一人称とは、発話あるいは文章の中で、話し手あるいは書き手に当たる者を区別する文法範疇である。
概要
最も知られているものでは「わたし」、英語なら「I」「We」だろう。
発話や文章において、話し手や書き手が自分自身や自分自身を含む仲間を指す言葉。一人称複数では、話し相手を含む包括系と相手を含まない除外系がある言語がある。
小説においては、小説の登場人物の一人の視点で物語が進んでいく形式のものを、一人称小説という。
日本語において
日本語にも一人称という概念は適用しうるが、印欧語族のような文法構造として要求される人称とは違い、明確に文法構造として規定できるものではない。これは、近畿方言などにおいて「われ」が二人称として扱われる、お前やてめえが元々一人称だった、幼児に向かって僕や私というと話者ではなくその幼児のことを指す、などの人称の転換が行われる例からも、明らかである。
日本語の一人称は、上古においては「あ」と「わ」が見られた。このうち、「あ」は自分や私事に関しての用法が見えるが、「わ」は公に関することが多く取り扱われており、これが、古代における一人称単数と複数の区別の名残ではないかと考えられている。ただし、「あ」は上古においても用例が少なく、平安時代には、ほぼ使われなくなったと思われる。
共通語では、近世以後に一人称として普及した「わたくし」とそれから派生した言葉が一般に用いられているが、「われ」の系統も方言などに残存している。複数形は語尾に「ら」をつけることが多い。
ちなみに、現代国文法では連体詞である「わが」は、古文法においては一人称代名詞「わ」と格助詞「が」に分解できる。
|
現代日本の一人称
日本では世界でも例を見ない多種多様な一人称が存在する。もちろん地域の発音の違いなども影響しているとみられるが、もとより古代の頃から少しずつ増えており、現在も状況に応じて使い分けられている。
どうも「流行におもねる嗜好」と「廃れたものへの羞恥心」が、常に新しい言い回しを求めてしまうのかもしれない。更に日本人は一人称に格式や情緒的な印象を色濃く抱いており、一人称を使い分けることが対人関係構築の必須スキルにもなっている。
漫画などの創作作品において、キャラクター造形を補完する意味合いで様々な一人称が使い分けられているのもよい例である。そのかわり写植屋が常に地獄を見る。
手垢のついた表現から脱却するため、「温故知新」によって古式の言い回しをかえって新鮮な言い回しとして再利用するのも常套手段である。
ここでは様々な分野・方面で現在も使われている一人称を紹介する。
一覧
一人称 | 漢字 | カタカナ | 性差 | 備考 |
---|---|---|---|---|
あーし | - | - | 女 | ギャル語? |
あたい | - | アタイ | 女 | ややスレた女性の印象 |
あたくし | - | アタクシ | 女 | やや年配の女性の印象 |
あたし | - | アタシ | 女 | 「わたし」のくだけた言い方で女性全般だが稀に男性も |
あだす | - | - | 女 | 「あたし」の訛った言い方 |
あちき | - | - | 女 | 遊女の使う廓言葉 |
あちし | - | - | 女 | 「あたし」の舌足らずな言い方 |
あっし | - | - | 男 | 「あたし」の変容だが男性使用例がほとんど |
あて | - | - | 女 | 「あたし」もしくは「わて」から変容 |
うち | - | ウチ | 女 | |
おい | - | オイ | 男 | 「おれ」の訛った言い方 |
おいどん | - | - | 男 | 九州男児が使用する印象 |
おいら | - | オイラ | 男 | 口数の多い三下男性の印象 |
おのれ | 己、己れ | - | 無 | 二人称に転じ、更に慨嘆・呪詛の感嘆詞に転じている |
おら | 俺ら | オラ | 無 | 男女問わず訛りのある人の印象 |
おれ | 俺、己 | オレ | 男 | 「おのれ」のくだけた言い方で男性全般だが稀に女性も |
おれさま | 俺様、おれ様 | オレ様 | 男 | 尊大な男性の印象 |
おれっち | 俺っち | オレっち | 男 | お調子者の男性の印象 |
ぐせい | 愚生 | - | 男 | 書簡における謙譲の言い回し |
ぐそう | 愚僧 | - | 男 | 僧侶の使用する謙譲の言い回し |
こちとら | 此方人等 | - | 男 | 江戸言葉で稀に女性も |
じぶん | 自分 | - | 無 | |
しょうかん | 小官 | - | 男 | 官吏・軍人の使用する謙譲の言い回し |
しょうせい | 小生 | - | 男 | 愚生同様、男性の謙譲の言い回し |
せっしゃ | 拙者 | - | 男 | 男性の謙譲の言い回しで武士・忍者が使用する印象 |
せっそう | 拙僧 | - | 男 | 愚僧同様、僧侶の謙譲の言い回し |
それがし | 某 | - | 男 | 元は何某と同じく名のわからない人を指した |
ちん | 朕 | - | 男 | 天皇・皇帝が使用 |
てまえ | 手前 | - | 男 | 「手前ども」と複数形で使用する事例もある |
てめぇ | 手前 | - | 男 | 「てまえ」がくだけた言い方で転じて罵倒語に |
とうほう | 当方 | - | 無 | ビジネスで使用し、個人としては使用しない |
ぼかぁ | 僕ぁ | ボカァ | 男 | 「僕は」がくだけた言い方 |
ぼく | 僕 | ボク | 男 | 男性全般だが女性が使用することも→僕っ娘 |
ぼくちゃん | 僕ちゃん | ボクちゃん | 男 | ボンクラな男性の印象で妙にむかつく言い回し |
ぼくちん | - | ボクチン | 男 | 「ぼくちゃん」の変容だが、幼児語の二人称に転じてもいる |
ぽっくん | - | - | 男 | 茶魔語。「ぼく+くん」? |
ほんかん | 本官 | - | 男 | 官吏・軍人の使用する言い回し |
ほんしょく | 本職 | - | 男 | 官吏・士業の使用する言い回し |
まろ | 麿、麻呂 | - | 男 | 平安時代以降の貴族が使用する言い回し |
みー | - | ミー | 男 | 「me」留学生男子が使用する印象 |
みども | 身共 | - | 男 | |
やつがれ | 僕 | - | 男 | 愚生・小生同様、男性の謙譲の言い回し |
よ | 予(豫)、余(餘) | - | 男 | 位の高い人物が使用する言い回し |
わ | 我 | - | 無 | 一人称の原点だが、現在は地方にのみ残る |
わい | - | ワイ | 男 | 関西男性が使う印象 |
わがはい | 我輩、吾輩 | ワガハイ | 男 | 博士が使う印象 |
わし | 儂 | ワシ | 無 | 高齢男性が使う印象だが実際はもっと幅広かった |
わす | - | - | 無 | 「わし」の訛った言い方 |
わたい | - | - | 女 | 「わたし」のくだけた言い方 |
わたくし | 私 | ワタクシ | 無 | 「わたし」に変じたのちはあまり使われない |
わたくしめ | 私め | - | 無 | 謙譲の言い回し |
わたし | 私 | ワタシ | 無 | おそらくもっとも普遍的な一人称 |
わだす | - | - | 無 | 「わたし」の訛った言い方 |
わっし | - | - | 男 | 「わたし」の訛った言い方 |
わっち | - | - | 女 | 遊女の使う廓言葉 |
わて | - | ワテ | 無 | 「わたい」がくだけた言い方 |
わらわ | 妾 | - | 女 | 武家の女性の謙譲の言い回し |
われ | 我 | ワレ | 無 | |
※自身の名前 | - | - | 無 | 幼児語だが一部の女性は成長後も使用 |
※その他一人称があれば随時追記してください
関連項目
- 3
- 0pt