曖昧さ回避
ヨルムンガンドとは、
- 北欧神話に登場する、巨大な蛇の幻獣。本項で記述。
- 月刊サンデージェネックスにて連載されていた、高橋慶太郎によるガンアクション漫画。
→ヨルムンガンド(漫画)を参照。 - 「機動戦士ガンダムMS IGLOO」に登場する宇宙用の決戦兵器。
→ヨルムンガンド(ガンダムシリーズ)を参照。 - 「R-TYPE TACTICS」及びその続編の「R-TYPE TACTICSⅡ」に登場する輸送艦『ヨルムンガンド級』
→ヨルムンガンド級(R-TYPE)を参照。 - 「聖剣伝説3」にて、ドラゴンマスターにクラスチェンジしたリースが使用できる召喚魔法。
大岩に体を巻きつけた巨大なドラゴンを召喚し、毒ガスブレスで敵を一掃する。由来は1から。 - 「ゼロの使い魔」に登場する、強化型ゴーレム。
ジョゼフ王によって先住魔法と系統魔法を組み合わせて作られたゴーレムで、
力や運動性能、精密動作性や学習能力などあらゆる面で従来のゴーレムとは比較にならない性能を誇る。
概要(北欧神話)
ヨルムンガンド(古ノルド語: Jǫrmungandr) [1]は「途方も無い長さの杖」という意味で、その姿形を表している。転写法等の違いから「ユルムンガンド」「イオルムンガンドル」などと書かれる場合もある。別名「ミズガルズスオルム」(古ノルド語: Miðgarðsormr)[2]は「中つ国の大蛇」を意味し、人間界である「中つ国」(ミッドガルド。古ノルド語でミズガルズ)を一巻きにするほどの大蛇、といった意味合いを持つ(後述)。
北欧神話に登場する神の一柱ロキと霜の巨人族[3]アングルボザ(古ノルド語: Angrboða 「悲哀をもたらすもの」)との間に生まれた二男一女(フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル)のうち一体。
生まれてからしばらくは霜の巨人界「ヨトゥンヘイム」(古ノルド語: Jǫtunnheimr)[4]で育てられていたが、ロキの子供たちは後に神々の脅威になると予言され、アース神族の主神オーディン(オーズィン。古ノルド語: Óðinn)の命を請けた神々によってヨルムンガンドは「ミッドガルド」(中つ国=人間界)を取り囲む冷たい海に捨てられてしまう。
そしてそのまま死んでしまうだろうという神々の期待[5]に反してヨルムンガンドは着々と成長を続け、ついにはミッドガルドをぐるりと取り囲んでもなお余り、全世界を一周して自分の尾を口にくわえる程の大蛇になり世界を守っている。その巨大な体は一うねりすれば津波が起き、通った跡は大地が深く削られた程だという。また、その口からはどんな神々をも死に至らしめる猛毒を吐いたとされる。
宿縁の敵手・トール
雷神トール(ソール。古ノルド語: Þórr)[6]とは深い因縁を持ち、中でも特に有名な物語が3つある。
1つ目はトールが従者スヤールフィ(Þjálfi)とロキを連れてのヨトウゥンヘイム遠征である。
ウートガルザ(Útgarðar (Útgarðr[7] 「外側の囲われた土地」の複数形))を訪れたトール一行は、そこに居城(腐臭に満ちた洞窟を利用した砦)を構える巨人ウートガルザ=ロキ(Útgarða-Loki 、ロキとは別人)と勝負をすることになった。実はウートガルザ=ロキは幻術に長けており、城を訪れる前にも巨人スクリューミル(Skrýmir 「巨大な外見」という意味)に化けて食料をあらかた騙し取り大いに幻惑させていた。そしてこの勝負においても彼は幻術を駆使し、ロキは人の姿をした野火ロギ(Logi)を相手に食べ比べを、スヤールフィは擬人化した彼の思考フギ(Hugi)と駆け比べをする羽目になり、どちらも完敗。トールに至っては3回も勝負をし、角杯(実は海に繋がっている)で飲み比べと、ペットの猫(実はヨルムンガンド)を持ち上げる力比べと、乳母エッリ(Elli 「年波」という意味)との腕比べをしたが、いずれも完敗だった。それでもウートガルザ=ロキはトール一行を客人として大いにもてなし、翌朝になって全ては一行の実力を量るための幻術であったことを明かし、次に争う時には「本物の居城」を全力で死守することを宣言した。トールがミョルニルを振りかぶると、ウートガルザ=ロキと砦は跡形も無く消え失せ、後にはただの美しい平原だけが残った。トール一行はこれ以上の遠征を諦めて退却せざるを得なかった。
2つ目はトールがヨルムンガンドを釣り上げようとした時の話である。
1つ目の話で余程悔しかったのか、トールは「ヨルムンガンドを釣り上げてやろう」と決心し、巨人の漁師ヒュメリ(ヒュミル(Hymir)。フェンリルを封じるために自ら片腕を犠牲にした勇敢な戦神テュール(Týr)の父)を誘って釣りに出かけた。一番大きな牛の頭を餌に糸を垂らすと、すぐさま何者かが食いついた。凄まじい力で糸を引っ張ってくるそれを渾身の力で釣りあげると、狙い通りヨルムンガンドであった。トールは雷神の槌ミョルニルでヨルムンガンドの頭を打った。しかし、強力無比なミョルニルの一撃を受けてもなおヨルムンガンドは耐えた。その時、ヨルムンガンドの重みで舟が沈んでしまうことを恐れたヒュメリが釣り糸を切り、海中にヨルムンガンドを逃がした。トールは大いに怒り、なんとヒュメリを海中に突き落としてしまった。[8]
3つ目はラグナロクの際の戦いである。
ラグナロクの時、ヨルムンガンドは海から陸に上がり、因縁の敵トールと死闘を繰り広げた。ヨルムンガンドはトールを締め付け、猛毒を吐いた。トールはミョルニルを投げつけてこれに対抗した。激しい戦いの後、頭にミョルニルを何度も受けたヨルムンガンドは息絶えたが、ヨルムンガンドのすべての神を殺す(神殺し)猛毒によってトールは絶命した。
こうして因縁の対決は両者相打ちという結果に終わったが、戦績で見れば1勝2分でヨルムンガンドが勝っている。
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関連項目
脚注
- *古ノルド語(古代北欧のヴァイキングたちの言語)において「ǫ」(尻尾(カウダ)付きオー)は口がやや開き気味の「o」で、13世紀ごろには普通の開きの狭い「o」か調音位置が前寄りの「ø(ö)」(開きの狭い o の口の形で e を発音)に合流し、後者の一部はその後さらに「æ(ä)」(開きの広い a の口の形で e を発音)に移行した。語尾の「-r」は男性名詞主格語尾で発音は「~ル」だが、文中で格に従って変化するため固有名としては大概省略される。
- *「ð」の発音は英語の the の th に近い。
- *巨人族と云っても彼らは太古の混沌から生み出された古い存在であり、身体能力ばかりでなく魔術や駆け引きにも長けて神々を脅かす存在であると同時にアース神族との血縁関係も極めて深い。例えば主神オーディンの母ベストラ(Bestla)は霜の巨人族であるし、父ボル(Borr)の母親は不明だが霜の巨人族の可能性が高いとする見方がある。以上のことから他の神話や伝説の知的でない巨人族と区別して「巨魔」「巨神」等と訳す試みもある。
- *ヨトゥン(古ノルド語: jǫtunn)は霜の巨人族を指す代表的な呼称の一つで、実は英語の eat と同じ語源であり「大食らい」あるいは「人食い」の意。ヘイム(heimr)は英語の home と同語源なので、ヨトゥンヘイムとは「大食らい鬼/人食い鬼の郷」といった意味になる。なおヨトゥンはスカンディナビア半島諸語およびアイスランドで巨人を表す一般的な語の語源になっている(デンマーク語・スウェーデン語: イェッテ(jætte, jätte)など)。もっともアイスランド語イェートゥン(jötunn)以外の現代語では「巨人」と云えば古代神話の巨人よりもお伽話に登場する醜悪な山のトロル(半妖精的な巨人)を指すのが専らのようである。
別の異称リスィ(risi)は、ドイツ語リーゼ(Riese)などヨーロッパ大陸のゲルマン系諸語の「巨人」の語源だが、その意味する所はよく判っていない。英語の rise 「立ち上がる、高くなる」に相当する語との関連も指摘されているが未確定である。こちらも現代ではトロルの意味で使われることが多い。 - *直接殺めてしまうとそれが呪いの元となり自らにその報いが返ってくるため、敢えて放置された。
なおフェンリルは手足と口を封じられて地中深くに、ヘルは氷霧の郷ニヴルヘイム(Niflheimr)**に捨てられたが、彼らはラグナロク(世界の終末)まで生き続けて先の予言を成就させてしまう。
** 古ノルド語の f は母音間や語末、有声音の前では有声化して v と発音される。 - *「Þ」の発音は英語の thanks の th に近い。
- *別の神話ではウートガルズは世界樹ユグドラシルが束ねる3つの世界のうちの1つ(他の2つはアスガルド(アースガルズ;アース神族の世界)とミッドガルド(人間界))であり、悪魔や悪霊たちの世界とされている。
- *別の物語のヒュメリはトールの釣りを邪魔しなかったので入水は免れたものの、貴重な「絶対割れない皿」を割ってみろとトールを試し、見事に割られる → その上家宝の大釜を盗まれる → 追手として差し向けた配下が尽く返り討ち、と半ば自業自得ながらやはり気の毒な展開が待っている。
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