不平等選挙とは、選挙の制度を示す言葉の1つである。反対語は平等選挙である。
概要
定義
不平等選挙とは、各選挙人の選挙権の価値に格差を付ける制度のことである。
不平等選挙の例
不平等選挙の例として、複数投票制や、「たいていの場合における等級選挙制」が挙げられる。
複数投票制は、各選挙人が投票できる票数に格差を付ける制度である。例えば「高額の収入を得て高額の所得税を納税する者はそれに比例して投票できる票数を増やし、低額の収入しか得ておらず低額の所得税しか納めていない者は投票できる票数を1票だけにする」というものである。
等級選挙制は、有権者を複数の等級に分け、各等級ごとに同じ数の議員を選出させるというものである。例えば、東京都から2人の国会議員を選出するとき、有権者を「高額の収入を得て高額の所得税を納税する者の等級」と「低額の収入を得て低額の所得税を納税する者の等級」に分け、高額納税等級から1人の国会議員を選出し、低額納税等級から1人の国会議員を選出する、というものである。日本でも1888年の市町村制施行の際の地方選挙でこれを採用したことがある。
等級選挙制は、等級を構成する選挙人の数が平等なら各選挙人の価値も平等になるが、等級を構成する選挙人の数が不平等なら各選挙人の価値も不平等になる。そして、等級選挙制を採用するときは、たいていの場合において、等級を構成する選挙人の数が不平等になり、各選挙人の価値も不平等になる。このため「等級選挙制=不平等選挙」というイメージが定着している。
国政選挙における不平等選挙の一部禁止
日本の国政選挙において、人種・信条・性別・社会的身分[1]・門地[2]・教育[3]・財産・収入を理由とした不平等選挙を実施することは、日本国憲法第44条によって禁止されている。
日本国憲法第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
日本国憲法第44条の根拠とも言うべき条文は、日本国憲法第14条第1項である。
日本国憲法第14条第1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
国政選挙における『監護している未成年者の数に基づく不平等選挙』の可能性
「日本の国政選挙において、監護している未成年者の数に基づく不平等選挙を実施しよう」と主張する者がいる[4]。
「高齢者の利益になる政治ばかりが行われていて、未成年の利益になる政治が行われておらず、シルバーデモクラシーになっている」と論じつつ、「未成年者を監護する人物に対し、その投票する数を増やすべきだ」と主張する。
未成年者1人を1人で監護している父親は、選挙で投票できる票数を2票にする。未成年者1人を2人で監護している父親と母親は、選挙で投票できる票数をそれぞれ1.5票にする。
こうした不平等選挙は、日本国憲法第14条第1項や日本国憲法第44条によって禁止される可能性がある。
日本の裁判所は、「日本国憲法第14条第1項の人種・信条・性別・社会的身分・門地は、例示に過ぎない。これらの分野以外でも、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、法の下の平等を実現するべきである」と考えることが常であり、その考えを通説としている[5]。
また日本の裁判所は、日本国憲法第44条を解釈するときも同じように「人種・信条・性別・社会的身分・門地・教育・財産・収入を例示として考え、それ以外の分野でも差別的取り扱いを禁ずるべきである」と考える傾向にある。
このため未成年を監護しているかどうかで差別的取り扱いをすることは、日本国憲法第14条第1項または日本国憲法第44条に違反すると扱われる可能性がある[6]。
国政選挙における『居住地に基づく不平等選挙』の可能性
小選挙区制は、居住地に基づいて選挙人(有権者)を複数の集団に分け、その集団ごとに議員を1人ずつ選出するものである。
この小選挙区制は等級選挙制である。等級選挙制は「納税額などによって選挙人(有権者)を複数の集団に分け、その集団ごとに議員を同じ人数ずつ選出するものである」と定義されるが、この定義の中の「納税額など」を「居住地」に変更し、「同じ人数」を「1人」に変更すれば、小選挙区制になる。
等級選挙制というものは、不平等選挙になりやすい。ある集団の有権者数が少ないとその集団に属する選挙人の投票価値が高くなり、ある集団の有権者数が多いとその集団に属する選挙人の投票価値が低くなる。
同じように小選挙区制は不平等選挙になりやすい。ある選挙区の有権者数が少ないとその選挙区に属する選挙人の投票価値が高くなり、ある選挙区の有権者数が多いとその選挙区に属する選挙人の投票価値が低くなる。日本では日本国憲法第22条により居住・移転の自由が認められているので、選挙区の人数が平等になることがほとんど発生しない。
居住地による不平等選挙によって各選挙人の投票価値に格差が生じることを特別に「一票の格差」ということが多い。
居住地による不平等選挙は、日本国憲法第14条第1項または日本国憲法第44条に違反すると扱われる可能性がある。
「居住地による不平等選挙は事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであって日本国憲法第14条第1項または日本国憲法第44条に違反せず合憲」と扱われることもあるし、「居住地による不平等選挙は日本国憲法第14条第1項または日本国憲法第44条に違反していて違憲」とされることもある。詳しくは一票の格差の記事を参照のこと。
不平等選挙の長所
不平等選挙の長所は2つほど挙げられる。
1.を意識する思想の例は、「高学歴の者の選挙権の価値を相対的に向上させることで、国民が高学歴を目指すようになり、それによって国家の実力を向上させられる」というものである。
外発的動機付けというと通常は財産や名誉を付与して人を一定の行動に導くものである。しかし不平等選挙による外発的動機付けは、選挙権という権利を付与して人を一定の行動に導くものである。
2.を意識する思想の例は、「高学歴の者の選挙権の価値を相対的に向上させることで、議員が高学歴の者を優先する政策をとるようになり、それによって国家の実力を向上させられる」というものである。
不平等選挙の短所
格差社会・階級社会になると、人が「所属する階級が異なる人」に対して話しかけることをためらうようになり、人が「所属する階級が異なる人」に対して積極的情報提供権(表現の自由)を行使することを遠慮するようになり、情報伝達が盛んに行われない社会になり、風通しが悪い社会になり、「見て見ぬ振り」「知らぬ存ぜぬ」「自分の知ったことではない」「我関せず」という気風が広がる社会になる。
格差社会・階級社会になると、人々がお互いの欠点を指摘し合う気風が損なわれるようになり、欠点がいつまで残り続ける社会になり、発展せずに停滞する社会になる。
関連項目
脚注
- *社会的身分というのは、憲法学者の間でも解釈が分かれる概念であり、定義が曖昧な概念である。『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治 205~206ページ』を参考にして社会的身分を解説すると、次のようになる。・・・社会的身分は、①人の生まれによって決定される社会的地位、②広く人が社会において一時的ではなく占めている地位、③後天的に人の占める社会的地位にして一定の社会的評価を伴うもの、といった解釈がある。この中で①は門地とほぼ同じ意味になる。②は非常に広い解釈で職業や居住地も含む。③はさらに「後天的取得対象となるものであっても、本人の意思ではどうにもならないような、固定的な社会的差別観を伴っているもの」と解釈される。・・・
- *門地というのは、人の出生によって決定される社会的地位のことで、いわゆる「家柄」がこれにあたる。『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治 206ページ』
- *教育というのは教育の程度のことで、学力や学歴が典型例である。
- *『競争と公平感(中央公論新社)大竹文雄』156ページにおける経済学者の大竹文雄など。
- *日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治 200ページ。昭和48年の尊属殺重罰規定違憲判決の最高裁判決では「憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であって、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いを禁止する趣旨と解すべき」と述べている。
- *議員定数不均衡訴訟において最高裁は、居住地に基づいて選挙人の投票価値に格差を付けることを日本国憲法第14条第1項違反としている。一方で、在外日本人選挙訴訟において最高裁は、居住地に基づいて選挙人の資格を制限していたことを日本国憲法第44条違反としている。憲法14条1項にも憲法44条にも居住地に基づく差別を禁止するという文章が入っていない。
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