世界貿易機関(World Trade Organization;WTO)とは、自由貿易を促進するために1995年に設立された国際機関である。
概要
世界貿易機関は、WTO設立協定(マケラシュ協定)に基づく国際機関である。現在の加盟国は158ヶ国に及んでおり、世界貿易の殆どをカバーしている。
第二次世界大戦後、本来は国際貿易機関(ITO)というものが設立される予定になっていたのであるが、米国議会などが反対したため、それは実現しなかった。このため、本来は単なる協定に過ぎない「GATT」(関税及び貿易に関する一般協定)だけが事務局を持ちつつ40年以上機能し続けるという歪な状態が続いていた。そこで、GATTのウルグアイラウンドにおいて新たな国際機関の設立について討議され、1995年に世界貿易機関が設立されたのである。
ただし、この時に他の国際機関と略称を巡る喧嘩をしたことは忘れてはならない。元々、「WTO」は1975年に設立された世界観光機関(World Tourism Organization)の略称だったにもかかわらず、後から設立された国際貿易機関がこれを奪い取る展開になった。この結果、世界観光機関は「国際連合の専門機関である」という理由で「UNWTO」と名乗ることになった。(なお、冷戦期の「ワルシャワ条約機構」の略称もWTOだったが、こちらは既に解体されていたので問題にならなかった。)
世界貿易機関は、
な通商関係の確立を最大の使命としている。好きなものは「抱き合わせ交渉」、嫌いなものは「保護主義」である。
機関
WTO協定に基づき、世界貿易機関には次の機関が設けられている。
- 閣僚会議(Ministerial Conference)
- 世界貿易機関の最高意志決定機関。各国から閣僚が集まって重要事項を討議する。2年に1度開催される。
- 一般理事会(General Council WTOの全加盟国の代表によって構成される組織。
- 物品の貿易に関する理事会(Council for Trade in Goods)
- GATT 1994(物品の貿易に関する多角的協定(附属書ⅠA))の実施を所管。物品理事会。
- サービスの貿易に関する理事会(Council for Trade in Services)
- GATS(サービスの貿易に関する一般協定(附属書ⅠB)の実施を所管。サービス理事会。
- 知的所有権の貿易関連の側面に関する理事会(Council for Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)
- TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(附属書ⅠC)の実施を所管。TRIPS理事会。
- 貿易及び開発に関する委員会
- 国際収支上の目的のための制限に関する委員会
- 予算、財政及び運営に関する委員会
協定
WTO協定は、多くの附属書を含む複雑な構造をとっている。世界貿易機関に加盟するためには、WTO協定本文だけでなく、附属書Ⅰ・附属書Ⅱ・附属書Ⅲの全てを一括受諾しなければならない。附属書Ⅳについては、受諾するか否かは任意である。
世界貿易機関の設立に関するマケラシュ協定(通称「WTO協定」)
- 附属書Ⅰ
- 附属書2 紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(紛争解決了解:DSU)
- 附属書3 貿易政策審査制度
- 附属書4 複数国間貿易協定
関税同盟と自由貿易協定(FTA)
世界貿易機関が定めるルールは「無差別」を原則としているので、 一部の国だけで仲間内の貿易ルールを作ることは原則的に禁止されている。それにもかかわらず、GATTでは、「関税同盟」と「自由貿易協定」という例外が認められている(GATT第24条およびGATS第5条)。
関税同盟
関税同盟(Customs Union)とは、複数の国が協力し、
すなわち「内部ゼロ関税」と「対外共通関税」を実現するものである。欧州連合(EU)も一種の関税同盟である。
自由貿易協定(FTA)
自由貿易協定(Free Trade Agreement;FTA)とは、加盟国同士の貿易を自由化するという内容の協定である。対外共通関税を設けないという点で上述の関税同盟よりも弱い協力関係であるといえる。基本的には「すべての貿易を自由化」しないといけないが、さすがに100%の物品の関税を0%にするのは至難の業なので、90%程度の物品の関税が0%であれば良いと解釈されている。
日本は特に東南アジア諸国とFTAを締結している。ちなみに、日本政府は、これらのFTAが両経済領域での連携強化・協力の促進等を含めていることから、特に「経済連携協定」(EPA)という呼び方をしている。また、今後は、EUなどともFTAの交渉を進めていく予定である。
ちなみに、ちまたで話題の環太平洋連携協定(TPP)も世界貿易機関の定義上はFTAの一種である。
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