七都市物語とは、田中芳樹による小説作品である。
雑誌に連載された短編連作であり、1990年にハヤカワ文庫から単巻で出版、2017年には単巻出版後に発表された未収録作品を追加した新版が出版されている。
1994年にはOVA化されたほか、2005年には「『七都市物語』シェアードワールズ」として作家4名によるスピンオフ作品集が出版された(後述)。2017年4月からはフクダイクミによりコミカライズされた(全5巻)。
概要
現代と同等以上の技術を有する未来世界を舞台とする戦記でありながら、あえて空中戦の概念を封印し、かつ「七都市」つまり7つの都市国家による争覇戦を描いた小説である。
「大転倒」(後述)という妙手により「地球上に7つの都市だけしかなく空中戦も出来ない」世界を違和感なく作り上げたその手腕もさることながら、「銀河英雄伝説」や「アルスラーン戦記」でも見せた政略、軍略、人間味あふれる登場人物やアイロニーといった要素のことごとくを凝縮した作風で、田中作品中でも傑作と呼び声高い。
ストーリー
西暦2088年、「大転倒(ビッグ・フォールダウン)」と呼ばれる地軸の大移動により、地球人類は滅亡の危機に瀕した。ありとあらゆる災厄が地球表面を襲い、100億人の人間が犠牲となった。安全な月面からそれを眺めていた200万人の人々は、2091年に地球に降り立つと、僅かな生存者を再編成し、地球上に7つの都市を建設して七分した地球表面のそれぞれを統治させることとした。
しかしそれと同時に、月面の人々は地上人から空を奪った。彼らが地上を監視するために作り上げた「オリンポス・システム」。月面のレーザー砲と地球上空の無人軍事衛星24個、そして12000個の浮遊センサーからなるこのシステムは、地上500mにある一定質量・一定速度以上のあらゆる物体を破壊した。この網をくぐり抜けることが出来たのは月面都市を母港と登録されたシャトルのみであり、七都市は月に支配されるほかなかった。
その体制に変化が生じたのは、2136年のことである。月面に落ちた隕石から検出された未知のビールスにより、月面都市の住民が全滅したのだ。だが、地上人はいまだ月面都市の軛を逃れることは出来なかった。全自動の「オリンポス・システム」は作動し続けており、停止するまで最低でも200年の間、地上人はその封印を受け続けねばならないのだった。その下で、七都市が果て無く争い和し裏切り連合する、非建設的な争いの時代が訪れた。
収録作品
- 北極海戦線(1986年 / 『SFマガジン』 ’86年1月号初出)
- ポルタ・ニグレ掃滅戦(1986年 / 『SFマガジン』 ’86年11月号初出)
- ペルー海峡攻防戦(1987年 / 『SFマガジン』 ’87年6月号初出)
- ジャスモード会戦(1989年 / 『小説ハヤカワHi!』 1号初出)
- ブエノス・ゾンデ再攻略戦(1989年 / 『小説ハヤカワHi!』 3号初出)
- 「帰還者亭」事件(1994年 / 『田中芳樹読本』初出 / 新版で初収録)
「七都市」
- アクイロニア
- シベリア、レナ川中流域に建設された都市。
「大転倒」によって温暖化したシベリアの大地と北極海への航路を擁し、凍土に埋もれてきた豊富な資源の活用が見込まれている。北極海の支配を巡り、ニュー・キャメロットと対立しつつある。 - プリンス・ハラルド
- 赤道近くへと移動した旧南極大陸に建設された都市。
南極大陸に残された無尽蔵の埋蔵資源を活用できる立場にいるが、30年以上にわたり世界年鑑に「七都市中、最大の潜在力」と記述されつづけているように、それを十分に活用できているとは言いがたい。 - タデメッカ
- アフリカ大陸、ニジェール川沿岸に建設された都市。
「大転倒」による気候変動によって緑化したサハラの肥沃な亜熱帯性草原地帯を支配するが、大西洋・地中海方面ではニュー・キャメロットと対立する立場にある。 - クンロン
- アジア大陸、赤道直下のチベット高原に建設された都市。
チベット高原は「大転倒」で標高2000m程度まで沈下し、3万平方kmの陥没湖が生まれた。クンロンはそのほとり、常春の熱帯高原に存在している。 - ブエノス・ゾンデ
- 南アメリカ大陸、アマゾン海の奥に建設された都市。
アマゾン海は「大転倒」で大西洋がアマゾン川流域を覆ってできた海であり、太平洋と接するペルー海峡はブエノス・ゾンデが扼している。建設時は「エル・ドラド」と名付けられる予定だった。 - ニュー・キャメロット
- ヨーロッパ、グレートブリテン島中央部に建設された都市。
市民にはアクイロニアをおさえて北極海周辺全域の支配者たらんという願望が強く、また太平洋・地中海方面でもタデメッカと対立している状況にある。 - サンダラー
- アジアとオセアニアの間、スンダ列島に建設された都市。
多島海に位置し新たな両極間の海運に有利なだけでなく、ユーラシアとオーストラリアの両大陸間の中継点としての役割も担うため、海陸交通の要所となっている。
主要キャラクター
- アルマリック・アスヴァール(A・A)
アクイロニア軍人。為人にかどがあり上官や同僚には嫌われている。
ニュー・キャメロット軍によるアクイロニア市侵攻を受けて市防衛司令官に任じられ、みごと撃退。「A・A」から「AAA(アルマリック・アスヴァール・オブ・アクイロニア)」と呼ばれるようになる。 - ケネス・ギルフォード
ニュー・キャメロット軍人、准将。容赦の無い毒舌家で評判は良くないが、用兵手腕は評価されている。
アクイロニア侵攻軍の指揮官のなかでただ一人、レナ川河口でアクイロニア軍水上部隊を全滅させるという圧勝を収めてニュー・キャメロットに帰還し、少将へと昇進する。 - エゴン・ラウドルップ
ブエノス・ゾンデの執政官。
市民の絶大な支持を受けて独裁権力を確立し、「オリンポス・システム」の穴を衝いた2400機の攻撃ヘリ部隊をもってプリンス・ハラルドへ侵攻、無限の資源が眠る南極大陸を併合せんとする。 - カレル・シュタミッツ
プリンス・ハラルド軍人、大佐。
プリンス・ハラルド国防軍総司令部が総司令官夫人の手作りゼリーサラダによって彼を残して全滅したため、無事な中の最高位者として総司令官代理に任じられ、ユーリー・クルガンに参謀長を任せる。 - ユーリー・クルガン
プリンス・ハラルド軍人、中佐。
いつも不機嫌でへそ曲がりな変人で、全方面から人気がない。「不遇の天才」と自認するその才能を完全に発揮できる場をシュタミッツによって与えられ、ブエノス・ゾンデ軍迎撃の戦略を整えることとなる。 - ギュンター・ノルト
ブエノス・ゾンデ軍人。繊細な芸術家風の顔立ちで、左脚の負傷のため松葉杖をついている。妻と死別している。前任の司令官が4人連続で粛清されたために若くして北部管区司令官の座につき、対ラウドルップで連合した他都市によるブエノス・ゾンデ市への侵攻を迎え撃つこととなる。
「七都市物語」シェアードワールズ
シェアワールド形式を用い、複数の作家によって執筆された外伝集。2005年刊行。
製作にあたって原作者の許可のもと時代を200年遅らせており、その修正を施した「『七都市物語』基本年表」が巻末に付属する。
また、巻頭に付された「大転倒」後の世界地図が再設定され、「ペルー海峡」が「グアヤキル海峡」に変更(収録作中では「ペルー海峡」のまま)されたのを始めとして、「大転倒」に伴う地形変化の詳細化とそれに伴う地名の変更(南極大陸→アムンゼン大陸)などの修正が施されている。
収録作品
コミック版
フクダイクミの手により、ヤングマガジンサードにおいてコミカライズが行われた。2017年より2019年にかけ連載され、全5巻。
設定は「シェアードワールズ」のものではなく原作を踏襲している。
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
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