リアルスティール(Real Steel)とは、2012年生まれの日本の競走馬である。鹿毛の牡馬。
「超」が付く良血と、それに恥じぬ秀でた能力を持ちながら、同世代や上の世代の怪物達に苦戦し、海外で遂に戴冠を果たしたシルバーコレクターとしても有名な苦労人。2015年クラシック世代の強さを証明し、種牡馬としても活躍する伝説の名馬である。
馬名の由来はアメリカのSFアクション映画「リアル・スティール」から。
通算成績17戦4勝[4-5-2-6]
主な勝ち鞍
2015年:共同通信杯(GIII)
2016年:ドバイターフ(G1)
2017年:毎日王冠(GII)
概要
血統とデビューまで
父:ディープインパクト、母:*ラヴズオンリーミー、母父:Storm Cat。
父は言わずと知れた日本競馬の至宝にして大種牡馬。
母は未出走ながらも繁殖入りしているが、これは母が日本にも縁の深い名馬Kingmamboの全妹であり即ち母母に競走馬としても超一流かつ牝系から数々の活躍馬を出している名牝Miesqueを持つという良血を見込まれてのこと。肌馬の相馬眼に定評のあるノーザンファーム代表・吉田勝己に購買されて繁殖入りした後は、リアルスティールの後にも全妹としてオークス+海外GI3勝馬ラヴズオンリーユーも輩出し自身も牝系内に輝く名繁殖牝馬となっている。
母父はダービー馬キズナなどの活躍でディープインパクトとのニックスが注目されており、「早熟」の代名詞にもなりつつあるStorm Cat。非の打ち所がない超良血馬である。
さらに母母の半妹とディープインパクトとの産駒で母父Storm Catつまり本馬とほぼ同血とも言える近親にジョッケクルブ賞(フランスダービー)馬Study of Manがいる。
生まれが生まれなら育ちも超エリート。生産牧場は吉田氏のくだりからもわかる通り天下のノーザンファーム。馬主は飛ぶ鳥を落とす勢いでスターホースを獲得し続けている一口馬主クラブ・サンデーレーシング。調教師は関西屈指の名門である矢作芳人……という、ケチをつけるところが一切見つからない完璧な布陣で育成された。
デビューからクラシックまで ~ 順調、そしてその後ろに潜む怪物
2014年12月末の阪神競馬場にて、しばらく主戦を務めることになる福永祐一を背にデビュー。3馬身半差で前評判通り快勝する。
翌年の次走はダービーを見据えてか、東京競馬場の共同通信杯(GIII)に出走し、半馬身差で勝利。しかし、この半馬身差で下した相手がリアルスティールを阻む第一の怪物として少し後に立ち塞がることになる。
この勢いのまま皐月賞トライアル・スプリングステークス(GII)も獲らん! と出走したのだが、2着と初の敗戦を喫することになる。この初めて負けた相手も、後に第二の怪物として立ち塞がる。
皐月賞と日本ダービー ~ 同世代の怪物
そして迎えた皐月賞(GI)、1番人気は後に不遇な扱い仲間になるサトノクラウンに譲ったが、そこまでの安定した走りが評価されて2番人気に支持された。レースは良いスタートを切って先頭5番手辺りの好位置につけ、前の馬も失速し始めた最後の直線で見事抜け出しこのまま一冠……!
と思ったその時、共同通信杯で二着に負かしたドゥラメンテが一気に急加速、最後の直線でリアルスティールを含む全馬をねじ伏せて勝利してしまった。リアルスティールはまたも2着である。
リアルスティールも3着以下は2馬身半引き離していた。本来は完勝だったはずである。これは勝ち馬が「強すぎた」という他ない。同世代にこんな怪物が居たのが不幸だったのだろう。ドゥラメンテも同じノーザンファーム出身・同じサンデーレーシング所有だったのは何の因果か。
続く東京優駿(GI)でも、見せ場は作るが、ドゥラメンテのレコードタイムの走りには敵わず。4着に敗れた。
菊花賞 ~ 思わぬチャンス、しかし……
そんなこんなで春のクラシックを終えて菊花賞に向けた調整に入っていたリアルスティールだったが、そこに思わぬ知らせが舞い込む。
何ということだろう。ライバルの怪我を喜ぶのはあんまり好ましいことではないが、手強い相手が一人消えたのは事実である。しかしこうなれば、意地でも最後の一冠である菊花賞は勝たなければならないという話になってくる。
秋初戦は菊花賞トライアル・神戸新聞杯(GII)。ここは夏の上がり馬リアファルの2着に敗れるが、まあここは叩き台だし、まず及第点と言っていい走りであった。問題は本番だ。
ということで菊花賞(GI)では1番人気こそリアファルに譲るも、2番人気に支持される。レースも序盤の平均ペースから一転超スローペースになったのを福永騎手が見定め、二度目の坂のあたりで早めに前に追い出そうとするが、坂で我慢して最後の直線で内ラチ沿いの馬群を掻い潜るという離れ業を見せた北村宏司と、その相棒キタサンブラックが抜け出る。リアルスティールも加速して猛追したが、わずかに及ばず、2着……。
まさか同世代にドゥラメンテ以外でこんな凄まじい走りができる怪物が居たとは……。これはもう運がなかったとしか言いようがないだろう。この後、キタサンブラックは2年間に渡り国内で古馬の王者として君臨することになる。
以後、リアルスティールは年内休養に入る。「惜しい」尽くしのクラシックであった。
4歳春 ~ 海外で念願の初戴冠
4歳最初のレース・中山記念(GII)では、骨折明けのドゥラメンテとの再戦になり……完全復活していた彼の3着に敗れる。ちなみに2着に入ったのは共同通信杯でドゥラメンテと一緒に倒したアンビシャスだった。なんてこった。とはいえレース内容自体は悪くなかったし、陣営はかねてより目標としていたドバイターフ(GI)挑戦を正式に決定する。
ドバイでは世界的な名手として名を馳せるライアン・ムーアを鞍上に招くも、昨年までは中長距離を走っていたことや、中山記念でドゥラメンテはともかくアンビシャスにも敗れたことから早熟説が囁かれた結果、4番人気という微妙な評価に落ち着く。
しかしレースが始まってみればやや出遅れ気味ながら押し出して先頭2、3番手くらいの好位外目を追走、コーナーではやや後退しながらも少し内側に入り最後の直線で鞭が入ると力強い伸び脚で抜け出して見事に優勝。海外の地で悲願のG1タイトルを手にした。
なおこの日に後に無敗のオークス馬にして日本調教馬初のブリーダーズカップ勝ち馬となる全妹ラヴズオンリーユーが誕生している。
帰国後は鞍上を福永騎手に戻して安田記念(GI)に出走するが、ガレ気味でロゴタイプの幻惑逃げに対応できず、本来の力を発揮できずに11着に沈んだ。
4歳秋 ~ 一つ上の怪物
夏の休養後、陣営は天皇賞(秋)(GI)へと照準を合わせて調整を進める。鞍上は福永騎手からミルコ・デムーロに乗り替わりとなった。
秋天当日は、安田記念の惨敗もあって7番人気の低評価に落ち着く。レースでは後方の好位を確保し、外に回されながらも最後の直線では上がり最速の脚で追い上げる。しかし自身をドバイで勝利に導いたムーア騎手が跨るマイルの絶対王者・モーリスには及ばず、彼の2階級制覇をもっとも間近で見届ける2着に敗れた。
その後は鞍上に再びムーア騎手を迎え、ジャパンカップ(GI)に出走。秋天で見せたパフォーマンスや鞍上交代が評価され、キタサンブラックに次ぐ2番人気でレースに臨むが、直線で伸び悩み5着に敗れる。前年のリベンジは果たせなかった。
5歳以降
5歳以降の戦績については、さほど特筆することはない。マイル・中距離重賞の常連として力を発揮し、毎日王冠(GII)を勝利し、天皇賞(秋)で4着、ドバイターフ3着というように国内外のG1で好走したが、結局2つ目のG1タイトルには手が届かなかった。
6歳時の安田記念15着の後、右前脚種子骨靭帯炎を発症。引退・種牡馬入りが決定した。
通算成績は17戦4勝、2着5回(内GI3回)。
G1は結局4歳時のドバイターフしか取れなかったが、G1での2着は3回、しかもその時に負けた相手がドゥラメンテ、キタサンブラック、モーリスと怪物揃いであったのは運がなかったとしか言いようがない。たらればになってしまうが、この3頭ともう少し世代がずれていれば、後2、3個はG1を取れただろうと思えるくらいのポテンシャルがある馬だった。
しかし、走りにこれといった華がない為か、古馬になってからは同世代のサトノクラウンと並びメディアでの扱いもやや不遇で、ドバイターフを制覇した時も、ドバイシーマクラシックでのドゥラメンテの落鉄が話題をかっさらっていき、あんまり話題にならなかったりと結構ひどい目に遭っている。ダービーまでは「福永悲願のダービー制覇へ!!」みたいな感じで盛り上がっていたんだがなぁ……
引退後
引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。超が付くほどの良血、どの距離でも器用にこなせそうな競走実績、母父のストームキャット系で懸念される成長力の低さを払拭する古馬での実績、200万円という比較的お手頃な種付け料……と、数々の好材料が並んだことで、毎年150頭程度の肌馬を集める人気種牡馬となった。
初年度産駒である2022年デビュー組は順調に勝ち上がり、芝・ダート両方で重賞馬も登場したが、翌年には社台SSからブリーダーズ・スタリオン・ステーションへの異動が発表された。一方で種付け料は22年の250万円から300万円に増額したところからすると、これは社台グループが見切りをつけたというより、非社台系血統の肌馬との相性の良さを鑑みた、日高地方の生産者への需要増を見越した営業戦略と考えるべきだろうか(社台SSとブリーダーズSSではアクセスのしやすさがだいぶ違うのである)。また、ブリーダーズSSのHPで種牡馬情報を見るとリアルスティールのページのみ「照会 社台スタリオンステーション」と書いてありそちらの連絡先が載っていることからもブリーダーズSSに繁用されている社台SSの種牡馬というような状態と見られている。
2023年の年の瀬には2世代目のフォーエバーヤングがJpnⅠ全日本2歳優駿を勝利して初のGI級競走勝利を決めており、パフォーマンスに関してはダートの方も相性の良さが見え始めた。
2024年は前述のフォーエバーヤングがG3サウジダービー、G2UAEダービーを連勝し大目標のG1ケンタッキーダービーでは不利を受けながらも僅差3着と現地アメリカの競馬ファンをも驚かせる走りを見せる。その後もこの年から始まった3歳ダート三冠の最終戦JpnⅠジャパンダートクラシックでは頓挫がありながらも粒ぞろいとされている同世代のトップホースたちの徹底マークを退け驚異的なタイムで圧勝。迎えたダートの世界最高峰レースG1ブリーダーズカップ・クラシックでは現地オッズでなんと1人気に推され、レースでは最内枠で窮屈な競馬を強いられる中でも最後まで失速することなく3着。年末のGⅠ東京大賞典では緩めの仕上げのまま国内のトップ層相手に国際GⅠ初勝利と日本ダート馬の歴史を塗り替えるような大活躍で産駒初めてのGⅠ馬となった。短距離路線でもチカッパがJpnⅢ北海道スプリントカップで重賞初制覇を達成するとそのまま古馬相手のJpnⅡ東京盃も連勝、JpnⅠJBCスプリントでもハナ差の2着と大健闘を見せリアルスティールはダート種牡馬として目覚ましい実績を残した。
芝においても前年GⅡセントライト記念を勝ったのち不調に陥っていたレーベンスティールがGⅢエプソムカップGⅡオールカマーを快勝しGⅠ戦線に名を連ねており、勝ち上がり優秀さなどもあって芝ダートどちらも適応できる優秀な種牡馬と評価が高まっている。
そして2025年、フォーエバーヤングが世界最高額賞金を誇るG1サウジカップを制し、悲願の海外G1タイトルを手中に収めた。2025年から種付け料が500万円に値上がりしており、以前ほどのお手頃感は無くなったがそれでも既に満口になっており、種牡馬としても確実に地位を固めつつある。
現役時代に負かされたドゥラメンテ、キタサンブラック、モーリスへのリベンジを種牡馬として果たせるのか。父ディープインパクト亡き後にその後継を担う有力候補として活躍に期待したい。
エピソード
- 2025年現在、海外G1競走9勝を挙げている矢作芳人厩舎に初の海外G1タイトルをもたらした馬であり、矢作芳人調教師自身もDMMバヌーシ公式チャンネルのインタビュー動画
において「ダービー勝った時より嬉しい」、「最初に見た時から衝撃的に馬が良かった」等かなりの思い入れの強さを見せていた。ディープブリランテ涙目。実際のところ、当時DMMバヌーシでは全妹のラヴズオンリーユーのデビューを控えていた為、リップサービス的な要素も有ったのかもしれないが。
- 代表産駒であるフォーエバーヤングが2025年のサウジカップに出走した際、レース発走前に現地の出走馬紹介で異例の短編アニメーション(しかも日本語訳付き)が流されたのだが……そこでフォーエバーヤングの父として色々とツッコミどころ満載の扱いを受けてしまっている。詳しくはこちらの記事を参照してほしい。
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*ラヴズオンリーミー 2006 鹿毛 FNo.20 |
Storm Cat 1983 黒鹿毛 |
Storm Bird | Northern Dancer |
South Ocean | |||
Terlingua | Secretariat | ||
Crimson Saint | |||
Monevassia 1994 鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native | |
Gold Digger | |||
Miesque | Nureyev | ||
Pasadoble |
クロス:Northern Dancer 4×5×5(12.50%)
日本調教馬初のブリーダーズカップ勝利を含む海外G1の3連勝&エクリプス賞受賞を成し遂げた全妹ラヴズオンリーユー、2018年のジョッケクルブ賞(フランスダービー)馬となった近親Study of Man、フランス二冠牝馬East of the Moonなど世界的名牝系だけあって周りに海外での活躍馬が多い。
日本で活躍した近親だと半姉ラッドルチェントの娘でダービー卿CTやクイーンステークス(連覇)などを勝ったテルチェットや母の半姉*ウーマンシークレットの孫でアルゼンチン共和国杯を勝ち香港ヴァーズで2着に入ったゼッフィーロ、上述のEast of the Moonの曾孫でスプリンターズSを勝っているルガルなどがいる。
主な産駒
- オールパルフェ (2020年産 牡 母 クイーングラス 母父 ルーラーシップ)
- レーベンスティール (2020年産 牡 母 トウカイライフ 母父 トウカイテイオー)
- チカッパ (2021年産 牡 母 *ユニキャラ 母父 Into Mischief)
- フォーエバーヤング (2021年産 牡 母 *フォエヴァーダーリング 母父 Congrats)
関連動画
海外での雄姿
関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2015年クラシック世代
- モーリス(競走馬)
- ラヴズオンリーユー(全妹、当馬がドバイターフを制覇した日に誕生した)
- キングヘイロー(超良血、クラシックで福永祐一が騎乗、距離適性の広さ等、重なる部分が非常に多い)
- 伝説の名馬リアルスティール
- ゲンジツスティール(ウマ娘) - 本馬をモチーフにしたと思われるキャラクター
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