ヴィーガン、ビーガン(Vegan)とは、動物系の製品を排除した生活様式を実践する者のことである。
肉のみ除外するベジタリアン(Vegetarian)とは分類が異なる。
概要
一般人 | ベジタリアン | ヴィーガン (ダイエタリー) |
ヴィーガン (エシカル) |
|
---|---|---|---|---|
食事にハムや魚がある | ◎ OK |
× 肉なので |
× 動物由来 |
× 動物由来 |
朝食のパンにバターがある | ◎ OK |
○ 肉じゃない |
× 動物由来 |
× 動物由来 |
ズボンを締めるのに革ベルトを使う | ◎ OK |
◎ OK |
○ 食品じゃない |
× 動物由来 |
ハチミツや絹など「虫」由来のもの | ◎ OK |
◎ OK |
△ 派閥や人による |
△ 派閥や人による |
一般的に、肉を伴わない食生活という思想は「菜食主義」(ベジタリアニズム)、それを実践する人はベジタリアン(Vegetarian)と呼ばれる。おもに健康や宗教上の理由から、あるいは自身の主義として、動物の肉を食生活から意図的に除外している。
これに対してヴィーガンは、ベジタリアニズムから派生した分派で、肉にとどまらず「生活から動物由来のものを排除しよう」という「完全菜食主義」(ヴィーガニズム)の考え方である。ベジタリアンの英語Veg(etari)anを短縮して作られた言葉である。
なお、ヴィーガン自体にも派生や分派があり、動物由来のものを食生活から排除する派閥「ダイエタリー・ヴィーガニズム」、動物由来のものは生活すべてから排除する派閥「エシカル・ヴィーガニズム」などに分かれる。さらに、植物も生物の一種として殺すことに忌避感をもつ派閥「フルータリアン」もおり、(果物の収穫など)植物を殺さない範囲ならOKというのもいるようだ。
その性質上、動物愛護と同一視されることがあるが、動物愛護は「動物の生命・権利を守ろう」という権利思想で、ヴィーガニズムは「動物系のものを除いた生活をしよう」という生活思想である。つまり思想としてのベクトルは異なるものである。[1]
ヴィーガンの食事では動物由来のものが排除されるため、食事は主に植物性タンパク質を動物性の代用品として料理に使う。また、穀物系のタンパク質であるグルテンを利用して擬似的なソーセージなどを作るところもあるが、肉など動物由来の製品で取れる栄養がないため、基本的には複数の野菜や植物性の物を取る必要がある。
海外、特に欧米圏ではそれらに配慮したメニュー作りなども行われており、パーティーなどにおいては、ベジタリアン用メニューやヴィーガン用メニューなども用意される。[2]
ヴィーガンになる理由
ヴィーガンというと「動物さんかわいそう」の倫理的動機が強調されがちだが、人がヴィーガンになる目的はそれだけではない。別の理由や他複数の理由の併せでヴィーガンになった人もいるため、ヴィーガン同士で意思や方向性が統一されているわけではない。
経済的動機と健康的動機の2つに関しては反対論も多く、土地が農業に不向きで畜産が重要なカロリー源となっている地域は多いし、人によっては菜食のみでは逆に不健康になると言われる。
倫理的動機
大きいものの一つが倫理目的である。メディアなどで連日報じられるヴィーガンはこちらが多いため、「ヴィーガン = 動物愛護」のイメージが付いてしまっている理由の一つ。
動物をわざわざ食べなくても(生活に利用しなくても)自然にある他のもので代替できる、動物も人間と同等の生命であるという考えでヴィーガンになる人はいる。
近年では「動物さんかわいそう」の動物愛護の立場から更に進み、動物を一個の権利主体とみなす動物倫理(アニマルエシックス)の思想が広まっている。動物倫理においては「動物がかわいそうだから保護してあげる」のでなく、人間と同じように生まれながらに生きる権利を持った主体とみなす。
動物倫理の立場にとっては脳や神経の有無からもたらされる「苦痛を感じる能力」を重視しており、植物など他の生命については「痛みを感じている物証はない」とし、権利を与えるべきものではないと主張している。 → 「植物はいいの?」の項目を参照。
環境的動機
大きいもののもう一つが環境保護目的である。地球気候変動問題が人類の喫緊の課題であることは論を俟たない。
その気候変動に関して大きなファクターとなっているのが畜産によるメタンガスである。現在の地球には牛だけでも15億頭がおりそのほとんどは畜産に用いられている。牛の放出するメタンガスは1日160〜320Lに登り、またメタンはCO2の28倍の温室効果があると言われる。法改正や技術革新によってメタンガスを削減、有効活用する動きは増えているが追いついていないのが現状である。 [3]
人類がヴィーガンになれば畜産需要が減り、需要の減少によって飼育される動物の数が減れば、排出されるメタンガスも激減する、と言われている。
経済的動機
「大量の動物を飼っておくのはコスト的にどうか」「動物に穀物のエサ与えるくらいなら直接人を養うのに回せば?」というヴィーガンの考え方。
肉食は肉を取るのに大量の穀物やエサが必要になるなど、エネルギー効率が相対的に悪いため、畜産に向けられてきたカロリーを菜食に変換することでこれまで養えなかった人口を食わせることができたり、飢餓地域の食料の供給を安定させることも可能になるということで推奨している。
健康的動機
ヴィーガンになることで肥満が減り、健康人口が増え医療費削減になるという考え方もある。あなたや家族が、医者から「野菜食え」などと言われたことはないだろうか。肉食などにより血圧や脂肪などの健康問題を抱える人は増えている。もちろん適切な運動をすれば肉食でも問題はないが、食生活を改めることで健康になろうとヴィーガンになる人もいるのである。
ちなみにこういった理由でヴィーガンになる人は、上記2つの動物愛護とか地球環境とかはどうでもいい場合が多い。あくまで「自身の健康」に向き合った結果であり、必ずしもヴィーガンが外部環境を気にしているわけではない。健康的動機でヴィーガンになった人としては、芸能人の片岡鶴太郎が知られる。[4] [5]
トレーニング動機
意外なことに巨人やマッチョが揃うプロスポーツ集団の中にもヴィーガンは少なくない。彼らはあくまでフィジカルを鍛えるためにヴィーガンになっている。菜食が運動能力に与える影響は多岐に渡り、筋肉の柔軟性を上げる、メンタル向上、体力回復を助けるなどの効果が報告されている。「肉を取らなければ筋肉はつかない」というのは生理学的に誤りであり、ボディビルダーの中にすらヴィーガンは結構いるのである。
NBAオールスターでMVPを取ったこともあるカイリー・アービングもヴィーガンとして有名であり、他にも各種スポーツで好成績を収めるヴィーガンが存在する。NFL史上最高のプレイヤーと評されるトム・ブレンディは完全ヴィーガンでないものの食事の8割を菜食に変え、残りの2割はオーガニックな動物性タンパク質を摂ってパフォーマンスを上げていた。
欲求的動機
こちらに関しては明確な分類ではない。一般に「ファッションビーガン」「なんちゃってビーガン」などと呼ばれるたぐいで流行り物に乗っかりたい便乗系、あるいはミーハーといった感じの人もいる。
「最先端の流行を取りいれている自分」をみんなに見せたい自己顕示欲、あるいはいろんな人達からの再生数やコメント、先進的な自分への尊敬を受けたいという承認欲求などによってヴィーガンになりたがる層も現実としており、明確な意志と信念でヴィーガン思想を貫いているわけではない。
植物はいいの?
「動物を殺すのはかわいそうだから植物を食べよう」と聞くと真っ先に浮かぶのは「植物はかわいそうじゃないの?」という疑問だろう。しかし真っ先に浮かぶということは何十年も前から議論され反論されているということでもある。そのため「でも植物はどうなの?」論は「Plants tho(プランツ ゾウ)論」と名前がついてテンプレと化すまでになっている。
例えば、畜産において家畜の餌として大量の植物が消費されている。なので肉食をやめて植物を直接食べることで、費やされる命(動物+植物)の量を格段に減らすことができる。これは1か0でなく搾取される命の総量を減らすという考え方に基づいている。「生物は生きるにあたって他生物の殺生は不可避である」ことは「殺生の数をなるべく減らす努力をすべきである」と主張することと矛盾するものではない。
またこの「植物はいいの?」論に反論するために古くから植物が痛覚があるかどうかの実験が行われてきた。そしてこれまでのところ植物は、外的な刺激に対する反応は認められても動物に類似する意識感覚を持つという科学的根拠は見つかっていない。「植物も痛みを感じることが分かった!」という記事はこの外的刺激に対する反応を恣意的に「痛み」と言い換えているものがほとんどである。
その他「痛みが問題であるなら薬品や遺伝子操作で痛みを感じない牛や豚を作ればいいのではないか」などのよくある主張に対する反論は各自で参照。
問題・騒動
ヴィーガンおよびヴィーガニズムは民主主義の国などでは思想として尊重されるが、なかには「動物がかわいそう」「資源の無駄」という動物愛護団体のような主張になる者や[6]、「皆のためになる」「世界のためになる」とワールドワイドなレベルに発展した主張をする者もいる。
思想にとどまらず、一部の主義者にはステーキや焼肉店などの前でデモを行ったり入店しようとした客に入らないよう要求して営業妨害を行ったり、飼っているペットに本来の食性を無視してヴィーガン食を食べさせるなどの虐待や犯罪と見なされるような行動を起こすものもいる。 [7] [8]
また、Twitterやインスタグラムなどでも肉食行為を肯定した内容に対して暴言を吐いたり自論の主張をはじめて場を荒らすなどの行為も見られ、"個人の自由""思想の自由"の範囲をはるかに逸脱した行いも目立つようになってきている。[9]
ヴィーガンに否定的な者には「ヴィーガン(菜食しかしない)だから異常行動を起こす」などの主張をする者や、「本来とるべき栄養をとっていない → 人間性(自分自身)を否定している」などの主張を行う者もいたりするが、"個人の思想"の範囲を守っているヴィーガンもいる事や、ヴィーガニズムそれ自体はあくまで菜食オンリーを心がける思想の一種ということもあるため、別にヴィーガンが暴徒というわけでも狂信者というわけでもない(他者に俺ルールを押しつけるアレな人は確かにいるが……)。[10]
ファッション的な感覚でヴィーガンになる人や承認欲求的なものでヴィーガンになる人たちは、一時はカルチャーや思想のリーダーなどとして評価は受けるかもしれないが、ヴィーガニズムは主義であり生活である。ただ食をヴィーガン系にしただけでは成分が足りなくなるだけなので、ヴィーガン生活を続けていくための習慣嗜好の切り替えや改善などをしていかなければ生きるのは難しい。最悪、具合を悪くした挙げ句にこっそり肉食をしていることが発覚した場合、健康的にも社会的にもダメージを負うことになる。 [11]
欧米のジャーナリストに言わせると、日本のように、ヴィーガンに対する理解が進んでいない国/制度のない国ではやはりヴィーガンは「生きづらい」らしい。[12]
関連動画
関連項目
- ベジタリアン(ベジタリアニズム)
- 草食系
- 動物はあなたのごはんじゃない
- 動物愛護 / 動物愛護団体
- ヴィーガン生活1日目
- トランスヴィーガン
関連リンク
脚注
- *動物愛護の観念などどうでもよく自身の食生活の改善をはかってヴィーガニズムを選択するという人もいる可能性、および特定の動物の保護を目指すけどそれ以外にはこだわりがないという人もいる可能性がある。
- *「やっぱり肉が好き」な米国人、年間消費量が最多を記録の見通し (Forbes Japan 2018/01/17 11:00)
- *牛の「おなら」と「げっぷ」を退治せよ──科学者たちの大真面目な温暖化対策 (WIRED.jp 2019.01.09 WED 18:30)
- *片岡鶴太郎さん報道で考えた がんリスクが最も高いのは? (日刊ゲンダイヘルスケア 2016年12月09日)
- *片岡鶴太郎流の「超絶ヨガ健康法」の気になるやり方と食生活! (YOGA HACK 2021.08.12)
- *逆に、動物を保護したいとの考えからヴィーガンになることを選ぶ人もいる可能性はある。
- *レストランのシェフが、抗議するビーガンの前でシカの足をカットして食べる (Sputnik 日本版 2018年03月30日)
- *ヴィーガンが猫に菜食を強いる行為にネットで非難の声が…その理由とは (Spotlight 2016.08.03)
- *堀江貴文(Takafumi Horie) @takapon_jp / 14:25 - 2018年4月2日
- *雑食性の人に比べて成分が足りないことは事実であるため、成分不足が何かしら影響している可能性はあるが、現状では科学的に立証されているケースがない。血液型による性格診断と同じような扱いである。
- *アメリカの人気ヴィーガンYouTuberが魚を食べて炎上 ベジタリアンとの違いは? (exciteニュース 2019年3月30日 12:10)
- *「なに食べればいいの?」都心でベジタリアン&ビーガン生活をやってみた (BuzzFeed 日本語版 2017/04/14)
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