ライブビューイングとは、様々なイベントを映画館で生中継すること、あるいはそれを鑑賞することである。
概要
ライブ・コンサート・演劇などの公演を各地の映画館で生中継する。イベント会場にいなくてもリアルタイムでその様子を楽しむことができる。
より多くの人にイベントを見てもらいたい主催者・出演者側、集客を増やしたい映画館側、イベントを楽しみたい観客側の利害が一致し、現在では多くのイベントで実施されている。
略称は「ライビュ」「LV」など。
利点
- 本会場のチケットが手に入らなかった場合でもイベントを楽しむことができる。ただし、当然ながらスクリーン数・席数による上限はある。
- チケット代が本会場より安い場合が多い。
- 本会場が遠地の場合、往来の時間が短く済み、交通費・宿泊費が安く済む。
- 出演者がスクリーンに大きく映し出されるため、座席が遠くて出演者が見づらいといったことが起こりにくく、表情や動きなどが見やすい。
- 映画館の構造にもよるが、客席が平坦な場合にありがちな前の席の人に視界が遮られるという事態が起こりにくい。
- 基本的には本会場に比べて良質な椅子で鑑賞できることが多い(椅子が固い、あるいは背もたれが低いと評判の映画館なら話は別。また立ち上がったらどっちみち一緒ではある)。
- 本会場に比べて入退場をスムーズに行いやすい。
- バックステージの模様などが公演の前後に中継されることがある。
- 当日までチケットが売れ残れば、映画館でチケットが買える。映画館のシステム次第だが、自分で席を指定できる、手数料0円、現金も使える、さらにメンバーズカードにポイントがつく場合すらある(消費はできないことが大半)と至れり尽くせり。ただ当日まで残るかどうかはあくまで賭けになるので、おすすめはできない。
- 上演中であっても、通常の映画と同じようにドリンクやポップコーンなどの飲食が可能なことが多い。ただし逆に言うと通常の映画と同様に外部からの飲食物は持ち込めない(劇場により異なる)。「基本的には現地調達」と覚えておけば間違いはない。 また、当然であるが上演中の場合周りの迷惑にならないよう細心の注意が必要である。
欠点・注意点
- 衛星中継を用いているため、天候や機器の状況によって映像・音声が途切れる場合がある。
- 中継回線の確保時間には限界があるため、本会場の進行が押すと最後までイベントが中継されず途中終了になる場合がある(回線はある程度余裕をもって確保されているため、5分10分程度なら心配はしなくてよい。また元より押すのがデフォルトのアーティストの場合も同様)。
- 本会場で5分前のアナウンスがかかった段階で客席の電気が落ちることがある。また利点で述べた通り特別に中継がある場合もあるため、本会場以上に客席には早く着いていたほうがいい。
- スクリーンに映っていないところで何かが起こっても、それを把握できない。
- 本会場→ライブビューイング会場の一方通行の中継なので、ライブビューイング会場側からの声援などは届かない。
- 物販の商品の種類・数が本会場より少ない場合がある(というより同じor多いほうがまれ)。時には朝一で売り切れてしまうことも。
- 実はステレオ(2.0ch)音声。音量は通常の映画よりも大きいことはあるが、残念ながら臨場感は本会場には敵わない(ある意味当たり前だが)。また4Kなどどんなに高性能な映写機を採用した劇場であっても、映像自体はフルHD(1920×1080)なので画質はそれなり。(2018年1月現在。今後技術進歩により向上する可能性はある)
- 映画館によっては本会場で許可されている行為が禁止されている場合がある。例としては起立・声援・飲食・光り物の使用の可否など。予め映画館側に確認しておくことが推奨される。(なおどれほど寛大な映画館であっても、本会場で許可されていない行為は、飲食を除き、ライブビューイング会場でも許されないことがほとんどである。)
歴史
「演劇などを映画館で上映・鑑賞する」という形式は、「劇団☆新感線」が2004年に公開した「ゲキ×シネ」や、松竹が2005年に公開した「シネマ歌舞伎」などが日本で最初に実施された事例であるが、同時生中継ではなく録画して編集を加えたものであったことからライブビューイングの始祖としては扱わないケース[1] もある。
これらの上映に時を同じくして、2006年に全米7大メジャー映画制作スタジオによって、デジタル上映用の「Digital Cinema Initiatives」(DCI)規格が定められた。これを受けて日本国内では、2007年2月9日に新宿バルト9が日本初となる全スクリーンのデジタル化を実施した[2]。またスポーツイベントの生中継上映イベント「パブリックビューイング」の開催の頻度も上がっていった。
「ライブビューイング」という形態・呼称を日本で使用した最も初期の例は、松竹が2006年に開始した「METライブビューイング」という事業である。これはアメリカ合衆国ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されるオペラを通信衛星を利用して生中継し、日本の歌舞伎座や劇場で上演するという革新的事業だった[3]。しかしこの「METライブビューイング」が始まった後も、オペラに関心がある層以外には「ライブビューイング」という言葉はさほどメジャーではなかった。
2008年5月9日には、L'Arc~en~Cielがフランス・パリでの公演を日本全国5箇所の映画館で生中継上演するという世界初の試みを行っている[4]。また、2008年12月31日には、赤坂BLITZで実施された「X JAPAN COUNTDOWN GIG/初心に帰って」が「CINEMA LIVE」という名称で日本全国のTOHOシネマズ13箇所にて実施された[5]。国内で開催されたライブを日本国内で全国各地の映画館へ配信したのはこれが初めてとなる。
そして、2009年10月4日に開催された「ミュージカル・テニスの王子様 The Final Match 立海 First feat. 四天宝寺」の東京凱旋公演千秋楽が全国11都市で同時中継上映された際に「ライブビューイング」の呼称が使用された[6]。このライブビューイングイベントは大都市部では満席を出し、地方の映画館でも8割の席が埋まるという大成功を収めた。
この同じ2009年には3D映画「アバター」の大ヒットなど3D映画ブームも起きており、映画館へのデジタル上映システムの導入はますます加速。これによってデジタル映像配信への対応が可能となり、ライブビューイングの普及を後押ししていった。
2010年には、宇多田ヒカルや福山雅治などの大物音楽アーティストのライブなどでもライブビューイングが実施され、さらに「ミュージカル・テニスの王子様」でも、千秋楽公演のライブビューイングは続けられた。
2011年6月には、ライブビューイング事業を専業とする「ライブ・ビューイング・ジャパン」が、アミューズ・ファミリーマート・博報堂・WOWOWなどによって設立され、後に電通や東映、東宝、ソニーなども資本参加している。そして「ライブ・ビューイング・ジャパン」は多様で大量のコンテンツを映画館に配信し始め、日本では加速度的に「ライブビューイング」という形態・呼称が定着していったのである。
その後は、J-POPや韓流系のイベントが中心の「ライブ・ビューイング・ジャパン」、刀剣乱舞など2.5次元ミュージカルに強い「東宝」、アイマスおよびラブライブシリーズのライブイベントを一手に引き受ける「ティ・ジョイ」の三社を中心に、数多くの企業がライブビューイング事業に乗り出しすようになった。また、エイベックス、スターダストプロモーション、LDH(EXILEなど)のように自前でライブビューイングのレーベルを持っているレコード会社も登場した。また松竹、東宝、アニプレックスなどは同じ回線を利用して、初日舞台挨拶の生中継つき上映の実施が定番となっている。また「ライブ・ビューイング・ジャパン」などは衛星回線に加え、比較的天候に強い光回線を用いた中継も新たにスタートさせるようになった。
ライブビューイングは今や全国のどこかの映画館で毎週必ずといっていいほど開催され、もはや映画館の上映形態のひとつとなりつつあった。映画館によっては一日に二つ以上の演目が同時に中継されていることもしばしばで、映画館から主体的にライブビューイングの存在を発信する映画館も増えてきていた。
ただ、2020年に入るとコロナ禍の影響でライブイベントの開催中止が多発したことで、ライブビューイングも中止に追い込まれるようになった。また、その代わりの手段としてインターネット配信限定のイベントが数多く開催されたことでインターネット配信に関する技術が向上したことや、ネット環境さえあればどこでも見られる利点、後からアーカイブ視聴できる利点(現地参加者も見直せる)から現地開催されるイベントですらライブビューイングからインターネット配信に移行するようになった。現地やライブビューイング会場では声出しできないのに対し、配信であれば場所さえ考慮すれば声出しができる点も大きかった模様。
その結果、コロナ禍でライブビューイングが行われるものは、舞台挨拶の生中継付き上映や宝塚歌劇の中継など声出しがそもそも想定されないものに限られている状況である。
関連項目
関連リンク
脚注
- *映画館で映画以外のデジタルコンテンツを上映することを、日本の映画業界では「ODS (Other Digital Stuff)」と呼ぶ。確かに「ゲキ×シネ」や「シネマ歌舞伎」も、ライブビューイングも、同じ「ODS」ではある。しかし「生中継」「ライブ」という重要な要素が取りこぼされているため、「ゲキ×シネ」や「シネマ歌舞伎」はあくまでライブビューイングの「前身」というべきだろう。
- *NECビューテクノロジープレスリリース シネマコンプレックス「新宿バルト9」全シアターに弊社プロジェクターを納入
- *ちなみに「ライブビューイング」という名称は日本独自のものである。メトロポリタン歌劇場は本国アメリカ国内や他国にも同様の配信事業を行っているがそちらではこの名称は使用していない
- *ラルクのパリ公演を深夜の映画館で生中継 - 音楽ナタリー
- *「X JAPAN COUNTDOWN GIG」をTOHOシネマズ13カ所で同時中継! : 映画ニュース - 映画.com
- *MMV:ミュージカル・テニスの王子様|ミュージカル『テニスの王子様』 The Final Match 立海 First feat. 四天宝寺|東京凱旋公演ライブビューイング詳細
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