ヴェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun、1912年3月23日-1977年6月16日)とは、アポロ計画の中枢を担った、ドイツ出身の科学者である。
本名はドイツ語でヴェルンヘーア・マグヌス・マクスィミーリアン、フライヘル・フォン・ブラウン(Wernher Magnus Maximilian, Freiherr von Braun)[1]。
フライヘル(男爵)は1919年に貴族制が廃止されるまでフォン・ブラウン家が男爵位であったことに由来し、当年以降は姓の一部として扱われる(つまりフライヘル・フォン・ブラウンで一つの姓)。しかし通常はフライヘル(とコンマ)を略して単にフォン・ブラウンと呼ばれる。
ウェルナー・フォン・ブラウンと表記される場合もある。なおアメリカ英語ではヴァーナー・ヴォン・ブラウンと発音。イギリス英語ではヴァーナ・フォン・ブラウンとヴァーナ・ヴォン・ブローンの2通りの発音がある。
概要
実は幼い頃の彼は数学や物理が大の苦手だった。しかし、あるロケット工学の本を読んで以来すっかり月ロケットを飛ばす夢に取り憑かれ、懸命の勉強の末に苦手科目を得意科目にしてしまった。その後工科大学に入学し(ドイツでは適性ありと評価されないと基本的に進学すらできない)、在学中にドイツ宇宙旅行協会(VfR 、多くの研究家を輩出したアマチュアのロケット製作サークル)で活躍する。
大学院在籍中に陸軍兵器局の研究チームに入る。そして弱冠25歳でロケット開発の技術責任者になり、ペーネミュンデ秘密軍事基地にて有名なV2ロケット(ミサイル)の開発を行った。
しかし国家存亡を占う大切な時期だというのに、周囲に月ロケットへの夢を情熱的に語り過ぎたため、秘密警察に目を付けられ国家反逆罪で逮捕される。何とか放免されて職場に復帰したものの、釈放を取り成したのが開発チームの上司と総統閣下だった所に、彼の非凡な頭脳(とヒトラーの必死さ)が覗える。
V2ロケット発射実験での有名な言葉「今日は宇宙船が誕生した日だ」は実はフォン・ブラウンではなく同僚が彼に語った言葉だが、V2ロケットがロンドンに着弾した日に「ロケットは完璧に動作したが、間違った惑星に着地した」と語ったのは彼。やはりあれだけの目に遭っておいて全く懲りていなかった。
敗戦直前、彼はチームの科学者達500名とともにアメリカへの亡命を画策する。しかし親衛隊のマークが厳しかったため、結局彼がアメリカ軍に接触できたのはドイツが降伏した後のことであった。
彼らチームの大半は先に進駐したソ連軍の捕虜となり、皮肉にも東西に分かたれた彼らこそが来るべき冷戦下の兵器開発競争、そして宇宙開発競争の先兵として剣を交えることになるのである。
フォン・ブラウンと126名のチームメイトの身柄はアメリカへ移送され、以降アメリカで短距離弾道ミサイルのレッドストーンやジュピターCロケットなどの開発に携わる。
その後、ケネディ大統領への答申作成で大きな役割を果たし、1960年にレッドストーン兵器廠からアメリカ航空宇宙局(NASA)に移籍。同年に新設されたマーシャル宇宙飛行センターの初代所長を1960年から1970年の10年間勤めた。
アポロ計画ではサターンVロケットを開発し、1967年11月9日に打ち上げに成功。そしてついに1969年7月20日、若き日からの宿願であった人類初の月面到達に成功したのである。
「国家規模の予算が無いと月にはいけない、私は宇宙へ人間を飛ばす目的の為ならば、悪魔と手を握ってでも働き続けたと思う。」と後に本人が語っているのは有名である。
しかし彼は決して科学に魅入られた狂気の天才なのではない。単純に、途方も無い夢の為ならあらゆる努力を惜しまない情熱の人だったのである。
余談
国内外を問わず、フィクションのSF作品において人類にとって宇宙に関わる象徴的、記念碑的な宇宙船や構造物などにフォン・ブラウンの名が冠される例が散見される。
彼は18歳の時、母方の従妹の洗礼式に出席し「僕は将来この子と結婚すると思うな」と言い親戚一同をドン引きさせた。なお18年後、36歳になったフォン・ブラウンはこの従妹マリア・ルイーズ(18)と結婚している。
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関連項目
脚注
- *ヴェルンヘーアは「守り手たる軍隊」という意味のゲルマン系の男性名で、ヴェルナー(Werner)の古い形であるため、慣用もしくは混同によりヴェルナーとも転写される(なお英語のワーナー(Warner)と同語源である)
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