ロラン・バルト(1915~1980)とは、フランスの文芸批評家である。
概要
「作者の死」でおなじみの人である。
シェルブールに生まれ、バイヨンヌに育つ。諸ジャンルを横断しながらも常に書く行為、書かれたもの:「エクリチュール」に対する思考と実践を行い続けた。
なお、ロラン・バルトの生涯のテーマとなったのは「文学はなぜ価値があるか」というものである。それはいわゆるハイ・カルチャーからマス・カルチャーに至るまで幅広く射程がとられ、絶えず追及されていった。
記号学のロラン・バルト
処女作である『零度のエクリチュール』で作家の形式におけるアンガージュマン(社会運動参加)を主張し、ここでは「白い」、「無垢な」、「中性な」エクリチュールが「書く行為」から「書かれたもの」に変わった瞬間、様々な制約を受けた「意味」が生じるとしたのである。つまり、「文学」は「作品」として発表された瞬間、まっさらなものではいられないとしたのである。この結果ロラン・バルトは以後、意味が生じるプロセスに興味を持ち、記号学にのめりこんでいった。
続いて『現代社会の神話』で日常生活に浸透したブルジョワ・イデオロギーを批評的な視点から浮き彫りにした。日常生活を取り巻いている様々な事物がどのように「意味作用」をなすか、ということを分析していき、その背景には隠されたイデオロギーがあるとしたのである。ここで用いられているのが「デノテーション / コノテーション」である。デノテーションとは字義通りの意味であり、コノテーションとはその上に重ねられる二次的な言外の意味である。
バルトは現代社会には「コノテーション」の次元に属するイデオロギー的な「神話」があふれており、それを批判したのである。こうしてボードリヤールやカルチュラル・スタディーズに先んじてマルクス主義と記号学を融合させた提言を行ったのが初期のバルトであった。ただし、これはフェルディナン・ド・ソシュールの「ラング」と「パロール」からの影響が極めて高い。
『記号学の原理』でソシュールやイェルムスレウなどの理論を取り入れ記号学を練り上げると、「文学の科学」を志向し「物語論」につながる構造主義的な批評を行ったが、やがて60年代の終わりにあきらめたようだ。そして新批評に対する批判からバルトは新しい着想に着手する。そしてかの有名な、ファッションを記号論的に取り上げた『モードの体系』などを発表した後、ついに「作者の死」に至る。
作者の死と晩年のロラン・バルト
「作者の死」とは文学作品を読解する際、作者の意図などを理解すべきだとし、読者は作者のオリジナル性を作品理解のために求めるが、バルトはこうした前提は近代に特有の発想であって、今こそ解体しなければならないとしたのである。そして「作者の死」の後に来るものとして「様々な引用によって織り合わせたもの」、「テクスト」をバルトは「作品」から区別したのである。
つまり「作者」と密接な関係を持つ「作品」など存在せず、あるのはただ唯一絶対の意味=起源など持たない、ほかの様々な「テクスト」によって織りなされた「テクスト」だけであり、「読者」こそがそこにそれぞれの読解で異なる意味を産出していくのである。
こうしてアルチュセールのイデオロギー論と同様、実存主義などによって提唱された近代的な自立的主体が消失する打撃が与えられたのである。
70年代に入るとバルトは、何らかの文学理論を提示することよりもエクリチュールの快楽的実践へ向かったといえる。しかし依然として鋭い批評的考察が続けられていったのである。ただし、ロラン・バルトはウンベルト・エーコのように自らの理論を文学で実践しなかった。その代わりに彼は「講義」でその実践を行い、「文学」のみが権力から免れた言語活動をし得ると唱えていったのである。
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