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中村吉右衛門とは、歌舞伎俳優の名跡である。
屋号は江戸時代に佐野川屋の屋号で二代目まで続いたがその後断絶。現在は播磨屋の名跡となっており、代数はこちらで数えられている。
初代 （1886～1954）
三代目中村歌六の長男。実弟に三代目中村時蔵、異母弟に十七代目中村勘三郎がいる。
二代目中村吉右衛門の養父（祖父）。九代目松本幸四郎の祖父、十八代目中村勘三郎の伯父でもある。
大正から昭和にかけての歌舞伎界を代表する大名優で、時代物から世話物まで幅広く当り役を有し、市村座時代から六代目尾上菊五郎と共に「菊吉時代」と呼ばれる程の一つの時代を築き上げた。
1921年に松竹移籍後も菊五郎と共に歌舞伎座の主役を担い、一門や芸達者な脇役を従え「中村吉右衛門一座」を結成するにまで至るほどの一大勢力となった。
初舞台以降も役者名を「中村吉右衛門」で生涯通し、一代で脇役の家柄であった播磨屋を一躍名門へと仕立て上げ、同時に本来であれば宗家の名跡にあたる中村歌六に代わり播磨屋の宗家にまでなった。
1946年に七代目松本幸四郎、そして名ライバルでもある菊五郎の死去後は東京歌舞伎界の頂点として君臨し、1951年には六代目尾上菊五郎に続き二人目の、生前としては歌舞伎俳優として初の文化勲章を受章した。また、1953年には昭和天皇を招いた「昭和の天覧歌舞伎」では主役を演じるなど栄誉を極めた。
彼の演技は晩年に撮影された「近江源氏先陣館」と「一谷嫩軍記」、「菅原伝授手習鑑」(寺子屋)が記録映画として残っている。
その他の当たり役として、
- 「河内山」の宗俊
- 「平家女護島」の俊寛
- 「幡隨長兵衛」の幡随長兵衛
- 「籠釣瓶花街酔醒」の佐野次郎左衛門
- 「伊賀越道中双六」の平作
- 「佐倉義民伝」の佐倉宗吾
- 「盲長屋梅加賀鳶」の日陰町松蔵
- 秀山十種などの清正物
などが挙げられる。
性格としては陽気で天真爛漫な六代目とは対照的に気難しく、役にのめりこむ性格で清正などを演じる時は役になりきっている為かタニマチの声かけに「私は加藤清正です」と答えたりもした。
また、一代で名を築いただけに周りからのやっかみや僻みを激しく受けていた為か自身も陰湿で頑固な上に気に入った人間にはとことん優遇する我儘な一面もあり一門や弟子はおろか、実の兄弟にも厳しく当たった。
異母弟の中村勘三郎は自著などでも異母兄の吉右衛門から受けた理不尽めいた仕打ちに度々言及している。
また、晩年に実弟の中村時蔵を差し置いて若き日の六代目中村歌右衛門を相手役に抜気した事で兄弟間の亀裂を生み、後に時蔵の一族が播磨屋を離脱し萬屋を立ち上げる遠因にもなった。
娘が八代目松本幸四郎に嫁ぎ、長男に九代目松本幸四郎、次男に二代目中村吉右衛門を産んだ。
二代目 （1944～2021）
初代の養子（孫）。父は八代目松本幸四郎、兄は二代目松本白鷗。
母が初代吉右衛門の娘で八代目松本幸四郎に嫁ぎ、初代に後継ぎが居なかった為に初代の養子となった。
今でこそ平成における歌舞伎界の頂点に位置する彼であるが、そんな彼も若き日はあまりに偉大すぎる祖父の影に苦しみ、また「天才役者」としてミュージカルで一躍脚光を浴びていた兄の二代目松本白鷗（当時は六代目市川染五郎）と比較される日々が続き、一時期はガス管を咥えて自殺未遂を試みたり役者を廃業にしようとするまで悩んだ事もあったという。
1961年には兄と共に松竹から東宝に移籍。
1966年、東宝在籍中に二代目中村吉右衛門を継いだ。
1971年、兄と父に先駆けて松竹に復帰した。
2002年に日本芸術院会員となる。
2011（平成23）年には人間国宝に認定されており、七代目尾上菊五郎、十五代目片岡仁左衛門と共に親子二代での人間国宝認定者となっている。（菊五郎の場合、父の七代目尾上梅幸は女形としての認定であり、立役での親子認定では初でもある）
2017（平成29）年には文化功労者にも認定された。
歌舞伎を見ない人でも1989年からフジテレビで放映されていた時代劇「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵などでお馴染みの人が多いのではないか。
因みに原作者の池波正太郎は長谷川平蔵を吉右衛門の実父、八代目松本幸四郎（初代松本白鸚）をモデルにして描いており、白鸚もテレビで初代平蔵役を演じている為、親子二代で同じ役を演じる事となった。
懐のある大きな役柄から軽妙な悪役、江戸っ子の気風を備えた気持ちの良い役柄など多く勤める。
養父・初代の当り役であった「一谷嫩軍記」の熊谷直実、「河内山」の宗俊、「平家女護島」の俊寛、「幡隨長兵衛」などを得意としており、当代の演目の中でも一見の価値がある。
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