中国語の部屋単語

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チュウゴクゴノヘヤ
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中国語の部屋Chinese room)とは、「うまく質問に答えられる存在でも、質問を理解しているとは限らない」事を示すための思考実験である。

この思考実験に関する論考・議論英語で「Chinese Room Argument」、略して「CRA」ともいう。

元々は「質問に答える機を持った人工知能」を念頭においた話だった。

しかし議論していくうちに「人間」にも話題が広がっていくため、これを読んでいるあなたにも関係する話になっていく。

部屋の場合

中国語は全然わからない、けれど英語は理解できる人が、ある部屋の中に入れられている。

  1. 部屋の中に、外部から中国語の質問が入れられる。
  2. 中の人中国語を知らないので、全然わからん!でもその部屋の中には「中国語の意味は全然書いてないが、膨大な漢字英語解説された「ルール」が載っていて、そのルールに従って何も考えずに手を動かして処理すれば、質問に対する答えとして正しい組み合わせの中国語の回答になる、すごいマニュアル」が置いてあった。
  3. 中の人とりあえずそのマニュアルにしたがって手を動かして、彼にとっては全く意味の分からない漢字を並び替え、その結果、部屋の中には正しい組み合わせの中国語の回答が完成した。
  4. 質問に対する答えが、部屋の外に出された。

この部屋を外から見れば、「中国語の質問を入れたら中国語の正しい回答が返ってきたので、この部屋中国語を理解している」ようにも見える。

しかし、部屋中の人中国語を理解していない。ルールに従って並び替えただけである。この部屋の中には中国語を理解しているものなども居ない。

だからこの部屋中国語を理解しているとは言えない。

あなたもそう思うだろう?

あなたの場合

※便宜上、あなた日本語話者であるという仮定の元に話を進める。

  1. あなた日本語で質問され、回答をで考え始めた。
  2. あなたの中では、神経細胞やその間のシナプスなど、様々な微細な存在・構造が処理を始めた。の中にあるそれら微細なものたちは、各々が日本語を知っているわけもない。だが、各々が持つ個別の役割を果たすことはできる。人間はそれらが役割を果たせば機するようになっている。
  3. の中の微細な存在・構造たちは、各々自身は日本語など何もわからないままに役割を果たし、その結果として、あなたは質問に対する日本語の回答を思いついた。
  4. あなたは質問に対する回答を日本語で答えた。

あなたの外から見れば、「日本語の質問に日本語で答えたので、あなた日本語を理解している」ようにも見える。

しかし、あなたの中に存在している神経細胞シナプス各々は、日本語を理解していない。個別の機を果たしただけである。あなたの中に、「日本語を理解している単独の何か」など存在しない。

だからあなた日本語を理解しているとは言えない。

あなたもそう思うだろう?

概要

上記のうち、「部屋の場合」の部分が本来の「中国語の部屋」の思考実験である。

あなたの場合」の方は、この「中国語の部屋」の思考実験に対する批判として用いられる論法。詳細は後述。

部屋の場合」を読んで「そうかも……」と思った人も、「あなたの場合」の方を読むと「んっ?」とひっかかったのではないだろうか。この二つの論法の間には、本質的な差は存在しているだろうか?

起源

元々はジョン・サール(John Searle)という哲学者が、1980年に発表した論文『心・プログラム』(Minds, brains, and programs)[1]という論文中で提唱したもの。

当時、ロジャーシャンク(Roger Schank)という人工知能学者やそのなかまたちによって、自然の文章をコンピューターに理解させる技術、例えば「文章を読ませた後、その文章に関する質問に答えさせる」と言ったような技術が進歩しつつあった。

これに対して「たとえ質問に答えられても、質問を「理解してる」とは言えないよな」とか言い出したのがこの論文である。

現在では、コンピューターの知性を問う「チューリング・テスト」と関連付けてられることが多い。確かに上記の『・心・プログラム』でもチューリング・テストについては触れられている。しかし上記のように、本来は「チューリング・テスト」よりもシャンク人工知能を念頭においたものであった。

反論

上記の「部屋の場合」の説明を読んで、納得がいかなかった人も居るだろう。

多くの人がこの話には頭をかしげ、ジョン・サールに対して様々な反論がなされ、大いに議論を招いた。

ここではジョン・サール自身が紹介している「反論」をいくつか紹介する。

I. The systems reply(システムの反論)

部屋の中に居る人はシステムの一部に過ぎない。その人だけで見れば中国語を理解していないかもしれない。しかし、部屋にあるその長大な「マニュアル」、そのマニュアルに従って回答を計算するための鉛筆中国語漢字を大量に備えたデータバンク、などもこの部屋が機するためには必要だろう。これらすべてがシステムとなって、システム全体としては中国語を理解しているのだ。」

という反論である。

これに対するサールの再反論は、

「では、中に居る人が天才で、それらのマニュアルデータバンクを彼が全て暗記したとしよう。計算もすべて暗算でするのだ。つまり彼のみでシステム完結しており、彼がシステム全体であるという場合を考える。しかしそれでも、中国語の「意味」についてはこのマニュアルについては一切書いていないので、彼も中国語の意味については無知のままだ。彼は中国語について理解していないのに、中国語の質問に回答できてしまう。つまり、システム全体で見たとしても中国語を理解していない。」

というものであった。

ちなみにこのような人物がもし実在したらと仮定すると、「中国語で話しかけると全く問題なく中国語で会話しており、行動面で見れば中国語を理解している人物と全く変わりがいのに、本人の内面としては中国語の会話の意味を全く理解できていない」という非常に奇妙な存在となる。「哲学的ゾンビ」の亜種と言えるかもしれない。

II. The Robot Reply(ロボットの反論)

シャンクプログラムのやることが入(質問)と出(回答)に限ってるからこういう妙な話になってくるんじゃないか?プログラムを実行するコンピューターロボットの中に入れて、カメラで回りのものを「視て」、手足で「動き回れる」ようにすればいい。そのロボットの「」になったコンピューターはちゃんと「理解」できるようになったり、他の精状態だって持つようになるだろう」

という反論である。

これに対するサールの再反論は、

「では、中国語の部屋にロボットを追加しよう。ロボットに付けられたテレビカメラで捉えた外の中国語部屋の中に入され、出した中国語ロボットの手足を動かすようにするのだ。それでも何も変わるまい。中の人中国語を理解できるようになるわけではない。」

というものであった。

III. The brain simulator reply(脳シミュレーターの反論)

「本物の中国人を忠実にシミュレートするようなコンピューターを想像することができる。人間と全く同じ方式で、質問を処理して回答を出すのだ。このコンピューター中国語の質問を理解しているだろう?それを否定するなら、ネイティブ中国語話者が中国語を理解していることすら否定しないといけなくなるぞ

という反論である。

ちなみに、本記事の上方にある「あなたの場合」は、上記の反論のうち下線部の部分を切り出しアレンジしたものと思ってもらえればよい。

これに対するサールの再反論は、

部屋の中にいる人が行う操作を「中国人シナプスを忠実に再現した路」を操作することに変更してみよう。路につながったバルブを操作することでシナプスの働きを真似るのだ。そのための英語で書かれた全なマニュアルをもらっている。中国人のシミュレート全に果たした結果として、中国語の質問に答える中国語の回答が出てくるが……。この操作をしている人は中国語を理解していないし、「路」だってそうだろう。の形式的な構造を再現するだけでは、が意識を生み出す因果的な特性再現したり、志向的状態を生み出すことはできないだろう。」

というものであった。

だが、本当にそうだろうか?

路で作ったのシミュレーターは、意識を持ったり言葉を理解したりしないのだろうか?

この問題については、「中国脳」の記事も参照されたい。

その他

これらI~IIIの後にも、

などなどがサールによって取り挙げられている。

それ以後も、21世紀になっても新たな論法での「中国語の部屋」への批判・反論が考え出され続けているという。

関連動画

関連商品

関連項目

脚注

  1. *Searle, J. R. (1980) Minds, brains, and programs. The Behavioral and Brain Sciences 3:3.exit

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中国語の部屋

46 ななしのよっしん
2023/03/19(日) 09:41:29 ID: 8P8UhCRDyc
>>45
年齢向けに例えを変えるなら天才の人に「向こうにがあるぞ」と中国語で見せて天才の人がを出すなら、この部屋は不随意運動を支配している事になる
文字で見てもが出ない体質なんだ」と答えるなら中国語の部屋天才の人の体調を監視しているか少なくとも事前情報が与えられている
「うわあ読むだけでが出るね」と答え、出てないですよと言われて「物の例えです」と誤魔化しに来られると判別が難しい
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47 ななしのよっしん
2023/09/25(月) 21:59:49 ID: TseIzoWwDn
上にある反論とそれに対する再反論を読んで思ったのが、中国語の部屋についてる前に「理解」の定義を定めなければ話が進まないんじゃないの? ってことだった
マジで相手が何をもってそれを理解していると判定しているのか理解していないんじゃないかな? って

というか「理解」が議論の余地がなくなるくらい全に定義されれば中国語の部屋って問題は自然に解決するような気がする
まぁいまだに生物の基本である「死」の定義について「脳死って死んでるん? 生きてるん?」って考えてる人類にはすぎる話題なのかもしれん
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48 ななしのよっしん
2023/09/25(月) 22:04:53 ID: NU7rxWgD88
哲学的な定義一に定まって議論の余地がなくなるわけもなく……
精緻化はできても一つの理解や定義に固定する要因はないので
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49 ななしのよっしん
2023/09/25(月) 22:14:52 ID: uL6MhYQJLV
>>46
マニュアルに『特定の単の話はを出しながらリアクションする』という条件が書かれている可性が少しでもあったら検証が難しくなりそう。
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50 ななしのよっしん
2023/09/25(月) 22:25:12 ID: YM9uAk8quf
出る食事中華料理だろうか
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51 ななしのよっしん
2023/10/11(水) 19:26:45 ID: +AQn80peC3
凄いマニュアルを覚えた天才さんはそれらを結びつけることをしないある意味阿呆じゃないのか
マニュアルは物だから書いてあるだけにしても天才が覚えてる単らを結びつけて「なんかよくわからん記号」をこれは中国語という言なんだと推測できるはずだろ
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52 ななしのよっしん
2023/11/07(火) 00:49:34 ID: 8P8UhCRDyc
>>49
難しくはなるが分離できるなら思考実験としては十分かと
または不随意運動の一例なので他にいくらでも検証方法はあるだろう

そのマニュアルの問題点は天才の人に「特定の単を出すような物である」という事実から単の意味をわずかにでも知られてしまう事かもしれない
天才の人が反応できない単天才の人は実際に何も理解していないし、天才の人が細やかに反応できる単は反応に応じた知識を与えてしまう事になる
いずれ中国語の流暢な応答とは関係な天才の人の体験に基づく反応が出始めてしまうだろう
あらゆる反応に何の感情も示さずマニュアル通りのあらゆる運動を可な人なら…中国語の部屋中枢神経抹消神経の間に信号直通のためだけの人細胞噛ませてる意味がわからなくなって来るな
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53 ななしのよっしん
2023/11/07(火) 02:06:49 ID: 8P8UhCRDyc
サールの再反論の1は「システム全体が知性であり、部屋の中に居るだけの人は理解してなくて問題ない」という意見に対し「マニュアルに入っている天才の人であればシステム全体と言っていいのでは?」という物であった
サールの再反論の3は「の構造を模倣した路を操作する人間路の意味を理解していない」という物だが、路操作員は反論1の部屋の中に居るだけの人に後退してしまっている

1と3を組み合わせると「中国人シナプスの動きを内で全にシミュレートしている天才の人」ができあがる
この人の内では一人の中国人の活動が再現されているが、そのが何を考えているか天才の人にもわからない
内にシステムを持ち、システム動作順序の全てを理解している天才の人が、システム作動時に表現される内容を答えられないならば、システム全体は中国語を理解していないと言えるだろうか?』

現実人間べてみよう
々は自分が考えていると思われる事をに書くなどして出する事ができる(もしかしたら本当は違ってるかもしれない
(省略しています。全て読むにはこのリンクをクリック!)
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54 ななしのよっしん
2023/11/11(土) 15:09:33 ID: 8P8UhCRDyc
(1)外部と書面によってのみやり取りし、内部には中国語が分からなくても「理想的現代中国人として典的なやり取り」ができるマニュアル記録設備一式がった部屋がある
(2)内部に「香港出身の中国人」が居て質問に対しマニュアルに従って変換した文章を回答として返す
(3)部屋の前に人民警察がやって来ていくつか質問を送り、回答を読む事で、この小部屋の中には中国語と党の導を完璧に理解している人が居ると判断する事ができる
(4)次いで大規模デモ計画を導したとされる要注意人物の特徴とその人物についての情報める文章が送られる。マニュアルに従い文章を変換すると、合理的な推論と共に中の人友人名前が出される
(5)中の人は出来上がった文章をとっさに破棄し、面の余った部分に別人の名前を記入して返した
(6)人民警察は協感謝しつつも、この人物名で間違いないか、なぜそう考えるかを確認してくる
(7)中の人が回答を書き換えた情報は残っていないので、この質問をマニュアルに従い変換した場合、人民警察不自然な質問をしている事を摘する回答に
(省略しています。全て読むにはこのリンクをクリック!)
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55 ななしのよっしん
2024/03/10(日) 05:48:15 ID: UTfNvwdqeo
論じたいことは何となくわかるような気がするけど
本来の意図とは程遠い見当外れの意見が飛び交ったり
前提条件レベルで色々突っ込まれたりするあたり単に例えが悪いような気がする

恐らくある種のリアリティを与え読者の共感を買うために取り入れたはずの設定が
人によっては引っかかりすぎて、もうツッコミどころ満載で知とか知性どころじゃないノイズになってしまっている

自分が文系だからこんなに思ってしまうのかもしれないけど
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