不殺(: フサツ、コロサズ)とはフィクション作品における一つの生き様である。不殺主人公とは、不殺である主人公のことである。
概要
まず最初に言っておかなければいけないのは、現実世界では正当防衛などの例外的な場合を除き殺人は犯罪なので、不殺なのは当たり前であるということである。従って不殺は特記すべき生き様とはなりえない。
不殺とは、人が殺されてもおかしくないような世界観のフィクション作品において、人を殺さずに切り抜けている生き様のことであるといえる。
なお、ここでいう「殺された」には、魔法などで蘇生できてしまう状態は含まれない。そういった世界観では殺人は暴行の延長くらいの意味でしか無い。
作品外における背景
一般的に、殺人という犯罪は他の犯罪よりも一段重く受け止められている(この点に異論のある方は自身がサイコパスでないかについて検討したほうがよいかもしれない)。
これはフィクション作品中の出来事であったとしても例外ではなく、主人公やヒロインなどに正当化しきれない殺人の過去ができてしまうと、それらへの感情移入が難しくなる(この点に異論のある方も以下省略)。こういった事情が表立って語られることはないが、作品の面白さ人気や売上に響くと考えると作者として無視できない要素になるといえる。
逆にこういうことをタブー視しない作風のことをハードボイルドと呼んだりする場合もある(ただし、ハードボイルドという用語には他の用法もある)。
子供向け作品など
暴力的描写がNGである子供向け作品でも事情はほぼ同じである。
作中での理屈
登場人物が不殺になる理由としては、当人が意識している場合では
- 悪人でも殺せばそいつと同じになる。
- 法で裁くべきで、殺すのは俺の管轄外。
- 単に殺したくない。
- お前など(手を汚してまで)殺す価値もない。
- 殺すなど生ぬるい。生きて苦しむことで償え。
- とある事件を機に、不殺の誓いを立てた。
- 強くなってもう一回挑んでくるがいい。
といったものがあるが、実際は人それぞれである。
一方で、「作品外の背景」で述べたような事情による場合、作品中で不殺の理由が明示されないことも多い。そういったケースでは作品中の当人は不殺を意識していない(当然だが殺人はいけないことだという意識は持っている)が、神の見えざる手により結果的に不殺となる。
不殺主人公
要するに敵を殺さない(なるべく殺さない、意識していないが結果的にそうなっている、を含むことも)主人公のこと。過去に殺したことがあっても、現在不殺主義である場合も含まれる。
よくあるパターン
主人公と命を懸けた戦いまでした相手が、生きているのにもう一度主人公に立ち向かってこないのは不自然なため、また、悪人がのうのうと生きていては勧善懲悪的な見地からも読者にモヤモヤしたものが残るため、以下のような展開になりやすい。
- 改心して主人公の仲間になる。初期であった場合は、主要キャラにまで昇格することも。
- 他の組織で生きながらえるが、下っ端モブ扱いで自由に出撃できない。
- 直後に不慮の事故で死亡する。
- 所属組織により任務失敗者として粛清される。
- 突然現れた次の敵役にかませ犬として殺される。
- 汚れ役担当の仲間が葬り去る。
- 自殺に追い込まれる。
- 同じ記憶を持つクローン・電脳・霊体などが残っているので殺害としてカウントされない。
- 記憶喪失(上記と逆で、ある意味前の人格は死んでる)。
- 意識不明・廃人(体は生きてるが死んだも同然)。
- 行方不明(生存フラグなので、再登場や後日談的エンディングでフラグ回収されることも)。
- 殺しているようにしか見えないが、死亡が観測されていないのであくまでも生死不明である。
- 殺した相手が実は人間じゃなかったからセフセフ。
- 殺したと思い込んでいたが、実は別の人がとどめを刺していた。
- 夢オチ
- ギャグ漫画だから、死んでも次のコマでは何事もなかったかのように生き返っている。
不殺主人公は嫌われるか
不殺主人公は嫌われる傾向があると言われているが、嫌われない不殺主人公もいる。一概には言えないが、ご都合主義的な不殺は批判されやすいように思える。
作品内の事情
悪人を生かしてしまうことで被害者を増やしてしまう、信念が時々ブレると言ったパターンは確かに嫌われることがあるようだ。逆に、不殺にきちんとした理由がある、殺さないが敵が悪さを出来ないように処置する、過去に殺しすぎて悪人でも殺すことに抵抗があるなどそれなりの理由があれば嫌われないようだ。
作品外の事情
現実世界を舞台としていれば人が殺される場面はそれほどないので不殺の実現は容易なはずだが、人が殺されてもおかしくないような世界観に設定してしまった場合、登場人物に殺人歴を残さないようにストーリーを展開することの方が難しくなってくる。
結果として上記「よくあるパターン」の一部が該当するような、不自然なストーリー展開になってしまったり、「直接手を下さなければ結果的に死に至らしめても構わないのか」、「死にさえしなければ何をしてもいいのか」と疑問をいだかせる内容になりやすい。
こういった性質が目立ってくると批判の対象になりやすいと考えられる。
一方で、子供向け作品では、視聴者側も殺人シーンを目にしたくない(あるいは子供に見せたくない)という思惑があるため批判の対象になりにくいと考えられる。
殺人童貞
全く人を殺さない登場人物をしばしば「殺人童貞」と表現することがある。初出は「グラップラー刃牙」。ただし、軍隊や治安が大変悪い国の警察を描いた作品では昔からよく使われる表現である(戦争処女、殺人処女など)。不殺主人公と似ているが、過去を含めて一切の殺人を行っていない点に違いがある。もっとも、信念として不殺を貫いているとは限らないため、殺人童貞であるからと言って不殺主人公と呼べるかは議論を呼ぶことがある(刃牙も格闘の結果としての殺人は否定していない)。
不殺主人公達
追加していない人が後から分類したので、誤りがあれば修正して下さい。
低年齢向け
当人が明示的に不殺を掲げているもの
- マット・ヒーリィ(機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles)
- キオ・アスノ(機動戦士ガンダムAGE)
- 緋村剣心(るろうに剣心)
- 苗木誠(ダンガンロンパ)
- ヴァッシュ・ザ・スタンピード(トライガン)
- バットマン
その他・未分類
- バナージ・リンクス(機動戦士ガンダムUC)
- ロビンフッド(ロビンフッドの大冒険)
- 怪傑ゾロ(怪傑ゾロ(アニメ))
- 範馬刃牙(グラップラー刃牙)
- 東兎角(悪魔のリドル)
- 快傑ズバット
- たけし(世紀末リーダー伝たけし)
- トルフィン(ヴィンランド・サガ)
- スノーホワイト(魔法少女育成計画)
- 月光仮面
厳密には不殺ではない例
参考: 対極の例
不殺とは逆に、殺さずに済むような場合でもむしろ積極的に殺していくスタイルの作品もある。アンチヒーロー・ダークヒーロー・ハードボイルドなどの概念と部分的に重なるものの、ぴったりした反対語がないので、ここに掲載する。
関連項目
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