remscheid)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
CV.小林恭治(石黒監督版OVA)、真殿光昭(Die Neue These)
概要
ゴールデンバウム朝銀河帝国貴族、伯爵。フェザーン駐在帝国高等弁務官、のち銀河帝国正統政府において首相兼国務尚書。白っぽい銀髪、ガラス玉のような無色透明にちかい瞳を有し、帝国暦489年当時に少なくとも40代半ば以上の壮年。名門の生まれで、本来さほど無能ではないが、帝国旧体制の永遠性を疑うには至らず、のちには「夢みる反動家」と評された。
フェザーンでは“黒狐”アドリアン・ルビンスキーに対する“白狐”として知られた。リップシュタット戦役後にはフェザーンへと亡命し、帝国から“救出”した幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立して銀河帝国正統政府を率いたが、支援元であった自由惑星同盟の敗北によって夢破れ、自殺した。
経歴
帝国暦482年、アドリアン・ルビンスキーのフェザーン自治領主就任と時を同じくして、帝国高等弁務官としてフェザーンに着任。5年後の487年には、ルビンスキーより非公式に招待された場で同盟軍の帝国領進攻についての情報を知らされ、帝都オーディンへと急報している。
亡命生活へ
帝国暦488年のリップシュタット戦役とリヒテンラーデ公クラウスの失脚によって帝国にローエングラム独裁体制が布かれると、旧体制の高官として処断されることをおそれ、また矜持と伝統から新興のラインハルト・フォン・ローエングラムに忠誠を誓うことも忌避し、そのままフェザーン自治領に亡命する。資産運用をフェザーンの信託会社に委任して生活の安定を得、居宅も公邸からイズマイル地区の新居に移した。
こうして隠棲したレムシャイドだったが、亡命生活は孤独で退屈なものであり、新体制への怒りと旧体制・故郷への郷愁を強く持ちながらも、精神的な空虚を感じずにはいられなかった。しかし帝国暦489年(宇宙暦798年)初頭、フェザーン自治領主補佐官ルパート・ケッセルリンクが彼のもとを訪れ、ルビンスキーの非公式な使者として、ある計画を提示する。
それは、フェザーンの支援により、ラインハルトの傀儡となっている幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を救出・亡命させて旧体制派を糾合し、簒奪者ラインハルトの手から政権を奪還する、という遠大なものであった。レムシャイドは、その計画における盟主たるように要請されたのである。
銀河帝国正統政府の成立
この年7月6日、帝都オーディンにおいて、ランズベルク伯アルフレットとレオポルド・シューマッハによる幼帝の救出――実質的には誘拐――が実行される。成功の報を受けて狂喜したレムシャイド伯は、フェザーンに到着した幼帝一行に合流し、同月中に自由惑星同盟の領域に到着。最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトの指示を受けた同盟軍統合作戦本部長ドーソン大将により首都防衛司令部内にかくまわれ、同盟政府との三週間にわたる交渉にのぞむこととなった。
この結果、同盟との間に“宇宙暦七九八年のねじれた協定”が成立し、幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を旗頭とする「銀河帝国正統政府」の成立が宣言される。この協定によって、彼らは同盟政府からの全面的バックアップを得ることとなったが、その一方で、レムシャイドはローエングラム体制打倒後の帝国を立憲体制に移行させるという条件を認めざるをえなかった。
首相兼国務尚書として正統政府首班の地位についたレムシャイドは、「忠誠派の盟主」を自ら称して亡命貴族を率い、活発ながら空疎な正統政府の陣容を整えてゆく。その中には、軍務尚書に指名されたウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将の姿もあった。
“神々の黄昏”作戦
レムシャイドらの努力は、ラインハルトからの迅速な宣戦布告と“神々の黄昏”作戦の発動というかたちで報いをうけ、帝国暦499年1月にはフェザーン回廊を突破して同盟領に侵攻した帝国軍の前に、何らの実質も持たない銀河帝国正統政府が出来ることはほとんどなかった。
レムシャイドは新年早々に閣議をひらきはしたものの、すでに閣僚7人のうち2人が欠席しており、内務尚書ラートブルフ男爵、内閣書記官長カルナップ男爵とのあいだで交わした討議も「真剣だが無益」なものにしかならなかった。翌日の閣議の出席者は、もはや彼のほかにはメルカッツ軍務尚書のみだった。彼と正統政府は、もはや自身が糾合した亡命貴族たちからも見放されていたのである。残ったメルカッツも、レムシャイドと幼帝のためにはヤン・ウェンリーへの協力によるラインハルトの打倒が最後の可能性である、として、彼に挨拶してヤン艦隊のもとへと去った。
やがてバーミリオン星域会戦のさなかに同盟首都ハイネセンが帝国軍の強襲を受けると、彼の私邸もオスカー・フォン・ロイエンタール上級大将麾下の兵士に包囲される。レムシャイドはロイエンタールから敬意として時間を与えられ、服毒して自殺した。
人物
帝国領進攻計画の情報を受けた際にルビンスキーの意図を問いただす、ケッセルリンクの提示した計画に「新体制に協力したほうが今後のフェザーンの経済活動には有益ではないか」と疑問を呈する、ケッセルリンクの言にふくまれた無意識の嘲弄を敏感に察知しつつも表情に出さずにいるなど、帝国唯一の(事実上の)外国駐在外交責任者としては十分な犀利さを有していたようである。
正統政府の閣僚名簿を作成した際、自身を国務尚書に擬しつつも帝国宰相を空席としなかったことについて「(亡命中の政権では)大それたこと」と語った点についても、ケッセルリンクは「帝国内に残存する門閥貴族を刺激しローエングラム陣営に走らせることをおそれたのではないか」と考察しており、それが正しければ、レムシャイドの政略眼をしめす一端といえる。
フェザーン人のバイタリティに「その活力と覇気を帝国が回復しえれば」と述懐したように、帝国体制の停滞を認識する判断力も有していたが、この時代の帝国人のほとんどに共通の問題である幼少期以来の「帝国不滅」思想からは結局脱却しえず、ラインハルト体制への反発と名門ゆえの矜持、それに亡命後の望郷の念もあわさって、銀河帝国正統政府という魅力的な幻想にすがり身を滅ぼすこととなった。
補遺
のちに皇帝となったラインハルトの終焉の地となった“ヴェルゼーデ仮皇宮”は、かつてゴールデンバウム王朝時代の帝国高等弁務官官邸(≠公邸)だった邸宅とされており、レムシャイドも官邸として利用していた可能性がある。
関連動画
関連項目
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