ローグライクゲーム(英:Roguelike game)とは、「ローグ(英:Rogue)」に類似した性質、設計を持つコンピュータRPGの総称である。単に「ローグライク」とも呼ばれており、ニコニコ動画のタグではこちらが定着している。[1]
この記事では原点である「ローグ」とジャンルとしての「ローグライク」、そこから派生した亜種「ローグライト/ローグライクライク/PDL」について、順を追って解説する。
原点にして原典「ローグ」
ローグ(Rogue)とは1980年、コンピューターRPG黎明期に公表されたUNIXのダンジョン探索型コンピュータRPGである。
コンピューターRPGとしては特に古い作品の一つでありながら以下のような斬新なゲームシステムの数々を備えており、その完成度の異常な高さから寝食問わず熱中したプレイヤーが後を立たなかった。さらに1983年にはBSD 4.2に収録されたことから大流行した。
- プレイヤーは主人公(@)を動かし、階段や出口を目指してダンジョンを進む
- 普通のRPGに似た一般的なルール
- 弓矢や杖、巻物などの遠くの敵・厄介な敵に対する別の攻撃手段
- ランダム要素の数々
- プレイヤーが進むまでマップの全体像は表示されない
- 敵(A/B/.../Z)は先に進めば進むほど強くなる[2]
- プレイヤーを凍らせる・火を吐く・物を盗む等、敵にはそれぞれ特徴が存在する
- ターン制の戦闘
- コンティニュー不可・恒久的な死(パーマデス/PermaDeath)または失敗
- 定期的に食糧を食べないと餓死してしまう空腹度の存在
当時はまだビデオゲームのRPGも珍しい時代だったが、TRPGや現在の普通のRPGでも見られるような一般的なルールとは別に、自動生成で何度も遊べる仕組みが設計されている。遊ぶたびに内容が変化するので現在でも中毒性の高いプレイが楽しめる。[3]
商業版「ローグ」とそっくりさん「ローグクローン」、今も遊べる「ローグ復刻版」
オリジナルのローグを作り出したスタッフはローグの人気を利用して会社(A.I. Design)を設立、IBM-PCやMacintoshなどに商業版ローグを移植・販売するようになった。この商業版ローグは元々無料で遊べたUNIX/BSD版からゲーム的に何か大きく変わった点があるわけでもなく、あっという間に売り上げは低迷。1989年に会社は倒産、チームも解散した。
一方でローグが人気になった1980年代初頭にはUNIX版ローグ(Rogue 5.x)のオリジナルのソースコードは公開されておらず、ローグを模倣しようとした他のプログラマーは一からローグを再現しようとした。これを「ローグクローン(英:Rogue Clone)」と呼ぶ。
ローグクローンは「クローン」と名が付いているものの、オリジナルのローグとはいくつか異なる点が存在する。またローグクローンは同時にソースコードの配布を行ったため、後にローグライクゲームの流行の一因(ひいては商業版ローグへのとどめの一撃)となった。
ローグライク界隈でまことしやかにささやかれる話として『オリジナルのUNIX版ローグのソースプログラムは消失してしまっているため、現在では遊ぶことができない。』というものがあるが、実はオリジナルのソースコードは現存しており、公開もされている。
オリジナルのままでは現在のPCで遊ぶことは出来なかったが、2000年に発足した"Roguelike Restoration Project(ローグライク復元プロジェクト)"が調整を行ったため、今でもオリジナルのローグに触れることが出来る。(リンク)
さらに商業版であるために入手が難しくなっていたIBM-PC版も、その移植版がオリジナルの発売から35年以上も後の2020年10月に販売が決定し、手軽に触れられるようになる。(リンク)
そんなことはない「コンピュータRPG起源説(嘘)」
「ローグは1975年に発表された世界最初のコンピュータRPGである」と解説する日本語の文献が若干数あるが、これは誤り。コンピュータRPG自体は1974~75年に登場したと考えられており、前述したように1980年の作品であるRogueが一番古いわけではない。最古のコンピュータRPGの一つである「pedit5(1975年)」は現存しており、Rogue同様の見下ろし画面を既に完成させている
また1980年の作品だとした上で「世界最初のコンピュータRPG」というように書いている・後発でゲームシステムも遠く離れたWizardryもRogueの派生作品のように解説していることもあるが、これらも誤りである。WizardryはRogueより前のコンピュータRPGの影響を強く受けており、RogueとはD&Dの影響が共通しているが直接関係はない。この誤りはWikipediaの一部記事にも書いてあり意外に根深いものである。
余談だがRogue自体はD&D以外に70年代のコンピューターのアドベンチャーゲームの影響を受けてはいるものの、先発のコンピュータRPGの影響を受けてはいないと考えられている。[4]
正統進化「ローグライクゲーム」
コンピューターRPGの分野の一種。ローグライクの「ライク」とは、「~のような」「類似する」などの意味があり、直訳すると「ローグのようなゲーム」「ローグ系ゲーム」のような意味になる。
ローグライクゲームの始まりは一つではなく、下記のようにゲームによって誕生経緯が異なる。
そうして生まれたローグライクゲームをさらに改変・改良した派生作品(ヴァリアント)が多数発表されており、人気作品は現在も改変・改良が続けられている。日本で有名なヴァリアントといえば、Angbandのヴァリアントである変愚蛮怒があげられるだろう。
代表的なローグライクゲーム
これらは全て、インターネット上から無料でダウンロードできる。Elona・変愚蛮怒を除いて、どれも本家は英語だが、有志によって翻訳された日本語版が存在する。
日本では後述する「不思議のダンジョン」シリーズの知名度が高く、これらの(正統派・伝統的)ローグライクゲームはものによってはGUI(画像)ではなくCUI(文字だけ)の一般受けしない見た目であり、そうでなくとも操作の煩雑さやシステムの複雑さから敬遠されることもあるが、熱心なマニアには今なお愛されている。
日本式ローグライク「不思議のダンジョン」
ローグライクゲームは日本でも1980年代から存在したが一般的なゲームとは言えなかった。しかし、1993年に発売した「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」で大きく変化する。
トルネコの大冒険は、ドラゴンクエストの世界観を使って日本で馴染みの薄かったローグを下記のように遊びやすく再設計したゲームである。
- ドラゴンクエストの「コマンド方式」の採用
- キーボード打ち込み方式のやり方を撤廃
- アイテムの解説をゲーム中に容易に確認できるように
- 分かりやすいチュートリアル(解説)と複数のダンジョンの導入
- グラフィックや音楽の導入
「1000回遊べるRPG」というキャッチコピー(宣伝文)も話題となり、トルネコの大冒険は商業的にも成功し人気作となった。その後続編である「風来のシレン」などへと派生していくと共にゲームシステムもオリジナルに無かったものが増えていった。
今日の日本においては、プレイヤー・開発側双方が「ローグライクゲーム」を「不思議のダンジョンライクゲーム」の意味で使うことも多いだろう。
代表的な不思議のダンジョンシリーズ
なお『不思議のダンジョン』はスパイク・チュンソフトの登録商標であるが、『ザ・ナイトメア・オブ・ドルアーガ 不思議のダンジョン』のように他社への使用許諾もしており、同ジャンルで『不思議』がつくタイトルの販売にも寛容なスタンスであるため特にトラブルになったことはない。
『チョコボの不思議なダンジョン』シリーズについてはチュンソフトの中村社長(当時)が参加しており実質は公認状態のようだが、同シリーズとして宣伝してるわけでもないくらいの関係であった。
したがって『不思議』とタイトルについているゲームの全てが許諾を受けているわけではなく、許諾を受けているだけで開発がチュンソフト以外の作品もある。
遠い親戚?異端児?「ローグライクライク/ローグライト/PDL」
ローグライクの特徴の一部だけを持っている「ローグライク風のゲーム」は、英語圏のコミュニティを中心に「ローグライクライク(英:Roguelike-Like)」「ローグライト(英:Rogue-Lite)」「PDL(Procedural Death Labyrinth)」とも呼ばれている。ニコニコ動画のタグでは「ローグライト」が徐々に使われるようになっている。[5]
このうち「ローグライクライク」「ローグライト」については「特異なシステムを持つローグライクゲーム」「初心者向けの救済処置が多く熟練者には物足りないゲーム」等を(狭義の)ローグライクと区別するために呼んだのが始まりとされる。一方PDLはほぼ全てのローグライク・ローグライトに共通する以下の要素、
- Procedural…武器・アイテム等、様々なものがアルゴリズムでランダムに自動生成される
- Deatプレイヤーが死ぬと何も残らず最初からになるか、重いペナルティが課される
- Labyrint迷宮ダンジョンといった(多くは自動生成された)閉じた空間が舞台になる
…を持つゲームの分類としてその頭文字を取って作られたもの(リンク、ローグライクとPDLの比較付)である。
ローグライト(PDL)はRPG以外のジャンル(アクション/STG/音ゲー/カードゲーム/メトロイドヴァニア等)への派生・非ターン制(リアルタイム化)・RPG特有のテキストの有無等、PDL以外はローグと異なる特徴を持つ。
日本では前述した「不思議のダンジョン」シリーズの影響が大きく、またローグライトの多くがインディーズゲームかつ日本語未対応であったため、知る人ぞ知るジャンルであった。現在はNintendo Switch等のコンシューマーゲーム機で日本語に対応したインディーズゲームに触れる機会が増えており、徐々に浸透しつつある状況といえる。しかし初めてローグライトに触れたゲーマーが「風来のシレンみたい」「ガンジョンみたい」とニコニコ動画のコメントやTwitterに書き込むことはまだまだ多い。
代表的なローグライト
- Spelunky
- The Binding of Isaac
- FTL: Faster Than Light
- Risk of Rain
- Don't Starve
- Crypt of the NecroDancer
- Nuclear Throne
- Downwell
- Enter the Gungeon
- Dead Cells
- Slay the Spire
- Vampire Survivors
- Balatro
今なお論争中「ローグライクとは?」
ローグライクは他のゲームジャンル(アクションゲーム・通常のRPG・FPS等)のように多くのゲーマーで同じゲーム像を浮かべられるようなジャンルではなく、さらに数々の斬新なローグライト(PDL)の登場・マーケティングなどの大人の事情・ゲームメディアの不勉強等も相まって今日では「ローグライク」の意味するところは人やゲームによってかなり異なる。
そのため「そんなゲームはローグライクと認めない」「うわ出たローグライク警察」「ローグライクどころかローグライトですらないただのダンジョン探索ゲームだろ…」「面白いなら正直何だっていい!」といった光景も珍しくない。(例えばNintendo Switchの「ローグライクゲーム」特集を見た時の反応や、前述した代表的なローグライトのフォロワーが多数出た時など)
そういった事態に何らかの答えを出すべく、ローグライク要素の分解やある種のローグライクを定義する提案が行われている。
ベルリン解釈(Berlin Interpretation)
2008年の国際ローグライク開発会議(International Roguelike Development Conference)の参加者達によって作られた解釈(リンク)。これは「ジャンルとしてのローグライクらしさ」がどの程度強いかを、原典であるローグとそれに極めて近いローグライクとで共通する要素を定義としたものである。これはあくまで共通する要素が多ければ多い程ローグライクらしく、少なければ少ない程ローグライクらしくないというだけで、ローグライクかそうでないかの厳密な線引きを決めるものではない。
ベルリン解釈は複数の人間によって比較的早期に作られた解釈ということで参考にされることも多い一方、「ASCII表示等の本質的ではないものが含まれている」「解釈が限定的すぎて斬新なローグライク(ローグライト)の登場を妨げる」等の批判もある(ベルリン解釈に批判的な記事の例)。
ベルリン解釈における「ローグライクらしさ」は以下の通り。
PDL
「ローグライク」という用語はそのままに「ローグライト」に相当するローグ性のあるゲームも含む用語として作られたもの。詳しくは前述の解説を参照。
古典的ローグライク(Classic Roguelike)
2014年にベルリン解釈を考案した参加者の一人であるSlash氏により提案されたもの(リンク)。これは「ローグライク」から「ローグライト」を排除するのではなく、多様化する「ローグライク」から「古典的ローグライク」を抽出しようとする試みともいえる。
古典的ローグライクが満たす必要のある特徴は以下の通り。
伝統的ローグライク(Traditional Roguelike)
2018年に同じくSlash氏により提案されたもの(リンク)。古典的ローグライクから定義の数を減らして(狭義の)ローグライクの本質を捉えると共に、例えば「アクションローグライク(ターン制ではないが他の要素はローグライクである)」等の表現がしやすくなるとしている。
伝統的ローグライクが満たす必要のある特徴は以下の通り。
Steamではこういった特徴を持つゲームに"Traditional Roguelike"のタグが追加されるようになっている[6]。多くのローグライク/ローグライトゲームと熱心なゲーマーを有するプラットフォームだからこそであろう。
結局ローグライクとは?
ローグライクとは?
├ランダム要素があって死んだら重いペナルティがあるなら全部ローグライク派(広義派)
│├ローグライト云々はトマトが野菜か果物かぐらいどうでもいい話派(屁理屈は嫌い派)
││└ローグライトは誤記派(目の前の箱で調べろ派)
│├作者がローグライク名乗ったら全部ローグライクでいい派(作者の意思尊重派)
││└作者がローグライト名乗ったら流石にローグライト派(作者が言うなら仕方ない派)
│├時代によって定義は移り変わるもの派(柔軟派)
││└ローグライクの中に伝統的ローグライクがある派(伝統は大事派)
│└任天堂公式がそう言っていた派(任天堂派)
├シレンっぽいやつ(風来人派)
├狭義のローグライク以外はローグライト派(狭義派)
│├ローグライクはターン制・グリッド制であるべき派(古典派)
│├死んだら全てを失うからこそローグライク派(引継ぎ要素は甘え派)
│├ヌルゲーはライト向けだからローグ"ライト"を名乗れ派(死にゲー崇拝派)
│├不思議のダンジョンも所詮ローグライトだよ派(日本人は真のローグライクを知らない派)
│├ベルリン解釈をほぼ満たしているものだけがローグライク派(ベルリン解釈崇拝派)
│├CUI表示でキーボードをフル活用してこそローグライク派(@派)
│└「ローグライト」より「ローグライクライク」の方が好き派(ライクライク派)
├遊んでいてローグライクらしい楽しさがあればローグライク派(ローグエキス派)
├そもそも「ローグライク」というジャンル自体無意味派(虚無派)
│├ゲームメカニズムを具体的にジャンル名にしろ派(分かりやすい方が良い派)
│├ソウルライクだのメトロイドヴァニアだの格好つけたいだけだろ派(造語面倒くさい派)
│└好きなゲームがたまたまローグライクだっただけ派(偶然派)
├ローグライクは救い派(死は救済派)
├ローグライクは賽の河原派(死は救済ではない派)
└ローグライクは人生の象徴であり人生もまたローグライク(哲学派)
このように様々な派閥が存在するため、今もこれからも究極の答えは見つからないと思われる。
余談
一般的にそう分類されることは少ないが、一度死ぬとデータが消失するハードコアモードを備えておりかつマップが自動生成されるゲーム(Minecraft/Terraria等)は、ハードコアモードに限ればローグライク(ローグライト)とも解釈できる。
その他ローグライク・ローグライトの例
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関連項目
脚注
- *2020年1月23日時点で「ローグライク」タグの付いた動画は5503件、「ローグライクゲーム」タグの付いた動画は785件
- *アルファベットは敵の名前の頭文字(ハエトリソウ(Venus Flytrap)のみ後ろの単語のF)であり、アルファベット順に強さが変わるわけではない。最も出現が遅く経験値の高い敵はドラゴン(D)である。
- *ただし自動生成を用いたコンピューターRPGは70年代には既に存在しており、ローグが最初というわけではない。また自動生成を利用した理由の一つに「ダンジョンなどをそのままROMに記録するよりも自動生成した方がROM/RAMを節約できて都合が良かった」というものがあったとも言われている。〔要出展〕
- *参考文献:ロールプレイングゲームサイド Vol.1「真説 コンピュータRPGの起源」
- *2020年1月23日時点で「ローグライト」タグの付いた動画は275件
- *Steam「Traditional Roguelike」の検索結果
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