リン・パオ(Lin Pao)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。CV.鳥海浩輔(オーディオブック版)。
概要
ダゴン星域会戦時の自由惑星同盟艦隊総司令官・中将。旗艦は<サンタイサベル>。当時36歳。
でかい身体をして、髪は黒、目は濃藍(コバルト・ブルー)、鼻と口が一つずつある悪くない顔をした男だったという。
参謀長を務めたユースフ・トパロウル中将とともに同盟と帝国の最初の戦いとなったダゴン星域会戦で同盟軍艦隊を総指揮、戦史に残る完全勝利へと導いたことで、同盟史上の英雄として名を残した。
経歴
迎撃司令官任命
彼を迎撃総司令官に任じたのは統合作戦本部長ビロライネン大将の進言を受けた評議会議長マヌエル・ジョアン・パトリシオであったが、この人事は軍の内外を問わず極めて不評であった。
それはなぜか?能力はともかくとして人格がどうしようもない奴だったからである。
建国から100年程度という生真面目な時代、それも帝国軍大挙侵攻という危急存亡の秋に、営々と築き上げられてきた宇宙艦隊を背負って立つ身だというに感動も使命感もろくに示さない。あまつさえ「民主主義は食えませんが、デザートは食えますね。それもおいしく」などと言い放ち、ついでにいえばトラブル・メーカーで無類の女好きで酒豪で大食漢なんていう不道徳お腹いっぱいな奴を、清く正しい道徳人だ、国家の存亡を託すに相応しい人格者だ、なんて思って信頼する奴がいるかって言えばそりゃ当然居ない。犬猿の仲の参謀長ユースフはもちろん、任じたパトリシオ議長だってそんなこと思っちゃいない。
では、なぜ任せたのか?人格はともかくとして能力は十分にある奴だったからである。
パトリシオ曰く「わが同盟軍は、とりえのない人物を三〇代で提督の地位につけるほど、いいかげんな組織ではない」のはもちろんのこと、リン・パオは人事に反対した国防委員長コーネル・ヤングブラッドも「無能にはほどとおい」「これまでの武勲は数しれません」と認めざるを得ない指揮能力を持っていた。トラブル・メーカーを置くなら中間より最上位のほうが良い、というパトリシオの(能力はともかく人格を一切評価していないのが明白な)経験則もあって、国防委員長も洗脳された納得したのであった。
ダゴン星域会戦
さて、こうして、リン・パオは参謀長ユースフから「知ってるだろうがお前の存在が気に入らない」と言わんばかりの態度と「このさい言っておくが、おれはあんたのそういうところが気にいらないんだ!」という直截な罵倒(理由は「冗談に品がなさすぎる」から)を受けつつ、迎撃体勢を整えていった。
宇宙暦640年7月14日、同盟軍と帝国軍は最初の砲火を交え、ダゴン星域会戦が始まる。緒戦は帝国軍の優勢というあたりで推移したが、このとき彼は「戦闘をなるべく避けて負けないことに徹する」という方針を取り、覇気の無さを部下から批判された。中盤18日、帝国軍が総司令官ヘルベルト大公の無謀な命令により分散出撃を始めたときには、朝食にラム酒入りのマーマレードをたっぷり塗ったメルバトーストを6枚平らげつつも困惑の色を見せている。
この帝国軍の行動の真意をつかめなかったリン・パオはその日じゅう、戦術的には的確だったが戦略的な決断に踏みきれず、ユースフともども総司令部をド陰気に叩き込んだ。しかし翌朝、ついに彼は帝国軍が単に「あほう」であることに気づき、麾下の全艦隊に敵本隊のいる宙域への集結を命じる。
7月19日16時、リン・パオはついに自軍の優勢を確信すると、「爆発的攻勢」に出た。この攻勢は名称の文学的センスはともかく作戦としては成功し、帝国軍を一挙に押し返したが、最終的には帝国軍予備隊の動きに牽制され半端に終わった。しかしこれを受けた帝国軍は全軍を本隊のもとに集結させる。そして20日夜、彼は帝国軍をほぼ包囲下に置きつつあった全同盟軍艦隊に対し、敵の集結を待って総攻撃をかけるよう命令を下した。
戦後
戦闘終了後、リン・パオは事後処理終了次第の帰還とシャンペン20万ダースの要求を伝えると、その事後処理を全てユースフに任せて消えた。大功を成した英雄がそのまま姿を消したと書くとロマンチックな気がしないでもないが、単にブルネットの看護婦の部屋にふたりでこもっていただけであった。ユースフはキレた。
会戦後、英雄となった彼はユースフとともに大将を経て40代で元帥へと昇進したが、功績の大きさから居場所をなくし、元帥昇進後一年程度で退役。政治の道を選ぶつもりもなかったため、彼はその後さいごまで教育・福祉関連の名誉職を務めるだけで過ごした。
人望
前述のように、リン・パオは能力はともかくとして人格がどうしようもない男であり、それは彼が迎撃を総指揮すると知った同階級同年輩の各部隊指揮官の反応に如実に表れている。
いわく、「ウォードはうなり声をあげ、オレウィンスキーは低く舌打ちし、アンドラーシュは肩をすくめ、エルステッドは天をあおぎ、ムンガイはため息をついた。彼らの自制心にとって、これは小さからざる試練であった」。つまり、この男は僚友からの人望というものをこれっぽっちも持ち合わせていなかった。いくら不道徳者といっても、まわりからここまで嫌われるのはある意味才能である。
ちなみに、この反応は「リン・パオとユースフ・トパロウルのコンビが彼らを指揮すると告げられたとき」の反応であるので、要は二人揃って人望なんざまったく無かったということであった。
また、こちらも今まで何度も記述したように、そのユースフとも「仲よくしたって負けるときは負ける。無意味だね」と言い放つレベルに仲が悪かった。この二人の関係について、リン・パオの愛人のひとりフロリンダ・ウェアハウザーは「けっこういいコンビ」と評し、その実情を的確に指摘している。
好色
彼が相当の好色であったことは前述のとおりである。
伝記によれば、彼の関係した女性は姓名がわかるだけで94名、実際の数はその10倍。子供には読ませられない伝記だ。
中でも特に有名な5名のうちには、ダゴン星域会戦当時同棲していたフロリンダ・ウェアハウザーも含まれ、最終的には彼女がリン・パオの死を看取って埋葬と葬儀を行っている。そしてむろん、同棲中も街で女を買ったりブルネットの看護婦と関係を持ったりしていた。
国防委員長ヤングブラッドがリン・パオ総司令官の不安をパトリシオ議長に伝えた時も、彼の過去の逸話が持ちだされている。それによれば、惑星ミルプルカスの通信基地にいたとき、リン・パオはその基地に所属する全女性軍人14名のうち12名(うち既婚3名)と(合意の上で)ベッドをともにしたという。
補遺
「立場のことなるふたつの真剣さのあいだには、滑稽という私生児が生まれる」という格言を残している。この言葉は、のちにヴァンフリート星域会戦において衛星ヴァンフリート4=2で対戦することとなった同盟軍の補給基地と帝国軍のグリンメルスハウゼン艦隊を形容するために引用されている。
関連動画
関連項目
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