二重語（英：doublet）とは、共通の語源に由来しながら、互いに語形を変え、異なる意味となった二つの単語である。なお、単語が三つの場合は三重語、四つの場合は四重語となり、総称して多重語ともいう。
なお、下の例では同語源ながら由来が複数の言語にわたるものを挙げているが、こういった場合共通の語源とはいえるが、比較する意味が薄れるため普通二重語とは言わない。
日本語の二重語
| 原語 | 原義 | 二重語 | 意味 | 備考 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 日 本 語 |
あはれ /apare/ |
感動の声 | あわれ | 悲哀の感情 | |
| あっぱれ | 立派な様 | ||||
| かがふる /kagapuru/ |
被る | かぶる | 頭に覆うものを乗せる | 撥音便形「*かんぶる」に由来 | |
| こうむる | 他者や環境から恩恵、災難を受ける | ウ音便形「かうぶる」に由来 | |||
| かくはし /kakupasi/ |
香細はし | かぐはしい | 匂いがいい | 原語のまま。 | |
| かんばしい | 匂いがいい | 撥音便形「かんばし」に由来。成績や態度が立派なさまにも言う。 | |||
| こうばしい | 匂いがいい | ウ音便形「かうばし」に由来。火を入れたものや料理された物に特に使う。 | |||
| 中 国 語 |
石灰 /d͡ʑiᴇk̚ <huʌi/ |
石灰 | 漆喰 | 元は当て字。 | |
| 石灰 | |||||
| 英 語 |
|||||
| chalk /t͡ʃɔːk/ |
石灰岩 | チョーク | 白墨 | 究極的にはカルキ（蘭語由来）やカルシウム（ラテン語由来）と同源 | |
| チャコ | 裁縫道具の一種 | ||||
| clean /kliːn/ |
綺麗にする | クリーン | 綺麗な、綺麗 | ||
| ケレン | 建築土木において塗装の前に、面を綺麗にする作業 | ||||
| column /ˈkɔləm/ |
円柱、柱状 | カラム | 表計算ソフトやデータベースにおける縦一列のこと。 | ||
| コラム | 新聞や雑誌における短い評論 | ||||
| cook /kʊk/ |
料理人、料理 | コック | 料理人 | 蘭語"kok"/kɔk/、独語"Koch"/kɔχ/の影響か。 | |
| クック | 料理 | ||||
| foundation /faʊnˈdeɪʃən/ |
創設、基礎 | ファウンデーション | 財団 | ||
| ファンデーション | 化粧品 | ||||
| glass /ɡlɑːs/ |
硝子 | ガラス | 硝子 | 時期的には蘭語"glas"/xlɑs/に由来すると言った方が正確。 | |
| グラス | ガラス製の杯 | ||||
| ink /ɪŋk/ |
書記や印刷に用いる液体 | インキ | 明治から戦前にかけて使用された。 時期的には蘭語"inkt"/ɪŋkt/に由来するといった方が正確か。 |
||
| インク | 戦後に使用されている。 | ||||
| iron /ˈaɪɚn/ |
鉄 | アイロン | 火熨斗 | ||
| アイアン | ゴルフクラブの一種 | ||||
| lemonade /ˌlɛmənˈeɪd/ |
レモンの汁に砂糖と水を加えた清涼飲料 | レモネード | |||
| ラムネ | 炭酸水にレモン香料と砂糖で風味をつけた日本独特の清涼飲料 | ||||
| machine /məˈʃiːn/ |
機械 | マシーン | 機械 | ||
| ミシン | 裁縫機 | "sewing machine"の略と考えられる。 | |||
| mobile /ˈməʊbaɪl/ |
可動性の | モバイル | 携帯電話の呼称のひとつ | ||
| モビール | 動く彫刻 | 米国発音/ˈmoʊbiːl/に由来 | |||
| モービル | 移動無線通信 | ||||
| モビル | ガンダムの用語 | モビルスーツ | |||
| pouch /paʊt͡ʃ/ |
紐のある小さな袋 | パウチ | レトルトパウチの略。 | ||
| ポーチ | 小さな手提げ袋 | 現代仏語 "poche" /pɔʃ/に影響されている可能性もある。 | |||
| profile /ˈpɹəʊfaɪl/ |
輪郭、横顔 | プロフィール | 人物評 | 正確には仏語"profil"/pʁɔ.fil/に由来か。 | |
| プロファイル | 人物評、IT分野の標準規格 | プロフィールが名詞としてのみ使えるのに対し、プロファイルは「プロファイルする」という形で動詞的に使うことができる。 | |||
| second /ˈsɛkənd/ |
第二の | セコンド | ボクシングにおける介添え | ||
| セカンド | 野球の二塁手 | ||||
| stick /stɪk/ |
棒状のもの | スティック | 棒 | ||
| ステッキ | 杖 | 独語には同語源かつ同義の"Stecken"があり、これとの混同か。 | |||
| strike /stɹaɪk/ |
打撃 | ストライク | 野球やボウリングの用語 | ||
| ストライキ | 労働争議の一種 | ||||
| traffic /ˈtræfɪk/ |
交通 | トラヒック | 通信量 | 意味は同じだが使われている分野が違う。トラヒックは電話系、トラフィックは通信系、交通系で使われる。 | |
| トラフィック | 通信量、交通量 | ||||
| truck /ˈtɹʌk/ |
運搬車 | トラック | 貨物自動車 | ||
| トロッコ | 手押し車 | 英語の語源となったラテン語 "trochus"にはこちらが近い。 | |||
| whip /wɪp/ |
鞭 | ウィップ | 鞭 | ||
| ホイップ | 泡立てたクリーム | 原語にも用法はある | |||
| ラテン語 | charta /ˈkʰar.ta/ |
紙、書き物 | 歌留多（カルタ） | 遊びに用いる札 | 直接にはポルトガル語"carta" に由来。 |
| カルテ | 医療で用いられる患者の症状を書いた紙 | 直接にはドイツ語"Karte" に由来。 | |||
| アラカルト | 一品料理、お好み料理 | 直接にはフランス語 "à la carte" に由来。 | |||
| カード | 札 | 直接には英語"card" に由来。 | |||
| チャート | 図表、海図 | 直接には英語"chart" に由来。 | |||
| 印 欧 祖 語 |
*déh₃nom | 贈り物 | 旦那 | 夫 | インド・イラン祖語 *dáHnam からサンスクリット "दान" (dā́na)を漢訳した「檀那」に由来。 |
| ドナー | 内臓提供者 | イタリック祖語 *dōnom の動詞形 *dōnāō よりラテン語 "dono" /ˈdoː.noː/ に至り、行為者名詞 "donator" から古仏語 "doneur" より古形 "donour" を経た英語 "donor" に由来。 | |||
英語の二重語
英語は、その歴史的経緯から相当量の二重語が語彙に含まれている。英語は西ゲルマン語派の北海語群に属しながら、アングロ・サクソン時代から古ノルド語の影響を受け、ノルマン・コンクェストからはフランス語の借用を続け、古代以来文献によってラテン語に触れ、近代に入ってから学術的な必要性からギリシャ語の語彙を借用した。
それ故、英語の語彙の内、過半がラテン系言語に由来するが、そのうち特に文献から直接ラテン語を入れたか、フランス語などの娘言語を介したかによって単語の形態が異なることが多く、それゆえ二重語が増える(ratioとrationなど）。フランス語に関しては特に英語への影響が大きく、フランス語内でもパリ方言に由来するか、ノルマンディー方言（ノルマン・フランス語、アングロ・フランス語）に由来するかで形態が異なることがある(catch と chaseなど)。また、ゲルマン系の語でも西ゲルマン祖語に由来する古英語か北ゲルマン祖語を経た古ノルド語をからの借用かでやはり形態が異なることがある(skirtとshirtなど)。加えて、英語史の中で、強勢や音韻環境の違いから分化することとなった語が一定数存在する(anとoneなど)。
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