不定愁訴単語

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不定愁訴とは、多くの場合は医療用語として用いられる言葉である。本記事でも医療用語としての「不定愁訴」についてに記載する。

概要

まず「愁訴」というあまり一般的でない言葉について解説すると、読んで字のごとく「愁いの訴え」つまり「嘆き」や「悲しみ」や「心配事」の訴えであるが、転じて医学の場においては「患者の訴える(主観的な)症状」をして「愁訴」と呼ぶ。

この「愁訴」のうち「不定」、つまり「定まらない」ものを特に「不定愁訴」と呼ぶ。何が「定まらない」のかというと場合によって様々で、

  1. 訴え自体が特定の一つに定まらない。例えば「動悸、めまい、ほてり、だるさなどの様々な症状を組み合わせて訴え、時にはな症状が入れ替わったりする」といった状態。
  2. 訴えの原因となる身体的な異常特定できない。例えば「ずっとだるさの症状を訴えているが、様々な検を行っても身体的な異常が発見できない」といった状態。

などが特徴とされることが多い。

つまり「不定愁訴」という病気があるわけではなく、上記の1.や2.に当てはまるような症状の訴えをまとめて「不定愁訴」と称するのである。

上記の1.と2.が組み合わさっている場合もあるが、時には片方のみが該当している場合もある。例えば「更年期障害」では1.に当てはまるような多な訴えが生じるが、原因が更年期障害として明確化され、更年期障害の治療で症状が消失したのであれば2.には当てはまらない。

「愁訴」つまり「訴え」という言葉が入っていることからもわかるように、特に「主観的な症状の訴え」をすことが多い。例えば「皮膚に様々な特徴の皮が組み合わさって現れ、原因を探るが特定できない」というケースは上記1.と2.に該当しているかのようだが、患者本人以外もにすれば客観的に観測できる皮であるならば「主観的な訴え」ではないために「不定愁訴」とは呼ばれ難い。

英語の医療用語「medically unexplained symptoms」(略してMUS)が上記の特徴とよく類似しているので、「medically unexplained symptoms」と「不定愁訴」が相互に訳されることもある。この「medically unexplained symptoms」は直訳すると「医学的に解明不能な症状」であり、「不定愁訴」の上記の特徴1.と2.のうち2.の方に眼をおいたものと言える。

不定愁訴の原因

不定愁訴の原因となりうる疾患は多岐にわたる。既に挙げた更年期障害も該当するようなホルモン関連、つまり内分泌関連のほか、いわゆる自律神経失調症、循環器系疾患、感染症脊髄液漏出症のような神経外科的疾患などなど様々である。

原因がいずれの疾患であるのかを突き止めるためには検が必要であるが、原因となる疾患が多数考えられるため一度や二度の検では原因を突き止められないこともある。

精神的な原因が元で不定愁訴が生じる場合も少なくはない。例えば「身体症状症」(身体表現性疾患)などが該当する。もし精神的なものが原因であれば身体的な検をいくら行っても原因を突き止められないことになるため、精神科/心療内科的なアプローチが必要となる。

ただし「身体的な検で原因を突き止められないから精神的なことが原因だ」とも断言し難く、「これまでの検たまたま原因疾患を外していた」という可性は否定できない。時には「初期の検では異常が認められなかったが、ある程度時間が経過してから再度検を行うと病状の進行によって異常明らかとなった」というような場合もある。

自体がというわけではないので無限に検を繰り返すわけにもいかず、「不定愁訴」内に含まれるそれぞれの症状の特徴から「どの疾患が原因として疑わしいか」を考慮して必要十分な検を見極める必要がある。

由来

2020年9月12日閲覧時点の日本語Wikipedia記事「不定愁訴」には、書籍の内容を出典として

もとは1963年11月から出稿された第一製第一三共ヘルスケアの前身)の静穏筋弛緩剤「トランコパール」の広告コピーのために造語された言葉で、翌年には流行語となり、やがて臨床の場で定着した。

と説明されている[1]

かしこれはどうやら出典とされた書籍の記述が怪しいようだ。「1963年11月」よりも遡る例は複数確認できるため。

1935年10月発行の医学雑誌『日新』第24年10号には

等ノレ線像ニ加ヘテ、長期間ノ胸部ノ不定愁訴ヤ、胸廓腫瘍ノ突起ヲ頸部ニ觸レル時、

という記述が登場しているようだ[2]

1957年出版の『心臓神経症 : 臨牀の進歩』(前川二郎 等 著, 永井書店)には

また私のよく経験するところでは,神経循環虚弱症患者は心臓症状についてまず訴えるが,よく問いただしているうちに,からだの方々の故障を述べたて,遂には心臓以外の場所の症状がであるような供述をなすものがある。いわば不定愁訴 (unbestimmte Klagen) であつて,本症の特徴の1つということができる。

という記述があるようだ[3]

1962年8月発行の医学雑誌『綜合臨床』11巻8号には「部の不定愁訴」というタイトルの論文が既に収録されている[4]

国立国会図書館デジタルコレクションで「不定愁訴」を検索するとexit、この他にも1960年代には多数の医学雑誌において使用例があることが確認できる。

つまり、「頻度はともかく戦前から日本医学会で用いられており、そして1960年代に大きく広まった言葉」だったのではないかと推定できる。

また、上記の『心臓神経症 : 臨牀の進歩』内の「不定愁訴 (unbestimmte Klagen)」という記述は参考になる。このおそらくドイツ語らしき外国語翻訳した言葉であったのではないかと推定できるためだ。

雑誌『新体育』1971年10月号には、ドイツ語からの翻訳であると記す以下のような記述もあるようだ。

ある学者は不定愁訴という、ドイツ語で unbestimmte Klage という。むしろその訳語が不定愁訴であるといったほうが正しいかもしれない。

そして、18世紀ごろからドイツ語医学書にも確かに「unbestimmte Klagen」という言葉が掲載されているようだ[5]

よって、「不定愁訴」はドイツ語医学用語からの翻訳であるという可性が高いかと思われる。

医学分野以外での使用

「不定愁訴」という言葉が医学分野以外でも使用されることもあるようだ。「国会会議検索システム」を用いて「不定愁訴」を検索すると、医学的な表現として使われていることが多いものの、

従来から、麦をはじめといたしまして、畜産物、果物作物などの大部分の農産物を対として価格政策を実施してきたわけでございますが、まこと先生の御摘のとおり、必ずしも満足のいくものではございませんで、むしろそれが要因となりましていろいろと農民の不定愁訴、不満その他をかもし出しておることは、御摘のとおりかと思うのでございます。[6]

といったように、明らか医学とは関連しない用法で「不定愁訴」という言葉を使用している発言者が数名居ることが確認できる。昭和48年1973年)の第71回国会においてのもので、この発言が国会での最初に「不定愁訴」という言葉が使われた例であるようだ。

医学用語であった言葉が徐々に医学界以外にも広まり、喩えとして別の分野にも借用する人も現れた」ものか。

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関連項目

脚注

  1. *「不定愁訴 - Wikipedia」、2019年2月28日 (木) 15:40(UTC)の版exitより。
  2. *国立国会図書館デジタルコレクションの検索結果exitより。
  3. *同じく、国会図書館デジタルコレクションの検索結果exitより。
  4. *阿部達夫, 胃部の不定愁訴, 綜合臨床, 1962-08, 11 巻, 8 号, p. 1299-1301exit
  5. *Googleブックスで、1900年以前出版という条件で「"unbestimmte Klagen" Medizin」を含むものを検索した結果exitを参照。複数の医学書がヒットする。
  6. *第71回国会 衆議院 農林水産委員会 第11号 昭和48年3月29日 | 国会会議録検索システムexit

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