リョコウバトとは、ハト目ハト科に属する鳥類の一種。北米大陸東部において隆盛を極めていたが、20世紀初頭に絶滅した。
概要
かつて北アメリカ大陸東岸に生息していた渡り鳥。全長は40cmほどで、頭部から上面にかけては青灰色、下面と脚部は鮮やかな赤色をしていた。
その総数は何と推定50億羽と、鳥類史上最も栄えていたと言われ、全盛期は空をリョコウバトの大群が埋め尽くして真っ黒だったとか。
大群をなしてやってくる一団が通りかかると、多くのリョコウバトが木の枝に止まろうとするため、枝が次々とへし折れ丸裸になったとか、リョコウバトが通った後の糞害が酷く、草が全部枯れたとか、数々の伝説を残している。
リョコウバトの脂肪はバターになったため、先住民族はその恩恵に感謝し、雛を育てているリョコウバトを殺めないようにしていたという。
しかしアメリカ大陸開拓により人口が急増、移民してきた白人達はそういった風習には目もくれなかった。
むしろその美味な食肉や、飼料、または羽毛の採取を目的として、大規模な乱獲が行われたのだ。
一時期はリョコウバトの死骸の山が積み上がったほどであり、今でもその写真が残っているくらい壮絶なものだった。しかも殺しすぎて処理しきれず、家畜に余った死骸を始末させるという有様だった。
ちなみに狩猟ペースは、少なめに見積もっても1年に1億羽以上のハイペースで殺された計算になる。
だがそれは、それだけこれまでリョコウバトがこの地球上で繁栄してきた、という証拠でもあった。
規模は圧倒的に違うが、日本人に分かり易いように例えると、かつてのリョコウバトは、カラスやスズメなどのようにどこにでもいる野鳥といった認識でしかなかったのだ。
カラスらとリョコウバトにあった決定的な差は、繁殖力もそうだが、やはり肉が美味で脂肪はバター精製に使えるという点にあったといえよう。
最も栄えていた鳥から、絶滅へ
当時の白人移住者からすれば、「これだけ数がいるなら少しくらい殺しても平気だろう」といった考えだったのだろう。
実際、こんなどこにでもいるリョコウバトなどを研究する鳥類学者はほとんどいなかった。
ところがこのリョコウバトは、元々繁殖力の弱い鳥であり、数年に一度、しかも一個しか卵を産まなかった。
この程度の繁殖力しかない生き物が、ここまで繁栄したというのも逆にすごい話であるが、多すぎるが故にこのことをちゃんと調べる者がいなかった。学者に興味を持たれなかったことは、リョコウバトにとっての第一の不運だった。
ハイペースな狩猟、そして開拓による営巣地の減少というダブルパンチは、繁殖力の低いリョコウバトを一気に追い詰めていった。おまけに天候不順も相まって、リョコウバトはあっという間に絶滅への道へと滑りこんでいってしまう。
1860年頃、数がおびただしく減ったことにようやく気付いた国は狩猟禁止令を出して保護に乗り出すも、もう後の祭。
その頃にはあれだけの繁栄を築いたリョコウバトは、もはやその姿を目撃することすら珍しいという鳥になっていた。
しかし、当時の人類に保護の意識はそれほど根付いていなかった、ましてや開拓に躍起になっていた白人達にそんな号令に効果があるはずもなく、その後も狩猟は続いた。
ついに25万羽までに減ったリョコウバトの群れは、オハイオ州に集結していた。
これを知ったハンターは、保護するどころか最後の大狩猟に打って出ることになった。この時オハイオに留まっていたリョコウバトは、狩猟団によって一気に狩り尽くされ、なんとか生き残ったのは1000羽程度だったという。
ここまで追い詰められては、繁殖力の低いリョコウバトに未来はなかった。どんどん数を減らしていく中、何羽かのリョコウバトはなんとか動物園によって保護された。しかし、野生のリョコウバトはなおもハンター達に狙われ続けた。
1907年には最後の野生のリョコウバトが撃ち落され、野生のリョコウバトがまず滅びを迎えた。
生き残ったのが3羽程度ではもはや、種の保存はおろか、再生など絶望的であった。もはやリョコウバトの絶滅はこの時点で決定づけられていたのだ。
まず1羽が死に、また1羽死んでいく中、最後に残ったリョコウバトは「マーサ」と名付けられ、かつての扱いとは正反対のとてつもない高待遇を受け、丁重に飼育されていたという。
そんなマーサも、1914年9月1日、飼育小屋の止まり木から落下しているのが発見される。こうしてリョコウバトは絶滅、完全に地球上から姿を消すことになったのだった。
補足
人間の業の深さ、あるいは白人移住者の民度の低さの理由として槍玉に挙げられる例の一つが、このリョコウバトの絶滅である。
しかし、近年の研究でリョコウバトの絶滅には前述のように天候不順などによって環境が悪くなったことも一因を担っていたことが指摘されている。
とはいえ、山が出来るほど殺戮を繰り返した人間が、絶滅の最大の決め手を作ったことは間違いないし、オハイオ州に残った最後の25万羽をなんとか生かしておけば種の保存・個体数回復に一縷の望みが生まれていたかもしれない。
そこを考えれば、ハンター達の行動が極めて軽率だったことは否定出来ない。
だが、批判する前に当時は保護に対する意識が著しく低かった。しかも白人にとっては開拓時代だったということを念頭におかねばならない。
今もなんとか生き残っていれば歴史は変わっていたかもしれないが、開拓の全盛期で燃えに燃えていた人類に、保護という言葉にそれほど大きな価値はなかったのである。
むしろ減れば減るほどこういう動物には希少価値が生まれるので、ハンターの稼ぎの観点だけで見ると、リョコウバト狩りは美味すぎてヨダレが出るものだった。
かつての絶滅動物達が際限なく狩られる理由の多くは、こういった個体数減少による希少価値の上昇からきている。
しかし、同じ頃に絶滅の危機に陥っていた鳥類・ヒースヘンが絶滅の危惧に立たされた時
「これは流石にマズイ、保護しよう!」
という動きが高まったりするなど、時代を重ねるごとに、人間の意識は目に見えて改革されているのも確か。
つまり、人はかつての過ちから、学ぶことが出来る生物だということも、また間違いのない事実。
そこも見たうえでこそ、初めて絶滅について冷静に語ることが出来るということを覚えておこう。
しかし同時に、地球史上最も栄えた鳥類を絶滅させた人類の力に、恐れも抱かなくてはならないことだろう……。
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