ターフに咲く、大輪の花。
決してあきらめない。
自分の力を信じ、走り続けるその先には
❝優美な百合❞リスグラシュー。
美しさと強さの花が舞う。
早い時期から活躍したが、古馬になってからGIを4勝した。引退の瞬間まで成長し続けていた遅咲きの百合である。
主な勝ち鞍
2016年:アルテミスS(GIII)
2018年:エリザベス女王杯(GI)、東京新聞杯(GIII)
2019年:宝塚記念(GI)、コックスプレート(豪GI)、有馬記念(GI)
概要
~2歳
父ハーツクライ、母*リリサイド、母父American Postという血統。
父は現役時代ディープインパクトを初めて破ったことで有名。種牡馬としても世界王者ジャスタウェイや米GⅠ馬Yoshida(ヨシダ)を出すなど好調を維持している。一方母は11戦5勝の仏国馬。プール・デッセ・デ・プーリッシュ(仏1000ギニー)では1位入線しながら降着した経歴を持つ。「甘美な百合」という意味のリスグラシューという馬名はこの母の名前から取ったもの。母父は英国産、仏国調教のBering産駒。フランスが誇る名馬Sea-Birdの直系であり、プール・デッセ・デ・プーラン(仏2000ギニー)などGⅠ3勝を挙げたが、種牡馬としては成績が芳しくない。
2歳8月に新潟でデビュー。ここは2着に敗れるが、阪神に移った2戦目は後続を4馬身ぶち抜き、2歳コースレコードを打ち立てる圧勝。その勢いでアルテミスS(GIII)に参戦し、ここも良血フローレスマジックらをきっちり差し切り勝利。堂々と阪神JF(GI)に駒を進めるが、ここに立ちはだかったのが欧州王者フランケルとディアヌ賞(仏オークス)馬*スタセリタの子供という超良血馬で2戦無敗のソウルスターリング。戸崎圭太が代打騎乗したリスグラシューは後方待機から上がり最速で詰め寄るが、先団から上がり2位で飛んで行ったソウルスターリング相手にはまるで相手にされず完敗の2着。思えばこの敗戦がリスグラシューのその後のキャラ付けを決定してしまったような…。
3歳
チューリップ賞(GIII)はまたもソウルスターリングと対戦。今度は中団から追ってみるが、ソウルスターリングに追いつくどころかキャリア1戦のミスパンテールにかわされ3着と敗れる。
本番の桜花賞(GI)は大本命ソウルスターリングの行きっぷりが悪く、直線の手応えはリスグラシューの方が上だったのだが、4番手に付けていた伏兵レーヌミノルが先に抜け出し粘り切ってしまった。リスグラシューは因縁のソウルスターリングこそ差し切ったが半馬身差2着。惜しい。
オークス(GI)ではそのソウルスターリングが圧勝し母娘で2ヶ国のオークスを制覇する偉業を達成。リスグラシューはいつも通り中団につけたが最後に他馬に挟まれるなどの不利もあり自己最悪の5着と敗れてしまう。
秋のローズS(GII)はソウルスターリングが古馬戦線へ向かい不在となった。チャンス到来…のはずが、後方から追い込むがラビットランに末脚勝負で負けて3着。本番の秋華賞(GI)も重馬場の中よく追い込んだがそれ以上の末脚でぶち抜いたディアドラに完敗の2着。
エリザベス女王杯(GI)はドスローペースで追い切れず8着と惨敗。結局3歳シーズンは勝ち星なしに終わる。安定はしているが勝ちきれない。この時点ですっかりリスグラシューには「シルバーコレクター」「善戦ウーマン」「惜しい馬」という印象がついてしまう。
4歳
オークス、エリザベス女王杯と中距離戦でいまいちだったこともあり、初戦にマイルGIII東京新聞杯を選択。中団から馬群を切り裂いて差し切り、アルテミスS以来の勝ち星を挙げる。
これならと阪神牝馬S(GII)では1番人気に支持されるが、またしてもスローペースで追い届かず、先行2頭に行った行ったを許す3着。どうにも噛み合わない。大本番ヴィクトリアマイル(GI)も雨の中上がり最速で追い込んだが一足先に抜けていたジュールポレールにハナ差振り切られて2着。惜しい…。
安田記念(GI)は早めの進出を試みるが跳ね返され8着と惨敗。
夏を休養にあて、秋は府中牝馬S(GII)で復帰。馬体重+12kgのせいかはたまた乗り替わった鞍上ミルコ・デムーロの力か、力強い末脚で直線半ばまで先頭を維持。しかしまたしてもディアドラに差し切られクビ差2着。
陣営はマイルCSではなくエリザベス女王杯(GI)を選択。鞍上に香港ジョッキークラブ所属でブラジルから短期免許で参戦した「雷神」ジョアン・モレイラを迎える。距離不安がないではなかったがモレイラならなんかやるかも、と3番人気に支持されると、スローペースを中団で追走するこれまでの惜敗パターンながら直線で上がり最速の末脚を繰り出し、絶妙に逃げたクロコスミアを寸前で差し切り。悲願のGⅠ制覇を成し遂げた。
なお、この勝利でこの日の京都競馬場は1Rから外国人騎手が11連勝。あわや全レース外国人に持っていかれる寸前となったが、最終12Rで藤岡佑介が勝ち日本人全敗だけは免れた。
陣営は次走にさらなる距離延長となる香港ヴァーズ(GI)を選択。凱旋門賞でも人気となったWaldgeistなど骨っぽいメンツが揃う。モレイラとコンビを継続し、前走同様スローペースを後方で待機し直線で一度は先頭に立つ勢いまでいったが、捉えようとした地元馬Exultantに差し返されまたも2着に敗れる。前走で金メダルを手に入れやっと善戦ウーマンから脱却できたかと思いきや、またも善戦街道に。惜しい。惜しすぎる。しかし初めての海外遠征で陣営曰く状態もあまりよくなかったそうなので、牡馬混合の2400でよくやったともいえる。
この年は7戦して馬券圏外は1戦のみという安定感。JRA最優秀4歳上牝馬を受賞する。
5歳
5歳初戦にはGII金鯱賞を選択。ドイツの名手アンドレアシュ・シュタルケを鞍上に迎える。かなり強力なメンツが揃ったこともあり5番人気にとどまり、レースも出遅れてしまう。出遅れが響く中でも中団からまたしても上がり最速の末脚を披露するが、3番手にいたダノンプレミアムが同タイムの末脚を使いまたしても2着。惜しい。
次走は再び香港に飛び、GIクイーンエリザベス2世カップに出走。今度は日本でも好調だったオイシン・マーフィーとタッグを組む。今度はハイペースを中団追走するおあつらえ向きの展開になったが内を完璧に抜けた日本馬ウインブライトに届かず、またしてもExultantに差され3着。なんとも惜しい。
帰国したリスグラシューは宝塚記念(GI)に出走。鞍上には2017年のオーストラリアンダービーを23歳で制した若手ダミアン・レーンを迎える。そしてこのダミアン・レーンとリスグラシューの出会いが、お互いにとっての運命の出会いとなる。
実績馬が伯仲し人気が割れる中、紅一点ながら3番人気の支持を受けたリスグラシュー。外枠からいいスタートを決めると、鞍上レーンは瞬時の判断でリスグラシューを促し、最初のホームストレッチで2番手まで押し上げる積極策に出る。それまで中断後ろからの差しが基本だったため、リスグラシューの位置にざわつくスタンド。それでもピタリと折り合い平均ペースを追走、直線で仕掛けると抜群の手応えで逃げるキセキを一瞬のうちに捉える。あとは上がり最速で後続を悠々と突き放し、3馬身差の圧勝。GⅠ2勝目は史上4頭目の牝馬による宝塚記念制覇となった。勝ちタイムの2分10秒8は阪神競馬場の芝2200mで行われた宝塚記念では史上2番目に速いタイムである。GⅠを2勝し、牡馬相手に圧勝してみせたリスグラシューはようやくシルバーコレクターを返上した。
5歳秋になり、今年から宝塚記念優勝馬に勝てば300万+200万豪ドルという魅力的なボーナスのついたオーストラリアのムーニーバレー競馬場で行われるGIコックスプレートに遠征する。4月に香港遠征を行ったため最初は香港とオーストラリアの検疫規定により出走が不可能になり、オールカマーからの始動が発表されていた。しかしリスグラシューにどうしても出てもらいたいオーストラリア農務省など関係者の尽力により検疫規定が改訂されて遠征が可能になり、正式にコックスプレート参戦が決定した。前年まで4連覇を果たしていた豪傑ウィンクスが引退していたこともあり1番人気に推されると、道中最後方から大外ぶん回しの競馬で全馬差し切る豪快なレースを披露してGI・3勝目を追加。ムーニーバレー競馬場は直線がたったの173mしかない。そんな短い直線で大外をぶん回して差し切り、最後は2着に1馬身半差をつける快勝は圧巻の一言。更に言えば2着の地元3歳馬キャステルヴェキオの斤量は49.5㎏、リスグラシューは57㎏だった。
引退レース、そして……
次走は第64回有馬記念(GI)、そしてこれが引退レースになることが矢作調教師から発表された。また、このラストランはコックスプレートに引き続きダミアン・レーンが手綱を握る事になった。レーンは既に年間3カ月の短期免許期間を使い切っていたが、2003年に短期免許で来日していたミルコ・デムーロがネオユニヴァースで皐月賞とダービーを制覇した後、デムーロに菊花賞の騎乗を可能にするために作られた「同一年内に同一馬に騎乗してJRAのGIを2勝していた短期免許騎手は、その年内にその馬でJRAのG1に騎乗する開催日に限り短期免許失効後も騎乗できる」という特例ルールを宝塚記念とコックスプレート(JRAで馬券発売した)に当てはめ、1日限定の免許取得が認められての参戦であった。
香港などに流れることもあり近年メンバーが揃い辛かった有馬記念であるが、この年はGI馬が多数参戦、さらには香港カップを回避して急遽参戦した牝馬三冠馬アーモンドアイも加わり、現役最強馬との最初で最後の対決が実現。GⅠ馬11頭の空前絶後の豪華メンバーで行われることになった。事前の公開枠順抽選会にて矢作調教師からガッツポーズが出た3枠6番の絶好枠、人気はアーモンドアイに次ぐ6.7倍の2番人気。1.6倍のアーモンドアイには大きく水をあけられることになったが、リスグラシューの調子は絶好調。2週連続坂路併せ一杯で臨戦態勢を整え、充分な負荷をかけてもなお当日の馬体重は過去最高の468kgとパンプアップしていた。輸送の度に体重を減らし、飼い葉を食べず、体重維持に必死になっていたか弱い牝馬の姿などもうそこには跡形もなかった。
レースではアエロリットが作った1000m通過58秒5というハイペースの中、中団の内で待機。4コーナーではレーン騎手がドリフトするかのように一気に大外へと持ち出し、そのまま上がり最速の3ハロン34秒7という末脚を繰り出して残り200m地点で先頭に立ち、2着のサートゥルナーリアを直線だけで5馬身突き放す圧勝を見せた。しかもノーステッキ、かつ最後は流してレーン騎手がガッツポーズを見せていたのだから(これが引退レースなのでこう言うのはおかしいことを百も承知の上で敢えて言うなら)末恐ろしい勝ち方である。これにより有馬記念父娘制覇を果たし、国内外GIを3連勝。加えてドリームジャーニー以来史上10頭目、牝馬としては史上初のグランプリ春秋連覇という偉業を成し遂げ、この上ない有終の美を飾った。クラブ馬のため引退は規定上どうしようもないのだが、矢作調教師もレーン騎手も引退を「本当にもったいない」と称している。
この圧倒的勝利によってリスグラシューには126ものレーティングが与えられた。牝馬は斤量の関係で4低く出るためそれを補正すると実質レーティングは130(!)。同父のジャスタウェイと同値であり、エルコンドルパサー(134)に次ぎ、オルフェーヴル、エピファネイア、イクイノックス(129)を凌ぐ日本競馬史上歴代2位のパフォーマンスという評価が与えられた。
2歳時にアルテミスSを勝った時の馬体重は428kg、引退有馬の馬体重は468kgと実に40kgも増えている。若いころから安定はしていたのだが、何度も負けながら少しづつ強くなり、最後はとんでもない女帝へと変貌して花道を飾ることとなった。同世代の馬にクラシックで負けまくり、古馬になっても色んな馬に何度も負けてシルバーコレクターと言われた牝馬は、宝塚記念で牡馬を一蹴し、コックスプレートで海外馬を一蹴し、有馬記念でアーモンドアイ含む現役のGⅠ馬達をまとめて一蹴し、最後の最後に現役最強馬となり華麗に勝ち逃げをしてターフを去っていった。
そして年が明け、JRAから1月7日付で年連続の最優秀4歳上牝馬と初の年度代表馬を共にほぼ満票で受賞した。果たして一体何人の競馬ファンが、2019年初めにリスグラシューがその年文句なしの年度代表馬に選出されることを予測できただろうか。2歳から追い続けてきたファンはそれはたまらなかっただろう。
驚異の成長力を見せてくれた遅咲きの大輪の百合の花であった。2020年1月19日に京都競馬場で引退式が行われ、約7000人のファンに見守られながらターフに別れを告げた。今後は繁殖牝馬として、その常識外れの成長力を産駒に伝えていくことになる。
血統表
ハーツクライ 2001 鹿毛 |
*サンデーサイレンス Sunday Silence 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
アイリッシュダンス 1990 鹿毛 |
*トニービン | *カンパラ | |
Severn Bridge | |||
ビューパーダンス | Lyphard | ||
My Bupers | |||
*リリサイド Liliside 2007 鹿毛 FNo.1-l |
American Post 2001 黒鹿毛 |
Bering | Arctic Tern |
Beaune | |||
Wells Fargo | Sadler's Wells | ||
Cruising Height | |||
Miller's Lily 1988 鹿毛 |
*ミラーズメイト | Mill Reef | |
Primatie | |||
Lymara | Lyphard | ||
Maradadi |
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関連項目
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- 0pt