レッド・スペシャル (Red Special) は、イギリスのロックバンド・クイーンのギタリスト、ブライアン・メイが持つエレキギターである。
レスポールやストラトキャスターなどのように工場で大量量産されていない、世界に1つだけのハンドメイドギター。
概要
ブライアン・メイが16歳ぐらいの頃に父親のハロルド・メイと共に製作したギターである。
当初は単に"The Guitar"とだけ呼んでいた(ギターテックからは"Old Lady"とも呼ばれた)ようで、後にラジオ番組でインタビューを受けた際、ギターの名称を聞かれて咄嗟に答えたのが"Red Special"という名前。
ピックアップやペグを除いてほぼすべての部品は廃材利用で作られている。
1960年代に製作されてから細かいオーバーホールを重ねて50年以上(ボディ材に関してはこれの3倍以上)経つにも関わらず未だに現役である。
特徴
- ネック材は100年以上前(1960年代当時なので現在なら150年以上前)の暖炉に使われていたマホガニーである。ネックの狂いはギターにとって致命的だが、暖炉という環境と100年以上という年月によって完璧な乾燥がなされたのかほとんど狂わず、現在に至るまでトラスロッドの調整が必要だったことはないという。なおこのネック、設計段階でフレットボードの厚みを計算に入れ忘れたため、通常のギターに比べて丸太と比喩されるほどの極太となっている。このため手が小さい人にはすこぶる扱いづらい。
- フレットボード(指板)はプラスチック塗料を塗り重ね、黒く染めたホワイトオーク。ドットマーカーはシャツのボタンを流用したもの。ナットは自作の樹脂製で、フレットは市販品を自作の器具で曲げて加工したもの。
- ボディは一見ソリッド(空洞なし)に見えるがセミホロウ(一部空洞)構造で、ブリッジ・ネックポケット付近は重く硬いホワイトオーク、空洞部分を囲むボディ外周は軽量なブロックボード材(ランバーコア)でできており、ボディ全体が厚さ1-3㎜のマホガニーの化粧板で覆われている
- ボディとネックの接続は所謂ボルトオン(デタッチャブル)方式だが、一般的な4点止めとは違い太いボルトとワッシャーで一点止めした豪快な仕様。フロントピックアップ下までネックを差し込む超ディープジョイントを採用するなど、構造上ではむしろセットネックに近い。
- ブリッジやコントロールノブはアルミ削り出しによる手作り。ブリッジは当時にしては珍しいローラーブリッジ。なおこのローラーは市販品のように固定されておらず、溝に乗せたものを弦で押さえつけているのみ。弦が切れると紛失の危険があるため、ブライアンはスペアのローラーを大量に所持しているとか。
- トレモロユニットはボディ下部の深くに埋め込まれた、これまた独特なナイフエッジ式。二本のスプリングを押す力と弦のテンションとのバランスを取ることでフローティング状態を作り出す仕組み。支点のナイフエッジは鉄板を加熱しナイフ状に加工したもので、50年の使用に耐えうるほど頑丈な代物。スプリングには古いバイクのエンジンのばねを流用している。トレモロアームには自転車のサドル用バッグのパーツ、先端のキャップには母親の編み棒の一部分を成形して使用。
- ピックアップはバーンズ(Burns)社のトライソニック。1985年のインタビューでは、中のコイルを巻き直した改造品を使っていると語られていたが、実際はハウリング防止のために内部にアラルダイト(エポキシ樹脂接着剤)を染みこませる改造が行われたのみ(完成当初に搭載していた自作PUのワイヤリングをトライソニックに行ったものと勘違いしていた模様)。後のレストア時には全体をパラフィンワックスに浸され、さらなるハウリング対策が為された。
- 一般的なパラレル(並列)配線でなくシリーズ(直列)配線で、PUごとにon-offスイッチと位相入れ替えスイッチによって13種類の音色を作り出すことができる。特に、逆磁であるセンター+リアPUのぶ厚いハムバッキングサウンドと、フロント+センターを逆位相で使った泣き叫ぶようなフェイズ・アウトサウンドは鮮烈である。かの名曲「Bohemian Rhapsody」のレコーディングではそれら全ての音色を使用したとのこと。ライブにおいてはセンターとリアの同位相セッティングが9割を占めるが、「Brighton Rock Solo」などではスイッチとコントロールノブ、トレモロアームをせわしなく動かし様々な音色を奏でることも。もはやギターの演奏に見えない
- 当初はファズ回路も搭載されていたが一年ほどで取り外され、ピックガードのスイッチ跡には30年以上もの間赤いシールが貼られていた(詳細が公開されるまではライトが搭載されているとか特殊なボタンスイッチであるとか噂されていた)。現在はブライアンのトレードマークである、星形のインレイで埋められている。
- ショートスケール(弦長609.6mm)で、ヘッド角は約4度と浅いのでテンションはかなり弱い。加えて24+0フレット仕様。ストラトキャスターがロングスケール(647.7mm)の21or22フレット、レスポールがミディアムスケール(628.65mm)の22フレットであることを考えるとかなり特殊な仕様。ハイフレットの幅はかなりキツく、指の太い人では音を出すのも一苦労である。なお0フレットを採用している理由は、ナットと弦の干渉によるチューニングの狂いを軽減するため。
コピーモデル
量産ギターでないため、真に「レッド・スペシャル」と呼べるギターはブライアン・メイ本人の持つものだけであるが、1980年代初頭から現在に至るまでいくつかのコピーモデルが発売or製作されている。
公認モデル
1996年にレッド・スペシャルのレストアを担当したオーストラリアのギター職人、グレッグ・フライヤーが製作したレプリカモデル。内部構造を熟知した職人が手掛けたため、完成度はオリジナルに匹敵する出来。現在に至るまでサブギターとしてブライアンに愛用されている。
ブリッジの形状が異なる"John"、指板がローズウッドでフィニッシュがやや薄い色の"George burns"、本物と瓜二つな"Paul"の三本が製作、前者二つがブライアンに贈られ、後者はフライヤー自身が所有。名前の由来はブライアンが尊敬するロックバンド、ビートルズのメンバーのものだろう。リンゴェ…
現在レッド・スペシャルのレストアを担当しているイギリスのギター職人、アンドリュー・ガイトン製作のモデル。黒に近いグリーンのフィニッシュが特徴的。そのクオリティはフライヤー製に勝るとも劣らないそうな。
ブライアンにはドロップチューニング用のサブギターとして使用されている。なおガイトンはこれ以外にも様々なレッド・スペシャルを製作しており、中には赤い本家の完全コピーモデルや、ダブルネックやアーチドトップ、ヘッドレスなどの変態変わったモデルも存在する。映画ボヘミアン・ラプソディでブライアン役のグウィリム・リーが使用していた撮影用フロップもガイトン製だとか。
2006年発売。ブライアン自身が立ち上げたブランド、Brian May Guitarsから販売されているシグネチャーモデル。通称BMG。ブラックマジシャンガールではない
元のギターは2001年から2005年までバーンズ社から販売されていた"Burns Red Special"。バーンズとの契約終了に伴って生産ラインを引き継ぎ、若干の仕様変更を加えて販売したのがこちらのモデル。チェンバー構造やトライソニックの直列接続など、レッド・スペシャルとして押さえるべきポイントは押さえているが、トレモロユニットはストラトキャスター等に採用されているシンクロナイズドタイプであるため、本物とは外観が大きく異なる。
コストダウンのおかげか日本円で12万円前後と、ギターとしてはなかなかリーズナブルな価格。所謂廉価モデルということもあり、本物に忠実なサウンドは出せないというのがもっぱらの評判であった。しかし新型コロナウイルスの流行を受けSNS上で行われたMicro Concertにて、ブライアン自身の手で本物のレッド・スペシャルさながらの音色を奏でた。結局は弾き手次第ということだろうか。マジでどうやって出してんだあの音カラーバリエーションが豊富であり、ミニギターやアコースティックギター、ウクレレといった派生商品も展開されている(日本国内では未発売)。
実はボヘミアン・ラプソディのラストシーン、ライブエイドのステージ上にこのギターがしれっと置かれている(史実では赤いダブルカッタウェイのレスポールジュニア)。ジョンの背後、サブ機置き場に注目。
非公認、旧公認モデル
世界中に無数に存在するため、本人が使用していると確認できるandニコニコで動画としてアップされているものに限り紹介。
- グレコ(Greco)BM-900(本人非公認)
1976年発売。非公認であるが、「Good old fashioned lover boy」のPVにて使用。バリエーション(という名目で事実上の再販)にBM-80、BM-90が存在。 一見すると似ているが、くびれの少ないボディシェイプ、14度のヘッド角、ミニスイッチを採用したフェイズスイッチ、ワイドトラベラーブリッジ(ハーモニカブリッジ)、シンパサイズ・トレモロ(ダイナミック・トレモロ)など細かい部分ではかなりの差異が見受けられる。 1976年当時では唯一のコピーモデルということもあり、国内ではかなりの販売数を記録した模様。しかしブライアン本人はあまり気に入っていなかったようで、後のBrian May Guitars立ち上げの際、「粗悪なコピー品」、「あんな偽物に1000ドルも払わないように!」と名指しで批判された不憫なギター。 なお肝心のギターとしての性能だが、ムスタングに似た構造のトレモロユニットとヘッド角のキツさのせいでアームを使うとチューニングがすぐに狂う点、ストラト用PUの改造品(やや厚みがありコイルの巻き数が多い、ただしパワーは弱め)をパラレル接続しているため音色が本家とかけ離れている点、空洞のない完全ソリッドボディのせいでレスポール並かそれ以上の重さであることなどが問題視されがち。 所謂ジャパン・ヴィンテージなのだが、流通数が多いためか現在も中古市場に度々出回っている。が、量産前に少数販売された「プロジェクトシリーズ」時代のものはかなり希少。見分けるポイントはボディエンドがやや平べったい点、通常トラスロッドカバーに書かれているGrecoの文字がヘッドに刻印されている点など。
- ギルド(Guild)BHM1
1984年販売。初の本人公認モデル。「One Vision」のMVで登場しているほか、ライブでもサブギターとして度々使用された。ディマジオ製シグネチャーPUとケーラー製トレモロユニットを搭載しているのが特徴。 このモデルをベースに製造されたBM01(1993年販売。PUとトレモロが本物に近い仕様)をブライアンはかなり気に入っていたようで、90年代ソロ公演のバックステージには実に4本ものレプリカが待機していた。後にスペックに対する見解の相違からブライアンとギルドの契約は解消となった。 廉価バリエーションとしてセンター&リアPUの配置が近いノントレモロ仕様のBM02、ハムバッカー搭載のBM03が存在。さらなる廉価品として、位相スイッチがなく5wayセレクターとアラウンドバーブリッジ採用のBrian May Signature Specialなるギターも確認されている。 ライブエイド時点で既にサブ機として確認されている本ギターだが、残念ながら映画のステージシーンでは再現されず。
- Brian May Guitars Brian May Super
2007年発売。通称BMG Super。上記のBMGの上位モデルとして発表された。元になったギターは日本でレプリカモデルを製作していたKz Guitar WorksのRed Special Jr.、よって日本製である(販売価格577,500円 2009年8月当時)。ブライアンは赤と黒のカラーを受け取り、赤いほうはボディに「SUPER」のデカールを貼り付けてサブギターとして使用、黒いほうはロジャー・テイラーにプレゼントされた(インタビュー動画などでロジャーの自宅に飾られているのが確認できる)。 ボディ材から構造まで本物に忠実で、唯一の違いはローラーブリッジにウィルキンソン製のものを使っている点。完成度はブライアンのお墨付きだが、採算を度外視して製造販売が行われていたようで、わずか三年で生産終了となってしまった。 現在KzとBrian May Guitarsの契約は解消されているが、Guildとは違いレプリカモデルの製造販売は引き続き行われている。前述の公認メーカー、Fryer Guitarsを通して許可を取っているらしく、半ば公認状態にある。現行販売されているモデル、Kz RS Replicaの販売価格は驚きの100万円オーバー(2022年現在)である。どうやって買えと 2022年にファン待望の再生産が行われたが、製造がチェコの工場に移行。ローラーブリッジは本物に近くなったが、指板は黒塗装したホワイトオークからBMG同様のエボニーに変更された。なお残念ながら日本では購入不可。
番外編
ブラック・サバスのギタリストでありブライアンの親友、トニー・アイオミ。彼のギターを手掛けたクラフトマン、ジョン・バーチが製作したレプリカがこれ。世界初のコピーモデル(一般流通したのはグレコが初)であり、ゴールドのフィニッシュと黒いヘッドが特徴。70年代後半から82年にかけてサブギターとして使用された。ファンの間では「We Will Rock You」と「Spread Your Wings」のMVで使用されたことで有名。
カラーリングとブリッジ、トレモロの微妙な形状の違いを除けば本物に瓜二つだが、音色はかけ離れていた模様。当時のギターテックは「ブライアンは全然気に入っていなかった」と証言している。そして1982年、ニュージャージー州のステージにてこれを使っていた際、弦が切れたことに腹を立てたブライアンがステージの裏に放り投げたところ、ネックとヘッドがそれぞれ根本から折れて再起不能となった。ブライアン曰く「不慮の事故」とのこと。グレコの扱いがマシに見えてくる
残骸はクラフトマンのジョン・ペイジに預けられ、新たなサブギターの開発資料となる予定であったが、不況によりペイジの工房が倒産、本機も行方不明となる。時は流れて2004年、インターネットオークションにこのギターが出品されているのをファンが発見。その後紆余曲折を経てブライアンの元に返還された。本機を修復することも考えたそうだが、リペア担当のガイトンとの協議の結果、「破損も歴史の一部」として残骸のまま保管されることとなった。ガイトン曰く音色もさることながら、ヘッド角度のせいで弦とナットに大きな摩擦が生まれ、まともにトレモロが使えないのも問題だとか。どっかで聞いた問題点だな
関連商品
本人監修によるエフェクタでレスポールやストラトキャスターでも再現可能
シグネイチャーモデルのピックアップも発売されている。
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関連項目
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