世界名作劇場とは、フジテレビ系列で放送されていた世界の名作文学をアニメーション化した一連のアニメシリーズである。日本アニメーションの定義では1975年の『フランダースの犬』から1997年の『家なき子レミ』まで、そして2007年から2009年にかけてBSフジで放送された3作品を指す。
ヒストリー
1969年に、フジテレビ日曜19:30~20:00の時間帯において「カルピスまんが劇場」がスタート。当初放映したのは手塚治虫原作の『どろろ』であった。しかし低視聴率により同年10月には瑞鷹エンタープライズ製作・東京ムービー→虫プロダクション制作で『ムーミン(第一期)』がスタート。こちらは人気が出たため、1971年の『アンデルセン物語』をはさみ、1972年末まで『ムーミン(第二期)』が放映される。
1973年には瑞鷹エンタープライズがスタッフを独自に集め「ズイヨー映像」を設立、『山ねずみロッキーチャック』を放映。翌74年には『アルプスの少女ハイジ』を放映する。『ハイジ』においては、テレビアニメ初のロケーションハンティングが行われ、リアリティのある作画と可愛らしいキャラクター、そして細かい心情描写で大ヒット(高視聴率)を記録、以後作風およびロケハンは『ハイジ』の路線が引き継がれる。
しかし、1975年には瑞鷹エンタープライズとズイヨー映像との間に不和を生じ、同年6月にズイヨー映像のスタッフが「日本アニメーション」として独立。当時放映中であった『フランダースの犬』は第4話から「制作:日本アニメーション」と表記されるようになり、現在まで日本アニメーションが制作を続けている。なお、シリーズ名が「世界名作劇場」となるのは『赤毛のアン』からで、それまでは「カルピスこども劇場」「カルピスファミリー劇場」などと呼ばれていた。しかし現在はすべて「世界名作劇場」に統一されている。そしてズイヨー映像時代に制作された『ロッキーチャック』『ハイジ』の二作は瑞鷹(株)の版権管理であるため、日本アニメーションのホームページでは世界名作劇場として扱われていない。
1978年まではカルピスが一社提供していたが、スポンサーを降板。しばらく複数社提供になった後に、1985年からハウス食品が一社提供、またはメインスポンサーとなった。
そのため、この番組のスポンサーがカルピスかハウス食品かによって世代がわかるという隠れたおっさんホイホイでもある。
20年以上もの間、日曜夜のゴールデンタイムに「よい子のためのアニメ」として放映が続いてきたが、長期にわたって続いたためにマンネリ化は避けられず、全盛期は20%を超えることもあった視聴率は10%台前半で低迷を続けていた。そこで、それまで名作劇場を観てきた世代の成長を意識してか家族愛やロマンスへの憧れを推し出し、ヤングアダルト以上にもアピールする作風に徐々にシフトしていったが、これにより新しい支持層を獲得して視聴率も回復する一方、かつての作風にこだわる一部ファンや「よい子」たちとの乖離も見られることになった。
さらに追い打ちをかけるように野球中継による中止や、数字を持っている裏番組(『さんまのからくりTV』等)の隆盛により、ついに1994年には記念すべき20周年記念作品であった『七つの海のティコ』の途中からいきなりハウス食品の単独提供が終了してNTT等との複数社提供になってしまう。そして1997年、あらゆる意味において原点の「よい子のためのアニメ」に立ち返って作られた『名犬ラッシー』だったが、視聴率はついに1ケタ%台を割り敢え無く半期余りで打ち切られ(しかも最終回が野球中継のため未放映)、続いて始まった『家なき子レミ』でも挽回は敵わず半期で終了、本作を最後に一旦シリーズは幕を下ろした。
放送終了後には存続を望む声が多く寄せられ、2007年1月、視聴率に左右されないBSデジタル放送(BSフジ)で10年ぶりに再開。『レ・ミゼラブル 少女コゼット』を復帰1作目として放映した。その後、2008年に『ポルフィの長い旅』、2009年に『こんにちはアン ~ Before Green Gables』が放送された。
作風
主に19世紀~20世紀半ばを舞台とする海外の名作文学(例外あり)をメジャー、マイナー問わず格調高くアニメーション化する。登場人物の心情描写や背景美術の美しさには定評がある一方で、あくまで「よい子のためのアニメ」であるために過激なアクションやエロティックなシーン、下品なギャグ等は挿入されない。また、作品の主人公が大人だったりする場合には、ターゲットの視聴者層(=子供)に合わせる形でオリジナルの子供の主人公が設定されたり、本来は主人公ではないキャラクター(この場合も子供のキャラクターが選ばれる)に主人公を演じさせることが多く、さらに主人公に近しい大人のキャラクターの年齢引き下げも度々行われる。マーチャンダイスやキャラクターグッズ展開のために、キャラクターの造形を日本の視聴者によりアピールするようアレンジしたり(例: 『フランダース』のアロア)、本来存在しないはずの動物をマスコットとして登場させたりしている(例: 『ペリーヌ』のバロン)。
そして世界名作劇場で展開される物語は、時代背景こそ前時代的であって必ずしも現代日本の世相をうまく反映させたものではなかった(これも視聴率低迷の原因の一つとされることが多い)が、その根幹で語られる「人間」「家族」「愛」といったモチーフは時代の流行に左右されない普遍的なテーマであり、現在でも再放送やネット配信が行われ、新たなファンを増やし続けている。削除ガイドラインが整備される前のニコニコ動画も(非合法ではあるが)ファンを増やすための媒体となっていた。そのファン層の広さは30年前以上の作品を使い現在までキャラクタービジネスを展開することを可能にし、近年の作品数減少に悩む日本アニメーションの家計を立派に支えている。
舞台は主に欧州、北米であり、それ以外の地域はわずかである。なぜこのような偏りが生まれるかについては不明であるが、「日本人が「外国」と聞くと金髪碧眼の西洋人をイメージしてしまうため」「スタッフの中に(欧州・北米で優勢な)キリスト教の敬虔な信者がいるため」「TBS系の『まんが日本昔話』に対抗するため」など諸説ある。しかしどれも決定的な証拠は存在しない(ただし『フランダースの犬』のラストの演出や、『フローネ』~『カトリ』あたりのキリスト教系出版社から出ていたマイナーな(だが、いずれも明治期には翻訳・翻案がなされ、それなりに知られていたらしい)児童文学作品を原作とした一連の作品は、熱心なクリスチャンでもあったプロデューサーの意向によるもの、という主旨の元関係者による証言がある)。
なお、上述のように「子供向け」として作られてはいるものの、主人公は5歳~15歳の少女が比較的多かったためか、80年代のアニメ雑誌においては一部の作品が「ロリコンアニメ」の一つとして扱われていた時期があった。また90年代に入ると、逆に一部の作品がボーイズラブ系やショタコン系の同人誌の題材として取り上げられることがあるなど、子供たちだけではなくアニメオタクの間でも一定の支持を受けていた。
ともかく、長年にわたり「子供たちが安心して見られる健全なアニメ」を提供し、子供たちに世界の名作文学に触れるきっかけを与えてきたという点で世界名作劇場の果たした役割は大きく、これからも存続してほしいと願う声もたえない。
作品リスト
作品名 | 放映年月 | 原作者名 | その他 | |
1 | どろろ(~13話) →どろろと百鬼丸(14話~) |
1969年4月~9月 | 手塚治虫 | 「カルピスまんが劇場」 |
2 | ムーミン(第一作) | 1969年10月~1970年12月 | トーベ・ヤンソン | 制作:東京ムービー(~26話)→虫プロダクション(27話~) |
3 | アンデルセン物語 | 1971年 | ハンス・クリスチャン・アンデルセン | これ以降各作品1月~12月まで放映。 |
4 | ムーミン(第二作) | 1972年 | トーベ・ヤンソン | |
5 | 山ねずみロッキーチャック | 1973年 | ソーントン・バージェス | ここからズイヨー映像制作 |
6 | アルプスの少女ハイジ | 1974年 | ヨハンナ・スピリ | |
フジテレビ「世界名作劇場」 1975年~1997年 | ||||
1 | フランダースの犬 | 1975年 | ルイズ・ド・ラ・ラメー | ここから日本アニメーション制作「カルピスこども劇場」 |
2 | 母をたずねて三千里 | 1976年 | エドモンド・デ・アミーチス 「クオレ」より |
アニメ版は原作を大幅に脚色したもの。 |
3 | あらいぐまラスカル | 1977年 | スターリング・ノース「はるかなるわがラスカル」 | 名劇唯一の「自伝」(原作者=主人公) |
4 | ペリーヌ物語 | 1978年 | エクトル・マロ「家なき娘」 | 「カルピスファミリー劇場」 |
5 | 赤毛のアン | 1979年 | ルーシー・モード・モンゴメリ | 「世界名作劇場」 前後二部構成。 |
6 | トム・ソーヤーの冒険 | 1980年 | マーク・トウェイン | |
7 | 家族ロビンソン漂流記・ ふしぎな島のフローネ | 1981年 | ウィース 「スイスのロビンソン」 |
主人公のフローネはアニメオリジナル。 |
8 | 南の虹のルーシー | 1982年 | フィリス・ピディングトン 「南の虹」 |
前後二部構成。 |
9 | アルプス物語 わたしのアンネット |
1983年 | パトリシア・セント・ジョン「雪のたから」 | |
10 | 牧場の少女カトリ | 1984年 | アウニ・ヌオリワーラ | |
11 | 小公女セーラ | 1985年 | フランシス・ホジソン・バーネット「小公女」 | 「ハウス食品世界名作劇場」 (ハウス食品 単独提供) |
12 | 愛少女ポリアンナ物語 | 1986年 | エレナ・ホグマン・ポーター「少女パレアナ」「パレアナの青春」 | |
13 | 愛の若草物語 | 1987年 | ルイザ・M・オルコット 「若草物語」 |
新田恵利の歌唱力不足により、15話から急遽OPED変更。 |
14 | 小公子セディ | 1988年 | フランシス・ホジソン・バーネット「小公子」 | 名劇初となる、同一人物による別作品のアニメ化。 |
15 | ピーターパンの冒険 | 1989年 | ジェームズ・M・バリ | 名劇で唯一、異世界を舞台とした作品。 |
16 | 私のあしながおじさん | 1990年 | ジーン・ウェブスター | 主人公の年齢を高校生(相当)→中学生(相当)に変更。 |
17 | トラップ一家物語 | 1991年 | マリア・フォン・トラップ 「サウンド・オブ・ミュージック」 |
OPの「ドレミの歌」は権利問題によりDVD版では差し替え。 |
18 | 大草原の小さな天使 ブッシュベイビー | 1992年 | ウィリアム・スチーブンソン | 名劇唯一のアフリカを舞台とした作品。 |
19 | 若草物語 ナンとジョー先生 | 1993年 | ルイザ・メイ・オルコット 「第三若草物語」 |
「愛の若草物語」ではなく、原作版の続編にあたる作品。 |
20 | 七つの海のティコ | 1994年 | なし | 原作無しのオリジナル作品。 9話から、ハウス食品+NTTなどの複数社提供となり、再び「世界名作劇場」となる |
21 | ロミオの青い空 | 1995年 | リザ・テツナー「黒い兄弟」 | |
22 | 名犬ラッシー | 1996年1月~8月 | エリク・ナイト「名犬ラッシー」 | 12月まで放映できず、8月までの放送短縮の憂い目に会う。ようは、打ち切り。 |
23 | 家なき子レミ | 1996年9月~1997年3月 | エクトル・マロ「家なき子」 | 主人公を少年から少女に変更するも、人気を取り戻せず。地上波(フジテレビ)での最後の作品となってしまった。 |
BSフジ「世界名作劇場」 2007年~ ハイビジョン制作 | ||||
24 | レ・ミゼラブル 少女コゼット | 2007年 | ヴィクトル・ユゴー | BSデジタル(BSフジ)で10年ぶりに復活。 「ハウス食品世界名作劇場」 ハウス食品+複数社提供。 この作品の主人公"コゼット"(幼少期)"は、かなりの萌え要素を含んでいる。 |
25 | ポルフィの長い旅 | 2008年 | ポール・ジャック・ボンゾン 「シミトラの孤児たち」 |
「ハウス食品世界名作劇場」 ハウス食品 単独提供 |
26 | こんにちはアン | 2009年4月~12月 | バッジ・ウィルソン 「こんにちはアン」 |
アンの声優は現役JCの日高里菜。 主題歌はとなりのトトロでおなじみの 井上あずみ。 番組名が「世界名作劇場」になり、ハウス食品+複数社提供になる。 制作からフジテレビが抜け、「日本アニメーション」のみの表記となった。 |
その他
日本アニメーションで「世界名作劇場」として紹介されているのは『フランダースの犬』~『こんにちはアン』のみであり、『アルプスの少女ハイジ』については一切触れていない。また、『ハイジ』のホームページは瑞鷹(株)の関連会社(株)サンクリエートが独自に運営しており、日本アニメーションの作品と同様現在に至るまでキャラクタービジネスが行われている。
『フランダースの犬』では最終話において主人公が死んでしまうという悲劇的結末を迎え、多くの視聴者の涙を誘ったが、「主人公が死ぬ」ことに対する批判的意見も多く、これ以降主人公が悲劇的結末を迎えるような作品はなるべく題材としないようになった(やむを得ず選んだ場合でも、ストーリーを改変してハッピーエンドで終わらせるなどの処置をとっている)。
関連動画
関連コミュニティ
関連する人物
- 宮崎駿 - 主にレイアウト設計担当として参加。
- 富野由悠季(とみの喜幸) - 主に絵コンテ担当として参加。
- 森康二(森やすじ) - 『ロッキーチャック』『フランダース』のキャラクターデザイン担当。手塚治虫と並びケモノ萌えの元祖とされる。故人。
- 小田部羊一 - 『ハイジ』『三千里』のキャラクターデザイン担当。任天堂のマリオ(のデザイン)の生みの親でもある。
- 関修一 - 『ペリーヌ』『トム・ソーヤー』『フローネ』『ルーシー』『あしながおじさん』『トラップ一家』『ブッシュベイビー』(共同)のキャラクターデザイン担当。名作文学系アニメの常連で、トムス・エンタテイメント制作の『フランダースの犬』にまで参加している。
- 近藤喜文 - 『赤毛のアン』『若草』のキャラクターデザイン担当。故人。宮崎駿の後継者と目されていたが・・・。
- 佐藤好春 - 『アンネット』『ポリアンナ』『ナンとジョー先生』『ロミオ』『こんにちはアン』のキャラクターデザイン担当。現在は九州でCM用アニメも手がける。
- 大杉久美子 - 『フランダース』~『ペリーヌ』までのOP、EDを担当。
- 堀江美都子 - 本来は歌手だが、名劇では声優(主役を複数回)としても活躍。
- 潘恵子 - 声優。主題歌の歌手としても活躍
- 11
- 0pt