九九式八糎高射砲とは、大日本帝国陸軍が運用していた対空砲である。
概要
元々はドイツのクルップ社製8.8cm SKC/30高射砲で、これを日本陸軍が支那事変に最中である1937年、南京郊外の対空陣地で国民党軍の8.8cm SKC/30を押収し、国産化した物が本砲である。大東亜戦争では日本陸軍の主要対空砲として活躍した。
前史
日本陸軍は1930年代前後の時期、八八式七糎野戦高射砲、十四年式十糎高射砲などを実用化し、その後、試製十糎陣利高射砲などを開発中であった。それまでの開発経験から、対空砲弾の威力は口径が大きい程有利ではあるが反面、発射速度が低下し、口径面での悩みを抱えていた。外国の兵器を参考にする手もあったが、この頃になると外国の兵器も情報を非公開にしつつあり、現物を手に入れなければその詳細を窺い知る事は不可能となっていた。そうした中、支那事変で日本軍と対峙した国民党軍の高射砲が強力な対空砲火を持つという報告を受け、実物を南京郊外の砲台より8.8cm SKC/30高射砲16門を押収した。しかしこの16門は中国兵により破壊工作を受けており、完全に再現できたのは1門のみであった。これを押収した弾薬と共に大阪兵器工廠に送り、技術本部にて調査を行った結果、88mm口径の弾薬は日本陸軍の八八七糎野戦高射砲より威力が高く、また火砲の性能自体も良好であった。
開発
日本陸軍の火砲製造は、設計面ではフランスのシュナイダー式が主流であったが、これは軽量、高性能ではあるが反面製造に手間が掛かり大量生産向きでは無かった。クルップ式の設計である8.8cm SKC/30は、調査した結果、重量が嵩むものの、製造、技術共に敷居が低く大量生産向きだと分かった。以後、日本火砲にはクルップ式の設計が反映される事になった。8.8cm SKC/30自体は、押収克式八糎高射砲の名称が与えられ、試製砲は1939年1月に発注、3月に完成、各種試験の結果、良好とされ手直しされ1941年8月に準制式化され、九九式八糎高射砲として採用。1942年より量産が開始された。なお当初、コピー元であるドイツには無断で進められたが、後にライセンス料を支払っている。
原型の8.8cm SKC/30と、量産品である九九式八糎高射砲の違いは、砲身が日本国内で定着していた単肉自緊砲身に変更している。ちなみに試製砲は砲身は原型と同じという違いがある。初期型を除き、1.6トンに及ぶ防楯を廃止。脚の廃止。照準器を国産品に変更し二式電気照準具を採用している。また方向射界自体は360度だが、同方向では二回転までに制限されている。四脚の車輪を持ち、移動は可能ではあるが、基本的にベトン製の砲床が必要で野戦高射砲ほど軽快に移動は出来ず、基本的に陣地用の高射砲であった。ただ大戦後半は対空陣地を頻繁に移動する関係上、移動用の機材も作られている。対空砲弾は加害半径25mにも及ぶ。また徹甲弾もあり、こちらは一式徹甲弾と四式徹甲弾が存在する、一式徹甲弾は徹甲榴弾で四式徹甲弾は無垢の徹甲弾ある。どちらの徹甲弾で、どのような装甲板で試験したのか、射撃環境は不明だが距離500mで120mmの装甲板を貫通した。
口径88mm
砲身3959mm(45口径)
砲身重量1750kg
砲列放射重量7000kg
俯仰角-8~80度
弾薬筒重量14.7kg
砲口初速800m/s
毎分12発
最大射程15700m
最大射高10420m
有効射高8336m
砲身命数3000発
実戦
八八式野戦高射砲と共に数的主力として日本本土防空戦として参加している。八八式野戦高射砲は軽量であるが故に構造的に脆弱な部分を抱えており、野戦時はともかく都市防空など長時間に及ぶ連続射撃の結果、駐退機が破損し発砲不能になったりしたが、本砲にそのような話は無かった。また元となる8.8cm SKC/30は八八式よりも設計が新しく、性能面もまた上であり、対空砲弾も半径25mにも及び加害範囲は十分な脅威である。しかし、B-29重爆撃機が高度10000m以上の高高度で飛来した際は有効射高に届かず無力であった。ただし、B-29も高高度では命中率が低く戦果が挙がらず、諸々の事情で指揮官のヘイウッド・ハンセル少将は更迭され新たに赴任したカーチス・ルメイ中将は夜間爆撃とする代わりに侵入高度を一気に1500~3000mに引き下げた。これはB-29の被害と戦果を同時に拡大することになった。高度を引き下げた結果、日本軍の高射砲に捕捉される事を意味し、戦後の検証結果、日本軍の防空戦闘機より高射砲による対空砲火のほうが戦果が高かったと言われている。九九式八糎高射砲の生産数は500~1000門と推定されている。
五式中戦車88mm砲搭載砲案
現在では新たな資料が出てこない限り否定されているが、五式中戦車に九九式八糎高射砲を乗せる案があったと言われている。五式中戦車には四式七糎半高射砲を戦車用に改良したものを使う予定だったのだが、肝心の四式七糎半高射砲の生産が捗っておらず戦車に回す余裕はほぼ無かった。九九式八糎高射砲は前述の通り、大量生産されているので四式よりは望みはあると言える。また大きなターレットリングから考えると九九式八糎高射砲自体を乗せることは不可能だとは言い切れない。しかし、88mm砲の発砲に砲塔が負荷に耐えられるか不明であり、もし乗せるのであればマズルブレーキなどを付け、駐退機の強化など戦車砲として然るべき改良しなければいけない。もっとも日本の火砲開発は遅いので間に合うかどうか不明であり、仮にやるなら最初からそのつもりで計画するか、ないしは砲塔を諦め固定戦闘室化でもしなければいけないだろう。
関連項目
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